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38.閑話2~諸行無常~

過激な戦闘描写があります、ご注意下さい。

グロテスクな表現が苦手な方は、読まずに次の話へ移動しても話がわからなくなることはないので、安心して飛ばして下さい。

次話に簡単なあらすじを載せておきます。

 仲間達のサプライズパーティーも成功して、王都での予定もすべて終了した。

 王都から帰還の途に就いた『白銀の女神』一行は、順調に旅路を進んでいた。




 いくつかの町や村で宿泊しながら、のんびりとした速度で旅路を楽しんでいた『白銀の女神』一行。

 昨日から滞在しているこの村では、熱病の子供が複数人出たということで、アニーがキュアをかけて直してあげた。

 大事な子どもたちを救ってもらい、村人たちは涙を流しながらお礼を言ってきた。


 出発する間際になって村長が俺に耳打ちをしてきた。

 なんでも今から俺たちが通る森には追い剥ぎが出るらしい。

 普段なら村が報復を受けるのを嫌って情報を教えることはないが、子供を助けてくれたから特別に教えると言ってきた。


 いろいろ言いたいことはあるがグッと心にしまい、村長にお礼を言って少しだけ銀貨を握らせた。


「総員戦闘隊形に移行しろ!」

 

 完全武装をするように仲間達に通達する。

 ワンさんは魔法の双短剣を腰につけ、魔法の盗賊のブーツに履き替えた。


 モーギュストは、馬車にかかる重量を気にして鎧をつけていなかったが、魔法鉄鋼の全身鎧を着込み、魔法鉄鋼の大盾を手に持つと、馬車の屋根によじ登った。

 馬車がギシギシと音を立てて車体を沈ませる。

 屋根に上ると立ち上がってミスリルの短槍たんそうを構えた。

 


 セルフィアとアニーは、武器を持つだけでいつでも戦える格好をしている。

 俺が魔法鉄鋼の鎧を着込んで車内に乗り込んだのを合図に、問題の森に向かってゆっくりと進行していった。


 俺たちの装備を見た村人たちは腰を抜かし無言で見送っていた。

 裕福そうな一団が、一瞬にして一騎当千の戦闘集団になってしまい、度肝どぎもを抜かれたようだった。

 遠くから見てもモーギュストの黒光りした魔法鉄鋼の鎧はよく目立つ。

 余程の馬鹿でない限り、俺たちに襲いかかろうとする奴はいないだろう。


「アニー、念のためにバリアを馬車とみんなにかけてくれ」


「わかりました」


 アニーが呪文を唱え、一人ひとりにバリアをかけていく。

 呪文の威力が高いのでうっすらとバリアの障壁が見え、生半可な攻撃ではダメージを与えることはできそうになかった。




 眼の前に村長が言っていた森が見えてきた。

 鬱蒼うっそうとした森は妙に静かで、追い剥ぎが獲物を狙うにはおあつらえ向きの場所に見える。

 幾重いくえにも重なる木の幹の間から、いつ攻撃があっても不思議ではない。

 迷宮とは違う静寂の中を馬車が移動していく。

 土むき出しの悪路のわだちの中を、車輪だけが転がる音が大きく響いていた。




 前方に人影が見えてきた。

 道の真中でうずくまり、顔が見えず状況がよくわからない。

 よく見ると男のようだ。

 一人だけで倒れているのは森と村の距離から考えてもとても不自然だった。

 そのままき潰すわけにはいかず、馬車をワンさんに止めさせる。

 ワンさんは「このまま行きやしょう」と馬車で潰すように言ってきたが、現代日本で暮らしてきた俺は甘さが抜けず、十中八九罠だろうと分かっていても馬車を止めずにはいられなかった。


 ワンさんとモーギュストに周りの警戒をさせて、俺が男に近づくことにした。


「おい! どうかしたのか、返事をしろ」


 刀のつかに手を添えていつでも抜けるようにして慎重に近付いていく。

 男との距離が三メートルぐらいになった時、森の中から大勢の男達が馬車を囲うように現れた。

 うずくまっていた男が何事もなかったように立ち上がる。

 その手には大ぶりの山刀やまがたなが握られており、口元には下品な笑いを張り付かせていた。


「この状況で自分たちの立場をわからない馬鹿じゃねえだろうな、命がほしけりゃ大人しく武器を捨てて金と女を置いていきな」


 男が俺に山刀を突きつけてどすの利いた声で威嚇いかくしてきた。


(俺たちの武装を見て勝てるつもりで襲ってきたのだろうか? そうであったなら『白銀の女神』も舐められたものだな)


