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27.出陣

 十五階層のボスを倒すために『大聖堂』でレベル上げをする『白銀の女神』の一行は、満足なレベルアップを達成したので一旦地上に戻ることにした。




『大聖堂』に潜りレベル上げのために過酷な戦闘を日々こなした。

 毎日くたくたになるまでファントムやレイスを倒し、ついでにお宝も発見していく。

 十二分にレベルが上がり、懐も温まったので街に帰還し今後のことを話し合うことにする。



「今から地上に帰還する。地上での休暇の後でボス戦に挑戦しようと思う、皆んなお疲れ様」


 石碑の前で皆んなにねぎらいの言葉をかける。

 パラパラと返事が帰ってくるが、どれも元気はなかった。


 一人ひとりの顔を見ていくが、過酷なレベル上げの影響で誰一人として笑顔をみせているメンバーは居ない。

 セルフィアは目の下にくまを作り魔力の消費が激しかったことを物語っていた。

 アニーも少しやつれたかな、自慢のナイスバディーが少しほっそりとしているような気がする。


 ワンさんは気疲れからか毛並みがいつもより艶がない、後でうまい酒でも差し入れしよう。

 モーギュストは……、全身鎧をつけていて表情がわからない、まあ大丈夫だろう。


 全員で石碑に手をかざして一階層へ転移する。

 無言で階段を登り地上を目指した。


「みんな疲れているだろうが、地上に出たら我慢して他の探索者達に疲れていることを悟られないようにしてくれ。『白銀の女神』は常勝無敗のチームなんだからな」


「わかったわ!」


 負けん気が強いセルフィアがひときわ大きな声で返事をする。

 他のメンバーも口々に同意を示し気合をいれて階段を登っていった。


「『白銀の女神』全五名、迷宮から帰還しました!」


 気合を込めて帰還報告をする。


「おつかれさまです! 確認しますので。どうぞこちらに来て下さい!」


 若い迷宮衛兵の役人が緊張しながら確認作業を開始した。

 




