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195.俺の大好物をみんなに食べさせてやろうか

 帝国領の北の山深くへ凶悪な魔物を求めて分け入った『白銀の女神』。

 魔物の大群をこともなげに撃破し、今夜の野営地を探すのだった。




「旦那、水の流れる音がしやす。行ってみやしょう」


 獣人族のワンさんは耳が素晴らしく良い。

 俺たちでは到底聞き取れない微かな水の流れる音を聞き取っていた。



 ワンさんに導かれて山の中を突き進む、俺の腕の中ではエレオラがギュッと目をつむって固まっていた。

 彼女は大の虫嫌い、山の中を自力で歩くことが出来ないので俺が抱えて移動しているのだ。


「エレオラ大丈夫か? バリアが張ってあるから直接的に肌に虫がつくことはないぞ」


「……」


 俺の問いかけにもエレオラは反応しない。

 体を硬直させて目をつむり、やぶの中を進むのを必死に我慢しているようだった。

 獣道から少し入った辺りで俺にも水が流れる音が聞こえてきた。

 視界が多少開けてきて目の前に沢が出現した。


「旦那、この辺が良さそうでやんすよ、水場も近いし一段高くなっていやす」


 沢の横の小高い崖上が今日の野営の場所になりそうだ。

 俺は巾着袋から愛馬たちを出してあげた。

 二頭とも元気いっぱいで特に異常はない。

 ワンさんが馬たちを沢に連れて行く。

 水を飲んで嬉しそうにしている馬たちを遠目に眺めながら一息ついた。

 エレオラを降ろしてワンさんが戻ってくるのを待つ。




「ワンさんここで野営しようか、テント設置しよう」


「わかりやした」


 馬の世話を終えたワンさんが戻ってきて馬たちを木に繋いでいた。

 俺はその間に下草を刈って野営の準備を始めた。

 最初にテーブルと椅子を出し、食材をテーブルの上に広げた。

 さらにかまどを設置してからテントを設置する。


 エレオラが虫嫌いなので、ターフを頭上に設置して屋根を作り、虫が木の上から落ちてきても大丈夫なようにした。

 これで彼女も少しは安心して過ごせるはずだ。


 かまどの前にはセルフィアやアニーが集まっている。

 肉料理の方は彼女たちが勝手に作ってくれるだろう。

 この頃のセルフィアは俺と同じくらい美味しく肉を焼けるようになっているのだ。




「明日はいよいよエルダードラゴンの生息地でやんすね。どのくらいの強さでやんすかね」


 テントを設置しながらワンさんと雑談する。


「う~ん、どうだろう、正直首が多少多いドラゴンだろ? 首を切り落せば大して苦労しないで殺せるんじゃないか?」


「そうでやんすね、旦那とあっしで速攻で切り刻みやしょう。楽しみでさぁ」


 ワンさんは鋭い牙をむき出しにして笑っている、俺も釣られてニヤリとした。




 テントを設営し終え、次の作業に取り掛かる。


(さて、俺も簡易かまどで何か作ろうかな)


 一品はもう決まっている。

 今日リサが集めてくれた、きのこをふんだんに使ったきのこ汁だ。

 色とりどりのきのこを巾着袋から取り出して洗ってから塩水に漬けた。

 しばらくすれば傘の裏などに潜んでいる虫たちが這い出してくるだろう。

 その間にきのこ汁用のお湯を鍋に沸かした。


 もう一品はやはり山菜を使った天ぷらだな。

 リサは山菜に詳しく、採取しながら色々教えてくれた。

 それぞれに下処理をしてからザルに上げておく。


 かまどに深めの鍋を置き、油を満たしていく。

 十分に加熱した油の中に水で溶いた小麦粉のころもをひとたらし落としてみた。

 ジュワッと音がして衣から泡が出る。


(いい温度だな、このくらいの温度で揚げていこう)


 ガスコンロより火加減の調節がかなり難しい。

 俺は悪戦苦闘をしながら天ぷらを揚げていった。



「お兄ちゃん何作ってるの?」


 俺が天ぷらを揚げているとリサが近づいてきた。


「リサが採ってくれた山菜を天ぷらにしているんだよ」


「てんぷら? なぁにそれ」


 嬉しそうに笑いながら油の上で踊っている山菜を覗き込んだ」


「リサ、油が跳ねるからあまり近寄っては駄目だよ」


「わかったわ」


 リサは俺の腰に張り付いて興味深げに鍋を見ている。

 パチッと音がして鍋の油が跳ねる。


「あっ」


 リサが驚いて俺の陰に隠れた。


「な、覗くと熱いからね、お兄ちゃんの横なら大丈夫だからね」


「うん! ここから見てるわ!」


 にっこりと笑って俺の裏から覗き見る。


(リサは本当に可愛い子だなぁ)


 にやにやしながら天ぷらをザルに上げていった。

 油切りのペーパーなど無いのでザルで油を切る。

 一つ食べてみたら思いの外、風味豊かで香りが高かった。


「美味しいな……」


 思わず呟く。

 日本にいる時以来の天ぷらだが、思った以上によく出来た。


「あ~ん」


 リサがおっきな口を開て天ぷらをねだってくる。

 可愛いお口に少しだけ冷めた天ぷらを入れてあげた。

 リサのお口が火傷しては可哀相だからな。


 サクサクといい音がリサの口の中から聞こえてくる。

 リサは目を見開いて初めての天ぷらの味に驚いていた。


「美味しいかい?」


「美味しい! 食べたことない味ね!」


 リサも気に入ってくれたみたいだ。


(さて、どんどん揚げていくぞ!)




