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43.強化

 巨人の正体は気さくなサイクロプスだった。

 世話好きな巨人に『コロニー』を教えてもらうことになった。




 次の日『コロニー』を教えて貰うために、アトラスさんに連れられて樹海の奥へ分け入った。

 途中でアトラスさんが魔物の気配を感じ取り、隠れるようにと俺たちに言った。


 ガサやぶに身をひそめてアトラスさんの戦闘を見守る。

 アトラスさんの目の前には、醜くねじれた巨木の魔物が一体立ちふさがっていた。

 触手のように枝をくねらせ、アトラスさんのスキをうかがっている。

 対するアトラスさんは背中の斧を静かにはずし、右手に構えて腰を低くした。


 巨木の魔物の周りを静かに回り始めるアトラスさん。

 魔物は根に似た足をばたつかせて威嚇いかくしてきた。

 突然俺の視界からアトラスさんが消えた。

 

「上でやんす!」


 どこに消えたか探していると、ワンさんのつぶやきが聞こえた。

 慌てて見てみると魔物のはるか上空から斧を振りかぶったアトラスさんが落ちてくるところだった。

 突然魔物を中心にして爆発が起こり、魔物が真っ二つになって静かに地面に崩れ落ちた。

 斧を地面にめり込ませてしゃがみこんでいるアトラスさんが立ち上がった。


『もう出てきていいぞ』


 俺たちは恐る恐る魔物の死骸に近づく。

 ちょうど光の粒子になって魔物が消えていくところだった。

 俺たちだけで戦闘をしたら間違いなく苦戦していたであろう強敵を、一撃で仕留めてしまったアトラスさんに畏怖いふの念をいだいた。


「ねえレイン、あの魔物あたしたちだけで倒せるかな?」


「おそらく条件次第では倒せるだろうが苦戦は必至だろうな」


「でもいずれはアトラスさんに頼らずに、僕たちだけで戦闘しなくちゃならないよ」


「そうだな……、今後の課題になりそうだ」



 俺はこの森の魔物の強さに頭を抱えていた。

 ムカデを退け、それなりの自信があったが、十六階層へ降りてきてその自信は粉々に砕け散った。

 今の『白銀の女神』の戦闘能力ではまともな探索はできそうにもない。

 どうにかして戦力の強化を図らなくてはいけなくなった。




 太陽が真上に登り、樹海の木々の間から微かに見え隠れする。

 お昼近くになってようやく目的の場所についた。


『あれがお前らが言っていた『コロニー』だと思うぞ』


 アトラスさんが指差す方向を見て一同驚きを隠せなかった。



 俺たちの顔はいま上を向いている。

 目の前には俺たち五人が手をつないでも届かないほど極太の幹の樹木が生えていて、地上部分から二十メートルほど上の辺りに、大きなウロが開いていた。

 ウロの中は大人が数十人入れるくらい広い空洞になっていそうだ。


 この辺りの樹海は皆同じような景色になっていて、『コロニー』のような特殊な地形はそこしかないとアトラスさんは言った。


『コロニー』はあのウロで間違いなさそうだ。

 だが万が一違う場合、この森の夜の魔物によって簡単に全滅させられてしまうだろう。

 名前がないと不便なので俺たちはウロのことを、樹木のうろで『樹洞じゅどう』と名付けた。

 情報が全くない状態の今、俺達に『コロニー』を確認するすべはなかった。



 しかし確認する方法をアトラスさんが提案してくれた。

 確認方法をどうするかをアトラスさんに話したら、生きたウサギを人間の代わりに『樹洞じゅどう』の中に入れて、様子を見てみたらいいのではないかと教えてくれた。

 アトラスさんが日頃オオカミを狩るためのおとりに使っている方法で、オオカミは『樹洞じゅどう』の上までは登れないらしい。

 熊なら木の上にも登るのではないかとアトラスさんに尋ねたら、熊は滅多に出ないしやられたらその時はまた考えればいいと言われた。


『退魔の香』をきウサギをつないで、一晩ウサギが生きていればそこは限りなく『コロニー』だと判断できる。

 やってみる価値はありそうだった。

 早速ウサギの捕獲に向かう。

 すぐにウサギは見つかったが、今度は子牛ぐらいの大きさのウサギをどうやって生け捕りにするかで悩むことになった。


『オレが捕まえてやる、見てろ』


 アトラスさんが無造作にウサギの目の前に出ていくと、ウサギが素早い動作で逃げ出した。

 次の瞬間、アトラスさんの姿が消え、ウサギのすぐ真横に出現した。

 手刀をウサギに打ち込み気絶させる。

 モーギュストが言っていたアタッカー職のえげつない攻撃を見せつけられた俺達は開いた口が塞がらなかった。


「今の動き全く見えなかったでさぁ……」


「俺も見えなかったよ……」


 素早さに自信があるワンさんや、アタッカー職の俺が一切動きがわからなかった。

 昨日からアトラスさんの身体能力の凄さにはいちいち驚かされていた。




 ワンさんが木に絡まっているつたを伝って『樹洞』に登っていく。

 身軽なシーフ職であるワンさんだから登れるのであって、俺達には真似できない芸当だった。

 ウサギを蔦で縛って『樹洞』に引き上げようとするが重すぎてうまくいかない。

 俺達の様子を面白そうに見ていたアトラスさんが、ウサギを軽々と抱えて一足飛びに『樹洞』に駆け上がった。

 すぐ戻ってきて順番に俺たちを『樹洞』に引き上げてくれる。


『お前らいちいち面倒くさいことするな、もう少し体鍛えろ』


