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34.ギルド長の正体

 貴族になるための条件を聞きにギルドを訪れた『白銀の女神』は、ギルド長が所属していたパーティーが十五階層で壊滅したことを知って、自分たちがいかに幸運だったかを身にしみていた。




 気を取り直して魔石の使いみちについてギルド長にたずねた。


「大司教を討伐した探索者は王都に招待されて、国王に謁見えっけんできると聞いたのですが本当ですか?」


「そうじゃよ、お主達にもじきに王都より使者が来て、詳しい説明をしてくれるじゃろう。楽しみに待っているのじゃ」


「その謁見のことでギルド長に相談したいことがあって、今日はここに来たんです」


 ギルド長を真っ直ぐに見て話し始めた。


「仲間内で話し合ったのですが、謁見の時に国王へ価値のあるものを献上すると、貴族にじょしてもらえると聞いたのです。ギルド長は詳しく知っていますか? 知っているなら教えて下さい」


 改めて頭を下げ、ギルド長の顔を見た。


「そうか貴族か……、確かにワシはそのことについて知っているが、貴族になんてなっても良いことは一つもないぞ」


「そうかも知れません……、しかしこれは『白銀の女神』みんなで決めたことなんです。貴族になれないなら綺麗サッパリ諦めます。知っていることを教えて下さい」


 すると今まで黙っていたアニーが静かに語りだした。


「大司教戦で私達は女神イシリス様に助けていただきました。その御恩をお返しするためにも貴族になって発言力を高めたいと思っているのです。ぜひ方法を教えて下さい」


「あっしはお貴族様のことはよくわかりやせんが、レインの旦那がこの国で出世していくのを見てみたいんでやんす。旦那は只者じゃありやせん、きっと偉業を成し遂げるはずでやんす。ギルド長もそれは分かっているはずでさぁ」


 俺に対する忠誠心の言わせた言葉だろうが、本人を目の前にしていうのは恥ずかしいからやめてくれっ。



 ギルド長は静かにアニーとワンさんの話を聞いていたが、話を聞き終わると目を閉じてフーっと一息吐き出した。


「わかった、ワシの知っている事を話してやろう。探索者が貴族になるには謁見の際に目の前にあるような貴重な宝物ほうもつを献上するのが一番の近道じゃ……、いや、違うな近道と言うよりそれしか方法はない。近々訪れる王都からの使者に献上の件を相談し、その使者が宝物に価値アリと判断した場合にのみ叙爵の道は開かれるのじゃ」


「それではギルド長から見てこの魔石は叙爵にる宝物だと思えるのですね?」


 俺の質問に大きくうなずきギルド長は身を乗り出した。


「もちろん足りるに決まっておるよ、なぜならワシが謁見で献上した王笏おうしゃくより数段上の価値があるからな」


 今ギルド長は凄いことを言ったような、謁見で献上? だれが? ギルド長がか!?

 衝撃の事実を突きつけられて頭が混乱する。

 眼の前に座る初老の優しそうな人物は、なんと、お貴族様だったのだ!



「知らなかったとはいえ、数々のご無礼をしてしまい、誠に申しわけありませんでした」


 即座に頭を下げる。

 メンバー全員も俺に続いて頭を下げた。


「おいおい、そういう事はやめるんじゃ、ワシが堅苦しいのは嫌いなのはお主達がよく知っていることじゃろ、はっ、はっ、はっ、はっ」


 身分の種明かしをした後も、ギルド長は一切態度を変えることはなく、俺達に頭を上げさせると豪快に笑った。



 ギルド長は現役時代に十五階層のボス、大司教を倒し一人街へ戻った。

 その後貴族に(じょ)され、この『迷宮都市ミドルグ』でギルドマスターに就任したそうだ。

 謁見の際に献上した宝物『永遠の王笏』は、しくも俺たちが特大の魔石を手に入れた小部屋の宝箱で発見したもので、更に二つ目の宝箱を開けた際にパーティーが壊滅したそうだ。



 全く同じ条件で俺たちは全員無事帰還し、ギルド長のパーティーは壊滅した。

 ワンさんの解錠の腕は悪くなく、逆に凄腕であるということが証明された瞬間だった。


 ちなみに『永遠の王笏』の効果は特に何もなく、珍しい金属で出来ていて貴重な宝石がちりばめられた、飾っておくには見栄えが良い古代文明の遺物だった。

 かたや俺達が献上しようとしている紫色の特大魔石は、その膨大な魔力を様々なものに応用でき、ギルド長の話では飛行戦艦すら空中に浮かせることが出来るかもしれない国宝級の宝物だそうだ。