 日本に居たときには絶対になかった怒りの感情が沸々(ふつふつ)と湧き上がってくる。


「おい、追い剥ぎ。人の命を刈り取るのなら、自分たちの命が取られても文句はないだろうな」


「うるせえ! お前たちは死ぬんだよ、大人しくしやがれ!」


 男は興奮して今にも襲いかかってきそうな勢いだ。

 救いようがない馬鹿に何を言ってもしかたがないようだ。


「モーギュスト、馬車から降りて後方の敵をやれ、ワンさんは右側、俺は左側だ」


「オッケー、まかせといて!」


「わかりやした!」


 モーギュストの表情は兜をかぶっているのでわからないが、声色こわいろから判断すると間違いなく笑っているな。

 ワンさんはすまし顔だが、獣人はこの手の荒事あらごとを本能で楽しむ傾向があるから、やりすぎないように注意しようか。


「セルフィア、アニー、今回は出番はなしだ。馬車の中でゆっくりしていろ」


 馬車の中に居る二人に大声で指示を出す。

 俺は今どんな顔をしているのだろうか、ワンさんを見ると残忍な面構えをして俺に笑いかけている。

 俺もつられて笑ってしまうが、きっと同じ顔をしているんだろうな。



「何ごちゃごちゃ言ってやがんだ! 早くしねえとほんとに殺しちまうぞ!」


 一向にひるまない俺達にしびれを切らした追い剥ぎ達は、ジリジリと距離を詰めていつでも飛びかかれるように腰を低くした。


 視線を横に走らせ伏兵が居ないか森の中を見渡す。

 綿密な計算などしないでこれまでも襲っていたのだろう、馬車を囲うように展開する荒男あらおとこだけで戦力は全部らしかった。

 軽く数えた限りでは総勢十数人、追い剥ぎにしては大所帯な方ではないだろうか。

 豪華な馬車におもわず攻撃を仕掛けてしまったというところか。



 ふいに馬車がギシッと音を立てる。

 馬車が上下に激しく揺れ、モーギュストが馬車から飛び降り、後方の地面に着地した。

 ズドーンという地響きがして、魔法鉄鋼の塊が後方に詰めている追い剥ぎ達の前に姿を現した。

 ミスリルの短槍を横に空振って豪快な風切り音を立てると、大きな盾を構え直しモーギュストが叫んだ。


「久しぶりの獲物だな! 楽に死ねると思うなよ!」


 人が変わったように叫ぶモーギュストに、ワンさんが絶叫で応える。


「昔を思い出すでやんす! モーギュスト! どっちが多く倒せるか競走するでやんすよ!」


 二人の豹変ぶりに本来なら引きまくるはずなのに、心がワクワクしてくる。

 俺も目の前の追い剥ぎ達をどうやって料理するか暗い笑顔で吟味ぎんみしていた。




殲滅せんめつしろ!」


 俺の号令一下ごうれいいっか、三人が周囲に散らばっていく。

 まず俺になめたことを言った男に『白銀の女神』の何たるかを思い知らせてやらなければならないな。


 素早いすり足で二メートルの距離を縮め、刀の射程圏内に男を捕らえる。

 さやから抜き放ったやいばを逆袈裟斬りで、男の右腰から左肩にかけて走らせる。

 ピュッっという小気味良い音を残し、男の体に消えていった刃は、次の瞬間肩口から姿を現し、男の体から血しぶきを上げさせた。


 まず一人目。


 振り上げた刀を上段に構え、男の後ろでまだ構えもしないで棒立ちしていた若い追い剥ぎを、気合とともに頭の上から真っ二つに斬りつけた。

 恐怖の表情を貼り付け、若い追剥が仰向けに倒れる。

 倒れた際に、追い剥ぎは道に埋まっていた石の塊に頭を打ち付け乾いた音を立てたが、既に絶命していたので当人は気にしないだろう。


 これで二人目だ。


 首をクイッと曲げて横の男を睨みつける。

 男は「ヒィッ」と一声発して腰を引かせた。




 モーギュストの体当たりが、追い剥ぎにまともに決まった。

 モロに体当たりを受けてしまった男が、一直線に後方の木の幹にぶち当たる。

