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53.謎の少年

 招待を受けた宿屋の一室で四人の強者と対峙した俺はどう対処しようか迷っていた。




「一つ確認してもいいか? ギルド長はこの組織のことを知っているのか?」


 ギルド長は裏切れないので早々に確認しておこう。


「ああ、あの人も一応は十五階層突破者だからな、俺達より入会は早いんだぜ」


 少々ギルド長のことを軽く見ているのが気になるが、まあ知っているなら問題ないだろう。


「入会の条件はそれだけか? 入らなかったらどうなるんだ? 退会した場合のペナルティーはあるのか?」


 聞きたいことは山ほどある、特に聞かなくてはいけないことを早口でまくしたてた。


「おいおい、準男爵様はせっかちでいらっしゃるな、夜は長いんだゆっくり行こうや」


「あたしはもう帰りたいんだけど、顔見世は終わったんだしいいでしょ?」


 ミカサが苛立って話に入ってきた、相当ここにいるのが嫌なようだ。


「少し落ち着いてくれませんか、何なら大人しくしてあげてもいいんですよ?」


「やるっていうの? 喧嘩は買うわよ」


 シルバーとミカサの間に緊張が走る。


「少しだまりませんか……、時間は無限ではないのですよ」


 今まで黙っていたショーンがフードの奥の金色の目で二人を睨みつけた。

 その途端いがみ合っていた二人がお互い目をそらしおとなしくなる。

 椅子に座っているビリーが面白そうに笑う声が部屋の中に響いた。


「ガハハハ……、わりぃわりぃ、しかし面白くてな、見たか二人の顔をこれで静かに話ができそうだぜ。それにショーン、時間は無限ではないって嫌味なセリフだな」


 まだ笑い足りない感じのビリーが目元を抑えて泣き笑っていた。


「話を戻すが入会条件は十五階層突破それのみだ、入らない場合は今日のことは全て忘れてくれ。口外した場合はそれなりの制裁があると思ってもらっていい、退会も同じだ黙っていればそれまで、ペラペラとしゃべったやつは居なくなるって寸法だぜ」


「わかった、入るかどうか仲間と相談してから返事をする、それでいいな?」


「別に返事をくれなくてもいいぜ、半年に一回の会合に顔を出しさえすれば入会したとみなす、開催の日取りはまた使いを出すぜ」


「話は終わったわね、これで失礼するわ」


 ミカサが言い放ってドアを開ける、返事を待たずに出て行ってしまった。

 続いてショーンが俺の横を通り過ぎていく。

 真横を通る時に金色の目で俺を凝視していったが、なにか意味があるのだろうか?


