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20.新メンバー

『中層階』を順調に探索していた『白銀の女神』は、十一、十二階層ともに早い段階で突破した。

 しかし十三階層に到達すると魔物の群れに苦戦を強いられて先に進めずにいた。




「撤退だ! 魔物の数が多すぎる、さばききれない! 俺が殿しんがりを務めるから階段まで全力で走れ!」


「「「了解!」」」


 三人がきびすを返して走り去る。

 飛びかかってきたゾンビを足蹴あしげにして俺も撤退を開始した。

 押し寄せるゾンビの群れを切り捨てながら、仲間を追いかけて通路をひた走る。

 ときおり前方からセルフィアがファイアーボールをゾンビたちに撃ち込んで牽制してくれる。

 やっと仲間の背中が見えて少しホッとした時、枝道えだみちから新手のゾンビが湧いてきた。


(くそう、万事休ばんじきゅうすか)


 覚悟を決めて新手のゾンビの群れに体当たりをする。

 一体を切り伏せて二体目に取りかかるところでゾンビたちに取り囲まれそうになった。


「キュア!」


 いつの間にか近くまで戻ってきたアニーが俺の周辺に回復魔法をかける。

 一瞬でゾンビたちが光の粒子になって消え去った。


「ナイスだアニー!」


 からくも挟み撃ちを回避した俺は、アニーを先に行かせ撤退を再開した。



 なんとか階段に到着すると、セルフィアとワンさんが辺りを警戒しながら俺を待っていた。

 セルフィアの杖の先には特大のファイアーボールが炎を巻き上げながら浮遊している。


「レイン避けて! ファイアーボール!」


 俺が横に飛び退くのと同時に紅蓮ぐれんの火球がゾンビの群れに直撃して大爆発を起こした。

 その威力は凄まじく半数近くが爆散して消え去る。

 しかし後から迫るゾンビたちにまたたくまに通路が埋め尽くされた。


 殲滅せんめつは出来なかったが一瞬のスキができて、四人で石碑に手をかざす事が出来た。

 一階層に転移してその場に崩れ落ちる。

 みんな無言で息が落ち着くのを待った。




「なんとか生還できたな、あの数は反則だろう」


「あたしの全力のファイアーボールでも半分しか削れなかったわ」


「私のキュアがもう少し威力があれば何とかなったかもしれません、申しわけありません」


「アニーの姉さんのせいじゃありやせんぜ、『白銀の女神』に必要なのは足止めを得意とする前衛でさぁ」


 問題は『中層階』に潜り始めた当初からわかってはいたが、なかなか新メンバーを入れる踏ん切りがつかず、ズルズルと来てしまった。

 そして今回の探索で限界が来てしまって探索は一時休止に追い込まれた。



 迷宮を出て広場の休憩所に向かう、アニーが新たに覚えた生活魔法、『クリーン』を全員にかけて休憩に入った。


 生活魔法『クリーン』は対象を清潔にする魔法だ。

 ゾンビたちの返り血や大型のネズミの体の一部が鎧や服に付き、凄まじい悪臭を放っていたので急遽きゅうきょ習得してもらった。


 一息ついた後で誰からともなくギルドへ行こうといい出した。

 ギルドに行く目的は敵を引き止める盾職を紹介してもらうためで、斡旋所あっせんじょのギルド長におうかがいを立てようということになった。



ー・ー・ー・ー・ー



「お久しぶりですギルド長」


 斡旋所の椅子に座っているギルド長に頭を下げる。


「お前たちか、久しぶりじゃのう。ここではガルダンプでいいぞ、ギルド長なんて呼び方は堅苦しくてかなわん」


「わかりましたガルダンプさん、今日はパーティーメンバーを探してもらおうと思ってきました」


「そろそろ来る頃と思っておったよ、まあ座れ」


 四人でソファーに座りギルド長に『中層階』での近況を話す。



「なるほどのう、確かに今のお前たちのパーティー構成は少し守りに欠けるかもしれんのう」