 派手な衝突音を響かせて男の背骨が曲がってはいけない方向に折れ曲がった。


 モーギュストが短槍のギリギリ端の石突いしづき部分を片手で持ち、頭の上で振り回した。

 運悪く刃先が当たった盗賊たちは、腕や足を面白いように切り飛ばされて断末魔の悲鳴を上げている。

 一撃で仕留めようとはしないモーギュストの攻撃で、彼の周りには無数の苦痛にのたうち回る追い剥ぎ達がうごめくことになった。

 あらかた殲滅し終わると、短槍を逆手に持ち替えて急所を一突きしながら引導いんどうを渡して回った。


 まだ武器を持っている男達は、近寄るモーギュストに向かって最後の抵抗を試みる。

 しかし追い剥ぎごときのやわな攻撃では、大司教が変化へんげしたオオムカデの体当たりを食らってもびくともしなかった鎧に、傷一つ付けられるはずがなく、抵抗虚しく絶命していくのであった。




 俺の視界の端を、ワンさんの残像が走り抜けていく。

 追い剥ぎ達はワンさんの素早さに、一切ついていくことはできなかった。

 両手に魔法の双短剣を握り、追い剥ぎたちの間を風のようにすり抜けていく。

 ワンさんが通った後には首筋を切られ派手に鮮血を撒き散らす男や、腕を脇の下からスッパリと切り落とされて、自分の腕が地面に落ちているのをアホ面下げて見ている追い剥ぎが見て取れた。


 俺と対峙たいじしている追い剥ぎの背後に、音もなく忍び寄ったワンさんは、背中から心臓を一突きにして追い剥ぎの命を刈り取っていった。


(あ! 俺の獲物を横取りした! 早く倒さないと誰も居なくなってしまうぞ)


 辺りにはもう三人しか追い剥ぎが立っていない。

 固まって震えている追い剥ぎ達を見て急に興奮が冷めた俺は、つまらなそうに男達に近寄っていった。

 刀を三回突き出し正確に心臓を貫き息の根を止め、刀を大ぶりに振って血糊を吹き飛ばしさやに収めた。




 はじめから勝敗は決まっていたのだ。

 王国中の猛者もさたちが集まる『ミドルグ迷宮』で、トップファイブに入る実力の『白銀の女神』に、ろくな武器を持たず作戦も何もなくただ突っ込んできた雑魚ざこが勝てるはずなかったのだ。

 己の力量を知らない馬鹿にはお似合いの結末だった。



 馬車のドアが静かに開き女性陣が姿を現した。


「五分も持たなかったわね、喧嘩を売った相手が悪かったんじゃない?」


 辺りの凄惨な状態を見てもセルフィアは涼しい顔をしている。

 伊達にアンデッド達が闊歩かっぽする『中層階』を主戦場にしているわけではないな。


「悪行のむくいを受けて罪をつぐなった魂に慈悲を与えましょう」


 アニーがイシリス様に祈りを捧げ始めた。

 俺中の僧侶のイメージは、一切の殺生を禁じていて悪人すらも救済しようとする聖人だが、この世界の僧侶は少し違うらしい。

 悪者は問答無用に処刑して、後から魂を救済するのがこの世界の常識だった。




 死体を道の真中に積み上げ、巾着袋から使用済みの油を取り出す。

 俺が死体にかけようとすると、油がもったいないと仲間達が言ってきた。

 まだまだ大量に新しい油があると言うと、仕方なしに俺の好きにさせてくれた。

 ドラムにブレスを吐いてもらう。

 高々と上がる炎を見て自分たちで刈り取った命ではあるが、はかなさを感じてしみじみしてしまった。





「よし! 出発するぞ!」


 気持ちを切り替えるために少し大げさに号令をかけて、馬車がゆっくりと動き出す。

 後には道の真ん中で盛大に燃える死体の山が『白銀の女神』を見送っていた。


弱肉強食の異世界では悪人に容赦はありません。レインも異世界やり方に慣れてきたのかもしれません。


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