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193.驚愕の新事実

 魔物討伐をして戦力アップを図るため、山奥へ分け入った。




 馬車を走らせること半日、ちょうどお昼時に差し掛かる頃、馬車が道の真ん中で停車した。

 ワンさんが小窓を開て俺に話しかけてくる。


「旦那、これ以上は馬車では進めやせん。ここで徒歩に切り替えやしょう」


「そうか、ちょうどお昼時だからついでに昼食を取ろうか」


「わかりやした」


 馬車の扉を開け外に出る。

 辺りは鬱蒼うっそうとした森林が広がり、まだ昼間なのに薄暗かった。

 通ってきた道を見ると相当細く、ワンさんは運転を苦労しただろう。

 前方には細い獣道があるだけで道は完全に終わっていた。


「なんか『深淵の樹海』にいるみたいね」


 セルフィアが辺りを見渡しながら懐かしんでいる。


「確かに木々が小さいだけでよく似てますね」


「空気が美味しいね、リサ森大好き!」


 アニーやリサも馬車から降りてきた。

 リサはエルフらしく森がお気に入りのようだ。


「レイン様、このような山奥へ来てしまって大丈夫なのですか? 私はあまり慣れていないので心配です」


 エレオラが最後に馬車から降りてくる。

 俺の護衛をすると息巻いていた彼女は、森の中が苦手なのか最後まで馬車を降りようとはしなかった。


「エレオラは森が苦手なのか? これから先もっと険しい道を歩いて行くのだから慣れておけよ」


「は、はいかしこまりました……」


 エレオラの顔色は悪い、何かに怯えているようにキョロキョロしている。


「あ! 蝶が飛んでいるよ!」


 リサが嬉しそうに指差した。


「ひっ!」


 エレオラは体をすくめて俺にしがみついてくる。

 明らかにおびえていて普段の凛々しい彼女とは真逆の反応だった。


「エレオラ、もしかしたら虫が嫌いなのか?」


 必死にしがみついてくるエレオラが可愛くてからかってしまう。

 

「は、はい! 昔から虫が大の苦手なのです。申し訳ございません!」


 腕に鳥肌を立たせてかすかに震えている。

 魔物料理はあんなに美味しそうに食べていたのに、虫が怖いなんて不思議なこともあるものだ。


「う~ん、慣れてもらうしかないな、一応バリアでも張ってもらうか。アニー悪いがエレオラにバリアを張ってくれ」


「わかりました」


 アニーは嫌な顔ひとつせずエレオラにバリアを張ってくれた。


「アニーさんお手数おかけします……」


 涙目のエレオラはバリアを張ってもらい少し落ち着いたようだ。

 直接肌に虫が付かないとわかれば幾分ましなのだろう。



「セルフィア、適当に木々を伐採して広場を作ってくれ。そこで昼食を取ろう」


「わかったわ。ウィンドカッター!」


 不可視の風の刃が木々をなぎ倒していく、あっという間に広々とした空間が目の前に現れた。


「セルフィア姉さんの魔法のキレはますます高まってやすね」


「ふふん、当然よ! 時間があればいつも修練しているのよ、もっと強くなるわ!」


 ワンさんに褒められてセルフィアはご満悦だ。

 俺は仲間たちを馬車の周りに残して伐採された木々を巾着袋に収納していった。

『深淵の樹海』程ではなくてもこの森の木々も太くて大きい。

 袋の中に入るか心配だったが、俺の心配をよそに伐採された木々は袋の中にどんどん入っていった。 



「そうだ旦那、馬車を引いてきた馬たちはどうしやすか?」


 いつの間にか後ろからついてきていたワンさんが、思い出したかのように聞いてくる。

 確かに今から山の中へ分け入るのに馬は連れていけない、何日も放置するのは可哀相だった。


「うっかり忘れていたよ、どうしようか困ったな……」


 馬車を離れて日をまたぐということを今までしたことが無かったので、気がつくのが遅れてしまった。


「巾着袋に馬たちを入れられればいいんだけどな、ハハハハ」


 俺はなんとなしに冗談を言って笑った。

 その冗談にワンさんが真剣な顔をして答えた。


「それでやんすよ! 旦那、馬を巾着袋に入れやしょう!」


「え? まさかそんな事できないだろ? この袋、生き物入るの?」


 木を巾着袋に入れる手を休めて袋をまじまじと見てしまう。


「今まで試したことが無かっただけで、もしかしたら入るかもしれやせんよ」


 ワンさんが無茶なことを平気で言ってきた。

 もし入ったとして、俺の愛馬が死んでしまったりしたらどうするつもりなんだ。


(でも言われてみれば生きた動物を巾着袋に入れたことはなかったな。試してみる価値はあるかもしれないな)


