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192.魔物討伐へ出立

 将軍から魔物の情報を聞き出した。




 次の日、日が昇ってすぐの時間、『ブランケン要塞』の中庭に黒塗りの馬車が停まっていた。

 その馬車はもちろんアメツチ家の馬車だ。

 お決まりのようにワンさんが御者席に座り、後ろのステップにはモーギュストが立っている。

 セルフィアやアニー、リサはとっくの昔に馬車に乗り込んでいた。


 まだ中庭に立っているのは俺とエレオラだけだ。

 周りには将軍やおつきの上級騎士、そして非番の兵士など多くの人々が見送りに出ていた。


「レイン様! 私も馬に乗って馬車を警護します!」


 エレオラは鼻息荒く進言してくる。

 俺はこの何度目かのやり取りに、いい加減うんざりしながらエレオラに語りかけた。


「エレオラ、気持ちは嬉しいけど馬車に乗ってくれ。護衛はモーギュストだけで十分なんだよ。それと鎧ももっと軽装備に変えてくれないか、全身鎧では席に座れないだろ?」


「し、しかしレイン様! 騎士たるもの主君を警護しなければ仕えている意味がありません! どうかお願いですから馬を一騎お与え下さい」


 膝をついてエレオラが懇願こんがんしてくる。

 このやり取りをさっきから何回も繰り返していたのだ。


「エレオラとやら、そのへんにしておくのだ。勇者様を困らせてはならんぞ」


 俺たちのやり取りを見ていた将軍が、俺に助け舟を出してくれた。

 語りかけられたエレオラは、直立不動で最敬礼をして固まってしまう。

 王国で将軍と言えば貴族の中でもトップクラスの地位と名誉があるのだ。

 その将軍に直々に話しかけられては、さしものエレオラも黙って固まるしか無かった。


「騎士の勤めを果たすのも立派だが、主君の言い付けは絶対だぞ。そなたは勇者様の家臣だから大目にみるが、並の騎士なら懲罰房行きだ。速やかに勇者様の命令に従って、軽装備に着替えてくるのだ」


 将軍は朝早くから寝不足を押して俺を見送りに来てくれていた。

 もし将軍の部下がごねていたら、雷一発落ちても仕方がない状態なのだ。

 将軍は俺に多大な配慮をしてくれていた。


「はっ、わかりました。速やかに着替えてまいります!」


 将軍にさとされてエレオラは、飛ぶような速さで建屋の更衣室へ飛び込んでいった。


(俺の言うことは聞かないのに将軍の言い付けはすぐ守るのか……、これはお仕置き物だな、後でくすぐりの刑にしてやるぞ)


 エレオラを押さえつけていろいろな所をくすぐる妄想をしていた。

 ニヤニヤしていると、ゴルドンさんが近づいてきて頭を下げた。


「勇者様、私どもに便宜を図っていただき、誠にありがとうございます。おかげさまで部下たちの疲れがすっかり取れました。魔物討伐をして勇者様がご帰還の暁には、私どもは王都へ帰還したく存じ上げます」


「それは良かったですね、もう少しだけ待っていてください。数日中に戻って来ますから、そうしたら陛下への親書を渡しますよ」


「ははっ、かしこまりました」


 深々と頭を下げたゴルドンさんは、すっかり疲れが取れて元気になっていた。




「お待たせしました。着替えてまいりました」


 エレオラが軽装備に着替えて戻ってきた。

 涼し気な服に金属鎧、腰にはロングソードを差している。

 動きやすそうな出で立ちで、これならセルフィアたちの護衛に丁度いいだろう。

 それになんと言ってもエレオラの素晴らしいスタイルが拝めるのが良かった。

 スラリと伸びた両足、兜はフルフェイスではないので美人な顔がよく見える。

 鎧で胸は隠れているが、ナイスバディーなのはよくわかった。


(野次馬ども! あまりジロジロ見るな! エレオラは俺のものだぞ!)


