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45.探索の再開

 戦力の強化に成功した『白銀の女神』は、『深淵の樹海』の奥を目指し探索を開始した。




「アトラスさん、いろいろありがとうございました」


『ほんとに行くのか? 危ないぞ』


「慎重に探索しますから心配いりませんよ」


『そうか……、何かあったらまたこい、いつでも歓迎するぞ』


 寂しそうに手を振るアトラスさんに見送られながら樹海の奥へ入っていった。



 いつまでもアトラスさんの家に入り浸っていては探索がはかどらない、『樹洞』でキャンプしながらさらなるレベルアップをすることにした。

 周りの魔物は俺たちでもなんとか狩れるレベルだったので、『身体強化』の練度を更に上げながら魔物を倒していった。



 ー・ー・ー・ー・ー



「レイン、あたし達だいぶ強くなったんじゃない?」


「最初は苦戦していた魔物が、今じゃ嘘のように弱いですよ」


 女性陣が機嫌良さそうに話しかけてきた。

 一ヶ月みっちり魔物討伐をした俺達は、贔屓目ひいきめなしに強くなっていた。

 木の化物のトレントは今では狩り頃の魔物になってしまい、全長が六メートルもある化物オオカミの餓狼がろうや、小山のような巨大熊なども余裕を持って討伐できるようになった。


樹洞じゅどう』に設置したテーブルをみんなで囲んで今後の方針を決めていく。

 

「あたしはもっと奥を探索したいわ」


「僕もセルフィアさんに賛成だね、この付近の魔物じゃ物足りなくなってきたよ」


「レイン様はどうしたいのですか?」


「あっしも旦那の意見が知りたいでやんす」


「そうだな……、とりあえずみんなのレベルを確認しよう。レベル次第で樹海の奥に行くかもう少し鍛えるかを決めようと思う」




 アニーにレベルの確認をしてもらう、一人ずつ調べてもらい紙に書いてもらった。


「先ずワンさん、レベル十五、新たにスキル『身体強化』が発現している。前回大司教戦前とくらべて五上がったな」


 いつものようにすまし顔だがワンさんのしっぽは左右に大きく揺れていた。


「次にモーギュスト、レベル十四だ、やはり『身体強化』が発現していて大司教戦前から見て五上がった」


 モーギュストの顔を見ると嬉しそうに笑っている。


「お次はセルフィアだな、レベルは十五、とうとうワンさんに並んだぞ、『身体強化』はみんなと一緒だが他に『魔力制御』が発現している。頑張ったなおめでとう」


「やったわ! スキルが二つも身についた!」


 セルフィアはとても喜んでいる。

 立ち上がってピョンピョン跳ね回っている。

 その様子を仲間達が見て笑いながら拍手する。


「凄いわセルフィア、頑張ったかいがありましたね」


「とうとう抜かれたね、次は僕が抜かす番だよ」


「あっしもうかうかしていられやせんね、これからはセルフィアの姉さんと競走でさぁ」


 俺たちの中には嫉妬や、やっかみ等はないので純粋に祝福した上でのライバル宣言だった。


「いいわよ、かかってらっしゃい、次は単独トップを目指すわ」


 嬉しそうに四人でワイワイと盛り上がっている。


「ちなみに『魔力制御』は文字通り魔力を上手く使いこなせるようになると発現するスキルだ、セルフィアの火属性魔法の多様さが結果を出したのだろうな」


 俺の説明に一同納得の表情をしてセルフィアは満足げだった。


「次はアニーだ、レベルは十三、新しいスキル『身体強化』、順調に成長しているな」


「ありがとうございます」


 アニーは俺に褒められて嬉しそうだ。


「そして俺だが……、レベル十二だ……、すまないもっと頑張るよ……」


 その場に変な空気が流れる。


「落ち込まないで……、レインはよくやってるわよ?」


(トップのセルフィアに言われると泣けてくるな)