 死と隣り合わせの迷宮から解放された俺達は、『雄鶏おんどり嘴亭くちばしてい』に直行して自分の部屋で久しぶりにベッドで寝た。

 俺は一人で安全に眠れる幸せを噛み締めながら、翌日の昼まで泥のように眠り、空腹を覚えたため一階の食堂へ降りていった。


「レインおはよう、あたし達より遅く起きてくるなんて珍しいわね」


 セルフィアは食事を食べ終わりお茶を飲みながらくつろいでいる。


「おはようセルフィア、たまにはこんなこともあるさ」


「レイン様おはようございます、こちらに座って下さい」


 アニーが俺に席に座るように勧めてくれた。


「おはようアニー、ありがとう」


 気を使ってくれるアニーに微笑みながら朝の挨拶をする。

 女の子二人の間に座りドラムをひざの上に乗せて、眼の前でくつろいでいるワンさん達に声をかけた。


「おはよう二人とも、昨日は良く眠れたか?」


「おはようございやす、もうぐっすり眠らせてもらいやした」


「レインさんおはよう、僕も久しぶりに防具を脱いで眠れて、体がだいぶ楽になったよ」


 モーギュストは遠征中ずっと鎧を外さず寝ていたので、久しぶりの武装解除だった。


「それはよかったね、俺もゆっくり眠りすぎて寝坊してしまったよ」


 みんなが一斉に笑い声を上げる、それほど俺が最後に起きてくることは珍しいことだった。



 いつもの黒パンと塩スープをサムソンさんが運んでくる。


「おはようレイン、迷宮探索大変だっただろ? たくさん食べて元気を出してくれ」


 俺の前にカゴいっぱいの黒パンと、いつもより大きな器に入った塩スープを置いた。


「これは俺からの差し入れだ、よかったら飲んでくれ」


 サムソンさんはジョッキに入った山羊やぎの乳を俺の前に置いて食堂を出ていった。


 さっそく山羊の乳を飲んでみる。

 しぼりたてなのか全く臭みがなくほんのり甘くてとても美味しかった。

 食欲が更に増した俺は、黒パンを山羊の乳につけて食べてみた。

 思ったとおりに黒パンが山羊の乳によく合い、どんどん食べられる。

 パンを二個おかわりをして食事を終了した。


 食後のお茶を飲んでいるとセルフィアが珍しそうに俺の顔を見てきた。


「レインがパンを三個も食べたとこなんて見たことないわ」


「確かに珍しいですね、いっぱい食べるレイン様も素敵です」


「俺もこんなに食べたのは久しぶりだよ、きっと山羊の乳がおいしかったからだよ」


 異世界に来てから初めてお腹いっぱいになるまで食べた俺は、今度の迷宮探索には山羊の乳を絶対持っていこうと思った。




「それじゃあアニーよろしく頼むよ」


「わかりました」


 食休みが終わった後で俺の部屋に全員を呼んでレベル確認をすることになった。

 アニーの前に背中を向けて座り、一人ひとりレベル確認をしてもらう。

 図書館で調べた限りでは『中層階』十五階層のボスを倒した探索者達は平均レベルが七ぐらいだったようだ。

 探索中もこまめにレベル確認はしていたが、いろいろ忙しくてここ数日は確認をしていなかった。


「これで最後ですね」


 自分のレベルを確認してみんなの能力をメモした紙を俺に渡してきた。


「パーティー内で能力の隠し事はなしだ、今から一人ずつ発表していくぞ」


 みんな真剣にうなずく。


「まず一番レベルが高いのがワンさん、レベル十だ。探索者歴が長いのもあるが、今回レベルが二上がった」


 皆んな納得の表情でワンさんを見る、ワンさんは特に表情を変えずにしっぽだけ左右に揺れていた。


「次がモーギュストでレベル九だ、ワンさんと同じく探索者歴が長いので順当だろう、今回の探索で上がったレベルは二だ」


 当の本人は遠征前よりレベルが二、上がったことで嬉しそうに笑顔になった。


「そしてモーギュストと同レベルの九になったセフィー、今回の遠征で一番伸びて三レベル上がった。おめでとう」


 皆んなが一斉に拍手をする。


「やったわ! 頑張ったかいがあったわ!」


 魔力を出し惜しみせずに多数の敵を倒した努力の結果だ。

 ファイーアボールの殲滅力せんめつりょくが決め手となったようだな。


「そして俺とアニーがレベル八、遠征前がレベル六だったから二、上がったわけだな」


「レイン様と同じだなんて嬉しいです」


 アニーは本当にぶれないな、俺と何でも一緒がいいらしい。


「それからアニーのスキルに『信仰しんこう』がついていた。俺の記憶が確かならば『信仰』は僧侶職の呪文の強化だったはずだ。ボス戦に向けてとても役に立つスキルだと思う、おめでとう」