「どうです? これから食事にでも行きませんか? 色々聞きたい事もありますので」


 シルバーが気さくな感じで話しかけてきた。


「悪いが仲間を待たせているんだ、また今度にしてくれ」


「そうですか……、それは残念、ではごきげんよう」


 さして残念そうな感じではなくシルバーは去っていった。



 部屋の中にはビリーと俺だけが取り残された。

 ビリーがスクッと立ち上がる。

 その背丈は低い宿屋の天井に届きそうで窮屈そうだった。


「俺もそろそろ行くぜ、俺はミドルグで『あかつき金星のみょうじょう』って言うパーティークランを運営してるんだ、何かあったら訪ねてきな悪いようにはしねえぜ」


 出された手を握りガッチリと握手をした、ニカッと笑ってドアをくぐり廊下へ消えていった。



 ワンさん達が部屋に入ってくる。

 仲間達は俺を心配して真剣な顔をしていた。


「話し合いは終わったよ……、宿屋に帰ってから話そう」


 いつまでもここに居てもしかたがない、心配する仲間の背中を押して部屋をあとにした。



「旦那様お帰りですか? またのお越しをお待ちしております」


 宿屋の主人が気持ち悪いほどへりくだって声をかけてきた。

 俺は宿屋の親父に銀貨を一枚、指ではじき投げ与える。

 慌てて受け止めた親父が下品な笑顔を見せてきた。




 スラムの街なかを『雄鶏おんどり嘴亭くちばしてい』向けて歩いていく、辺りは既に真っ暗になっていてランプを付けなければ歩くこともできなかった。

 スラム街を抜けて大通りに出て、辻馬車つじばしゃを見つけたのでギルド前まで乗って帰った。



 食堂で夕食をとり、俺の部屋に集まってスラムの宿屋での出来事をみんなに報告した。

『ミドルグ探索結社』のこと、その組織の決まり事、メンバーたちの名前。

 ひと通り話し終えるまで仲間たちは静かに俺の話を聞いていた。


「やっぱり接触してきやしたか、予想はしていやしたがずいぶんとゆるい組織のようでやんすね」


 ワンさんが腕組みしながら感想を言った。

 独自の情報ルートを持っているワンさんは、もしかしたら組織の存在を知っていたのかもしれない。


「部屋から出てきた人達、かなりの強者だよ。でも僕の防御は破れないだろうけどね」


 モーギュストのものさしは「防御を破られないか」らしい、その点で行くと彼らはまだ人間の粋を超えていないらしかった。


「最初に出てきた女、なんか感じ悪かったわ。あたし達を見て鼻で笑っていったのよ、失礼しちゃうわ」


「ああゆう女の人は天罰が下ります、間違いないです」


 女性陣にはミカサがお気に召さなかったらしい、奇遇だな俺もあいつとは気が合いそうにないよ。


「ギルド長も『ミドルグ探索結社』の一員だそうだ、明日にでも行って話を聞いてくるよ、それで入会するかしないかを決めようと思う」


 メンバー達の了解を取り付けその場はお開きとなった。




 翌日早目の時間にギルドに向かいギルド長室に向かった。


「探索から戻ってきたのか、なにか面白いことはあったかの」


 ソファーで向かい合ったギルド長がニコニコしながら聞いてきた。

 俺も話すことは山ほどあるが先に昨日のことを聞いておいたほうがいいな。


「色々ありましたよ。でもその前にギルド長に相談があります」


「顔を見るに深刻そうじゃな、言ってみろ」


「実は一昨日にこれが届きまして昨日会ってきました。『ミドルグ探索結社』と相手の探索者は名乗っていましたよ」


 一通の手紙をギルド長に見せる、心あたりがあるらしく手紙の中身を一瞥いちべつしただけで俺を真っ直ぐに見てきた。


「そうか、お主にもとうとう誘いが来たか」


「ギルド長も結社の一員だと言ってました。あの組織はどういう組織なんですか?」


「確かにワシも組織の一員じゃ、しかしこの頃は距離を置いておる。『ミドルグ迷宮』ができた当初から存在していると聞いたことがあるが、本当かどうかはワシも知らん」


「入会しても大丈夫な組織ですか? 情報がとぼしくて判断できないんです」


「今の組織はよくわからんがワシが誘われて入った頃はまっとうな組織じゃったよ。今の組織を引っ張っているのは探索パーティークランの『あかつき金星のみょうじょう』のリーダー、ビリー・バグダッドじゃ。ヤツは少し前まで唯一の『完全階層攻略者パーフェクション』じゃった。荒くれ者じゃが腕は確かで悪いことはしないやつじゃ、信用しても問題ないと思うぞ」


 そう言うと火酒スピリッツを口に含んだ。


(あれは俺がお土産であげた火酒か、ギルド長、朝から酒なんて体壊しますよ……)


「他に長身のスラリとした男がおったじゃろう、シルバー・ハンティングマン、やつには気をつけるのじゃ。物腰はいいが本質は恐ろしい男じゃ、裏社会でも顔が利く危険人物じゃ。『影法師』リーダーをやっておるな」


「やはりそうでしたか、俺もあの男はヤバイ奴だと思っていたんですよ」


「『ミドルグ探索結社』のリーダーの中で紅一点のミカサ・ミルキーウェイは良くも悪くも普通の探索者じゃな。女性だけのパーティー『戦乙女バルキリー』のリーダーじゃ。大の男嫌い、パーティーが全員女性なのもそれが原因かもしれんの」


(なるほど、だからいちいち突っかかってきたのか、いろいろ事情がありそうだな)


「パーティーはこれで全部じゃ、四パーティーでぜひとも迷宮の謎を解明してくれ」


 そう言って火酒に手を付ける。


「ちょっと待ってください、もうひとりあの場に探索者がいました。ショーン・ギャラクシーと名乗っていた魔法使いの若者です。金色の目をして年齢は俺ぐらい、妙に落ち着いていたのが印象的でした」


 俺がショーンの名前を出すと飲みかけたグラスをテーブルに置きギルド長が話し始めた。


「ワシが結社に誘われてお主のように初めて会合に参加した時、ヤツは既に居たんじゃ、もう二十年前のことじゃよ。その時見たショーンの容姿は、今お主が言ったのと全く同じじゃった。それにヤツはパーティーを一度も組んだことはないのじゃ、この意味がわかるか?」


 俺は背中に冷水をあびたような衝撃を覚えた、二十年前から一切歳を取らない少年。

 おまけに『単独迷宮探索者スカベンジャー』で大司教を倒したという衝撃の事実、完全に思考が停止してしまった。


「まさかショーンは年を取らないのですか? そんな事がありえるのでしょうか……」


「お主も心当たりはあるじゃろう、女神から貰った奇跡によって即死級の怪我から復活した経験を忘れたわけではないのじゃろ?」


 脳裏に一つのワードがひらめいた。




『スキル』




 何故思いつかなかったんだろう、俺自身がチート級のスキル持ちだと言うのに。


「それじゃ彼は年を取らないスキル持ちなのですね、もしかしたら他の連中もなんだかの有用なスキルを持っている可能性もあるのですか?」


「ショーンが年を取らないのは本当のことじゃ、いつから活動しているか記録にさえ残っておらのじゃ。他の奴らに関してはワシはわからんよ、しかし用心するに越したことはないぞ、迷宮の深部では助けようにも助けられないからな」


 ギルド室の中が静寂に包まれる、俺は話す気力をなくしソファーに深く沈み込んだ。


「そんなに考え込むな、お主の悪い癖じゃ。それより迷宮の話を聞かせてくれんか」


「そうですね……、いまのところなにかされるようなこともしていませんし、通常通りにしていればいいのでしょうね」


 その後十八階層に到達した話や、ドラゴンゾンビの魔石のこと、骸骨騎士との戦闘などをギルド長に詳しく聞かせた。

 いちいち驚きながら聞いていたが、骸骨騎士との戦闘では無理をするなとやんわりと怒られてしまい、ギルド長が俺たちのことをとても可愛がってくれていることがわかって嬉しかった。





 数日経てばまた探索が始まる、今度の探索も一筋縄ではいかなそうだ。

 未知の領域を探索する魅力に取り憑かれてしまった俺は、まだ見ぬ暗い迷宮に思いをせながら宿に戻っていった。    

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