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186.将軍と使者と俺

 王都からの使者はゴルドンさんだった。

 さらに懐かしい人物も同行してきたようだ。




 俺は将軍の執務室でゴルドンさんと対峙していた。

 奥のソファーに座った俺の横に、にこにこ顔の将軍が座っている。

 そしてその前にはゴルドンさんが一人で座り、緊張の面持おももちでこちらを見ていた。


「まず勇者様の助太刀で『シャルマン要塞』を防衛出来たことを王国を代表してお礼を申し上げます。本来なら『シャルマン要塞』にてお礼を申し上げなければならなかったのですが、手違いで勇者様が出立した後に到着しまして申し訳ありませんでした」


 ゴルドンさんが丁寧な挨拶をしながら何度も頭を下げる。


(彼も貴族なのに平謝りをして大変だな。謝る原因を作ったのはこの俺だけどね)


「いえ、王国の貴族として当然のことをしたまでのことです。それに入れ違いはよくあることです、あまり気にしないで下さい」


『シャルマン要塞』から逃げ出すように出立した俺が悪いのだけれど、そんな事はおくびにも出さず、すました顔でゴルドンさんの謝罪を受け入れた。


「本来ならもっと位の高い人物が使者になるのが筋なのですが、勇者様と面識のある私が選ばれました。王国に他意がある訳ではありませんのでご了承下さい」


 そういいながらまたゴルドンさんは頭を下げる。


「別に気にしてませんよ、ゴルドンさんで逆に良かったです。知らない人が使者だったら緊張してしまいますからね」


 俺はにっこり笑って、昔一緒に旅をした口調で語りかける。

 いい加減堅苦しい口調は肩が凝って嫌だったのだ。

 ゴルドンさんも俺の口調が昔と変わらないのでほっとしたようだ。


「早速ですが、これは国王陛下よりの親書です、お受取り下さい」


 懐から王室の家紋の封蝋ふうろうで封をされた親書を取り出す。

 その親書をうやうやしく掲げて俺に渡してきた。


 高級な羊皮紙の丸まった筒状の親書。

 何が書いてあるかわかったものじゃないが、受け取らないわけにはいかない。


「確かに受け取りました、後で読んでから返事を書きます。しばらくこの要塞に滞在して待っていて下さい」


 俺はわざとこの場で親書を読まなかった。

 読んで返事を書いてしまえば、ゴルドンさんたちはとんぼ返りで王都へ帰らなくてはならない。

 それでは疲れているであろうゴルドンさんたちが可哀相なので、何日か後に返事を伝えることにしたのだ。


「ははっ、ありがとうございます。要塞でしばし休憩させていただきます」


 更に深く頭を下げるゴルドンさんは、部下たちを休ませることが出来て嬉しそうだった。




 形式的な挨拶はこの程度にして、肩の力を抜いての話し合いが始まった。

 テーブルの上には将軍が用意した高級なワインが出されていた。

 将軍自ら封を開けると、俺のグラスに真っ先に注ぎ、ゴルドンさんと自分のグラスにも注いでいく。


 グラスを掲げると嬉しそうに何度目かの乾杯の音頭を取った。


「勇者様に、そして『シャルマン要塞』防衛と『ブランケン要塞』並びに『ローレン砦』攻略を祝して乾杯!」


 グラスを軽く合わせて乾杯する。

 俺はこの乾杯を毎日将軍としていた。

 それだけ将軍は嬉しいらしく、一気にグラスを空けるとにこにこした顔で自分のグラスにワインを注いでいた。


「ゴルドン卿、儂は嬉しくて仕方がないのだ。勇者様が来てくれなかったら儂は山の谷の一角で、責任をとって自刃じじんしなければいけないところだった。だから勇者様は儂の救世主様なのだ」


