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196.鋭い勘

 仲間たちに俺の大好物の天ぷらを振る舞った。

 大好評で大皿いっぱいの天ぷらはすぐに無くなってしまった。




 夏は朝日が昇るのが早い。

 それに合わせて鳥たちも活動を開始して、朝を告げる為にそこかしこでさえずっていた。

 俺は夜明け前から起き出し最後の見張りをしていた。

 見張りの傍らみんなの朝食を簡単に作っていた。

 スクランブルエッグにソーセージ、厚切りのベーコンを焼けば美味しい朝食の出来上がりだ。

 俺は野菜不足を補うため、必ずサラダを食事につけていた。

 今日のサラダはリサが取ってくれた山菜を湯がいて、マヨネーズで和えたものだ。

 山菜は少しにがめで大人の味なので、マヨネーズに良く合う。

 酢と卵黄と塩と油。

 これだけで美味しいマヨネーズが作れる。

 電動泡立て器など無いから手で混ぜなければならないが、『身体強化』を駆使して簡単に作ることが出来た。


 マヨネーズは色々アレンジが効く。

 卵の白身を茹でて細かくして混ぜる。

 さらに玉ねぎや酢漬けのきゅうりを入れれば、タルタルソースだって簡単に作れるのだ。


 万能ソースを山菜と混ぜ合わせて皿に盛り、ベーコンやソーセージを乗せていく。

 黄色が鮮やかなスクランブルエッグを乗せるとワンプレートで豪華な朝食が出来上がった。




 かまどの横の少し離れた位置には、イシリス様にお供えをする簡易祭壇が設けられていた。

 森の中から摘んできた色とりどりの草花を花瓶に入れて祭壇に飾る。

 豪華なカッティンググラスに水を入れて女神教のシンボルの前に置く。

 さらにカゴには山盛りのいろいろな果物を乗せてお供えした。


 先程から熱心にアニーが朝の祈りをしている。

 聞き取れない程小さな声でアニーが祈りを捧げていた。

 朝の光に照らされたアニーは天女のように美しかった。

 俺は野菜スープをかき混ぜながら、アニーの祈る姿に見とれていた。



「おはようございやす」


「おはようレインさん」


 ワンさんとモーギュストが沢の方から歩いてくる。

 先程起きてきた彼らは流れが緩やかな沢の水で顔を洗ってきたようだ。


「おはよう二人共、今朝食が出来るからテーブルで待っていてくれ」


「あっしは馬たちに飼い葉を与えてきやす。すぐ戻りやすよ」


「そうか、わかったよ」


 俺が返事をするとワンさんが馬たちに飯を与えに行った。


「僕も手伝うよ、ワンさん待って」


 モーギュストも馬好きなので、ワンさんに負けないくらい馬の世話をしている。

 嬉しそうにワンさんを追って馬の繋がれている樹の下へ駆けていった。



「レイン様、おはようございます!」


 ワンさんたちが馬の世話をしているのを遠目に眺めていると、後ろから元気な声が聞こえてきた。

 振り返るとエレオラが全身鎧の出で立ちでたたずんでいた。


「おはようエレオラ、全身鎧など着込んで気合入ってるな」


「はい、今日は決戦の日だと伺いましたので、私も騎士として参戦いたします。それにこの格好ですと妙に落ち着いて、虫も怖くないことに気が付きました」


 昨日のビクついたエレオラではない、王都や要塞で見た凛々しい表情のエレオラがそこにいた。


「そうか、それは良かったな。エレオラにはセルフィアたちを守ってもらう大事な役目がある、期待しているぞ」


「はっ、騎士エレオラ精一杯守らせていただきます!」


 エレオラは元気に敬礼をする。

 全身鎧を着込んでしまったので、彼女のナイスバディーが拝めなくなってしまったのは少し残念だ。

 しかし虫に怯え、ビクビクした彼女は可哀相だったので、これで良かったと思う。


「エレオラ、悪いがセルフィアとリサを起こしてきてくれ。そろそろ朝食を食べるからな」


「かしこまりました」




 エレオラと入れ違いでアニーが微笑みながら近づいてきた。

 彼女の瞳は淡いルビー色をしていてとても綺麗だ。

 俺もほほえみ返してアニーを見た。


「おはようございますレイン様、いつも美味しい朝食を作っていただいてありがとうございます」


「おはよう、アニーに喜んでもらえて嬉しいよ」


 俺たちはしばし見つめ合う。

 アニーの美しい顔を俺はずっと見つめていたいと思った。


「おはようレイン、朝から見せつけてくれるわね」


 いつの間にかセルフィアが近くまでやってきていた。