 非番で見送りに来てくれた兵士たちが、エレオラを見て鼻の下を伸ばしている。

 彼女の美貌びぼうでは仕方がないことだが、独占欲の強い俺は少しイライラしてしまった。


「うん、それでいいよ。早速馬車に乗り込んでいてくれ、俺もすぐに乗り込むからな」


「はっ、かしこまりました!」


 エレオラはキビキビした動きで馬車へ乗り込んでいった。

 ちらっと見るとリサが嬉しそうにエレオラの膝の上に座っているのが見えた。

 二人共嬉しそうに笑っている。

 よし、これで準備は整ったな。




(ん? 待てよ、エレオラの全身鎧を回収していないぞ。もしかしたら必要になるかもしれないな)


 俺は急いで更衣室へ向かった。

 扉を開けて中に入ると、エレオラが脱いだ鎧が鎧掛けにあった。

 兜を掴んで巾着袋に入れる。

 どんどん鎧のパーツを外して袋に入れていった。


 最後にギャンベゾンが残る。

 ギャンベゾンというのは鎧の下に着る厚手の服の事だ。

 厚手の服で鎧の衝撃を緩和したり擦れ防止をしたりする。

 今は初夏だ、このような厚い服を着てよく平気でいられるな。

 まだ温もりの残るギャンベソンは、汗で少し蒸れていた。

 誰もいないのを確認して匂いを嗅いでみようとした。



 ふと我に返る。


(い、いかん! こんな変態チックな行為をしてはいけない!)


 急いで服を巾着袋に放り込み、みんなの待つ馬車へ走っていった。




「では将軍行ってまいります。数日以内に戻りますので心配しないで下さい」


「わかりました。ご武運を祈っておりますぞ」


「勇者様、お気をつけ下さい」


 将軍とゴルドンさんが見送りの言葉をかけてくれる。

 エレオラの上司の上級騎士も心配顔で俺を見ていた。


 馬車に乗り込むとほぼ満席になってしまう。

 床にはドラムが腹ばいになって寝ている。

 鼻息を時々吐きながら気持ちよさそうに寝ていた。

 俺の座る位置はもちろんセルフィアとアニーの間だ。

 狭い馬車の中で俺は両側から押されて、気持ちいいものが腕にあたっている。

 俺の前にはエレオラが座り、その横には窓の外を眺めているリサがいた。

 エレオラのスラリとした足が目に飛び込んできてとても眼福だ。

 両隣に美女たちがいて、真ん前にも美女。

 斜め前には美少女が笑っている。


 この世界に来て本当に良かったとつくづく思った。


 俺は窓越しに将軍たちに手を振る。

 将軍を始め兵士たちが盛大に送り出してくれた。



「ワンさん、馬車を出してくれ」


「わかりやした」


 小窓からのやり取りもスムーズだ。

 ワンさんが一声上げると滑るように馬車が走り出した。

 馬車に合わせて要塞の扉が開かれていく。

 両脇が壁の狭い小路を、素晴らしいスピードで走り抜けていった。

 数日前にはゾンビたちで埋め尽くされていたとは、思えないほどきれいになっていた。

 馬車はあっという間に小道を走り切る。

 馬車や右に曲がって峰々が連なる山を軽快に登っていった。


「レイン様、ドラゴンが生息している山へはどのくらいで到着するのですか?」


 左腕にグイグイと押し付けながらアニーが聞いてくる。


「そうだな、馬車で半日、歩いて一日あるかないか、そんなところだろうな」


 腕に当たるものを意識しないようにして真面目に答える。


「そうすると片道二日はかかるのですね?」


 俺がかまってくれないので、アニーはさらに柔らかい何かを押し付けてきた。

 俺の顔が少しだけニヤケてしまう。

 それを見逃さなかったアニーは満足してニッコリと笑い、腕から離れていった。


「なんかレインいやらしい顔してるわね、何を考えているの白状しなさい!」


 セルフィアが俺に抱きついてくる。

 アニーのようにこっそりと責めてくるのではなく、直接的に柔らかいものを押し付けてきた。


「どうせアニーがいやらしい事をしたんでしょ? まったく油断も隙もないわね!」


「セルフィア、ちょっといいすぎですよ。私は何もしてませんよ!」


 また俺を挟んでじゃれ合い出した。

 これが始まったらしばらく止まらないだろう。

 俺は柔らかい彼女たちにもみくちゃにされながらじっと耐えるしか無かった。

 ここまではいつものパターンだが、今日からは目の前にエレオラがいる。

 彼女は俺がもみくちゃにされているのをじっと見つめていた。


(あっ、なんか冷たい目で見ているぞ、軽蔑されてしまったかな?)


「レイン様はそのようなことがお好きなのですね、後で私も混ぜてもらいたいと思います」


(あれ? 予想外の反応だな、エレオラはもしかしたら嫉妬しっとしているのかな?)


 エレオラと俺は王都で一線を越えそうになった仲だ、その時は何もなかったが、彼女は俺のことを憎からず思ってくれているようだな。





 俺は異世界に来てから女性に好かれるようになった気がする。

 気のせいではないと思うがどうなのだろう?

 俺は揉みくちゃにされながら、モテ期到来かもしれないと一人喜ぶのだった。

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