「ワンさん、試すのはいいけどいきなり馬たちを入れるのは怖いな、ちょっとそのへんで小動物を生け捕りにしてきてくれないか? その間に昼食の準備しておくからよろしく頼むよ」


「わかりやした、ウサギかリスあたりを捕まえてきやす」


 嬉しそうに笑ったワンさんは、すごい勢いで森の中へ消えていった。

 果たして実験は成功するだろうか。

 考えていても始まらないので、俺は木々を収納する続きに取り掛かるのだった。




 綺麗サッパリ開けた森の中に、テーブルと椅子を出し並べていく。

 適当に出来合いの料理を並べて昼食の準備を整えた。

 セルフィアたちを呼んで椅子に座ってもらい、後はワンさんが帰ってくるのを待つだけになった。


 俺の『気配探知法』にワンさんが引っかかる。

 なにか大きな物を担いで凄い勢いで近づいてきていた。


「旦那! おまたせしやした、捕まえてきやしたよ!」


 嬉しそうに駆け寄ってくるワンさんの肩には大きな鹿が担がれていた。

 その鹿は立派なオスの鹿で明らかにワンさんよりも大きかった。


「小動物が見当たらなかったんでこいつを取ってきやした。馬たちに大きさが近いので丁度いいでさぁ」


「そうだな、それじゃあ早速巾着袋に入れてみるか」


 ワンさんに手伝ってもらいながらオスの鹿を袋に収納していく。

 得体のしれない空間に入れられそうになって鹿が大暴れをした。

 しかしワンさんの腕力から逃れることは出来ずに、どんどん袋の中へ消えていった。


「案外入るものだな……、俺は生き物は入らないものだとばかり思っていたよ……」


 巾着袋は生きた大きな鹿をまるごと飲み込んでしまった。

 後は鹿が生きて取り出せれば実験成功だ。


「よし、とりあえず飯を食べよう、早く食べないと冷めてしまうからな」


「わかりやした」


 テーブルで待っている仲間の元へ二人して近づいていった。

 実験が成功してくれることを願いながら昼食を食べた。




 たっぷり一時間、食休みも入れて時間を取った。

 そろそろ鹿を袋から出してみよう。


「そろそろ鹿を出すぞ、ワンさん暴れるかもしれないから出てきたら押さえてくれ」


「わかりやした」


 緊張の一瞬、巾着袋から鹿を取り出す。

 鹿の頭が見え体が出てくる、触った感じは暖かくて死んでいる様子はない。


「生きてるようだな、実験は成功だ」


 鹿は袋に入れたときと同じ状態で無事に出てきた。

 袋の中でどのような状態だったかは分からないが、特におかしなところはなさそうだ。


「やりやしたね! これで馬たちを袋に入れられやす!」


 ワンさんは鹿を押さえつけながら喜んでいる。

 馬車を運転することが一番多いのはワンさんなので、馬たちに愛情が人一倍あった。

 袋に入れられなければここに放置していかなければならないので、この実験成功はワンさんにとって、とても意味があることだった。


「ワンさん、鹿は逃してやろう。実験に協力してくれたんだからこいつに生きるチャンスをやろう」


「わかりやした、逃しやすよ」


 ワンさんが手を離すとキョトンとした表情で鹿は俺達を見た。

 そして我に返った鹿は全力疾走で森の中へ消えていった。




 馬車から馬たちを切り離すと巾着袋の中へ収納した。

 収納する時に怖がるかと思ったが、案外馬たちは冷静だった。

 自分たちから袋の中へ入っていってすぐに姿を消した。


「よし! 馬車も袋に入れてしまおう、少々大きいが丸太だって入ったんだきっと大丈夫だろう」


 更に馬車を袋に近づけていく、空間が歪められて馬車が巾着袋の中に吸い込まれていった。 





「さて、ここからは徒歩だぞ、魔物たちのいるエリアまでは後少しだ。十分注意していくぞ」


「「「「「「「了解!」」」」」」」

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