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26.大聖堂再び

 防具を新調してベテラン探索者に匹敵する貫禄が出てきた俺たち『白銀の女神』は、早朝から迷宮に潜るため『ミドルグ迷宮』前広場に向かって進んでいた。




「ねえレイン、街の人達があたし達を見ているわ」


「なんだか落ち着きませんね」


「姉さん方、もっと背筋を伸ばして堂々としてくだせぇ。街の人達はあっし達の格好を見て、度肝を抜かれているんでやんすよ」


「注目されるのは気持ちいいよね、僕こんなにみられたの初めてだよ」


「もうすぐ迷宮広場だ、気を引き締めて胸を張って堂々と行くぞ」


「「「「了解」」」」


 気合を入れるために号令を発して前を見据える。

 遠くに見える迷宮広場には今日も大勢の探索者達がごった返していた。

 あの人混みを抜けて迷宮に入れば死と隣合わせの魔境になる。

 浮ついた気持ちを少しずつぎ落として集中力を高めていった。




 広場につくと俺達を見た探索者達が慌てて道をゆづっていく。

 その行動に広場全体が気づき、たちまち注目の的になった。

 ルーキー探索者たちは憧れの目で俺達を見ている。

 他の探索者達も口々に憧れや嫉妬の声を上げていた。


「あの装備見ろよ! いくらぐらいかかっているか想像できないぞ!」


「あたい、あのローブ見たことあるよ。目玉が飛び出るくらい高かったよ」


「いけ好かない奴らだぜ、この前まで貧乏くせえガキどもだったのによ」


 噂話は憧れと嫉妬半々ぐらいか、昔はさげすみと嘲笑ちょうしょうしかなかったからずいぶんと改善されたようだな。


「俺、『白銀の女神』に入れてもらえるように頼んでこようかな」


「やめろよお前なんて入れるわけ無いだろ」


 群衆の中でルーキー探索者達が騒いでいる。

 確かにあと一名パーティーの枠は空いているが、今のところ新しいメンバーを入れるつもりはない。

 それほど今のメンバーの連帯感は高まっていて、戦力強化の為に新メンバーを加入などさせないほうが、余程効率よく動けるように思えた。




 迷宮に入る番が回ってくる。

 迷宮衛兵の役人に今回の遠征の予定を話す。


「わかりました、お気をつけて」


 丁寧な言葉づかいに今の俺達の探索者としての立場が見えて少し嬉しかった。




 十四階層の石碑に飛んで、丘の上の教会を見る。

 相変わらずの陰気な空の色にみんな顔をしかめていた。


「準備が整ったら墓場を抜けて一気に教会内部に侵入するぞ、各自聖水を武器にかけるのを忘れるな」


 刀に聖水をかけながらみんなに準備をうながす。


「今回は僕にまかせてよ、盾でゾンビたちを蹴散らしながら入り口まで一気に走り抜けるから全員でついて来て」


 新調した装備を試したいモーギュストが自信ありげに提案をしてくる。


「よし、今回はドラムのブレス攻撃はお預けだ、俺達もモーギュストのうち漏らした魔物を倒しながら後ろからついていくぞ」


「「「了解」」」


「グ~」


 三人のメンバーの気合の乗った返事の中に、ドラムの悲しそうな唸り声が混じる。


「ドラム、今回は我慢してくれ、後で肉をいっぱい食べさせてやるからな」


ギャウギャウ(わかった)




「それじゃ、いくよ!」


 モーギュストの気合を込めた一声を合図に、五人と一匹が一丸となって墓場に突入する。

 俺たちの足音を聞きつけて墓の中からゾンビたちがい上がってきた。

 みるみるうちに墓場全体がゾンビの群れに埋められてしまう。


「シールドチャージ!」


 魔法鉄鋼の大盾が淡くひかり、ゾンビたちをなぎ倒していく。

 魔法鉄鋼は魔力の伝導率がいいので、シールドチャージも威力が高い。

 押し寄せるゾンビたちの圧力に負けずに盾の力で爆殺していく。


「キュア!」


 シールドチャージから漏れたゾンビ達をアニーが確実に浄化していく。

 ミスリルの錫杖しゃくじょうの威力は伊達ではなく、一回のキュアで十体近くのゾンビが消滅していった。


「あたしも負けていられないわ! ファイアーボール!」


 モーギュストとアニーの活躍を見たセルフィアが、自分も負けじと呪文を唱えた。

 紅蓮(ぐれん)に燃える大火球が、霊廟れいびょうからあふれ出てくるスケルトン達を飲み込み大爆発を起こした。

 爆発に飲み込まれたスケルトン達はバラバラに砕け散り跡形もなくなる。

 更に爆散したファイアーボールが小さな火球になって周辺へ散らばる。

 一拍いっぱく置いて一斉に爆発を起こし、周辺に居たゾンビたちを肉片に変えた。


 俺とワンさんが三人の討ち漏らした魔物たちを確実に仕留めていく。

 ワンさんは持ち前の素早さを生かしてゾンビ達の間を縦横無尽じゅうおうむじんに走り回り、新調した双短剣を駆使くしして一撃でゾンビをちりに戻していった。


 モーギュストがゾンビたちを吹き飛ばしながら教会の扉に到達する。

 すぐにきびすを返して扉の前の空間を確保するため立ちはだかった。

 ワンさんがスライディングしながら扉に張り付き鍵を開錠し始める。


「今回は鍵がかかっていやす、少しの間だけ援護してくだせぇ」


「了解、セルフィアとアニーはワンさんの援護、モーギュストは正面をそのまま固めろ。俺が動き回ってゾンビを排除する」


「「「了解」」」

 