「旦那、レベルだけが強さじゃありやせんよ、スキルの数じゃ旦那がトップなんでやんすから、落ち込まないでくだせぇ」


「ああ、ありがとう。異世界言語を入れればスキル三つあるからな」


(みんなに励まされてしまった、もっと頑張らないといけないな……)




「レベルを確認した結果、探索を再開しようと思うのだが、みんなの意見を聞きたい。奥へ進みたいものは挙手してくれ」


 すると全員が一斉に手を上げた。


「よし! 明日から樹海の奥を探索しつつ『コロニー』を見つけることにする。今日は早めに休んで明日早くから探索するぞ!」


「「「「了解!」」」」




 それから俺たちは精力的に十六階層の探索を開始した。

『樹洞』を中心にして全方向へ探索の足を伸ばし、さらなる『樹洞』を見つけることにしたのだ。


『樹洞』は比較的早くに見つかった。

 十五階層から降りてきた階段と、ベースキャンプにしている『樹洞』の延長線上にあるのを発見したのだ。

 他の方向には『コロニー』は存在せず、小さなほこらが樹木に埋まっていたり、底なしの湿地で行く手を阻まれたり、とにかく一日で探索できる範囲には『樹洞』はなかった。




『コロニー』を移動しながらの探索は今日で二十日目に突入した。

 事前にギルドには長期遠征になることは伝えてある。

 食料も五人分で年単位の量が巾着袋に入っているので問題はない。

 しかし、行けども行けども十七階層への階段が見つからず、みんな焦りを感じ始めていた。

 おまけに前方の空が鉛色に変わっていて天候の悪化まで懸念され始める。


「もう! なんで階段見つからないのよ!」


「本当にこちらの方向で合っているのでしょうか……」


 セルフィアが癇癪かんしゃくを起こし始めた。

 アニーも弱音を吐きだし始めたな。


「二人とも平常心を保たないとこの先辛くなるぞ、引き返すにしても何日もかかるんだからな」


「姉さん方この程度で音を上げてたらキャンプ上級者にはなれやせんぜ、あっしなんてもっと過酷なキャンプを一年近くやったことがありやすよ」


 ワンさんがからかい半分に話しかけてきた。


「ワンさんのはキャンプじゃないわ! 路上生活でしょ!」


 真に受けたセルフィアがピシャリと言い返す。


「ひどいでさぁ、あっしはちゃんと仕事もしてやしたよ、断じてホームレスじゃありやせん」


(ワンさん……、ホームレスでも仕事をしている人はいるよ……)