 さらにリサも眠い目を擦りながら近づいてくる。

 アニーは慌てて視線を外して赤い顔をした。


「お兄ちゃんおはよう……」


「二人ともおはよう。さあ、顔を洗っておいで、すぐ朝食にするからね」


 俺もアニーと見つめ合っていたのを見られたことは恥ずかしかったが、素知らぬ顔をして朝の挨拶をした。

 これで全員が起きてきたことになる。

 ドラムはとっくに朝食の肉の塊を食べ終え、かまどの炭火の前で二度寝をしていた。




 全員で美味しい朝食を食べ、野営の後片付けを終える。

 目指すはエルダードラゴンの生息域だ。

 さらに山奥に進まなくてはいけないので、みんな手早く出発の準備を整えた。


「よし、みんな準備はいいな? では出発だ!」


 俺の号令のもと、全員がしっかりとした足取りで山奥へ進んでいく。

 道なき道を急ピッチで進んでいくが、心配していたエレオラも十分じゅうぶんな速度でついてきていた。

 俺は最後尾からみんながはぐれないように注意しながらついていく。

『気配探知法』で全方位のあらゆる気配がわかるので、いくら離れていても仲間たち全員の位置が手に取るようにわかった。



ー・ー・ー・ー・ー



「そろそろエルダードラゴンの巣がある領域に近づいてきたぞ、みんな注意しろ。もっと固まって動くんだ、特に女性陣は密集隊形に移行しろ」


「「「「「「「了解」」」」」」」


 仲間たちから返事が返ってきた。

 時刻はお昼前の十一時頃だ。

 数時間ほどの移動でかなりの山奥まで進んできていた。

 周りの景色は相変わらず代わり映えしていない、どこまでも鬱蒼とした森が広がっているだけだった。




 ドラムは俺の頭上を眠そうに飛んでいる。


「ドラム、眠いなら俺の背中へ張り付くか?」


「大丈夫だよ、エルダードラゴンに注意しなくてはいけないからね」


 いつも俺の背中で寝ているドラムが、珍しく辺りを警戒している。

 嫌な予感がしたので、みんなを呼び止めてさらに固まって行動することにした。


「みんな聞いてくれ、俺の勘なんだがエルダードラゴンの攻撃は俺達の知らない威力があるかもしれない。細心の注意をしてここからは探索しようと思う」


「旦那の勘はよく当たりやす、ここは一つ『ミドルグ迷宮』と同じように探索しやせんか?」


 ワンさんが良い提案をしてくれた。

 確かに『ミドルグ迷宮』並の慎重さで行動すれば間違いはないだろう。


「よし、全員密集隊形に移行しろ、アニーは『神聖防壁』展開。セルフィア、いつでも魔法を撃てるように集中しろ。モーギュストを先頭にして進軍する」


「「「「「「「了解!」」」」」」」


 気合の入った返事が仲間たちから聞こえてくる。

 限りなく透明な七色の『神聖防壁』が仲間たちを包み込んだ。




 これで一安心だと思った矢先。




『神聖防壁』に突然衝撃波がぶつかった。

 ゴワンッと音を立てて防壁が虹色に輝く。

 光の感じからして相当な衝撃が加えられたようだった。


「なんだ!? 一体どうした!」


 俺の『気配探知法』には何も反応はなかった。

 それなのに攻撃を受けたということは、敵は相当な使い手ということだ。


「旦那! 何者かに囲まれていやすよ! あっしの耳でも捕らえられやせんでした!」


 焦った声でワンさんが報告してくる。

 仲間たちは突然の攻撃に慌てふためいている。


「みんな落ち着け、防壁を突破されることはない。焦らず敵の動きを観察するんだ!」


 神の攻撃すら弾き返した『神聖防壁』内なら敵の攻撃は効かないはずだ。

 俺の勘が冴え渡っていたことを我ながら褒めてやりたくなる。

 あの衝撃波をまともに受けていたら、さすがの俺たちもただでは済まなかったはずだ。

 この頃は弱い敵ばかりと戦っていたので少々油断をしていたらしい。

 すんでのところで攻撃を防御した俺達は、徐々に落ち着きを取り戻してきた。


「まずは敵の姿を見つけなければ話にならない。モーギュスト、ゆっくり前進してくれ、その後から俺たちもついていくぞ」


「任せて!」


 慎重にモーギュストが進んでいく。

 ワンさんの見立てでは全方位に敵がいるはずだ。

 このまま進んでいけばどこかで敵と接敵するだろう。





 先手を取られてしまったが、本気の『白銀の女神』はこんなものではないぞ。

 ここからは最大の力を発揮して相手してやるぞ!

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