 力がなくて何事ももたもたしている俺たちに笑いながら言ってきた。

 少しムッとした俺は反論してしまう。


「でも身体が小さいんだからしかたがないですよ」


 仲間たちは、俺の言動がアトラスさんを怒らせてしまうのではないかと心配した。

 しかしアトラスさんは笑顔を崩さず俺を見ながら言ってくる。


『お前らなんで『身体強化』を使わないんだ? 俺たち狩人はみんな知っている常識だぞ?』


「『身体強化』ってなんですか?」


『体を強くするスキルだ、鍛えれば誰でも使えるようになるぞ』


 俺は驚きで声も出なかった。

 スキルはある日突然使えるようになるもののはずだ。

 アトラスさんの言っていることはスキルの概念を根本的にくつがえす驚くべき新事実だった。


「もし使えるようになるなら教えて下さい、森の奥に行くために強くなりたいんです」


 俺はアトラスさんに頭を下げた。


『わかったわかった、教えてやるから頭上げろ』


 俺とアトラスさんの会話がよく分かってないメンバーに、今話した内容を伝えるとみんな驚き喜んだ。

 四人が一斉にアトラスさんに頭を下げる。

 堅苦しいことが嫌いなアトラスさんは、頭をゴリゴリといて困っていた。




『コロニー』確認の作業を進めていく。

 ウサギを『樹洞』に蔦で繋いで『退魔の香』を焚くと、無臭の成分がウロの中に充満して仕掛けが完成した。


「後は明日の同じ時間にまた来ればいいでやんす」


「よし、早くアトラスさんの家に戻ってスキルを教えてもらおう」


 アトラスさんに地上に降ろしてもらい家路いえじを急いた。




 アトラスさんの家に戻ると、小屋の前の広場に俺たちは並んだ。

 アトラスさんを教師に迎え、『身体強化』のスキルを教えてもらうためだ。


『お前ら腹の下に力込めろ、腹の中がポカポカしてきたらそれが魔力だ、それを身体中に循環させろ』


 早速『身体強化』を教えてもらう。

 俺がアトラスさんの言うことを通訳すると、みんな真剣に言われたことを実行していった。

 しばらくすると魔法が使える三人がコツを掴んで魔力を循環させ始めた。


「何となくできたわ、体が熱くて力が強くなってきたみたい!」


「私もできました、でもすぐに魔力が体から逃げていきますよ」


「僕もできたよ、魔力消費がけっこう辛いね」


 魔力があるやつは出来るだろうが、俺とワンさんは魔力ないんだよ……。

 ただ普通に力んでいるだけで、一向に何も出てこなかった。


『おお! 三人はできたな、次は体の表面を魔力で包み込む、魔力を逃さないようにする』



 俺とワンさんを置き去りにして次のステップへ行ってしまった。

 焦りで下腹に力が入りすぎて、魔力じゃない違うものが出そうになる。


(危なかった……、みんなの前で漏らすところだった……、ワンさん? 大丈夫だよね?)


 俺の横で固まっているワンさんを見て一抹いちまつの不安がよぎる。

 少し様子を見ていると、ワンさんはホッとした顔をして鍛錬を再開した。


(よかった、漏らさなかったようだな)


 俺も慎重に鍛錬を再開した。




「出来ました! バリアを応用したら魔力が抜けなくなりました」


 アニーが嬉しそうに言って飛び上がった。


(おお!? ジャンプ力が明らかに上がっていないか?)


『出来た出来た、魔力の出力を上げれば、力が強くなるぞ』


 嬉しそうにアトラスさんが拍手している。

 三メートル以上の巨人の拍手は迫力があって、音が凄かった。


「あたしも出来たわ! ファイアーボールの魔力操作を意識したら出来たわ!」


 程なくしてセルフィアが成功した。

 アニーと二人して喜びながら畑道を走っていった。

 その速度は今までの二人の足の速さと比較にならないくらい早く、すぐに壁の端に到達していた。




 夕闇が迫った頃、モーギュストが『身体強化』に成功する。

 依然として俺とワンさんは魔力すら認識できず途方に暮れていた。


『お前ら駄目だな、何故出来ない?』


「なぜと言われても俺もワンさんも魔力持ってないんですよ」


 泣きそうになりながら、アトラスさんに訴えかけた。


『なんだ、もしかして『魔力剤』飲んでないのか?』


「『魔力剤』ってなんですか? 聞いたこともないです」


『赤子の時に飲ませられるだろ、魔力を高める薬だぞ』


 ワンさんにアトラスさんが言ったことを伝えるが、首を横に振って知らないと言ってきた。


『それじゃ出来るはずないぞ、わはははは』


 面白そうに笑っているアトラスさんを、ワンさんと一緒に恨めしそうに見た。

 食事の後『魔力剤』を飲ませてもらう、熱が出るそうなので涼しい格好をして早めに寝た。




 翌日起きると体の中に魔力があるのがわかった。

 何故それが魔力だとわかるのかは説明できないのだが、たしかに魔力が存在しているのだ。

 ワンさんに聞いてみると、俺と同じで魔力を感じ取れると言ってきた。

 二人で喜び合い朝から鍛錬をしてみたが、朝食までの間で『身体強化』は発動せず今後の課題となった。





 朝食を食べ終えた後に、アトラスさんに引率されて『樹洞』を確認に樹海の奥へ分け入った。

 ウサギは無事だろうか。

 はやる気持ちを抑えながら早足で進んでいくのだった。

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