 可哀相だから訂正はしないでおこう、その後もセルフィアの一方的なワンさんへの八つ当たりがしばらく続いた。




「みんな、おしゃべりはそこまでだよ、前方に建物が見えるよ」


 モーギュストの報告でそれまで軽口を叩いていたみんながピタリと黙り込み、モーギュストの指し示した方向を注視した。

 樹海の木々が突然なくなり、開けた広場が現れる。

 広場には明らかな人工物が建っており、まさに密林に埋もれる遺跡そのものだった。


 その建物は石材を積み上げてできており、長年の風雨によってかなり侵食されていた。

 大きさはそれほどでもないが、今まで発見した祠よりは数倍大きく、壁には何かが彫られた形跡があった。

 残念なことに長い年月の間に削れてしまったようで、何が彫られたいたのかは皆目かいもく見当がつかなかった。

 更に巨大な樹木に飲み込まれ、祠全体が樹木の根っこに絡みつかれている。

 まさに現在進行形で失われゆく遺跡というのが似合う外観に、一同言葉をなくして立ち尽くした。


「遺跡、でやんすね。ここはあっしが先行しやす」


 さっきまで冗談を言っていたワンさんが、薄手の手袋をはめながら真面目な顔をして言ってきた。

 俺は無言でうなずく。

 遺跡と言えば罠が仕掛けてあるのが定番だ、罠解除のプロに任せるのは必然だった。


 ワンさんが遺跡の周りをくまなく巡り、外観を調べ始めた。

 まず軽く一周したワンさんは、正面のつたをナイフで取り除き始める。

 程なくして遺跡の入口らしき扉が眼前に姿を現した。


「こういう扉は罠が仕掛けられている場合がほとんどでやんす、少し下がっていてくだせぇ」


 俺たちを扉から遠ざけると、おもむろに扉の横に張り付き何やら作業し始めた。

 しばらく様子を見ていると、バシッと言う音とともに三本のボルトが扉の上の穴から飛び出してきた。

 斜め上から飛び出した矢が、地面にきれいに並んで突き刺さる。

 ワンさんがその一本をつかんで俺たちのところへ戻ってきた。


「旦那見てくだせぇ、やじりに毒が塗ってありやす、推測でやんすが致死性の毒でさぁ」


 嬉しそうに語るワンさんに無言でうなずき返した。


「旦那、これで終わりと思っちゃいけやせん、あの扉は偽物でさぁ」


 俺を扉の前に呼んで、事細かに説明を始めた。


「扉があって罠が仕掛けられている、罠を外したから扉を開ける。中級者だったらそれで騙されやすが、あっしはその手には引っかかりやせんよ」


 そう言うと扉のすぐ下の床を探り始めた。


「やはり当たりでやんす、こっちの入り口が本命でさぁ」


 嬉しそうに報告してきたワンさんの足元には丸いふたがあり、ワンさんがその蓋を重そうに持ち上げた。

 そこには人一人がやっと通り抜けられるほどの穴が空いてあり、覗いてみても中は暗くて見えなかった。


(ちょうど異世界へ来るきっかけになったマンホールのようだな)


「ワンさん、あの偽物の扉を開けたらどうなるの?」


 セルフィアが好奇心でワンさんに尋ねた。


「さあ、いきなり爆発するかもしれやせんし、行き止まりで落とし穴が待ってるかもしれやせん、触らぬ神にたたり無しでさぁ」


 罠解除のプロは余計なことはしないらしい。

 偽物の扉はもう眼中にはなく、目の前に空いた丸い穴を慎重に調べ始めた。


「あっしが先行して降りてみやす、旦那方は少しここで待機していてくだせぇ」


 そう言って穴の中に潜っていった。


「僕いつも思うんだけど、ワンさん怖くないのかな? あの勇気には尊敬しちゃうよ」


(モーギュストも魔物の攻撃をよく耐えられると思うよ、オジサンは尊敬してます)


 しみじみと言うモーギュストを見て俺は思った。



 しばらくしてワンさんが穴からヒョッコリと顔を出した。


「旦那、探していた物が見つかりやしたよ」


 ニヤリと笑うワンさんが妙に頼もしく思えた。




 顔にポツンと一滴、冷たいものが当たった。

 空を見上げると青空は既に無く、くろぐろとした厚い雨雲が空を覆っていた。

 雨がポツポツと落ちてきて、これから天候が更に悪化することが予想された。

 突然突風が吹き、セルフィアとアニーのローブをはためかせた。

 風も出てきたようだ。

 おそらく嵐がやってくるのだろう。




 

 遺跡の奥に続く暗い穴の先は、不気味に静まり返っている。

 穴の先には何が待っているのか、その時の俺には想像すらできなかった。





 ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー


【アニーが書いたメモ】


[レイン…… 十七歳、レベル…… 十二、スキル…… 健康、身体強化、異世界言語、 加護…… 女神イシリスの加護]


[セルフィア…… 十七歳、レベル…… 十五、スキル……魔力制御、身体強化]


[アニー…… 十七歳、レベル…… 十三、スキル……信仰、身体強化]


[ワンコイン…… 二十二歳、レベル…… 十五、スキル……身体強化]


[モーギュスト…… 十九歳、レベル…… 十四、スキル……身体強化]

 

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