「そうなのよ、攻撃はあたしがいるから問題ないけど足止めしてくれなきゃ魔法が撃てないの」


「私もアンデッドに魔法を唱えるには少し時間がかかってしまいます」


「おれも複数の魔物相手の防御はあまり得意ではないです。ガルダンプさんいい盾職を紹介して下さい」


 俺たちの話を聞いてギルド長はあごに手を当てて沈黙をした。

 ギルド長がこの格好をした所を見たのは今回で二回目だ。

 頭の中にあるギルド所属の全探索者から『白銀の女神』にふさわしい探索者を見つけている最中なので、全員で静かに見守った。



「こやつがいいな……、待たせたのう、一人いい奴を見つけたぞ会ってみるか?」


 前回予想がつかない人選をしたギルド長に若干じゃっかんの不安を覚えるが、結局選んでもらったワンさんは最高のパーティーメンバーになった。

 今回も信用してもいいのではないだろうか。


「ぜひお願いします」


「よし、明日遅い時間にまた来るのじゃ」


「わかりました、また明日」


 ガルダンプさんに別れを告げてギルドを出る。

 その後馴染みの定食屋で夕食を食べて宿屋に戻った。




「ギャウ、ギャウ、ガ~」


 部屋に戻るとトカゲの赤ちゃんが出迎えてくれた。

 宿屋の主人のサムソンさんに許可をもらって、部屋に木箱を持ってきてトカゲの寝床を作り本格的に飼い始めたのだ。


 結局体の大きさは、大人の猫くらいの大きさで止まった。

 誰かが冗談で「ドラゴンじゃないか?」といったので名前をドラムにした。


 ドラムは賢い子で俺の言っていることを理解しているようだった。

 俺が「迷宮に潜っている間は宿の迷惑になるから大人しくしていろ」と言うと、頭を上下して返事をし、箱の中に入り大人しく帰りを待っていた。

 しかし餌だけは大量に与えなくてはならず、毎日肉を一抱え食べた。


 部屋の扉がノックされる、扉を開けるとセルフィアとアニーが入ってきてドラムを抱っこした。


「ドラムまた重くなったんじゃない?」


 腕にドラムを抱えてベッドに座るセルフィア。


「私にもドラムちゃん抱かせて下さい」


 セルフィアの隣にアニーが座り、ドラムを奪い取ろうとする。

 ドラムは二人にもみくちゃにされても一向に気にせず、餌の肉を頬張っていた。

 このところの女性陣の関心は赤ちゃんトカゲのドラムに集中し、俺のことはかまってくれなくなった。

 しかし俺もドラムがかわいいのでしかたがないと納得していた。




 次の日の午後、ギルド長に言われた時間に斡旋所に向った。

 新しいパーティーメンバーの面接に行くためなのだが、日本に住んでいたときの癖なのか妙にそわそわした。

 斡旋所に着くとギルド長がカウンターの表にいてこちらを見ていた。

 俺たちの姿を見つけるとホッとした表情でこちらに話しかけてくる。


「お前ら待っていたぞ、早く来るのじゃ」


 ギルド長の横には俺の腰ぐらいの高さの全身鎧フルプレートアーマーの置物が置いてあった。

 置物が妙に気になるがまずはギルド長に挨拶だ。


「こんにちはガルダンプさん、今日はよろしくおねがいします」


 俺たちが挨拶を終えると、置物だと思っていた全身鎧フルプレートアーマーが動き出し器用にお辞儀をした。


「こんにちは、僕はミノタウロス族一の怪力の持ち主、モーギュスト・ミニタウロスです。よろしくお願いするよ」


 びっくりしてしまい直ぐに返事ができなかった。

 ギルド長を見ると苦笑いをしている。


「こやつがお前たちに紹介する盾職の探索者じゃ、こんななりをしているが実力は折り紙付きじゃ、後は当事者同士で話してくれ」


 言いたいことをすべて言うとギルド長はどこかへ行ってしまった。




「自己紹介が遅れて申しわけない、俺は『白銀の女神』のリーダーをやっているレイン・アメツチだ。そしてこの三人がメンバーのセルフィア、アニー、ワンコインだ、よろしく」