 扉の周りを女性陣が固め無防備なワンさんを援護する。

 俺は自由に動き回り、動きが早いゾンビやスケルトンを優先的に排除した。

 ここでもモーギュストの盾が猛威をふるい、正面から襲ってくる魔物を一匹たりとも近づけなかった。


「開きやした、中に入りやす」


 警戒しながらワンさんが教会の中に突入していく。

 続けてアニーが入り、セルフィアがドラムを抱えて飛び込んだ。

 俺とモーギュストは周囲のゾンビ達を全力で弾き返し、息を合わせて同時に扉に滑り込む。

 入ると同時にワンさんが勢いよく扉を閉める。

 ゾンビたちが音を立てて扉に当たる音が教会内部の礼拝堂にこだました。




「一息つけたわね」


「久々に動き回った気がします」


 セルフィアとアニーが抱き合って床にへたり込む。


 モーギュストも興奮がまだ収まらないようで鼻息荒く肩で息をしていた。


「皆んなお疲れ様、警戒しながら少し休んで早めに『コロニー』を見つけよう。今回は探索が目的じゃないからゆっくりと一つの『コロニー』にとどまって魔物たちを討伐する予定だ」


 一人ひとりに特製スポーツドリンクを渡しながら今後の予定を簡潔に伝えた。


「アニー済まないがみんなにクリーンの魔法をかけてくれ」


「わかりました」


 墓場のゾンビ達を文字通りつぶしてきた俺達は、腐肉ふにくにまみれ凄い状態になっていた。

 疲れているアニーには悪いと思ったが、精神的に放置しておくわけにもいかず呪文をかけてもらった。

 クリーンをかけてもらうと嘘のように汚れが消えていき、匂いすらなくなってしまう。

 改めて呪文の威力を実感して異世界に来たことを再認識した。



ー・ー・ー・ー・ー



 ゆっくりとした歩調で『コロニー』を探しながら『大聖堂』を探索する。

 外の教会周りと違って内部では出現する魔物の種類が全く違っていた。

 今となってはただの雑魚魔物のファントムが一番多く出現してくる。

 聖水をふりかけた武器にとってファントムはただの動くまとで、出現した瞬間に魔石に変えられていった。


『大聖堂』は広大な『自然迷宮』だ、『中層階』に到達した探索者のおよそ一割しか『大聖堂』に到達できていなかった。

 そのため移動する所がことごとく未踏みとうの場所でお宝も多いが罠も多かった。


「止まるでやんす!」


 ワンさんがいつもの温和な口調から厳しめの命令口調になった。

 こういう時は九割がた罠がある時なので、メンバーは一言も発しないままその場に固まる。

 体勢がつらい状況でもワンさんの許可がなければ楽な姿勢にはできない、何が引き金になって罠が発動するかわからないためだった。


「ボルトの罠でやんす、今から解除しやすので動かないでくだせぇ」


 無言でワンさんの指示を待つ。

 しばらく動かないでいると腕の太さぐらいある槍が、目の前五メートルの所を唸りを上げて横切っていった。

 直線の回廊を五十メートルほど飛んでいき、壁に刺さって大きな音をたてた。


「もう大丈夫でさぁ、動いていいでやんすよ」


 罠解除のプロの許可が降り、メンバーが床にへたりこんだ。


「迷宮で罠解除の時間が一番嫌いだわ」


「今回は無理な体勢じゃなかったので私は楽でしたね」


 普通にその場で立っていられたアニーは平然としているが、セルフィアは無理な姿勢がたたってあちこちが痺れてすぐには動けないようだった。


「しかしあの太さの槍が頭に当たったらひとたまりもないな」


「体にあたっても同じでさぁ、頭が潰れて即死か胴体が上下に分かれて即死じゃないかの差だけでやんすよ」


 背筋が凍るようなボルトの威力にメンバー達が固まってしまった。



「ここが良さそうだな、今日から二、三日この『コロニー』でレベル上げをする。少し早いがキャンプの準備をして早めに休息しよう」


 未踏の地域に『居住区』を見つけたので、早めにキャンプを整えて明日に備えようと思った。


「また今日から一緒に眠ってね」


 セルフィアがニコニコしながら近寄ってきた。

 後ろを向いて逃げようとしたが、既にアニーに回り込まれてしまっていてつかまってしまう。


「セルフィアの安眠のために協力して下さい」


 腕を抱え込まれ動けなくなったところをセルフィアに抱きつかれてしまう。


「添い寝してくれなきゃ離さないんだからね」


 顔を真赤にして言うセルフィアがとても可愛くて断ることはできなそうだ。


「わかったよ……、お手柔らかにお願いします……」





 また眠れない日々が当分続きそうだ。

 嬉しいやら悲しいやら複雑な感情が頭を駆け巡り、俺の精神をかき乱すのだった。

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