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21.頼もしい盾職

 鳥が朝を告げ辺りが明るくなってきた。

 俺はドラムを抱えていた手を離し起き上がってベッドに腰かけた。

 ドラムは俺が起きる前から目を覚ましていたらしく、俺の顔をじっと見ている。


「おはようドラム、今ご飯あげるから待ってて」


 まずは身支度が先だ、顔を洗いに手洗い場に向った。

 おけに水をみ顔を洗う、すっきりして顔をあげると顔の前にドラムがいた。


「おわっ」


 びっくりして声が出てしまった。

 ドラムはただついてきたのではなく宙に浮かんで浮遊している。

 よくよく見ると小さい羽が背中から生えていてピクピクと羽ばたいていた。


(トカゲって飛ぶのか?)


 見つめ合うドラムと俺、とりあえず部屋に戻ろうと歩きだすと器用に浮遊しながらついてきた。

 ドアを閉めてドラムを捕まえる。


「ドラムお前飛べるのか」


 ドラムが首を縦に振る。


(連れて行って)


 俺の頭の中に声が聞こえた。

 びっくりして辺りを見渡す。


(迷宮に連れて行って)


 今度ははっきりと聞こえた。

 ドラムを見ると俺をじっと見つめている。


「ドラムお前喋れるのか!」


 ドラムが横に首を振る。


(頭の中、伝える、話せない)


「なるほど! 念話か!」


 ドラムが嬉しそうに縦に首を振りまくる。


「ついて行っても何も面白くないぞ、危険なところだからやめたほうがいい」


(たたかう、役に立つ)


「どうやって戦うんだ? 武器とか握れないだろ」


(火を吐く、今試す?)


 そう伝えてくると空気を目一杯吸い込み始めた。


「やめろ! だめだ! 今はだめ、宿屋が無くなってしまう」


 ドラムからすごい圧力を感じて慌ててやめさせた。

 今絶対ブレス吐こうとしたよな、こいつ本当にドラゴンなのか?


「う~ん、今日は比較的安全な階層しか行かないからいいか、連れて行ってやるよ、でも俺の言うことをよく聞くんだぞ」


(わかった)


 ドラムは嬉しそうに俺の周りを飛び回った。




 階段を降りてカウンターに向かう。

 サムソンさんに挨拶して食堂にドラムを入れていいか聞いた。


「別に暴れたりしないならいいよ、探索者の中には魔物を使役するテイマー職の奴もいるから慣れてるよ」


「ありがとう、それじゃ食堂に連れてくよ」


 肩に乗ったドラムにおとなしくするように言い聞かせ歩いていった。




「おはようみんな」


 食堂で俺を待っていた三人が俺の肩を見ておどろきの表情をした。


「なんでドラム連れてきたの?」


「レイン様おはようございます、ドラムちゃんをお散歩させているのですか?」


「旦那おはようでさぁ、なにか事情がありそうでやんすね」


 三人に朝の出来事を聞かせる。

 三人とも驚き声も出なかった。


「ドラムあたしに念話してみて」


 セルフィアがドラムに頼むが、ドラムは首を傾げて俺に念話を飛ばした。


「飛ばしたけどできないみたいだ」


「え~、なんで、なんで出来ないの?」


 ドラムがまた俺に念話を飛ばしてくる。


「加護がないと駄目なんだそうだ」


「さすがイシリス様の贈り物ですね、ドラムちゃんは神獣ではないでしょうか」


 アニーが興奮気味にドラムを見る。


「まあ、当たらずも遠からずだろうな、そういうことだからみんな仲良くしてくれ」


 俺の肩につかまっているドラムが三人に向かってお辞儀をした。




『ミドルグ迷宮』がある広場でモーギュストと落ち合う、五人と一匹で十一階層に潜った。

地下墓所(カタコンベ)』の十一階層にある石碑の前で軽く打ち合わせをする。


「今日からモーギュストさんの実力を見せてもらう、始めは軽く十一階層を回るが慣れてきたら下の階層も狙ってみる、モーギュストさんもなにか指示があったら遠慮なく言ってくれ」