『信仰』は司祭になると能力に現れてくるスキルだ。

 アニーは僧侶職の能力が助祭から司祭に格上げされたようだった。

 アニーを皆んなが拍手で祝福する、アニーも嬉しそうに頭を下げていた。


「ありがとうございます、イシリス様に感謝します」


 そう言って祈りを捧げ始めた。



「さて、俺達は十五階層のボス大司教を倒すのに十分なレベルになった。俺が調べた限りだが歴代攻略者の平均レベルは七だ。そこで俺はボス討伐をギルドに届け出ようと思う」


 今まで温和だった雰囲気が、俺の宣言によって緊張と不安、そして期待が入り混じったピリピリした空気に変わった。


「勝機は間違いなく俺達にある、しかし一人でも自信がないなら討伐は延期する」


「あたしは自信あるわ、絶対にボスを倒してみせるわ!」


 いち早くセルフィアが立ち上がり力強く宣言した。


「あっしも行きやすよ」


「ぼくもやるよ!」


「私もお供します」


「ガウ!」


 三人が同時に立ち上がり一斉に俺を見てきた。

 ドラムが興奮して俺に抱きついてくる。



「よし、これから『白銀の女神』は大司教攻略の作戦会議に入るぞ」


「「「「了解!」」」」




 興奮が落ち着いてきた所で、大司教攻略の詳細な戦略をみんなで話し合う、議論は白熱して全員が活発に意見を出し合った。

 人任せにはせず、一人ひとり自分の役割をレベル上げの間に考えるようにみんなに話しておいた。

 その成果が実り、俺だけでは思いつかないような戦術や、戦況が不利になったときの対処法などがみんなから次々と提案された。


 特に話し合ったのは、俺が戦闘不能におちいったときの指揮を誰が取ってどう対処するかで、十階層のボス戦のような混乱を二度と起こさないように話し合われた。


 長い議論は昼をまたぎ夕食時まで続き、それでも終わらないので明日に持ち越された。

 次の日も朝から議論を再開して、結局みんなの満足の行く作戦が決まったのは午後の遅い時間だった。




 遅い昼食を馴染みの定食屋ですまし、討伐予定を伝えるためにみんなでギルドへ向かった。

 ギルドのエントランスに溜まっている探索者が、俺達を見て騒然となるのも見慣れてきた。

 五人ひとかたまりになって足早にカウンターへ行き受付嬢に予定を話す。

 その場に居た探索者達は驚愕(きょうがく)の表情をして俺達を見た。

 しかし今回は騒ぎ立てることも忘れ、エントランス全体が水を打ったように静かになった。

 聞き耳を立てていた探索者達は、それぞれ違う表情を浮かべ仲間たちとささやきあう。

 一番多いのは憧れの眼差しであり、ルーキー探索者に多かった。


「かっこいいな、俺達も『白銀の女神』みたいになりたいな」


「どうすれば強くなれるか聞いてこようか」


 特に変わった会話ではないな、いつも言われていることばかりだ。

 そして次に多いのが嫉妬の目で、ベテランだが調子がいまいち上がらないパーティーに多かった。


「嘘だろ……、討伐なんてベテランでも出来ないぞ」


「彼奴等も十五階層の怖さを思い知るがいいさ」


「きっと全滅するよ、いい気味だね」


「あの中で生きて帰ってくるのは何人だろうね」


 なるほど、俺達のことが目障りな奴らがまだいるみたいだ。

 自分たちより後発組の『白銀の女神』を、目の敵にしている探索者は一定数存在する。

 彼らの暗い願望が現れたつぶやきだった。


 俺はそのつぶやきを聞きながら心で強く決意する。


(絶対に一人も死なせはしない、必ず全員で帰還する)




 受付嬢とのやりとりをしていると、カウンターの後ろのドアが開いてギルド長が出てきた。

 俺と目が合ったギルド長は、俺をまっすぐ見据みすえ静かに話し始めた。


「レイン、準備は整ったのか?」


「はいギルド長、これから大聖堂のボスを倒しに行きます」


「前にも言ったが大司教は一筋縄ではいかないボスじゃ、くれぐれも慎重に行動しろ、報告を楽しみに待っておるぞ」


「必ず全員無事で戻ってきます。行ってまいります」


 俺はギルド長に頭を下げるときびすを返しギルドを後にした。

 セルフィアやアニー、ワンさんそしてモーギュスト、四人の『白銀の女神』のメンバー達も真剣な顔をして俺の後に続いた。





 一旦宿屋に戻り完全武装に着替える。

 五人で隊列を組み街の中心部にある『ミドルグ迷宮』に向かった。

 十分に休養は取った、物資も大量にある、日が沈もうとしている中で迷宮に入るのは珍しいことだが、俺たちは覚悟を決め『中層階』十五階層目指して迷宮に降りていった。





 ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー

アニーが書いたメモ


[レイン……十七歳、 レベル……八、 スキル……健康、異世界言語、 加護……女神イシリスの加護]


[セルフィア……十七歳、 レベル……九、 スキル……なし]


[アニー……十七歳、 レベル……八、 スキル……信仰]


[ワンコイン……二十二歳、 レベル……十、 スキル……なし]


[モーギュスト……十九歳、 レベル……九、 スキル……なし]

 

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