 将軍は薄っすらと涙を目にためながら感動に打ち震えている。

 俺はこの話を毎日毎日耳にタコが出来るほど聞かされていた。

 将軍はガバガバとワインを飲んでいく、すぐにワインの瓶は空になり、次の瓶が開られた。

 将軍は酒が相当強いらしい。

 ワンさんには及ばないが、結構いい勝負をするかもしれない。



「時にゴルドン卿、貴殿は『ローレン砦』を通って来られたか? 儂は自分の目でまだ砦の様子を見ていないのだが、もし見て来たのなら様子を聞かせてくれないか」


 将軍が赤ら顔でゴルドンさんに語りかける。

 ゴルドンさんも疲れた体にワインの酔いが程よく回ったようで、顔を赤くしながら将軍の問いに答えた。


「私の目的は勇者様に親書を届けることです。当然『ローレン砦』には立ち寄りましたよ。『シャルマン要塞』の将軍に勇者様の行き先を聞いていましたからね」


 ヒックス将軍とゴルドンさんのやり取りはどんな感じだったのだろう。

 将軍は俺を引き止めることに必死になっていたな、もしかしたら相当ゴルドンさんに責められたのではないだろうか。


「砦の様子は一言で言うと、瓦礫がれきの山です。将軍も知っているとは思いますが、本来なら巨大な砦が小高い丘の上に鎮座していて、数百名の帝国兵が常時駐屯しているはずでした」


「ああ、儂も『ローレン砦』の外観は見たことがある。あそこも攻めるのに苦労しそうな要塞だったな」


「その堅牢な要塞は瓦礫がれきの山になっておりました。なにか強力な魔法で一撃で吹き飛ばされたように大穴が空いておりましたよ。もちろん帝国兵は一人もいませんでした。焼け焦げた死体が辺りに散らばって腐っていましたから、爆発で全て吹き飛んだと推察いたします」


 お酒が回ってきたゴルドンさんは、饒舌じょうぜつに砦の様子を身振りを交えて語っていった。


「素晴らしい! さすがは勇者様の従者様だ。ゴルドン卿、『ローレン砦』を一撃で吹き飛ばしたのは勇者様の魔法使い様なのだぞ! 彼女を敵に回したのが帝国の運の尽きだったのだ! わっはっはっはっ」


 将軍の機嫌は最高潮になった。

 ワインを一気に流し込むと次々に瓶を空けていく。

 俺のワインコレクションには遠く及ばないが、かなり高級なワインがどんどん消費されていった。


「『ローレン砦』のそばで兵士の死体を埋めていた老農夫に勇者様の馬車が消えていった方角を教えてもらったのですよ。その老人に教えてもらえなければこんなにも早く勇者様に会うことは出来ませんでした」


 感慨深そうにゴルドンさんが語る。


「そうそう、老人は勇者様にお礼を言っておいてくれと言ってました。何でも多額の金銭を頂いたとか、これで村全体が冬が越せると喜んでいました」


(きっと話を聞いた歯が無い老農夫のことだな、村が救われてよかったな)


「老人から聞いた情報を元に勇者様を追いかけて北上したのですが、行く先々で帝国の基地が更地さらちに変えられてました。あれも勇者様の行いですか?」


「ええ、まあ仲間たちが主に活躍してくれたのですが、それほど大きな施設が無くてあまり帝国の戦力を削ることが出来ませんでした」


「何をおっしゃられますか! 我々が見たところ帝国の国境防衛線は壊滅ですよ、もう帝国に大規模な戦争をする能力は残っていませんよ!」


 ゴルドンさんによれば、帝国の国境基地をことごとく潰した事は驚くべき戦果だったようだ。

 詳しく聞くと帝国は兵士を駐屯させる施設をすべて失ったので、もう王国へは攻めてくることは出来なくなったとのことだった。


「さすがは勇者様ですね! 同じことを王国の兵士でやろうとすれば相当数の兵士と何年もの月日がかかってしまいますよ!」


 将軍も俺たちの行いをべた褒めしてくれる。

 褒められれば俺も嬉しいのでついついお酒を飲むスピードが早くなっていった。





 将軍とゴルドンさんはとても上機嫌だ。

 俺たちは相当長い時間、和気あいあいと歓談して親交を深めていった。

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