 衝立の裏のソファーに座り『白銀の女神』のメンバーの紹介をしていく。


「噂は聞いているよ。『完全階層攻略者パーフェクション』である『白銀の女神』に誘ってもらえて嬉しいよ」


 兜を脱いで話をしている探索者は、全身を鎧に包まれているのでソファーに座る事ができないらしく、椅子を持ち出してきて窮屈そうに座った。

 顔はミノタウロス特有の牛の顔をしている。


(真面目そうだが少し幼い顔立ちだな)


 ミノタウロスといえば背が高く筋骨隆隆で気性が荒いイメージだが、目の前の探索者は俺の腰くらいしか背丈がない、おまけに顔つきが子供のようで可愛い雰囲気すら漂っていた。

 もっとも気になったのは体重が軽そうなことだ。

 魔物の圧力に屈しない頑強な盾職とはかけ離れた風貌ふうぼうを目の当たりにして先行きに不安を覚えた。


(この人は本当に戦えるのだろうか)


 動きづらそうにイスに座る全身鎧のモーギュストさんを見ながら、今回ばかりは期待はずれかなと思った。


「早速だけど俺たちは今『地下墓所カタコンペ』の十二階層で主に活動している。モーギュストさんは何階層まで攻略しているのか教えてくれないか」


 十階層のボスを討伐していなかったら大事おおごとになってしまうので、きっちり確認をした。


「僕はもちろん十階層のサラマンダーを倒しているよ、主な活動場所は十一階層でのソロ活動だね」


(自信有りげに言ってきたな、でも本当なら相当の実力者だな)


「それはすごいな、でもなんで今までパーティーに入っていなかったんだ?」


「僕はミノタウロス族で固めたパーティーに居たんだけど、仲間の半数が九階層で死んでしまったんだよ。十階層のボスは普通に倒せたんだけど、街に帰還してからパーティーは解散したんだ。ミノタウロス族はもうこの街には居ないから一人で潜っているのさ」


(サラッとボスが余裕って言ったぞ、本当なのか?)


「それじゃなんでミノタウロス族の居ない『白銀の女神』に入ろうと思ったんだ?」


「それはあなた達が『完全階層攻略者パーフェクション』だからさ、英雄から誘いを受けるなんて、こんな名誉はないよ。ミノタウロス族は名誉を重んじる部族なんだよ」


 興奮しながら語るモーギュストさんからは、俺たちをだまそうとしている気配は一切なかった。

 それにギルド長の推薦に間違いないのは、ワンさんの時で経験済みだった。


(一応話を進めようかな)


 モーギュストさんに話を聞くのはこのくらいにして、パーティーの事を話すことにした。


「うちは四日潜って一日休みで探索している。迷宮での稼ぎは一定額をパーティーでストックして残りを人数で山分け、有用な武器や魔道具はパーティーの財産で使う人に貸し出す。一週間ほど試用期間を設けてその後に合否を決定する。それでいいか?」


「わかったよ」


(やけにあっさり了承したな、まあ試用期間で実力を見ればいいか)


 お互いの連絡先を確認してその場は解散となった。



 ー・ー・ー・ー・ー



「みんな今日の盾職の人、どんな印象を持った?」


 夕食を食べながら面接の話を持ち出した。


「あたしはなんとも言えないわね、盾職なんて見たこと無いから」


「私も同じ意見です、盾職に適性のある方とはどの様な人ですか?」


 女性陣は盾職に関心はあまりないらしい。


「ワンさんはあの探索者をどう見る?」


「そうでやんすね、ちょっと体格が小さすぎると思いやす。あれでは魔物の圧力に負けてしまうと思いやす」


「おれもそう思うんだよな、盾職に向いている人とは筋骨隆々で体格が大きい人だよ、なんか不安になってきたな」





 部屋にかえりドラムに餌をやって少し遊んだ、明日からは迷宮なので早めに寝ることにする。

 ランプを消してベッドに寝転ぶと、ドラムがベッドに登ってきたので抱き寄せた。

 ドラムの肌がひんやりとして気持ちがよく、抱きまくら状態で寝てしまった。

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