 俺たちの貴族に対する意識が本物であることを理解したギルド長は、王都からの使者への仲介ちゅうかいを買って出てくれて、叙爵の太鼓判を押してくれた。



 ー・ー・ー・ー・ー



「しっかしギルド長がお貴族様だったなんてあっしは今でも信じられやせんよ」


「僕もその意見には同意するよ、貴族ってもっと怖いイメージがあるよね」


 ギルドを後にして、馴染みの定食屋で少し早い昼食をとっていた。

 しばらくは迷宮に潜ることはないので、ワンさんとモーギュストそしてセルフィアは、昼間からエールを飲んでごきげんだった。


「貴族になっても今のままのやさしいレインでいてね」


 既に出来上がっているセルフィアが、右腕に絡みつきながらしおらしく上目遣いで俺にささやきかける。


(か、かわいすぎる……)


 生唾をのみこんで首を上下に動かしながらセルフィアを凝視する。


「もちろん変わるつもりはないよ、それに貴族になっても探索をやめるつもりもない。この先十六階層からは全く情報がないんだ。探索の歩みはかなり遅くなると思ってくれ」


 メンバー達を一人ひとり見ながら今後の展望を簡単に話していく。

 今まではしゃいでいたワンさんやモーギュストも、真剣に俺の話を聞いていた。



「しかしワンさんの解錠技術はすごいな、もし二箱目の宝箱を強引に開けていたら死んでいたということだよな。これからも罠解除、宜しくお願いします」


 俺は改めてワンさんの解錠技術を絶賛した。


「ほんと頼りになるわ、うちのシーフは」


「ワンさんいつもありがとうございます」


「レインさんも凄いけどワンさんの技術も凄いよね」


 俺たちはワンさんを見て真剣にお礼を言う。

 俺たちの言葉を聞いたワンさんが大声で泣き出して周りの人達がびっくりしていた。



 ー・ー・ー・ー・ー



 数日ほど探索を休んで王都からの使者を待っていたが一向に到着しない。

 手持ち無沙汰ぶさたになったので、久しぶりに八階層『草原』に来ていた。

 十六階層を探索する準備はまだ整っておらず、かと言ってアンデッドを相手にするのはもう飽きた。

 手頃な『草原』で日帰り探索をしながら使者の到着を待つことにしたのだ。



 八階層の魔物は夜と昼で大きく強さが変わる。

 昼に出て来る魔物の代表格はゴブリンで、緑色をした小鬼だった。

 普通の探索者なら蹴り一発で殺害できるほど弱く、取れる魔石も小指の先程しか無い屑石くずいしだった。

 ただ注意しなければならないのは、群れたゴブリンに発見された時で、見境なく襲って来る小鬼を裁ききれずに壊滅するパーティーも珍しくはなかった。




「あちゃ~、見つかったでさぁ。小さいのが大群でこっちに走って来やす!」


 見晴らしの良い小高い丘で休憩をしていると、おびただしい数のゴブリンが、大地を埋め尽くしながらこちらに向かって走り寄る姿を確認する事ができた。

 普通のルーキー探索者ならパニックになるところだが、俺たち『白銀の女神』は大司教すら討伐した凄腕の探索者だ。

 自分で言っては天狗(てんぐ)だと思われるかもしれないが、それだけ大司教の強さは尋常じゃなく、探索者の間では、『探索者をやめるか大司教と戦って死ぬかのどちらかだ』という言葉があるくらい討伐が難しかった。



「あたしがやるわ、こんな時のために新しい火属性魔法の術式を考えていたのよ」


「お手並み拝見でやんす!」


「討ち漏らしたら僕がさばくから気軽にやってね」


 ワンさんがはしゃいで、モーギュストは真面目に前方で防御の構えに入る。

 俺とアニーはセルフィアの後ろに陣取り、ことの成り行きを傍観ぼうかんすることにした。



 自信アリげに丘の頂上に立ち、黒檀(こくたん)の杖を天にかざしながらセルフィアが呪文を唱え始めた。

 セルフィアの足元には大きな魔法陣が青白く光ながらゆっくりと回転し始めている。



「炎の精霊たちよ、我に応えよ……」


 呪文詠唱を始めると、走り寄るゴブリンたちの真上に炎の渦が巻き起こり、激しくうねり始めた。


「天空を埋め尽くす紅蓮ぐれんの炎、その怒りのやいばは地を焦がすだろう……」


 呪文が完成に近づいたときには、ゴブリン達も異変に気づき走るのをやめて上空を見上げていた。


「ファイアーレイン!」


 呪文が完成した瞬間に、炎の雨が無数に大地に降り注ぎ、ゴブリン達をのみこんでいく。

 炎の雨粒一つひとつが爆発をして耳をふさがないと居られないほどの轟音を響かせた。

 爆炎と土埃(つちぼこり)で辺りの視界が悪くなる。

 視界が戻ったときにはゴブリンは一匹たりとも姿が見えず、綺麗さっぱり消し炭にされてしまった。



 セルフィアがゆっくりと振り返り俺をみて苦笑いをする。


「ちょっとやりすぎちゃったっ、エヘッ」


 自重じちょうを知らないセルフィアの大魔法に一同唖然として言葉を失ってしまった。





 王都からの使者の到着が『白銀の女神』に知らされたのはそれから五日後だった。

 貴族になるための交渉が始まろうとしていた。

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