 俺とリサのやり取りを見ていた仲間たちが、続々と俺の周りに集まってくる。


「なんか美味しそうなもの作っているわね。あたしにもちょうだい」


 セルフィアが大きく口を開て天ぷらを要求していた。


「そら、熱いから気をつけろよ」


 揚げたての天ぷらを口の中に放り込んでやる。


「熱っ、ん! なにこれ美味しいわ!」


 ハフハフと天ぷらを口の中で冷ましながらその旨さにびっくりしている。

 他の仲間達も食べたそうに見ていたので、一人ずつ順番に口の中に放り込んでやった。


「ん~、おいしいです。こんなに美味しいもの食べたことありません」


 アニーがほっぺを両手で抑えて身悶えしている。


「うまいでさぁ! 旦那は色んな料理を知っていやすね!」


「これいくらでも食べられそうだね」


 男性陣にも人気で俺も嬉しくなってしまった。


「エレオラ、お前も一つ食べてみろ」


 先程からじっと俺を見ているエレオラにも天ぷらを差し出す。

 恐る恐る近づいてきたエレオラは、つややかな唇で天ぷらを咥えた。


「レイン様、とてもおいしいです」


 山の中で精神を消耗している彼女は、少し疲れていて妙に色っぽい。

 エレオラの咀嚼そしゃくをじっと凝視してしまった。




 天ぷらを揚げている間にセルフィアたちが肉を美味しく焼いてくれた。

 テーブルに運ばれ配膳されていく肉料理。

 皿の上にはこんがりと焼けた分厚い肉がある。

 焼かれた芋やとうもろこしも付け合せとして皿の上に乗っていた。

 セルフィアの料理の腕がどんどん上がっている。

 とても嬉しいことなので彼女にはこの調子で頑張ってもらいたい。


 白パンをかごに盛り、温かいお茶も用意した。

 お酒は今日はやめておこう。

 いくら魔物が弱くても初めて探索する場所なので、みんなには我慢してもらうことにした。


 キノコのスープは山羊やぎの乳をふんだんに使ったポタージュだ。

 味付けは塩コショウと香草だけのシンプルなもの。

 適当に野菜を潰しただけなので、とろみもそれほどないが結構美味しく出来た。

 リサが取ってくれたきのこが、いい出汁を出してくれているのだろう。

 人数分を深皿によそって肉皿の横にえる。


 そして山盛りの天ぷらを大皿に盛り付けテーブルの真ん中に置く。

 みんなから拍手が沸き起こり、嬉しそうな笑顔が見られた。


 山菜の他にも巾着袋に入っていた適当な食材も揚げてある。

 俺のおすすめはエビだ!


 天ぷらと言ったらエビが一番美味しいだろう。

 俺の大好物のエビの天ぷらを、これでもかと言うほど揚げた。

 まだみんなは食べてないから、その美味しさにきっと驚くはずだ。


 俺はわくわくしながら席につく。

 みんなも座ったのでアニーに食前の祈りをお願いした。

 みんなでイシリス様に感謝をした後は、お待ちかねのお食事タイムだ。

 仲間たちは肉に素早く噛み付いて、肉汁を垂らしながら美味しそうに食べていた。


(やっぱりみんな肉好きだな、俺も好きだが今日はこれから食べよう)


 俺は大好物のエビの天ぷらを大皿から取る。

 塩を少し付けてから大きく口を開けてかぶりついた。

 サクッと音がして口の中でエビの身が弾ける。

 プリプリのエビの身は、ほのかに甘くとても美味しい。


(やはり天ぷらはエビが一番うまいな)


 満足な揚げあがりに一人うなずく。

 ふと下を見ると膝の上のリサが大きなお口を開て見上げていた。


「食べたいかい?」


「うん、たべたい」


 俺はそっと海老の天ぷらを彼女の口へ入れてあげた。


「わ~! すごく美味しい!」


 エビの天ぷらはリサの口にも合ったようだ。

 嬉しそうに俺の膝上で跳ねているリサを満足そうに眺めながら俺ももう一口天ぷらをかじった。


 肉を食べ終えた仲間たちは徐々に天ぷらへ手を出し始める。

 みんな美味しそうに天ぷらを頬張り、その美味しさに身悶みもだえしていた。

 きのこのポタージュも大好評だ。

 虫が怖いエレオラもきのこを美味しそうに食べていた。





 大満足の夕食を食べ終え、見張りを立てて早めに寝ることにする。

 明日はエルダードラゴンとの戦闘が待っている。

 頭の中で戦闘のシミュレーションをしながらテントの中で横たわる。

 そのうち眠くなって意識をなくし夢の中へ旅立った。

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