「わかったよ。それと僕のことは呼び捨てでいいよ、堅苦しいのは嫌いなんだ」


「わかった、遠慮なく呼ばせてもらうよ。そろそろ行くか」


 十一階層は単発の魔物が多くそれほど苦戦はしないだろう。

 注意して奥に進んで行くとスケルトンが一体襲ってきた。


「モーギュスト、たのむ」


「まかせといて!」


 全身を金属プレートの鎧で包んだ小人が、自分の背丈と同じ盾を装備して分厚いナタのような短剣を構えて前に出る。

 スケルトンが剣を振り上げてモーギュストに振り下ろした。


「おっす!」


 掛け声一発、シールドでスケルトンを押し返す。

 押した瞬間ガツンと鈍い音がしてスケルトンがバラバラに砕け散った。


「え、何が起こったの?」


 援護射撃のファイアーボールを唱えようと杖を構えたセルフィアが、力を抜いて杖を降ろした。


「あれは『シールドチャージ』でやんすね、盾役の定番スキルでさぁ」


「おれも知識としては知っていたが、直に見るとえぐい攻撃方法だな。




『シールドチャージ』は攻防一体のスキルで、魔力を乗せた盾の圧力で敵を圧殺するスキルだ。

 複数の敵にも有効で、まとめて殲滅せんめつするには有効なスキルだった。

 物理攻撃なのでファントムなどの敵には効かないが、前衛に使える人がいればかなり探索しやすくなるスキルだった。



「おつかれ、素晴らしい戦闘だった、この調子で行こう」


「オッケー」


 モーギュストが軽いノリで返事をしてくる。

 十一階層では敵が弱すぎてモーギュストの実力が測れなかったので十二階層に移動した。

 十二階層の敵が複数で襲ってきてもモーギュストの防御は崩れず、完璧な盾職を果たしていた。


 探索は順調に進んでいた。

 十二階層も大体探索し、地上に戻ることにする。

 いつもの通路を通って戻っていたら、ワンさんが隠し通路を見つけた。


「こんな所に未発見の通路があるなんて驚きでやんすね」


「運がよかったな早速行ってみよう」


 この手の通路の先には部屋があり、高確率で宝箱がある。

 一攫千金を狙う探索者達にとって隠し通路は幸運の道だった。




 通路の先に進んだ俺達は、行き止まりに部屋を見つけ中に入った。

 そこはモンスターハウスと化していて、おびただしい数のゾンビたちがうごめいていた。


「みんな戦闘態勢を取れ! モーギュストは敵をできるだけ抑えてくれ」


 俺の指示を受けたみんなが、自分の役割を果たそうと動き出した。

 ドラムは俺の邪魔をしないように天井付近に避難した。

 セルフィアがファイアーボールを唱え杖の先に滞留たいりゅうさせる。

 アニーがゾンビを浄化するため、女神に祈りを捧げ始める。

 ワンさんは周囲の警戒をおこたらない。


 俺はモーギュストの後ろに陣取って刀を構えた。

 ゾンビたちは部屋目いっぱいに広がりゆっくりと前進してくる。

 とてもモーギュスト一人では押さえられない数だった。

 後ろを見ると後方の女性陣が、ゾンビの群れを見て恐怖におののいていた。

 二人ともパニック寸前でパーティー崩壊の危機にあった。

 

 

「撤退……」


 俺はゾンビの群れに恐れをなして撤退の合図を出そうとした。

 しかし最後まで言葉を続ける事が出来なかった。


「ヘイト!」


 モーギュストが呪文を唱えると、彼の体がうっすらと光りゾンビたちが一斉に群がり始めた。

 ゾンビたちは俺が目の前にいるのに完全に無視して、モーギュストめがけて攻撃をしている。

 全身鎧を装備しているモーギュストはダメージを一切受けず、短剣で一体ずつとどめを刺していた。


「僕のことは気にせず今のうちに攻撃して!」


 その声を聞いて恐慌状態から立ち直ったセルフィアが、ファイアーボールをモーギュストを避けてゾンビの群れに打ち込む。

 大爆発が起きゾンビたちが吹き飛んだ、直接ではないがモーギュストも爆発に巻き込まれたはずなのにダメージを受けた形跡がない。


 ファイアーボールで倒しきれなかったゾンビの首を刀ではねていく、みるみるうちに数が減っていき残り数体になった。


「キュア!」


 ダメ押しにアニーが回復魔法を打ち込み、ゾンビたちは光の粒子になって消えていった。

 天井付近に逃げていたドラムが羽を動かして降りてくる。


「びっくりした~、あたしもうだめかと思ったわ」


「なぜ魔物はモーギュストさんに群がったのでしょう」


 女性陣が青い顔をして地べたに座り込んだ。


「旦那! 魔石がこんなに落ちていやす! 今回は大儲けでさぁ」


 現金なワンさんが嬉しそうに飛び跳ねている。

 モーギュストを見ると魔石のちりばめられている地面に平然と立っていた。


「モーギュスト助かったよ。あんな数のゾンビを一人で抑えるなんてすごいな。それにさっきの魔法はすごかったな」


「さっきの魔法は『ヘイト』っていうんだ、敵が僕しか攻撃してこなくなる盾職定番の魔法だよ。僕は盾職なんでみんなを守るのが仕事だからね」


「なかなかやるじゃない、あんた呪文も使えるのね」


「傷などはないのですか? キュア唱えますか?」


「大丈夫だよ、ケガはしてないからね」


 モーギュストのタフネスぶりに一同唖然とする。


「レインの旦那! 宝箱がありやしたぜ!」


 部屋の奥からワンさんが嬉しそうに声をかけてくる。

 近づいて行くとホコリを被った古びた木の箱があり、錠前がぶら下がっていて鍵がかかっていた。


「罠はないでやんすね、鍵を開けやすよ」


 慣れた手つきで錠前を調べ始める。

 ものの十秒もしないうちにカチッと音がして錠前が外れた。


「いつもながら鮮やかなものだね」


「この手の木箱の鍵は簡単なものが多いでさぁ」


 ワンさんはそう言いながら宝箱の蓋を開けた。


「おお! 銀貨がたくさん入っていやす、金貨も少しありやす! 後はなにかの巻物でさぁ」


「なかなかの稼ぎになったな、よし撤収しよう」





 こうしてモーギュストのパーティー加入試験の一日目は大成功に終わった。

 小さいミノタウロス君の性格も、陽気で気さくなのでパーティー内でも好評だ。

 五人目のパーティーメンバーが誕生するのも時間の問題になった。

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