表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
185/280

182.要塞攻略

『ブランケン要塞』の開門に成功した。




 仲間と合流した俺は、チェンバレン将軍を探した。

 中庭を巡りながら将軍の姿を兵士たちの中に探す。

 俺の姿を見つけた王国兵たちは、大声援で拍手している。

 中には興奮して泣いている兵士までいて、怖いくらいの熱狂的な歓迎だった。


 王国兵が狂ったように喜んでいるのは理解が出来た。

 要塞を攻めるということは、死にに行くようなものなのだ。

 ましてや一度要塞を攻め地獄を見た兵士たちは、『ブランケン要塞』の恐ろしさを知っているので、今日で命を落とすことを覚悟していた。


 それなのに蓋を開けてみれば死者はぜろ、けが人が数名でただけでそのけが人すらアニーのキュアで治ってしまった。

 損害皆無で要塞を開門させたことは前代未聞で、王国の英雄たる俺のことを兵士たちは神のようにあがめたてて足元にすり寄ってきた。





「すごい人気ね、レインのこと見る兵士の目は怖いぐらいだわ」


「レイン様は偉大なお方なのです。これが当たり前なのですよ」


「お兄ちゃん怖いよ……」


 女性陣の感想はそれぞれ違っていた。

 リサは怖がり、セルフィアは困惑、アニーはニコニコとしていて機嫌がいい。

 ワンさんとモーギュストが、迫ってくる兵士たちを俺から引き離すために頑張っている。

 こういう時はモーギュストの盾は役に立つ。

 何十人何百人が押し寄せてきても全部圧力で押し返し、兵士たちは決して俺に近づくことは出来なかった。


「おお! 勇者様、ここに居たのですか!」


 将軍が兵士たちをかき分けて俺に駆け寄ってくる。

 さしもの兵士たちも将軍の姿を見るとおとなしくなって直立不動でかしこまった。


「チェンバレン将軍探しましたよ、どこにいたのですか?」


「要塞の中庭に突入してから建屋を包囲していたのですよ。中にはまだ敵がいるでしょうからこれから突入します」


「ちょっとまってもらえますか、中の敵はきっとゾンビ兵ですよ。私達で倒したほうが被害が出ないと思います」


「いえいえ、それでは第二王国軍の名が廃れてしまいます。何もしないで要塞を陥落させたと王国で知れ渡れば笑いものになってしまいます。ここは犠牲が多少出ても私達に攻撃させて下さい」


 将軍は一歩も譲れないという顔をしている。

 強引に俺たちがしゃしゃり出ても後でしこりが残りそうだ。

 それに俺は『気配探知法』で要塞の建屋の内部の様子がよくわかっていた。

 建屋の中には大して敵は居ないようなのだ。

 中庭にいたゾンビたちが要塞の敵の大半で、俺とワンさんで粗方倒してしまったので、比較的要塞内は安全と言える状況だった。



「わかりました、後はチェンバレン将軍におまかせしますよ。その代わり突入する兵士にはこれを武器にかけるように言って下さい」


 俺は巾着袋から聖水の小瓶を大量に出した。

 使い方を上級騎士に教え、ゾンビ対策を万全にさせた。




「突撃! 内部の敵を殲滅せよ!」


 歩兵隊長の号令の元、兵士たちが建屋に突入していく。

 何人の王国兵がゾンビたちにやられるのだろう。

 死人さえでなければアニーのキュアで治せるので、無茶はしないでほしいと思った。




「勇者様、少しよろしいですか?」


 中庭の一角にテーブルと椅子を出していると、上級騎士の一人が俺に近づいてきた。


「なんだ」


「部下があちらのやぐらの下で大量の魔石を発見したのですが、もしかしたら勇者様が倒した敵のものではないかと思いまして確認に上がったのです」


 上級騎士の話を聞いていたワンさんが、耳をピクピクさせてこちらを振り返った。


「それはアメツチ男爵様が倒されたゾンビ兵のものだ、よもやネコババなどしておらぬだろうな」


 ワンさんはドスの利いた声で上級騎士を睨む。

 さっきまでの砕けた話し方ではなく、よそ行きのしっかりとした口調で問い詰めていた。


「め、滅相もございません従者様、全て回収して持ってまいります、少々お待ち下さい!」


 青い顔をした上級騎士は、ワンさんの圧力から逃げるように櫓方面へ飛んでいった。

 その後姿を見ていたワンさんは、満足そうにうなずくとテーブルの設置に戻っていく。


「ワンさん、あまり脅してはいけないよ。あの騎士、顔色が真っ青だったぞ」


「倒していない魔物の魔石を横取りするなんて、騎士の風上にも置けないヤツでさぁ。あの魔石は旦那の領地運営の足しにするんでやんす、一粒たりとも無駄には出来やせん」


 ワンさんは俺が陛下から拝領する領地のことを言っているようだ。

 何かと物入りになりそうな領地経営のことを考えてくれているみたいだな。




「よし、テーブルを設置したらお茶にしようか、みんな疲れただろうから座って休もう」


 中庭の一角を仕切りでぐるっと囲う、目隠しをするとだいぶ落ち着いてくつろげるようになった。

 先程からリサが俺に張り付いて離れないでいた。

 いかつい王国兵たちを怖がって俺から離れられないようだ。


「リサ、もう大丈夫だよ、兵士は見えなくなったからね」


 金色の柔らかい髪を撫でながら優しく語りかける。

 俺にぴったりと張り付いていたリサは、おっかなびっくり顔を上げてきた。


「もう兵士さん居ないの?」


「ああ、壁で囲ったから兵士たちは入ってこないよ」


「そう、よかったわ」


 ニッコリと笑って俺から離れる。

 テーブルに出したお茶のポットを持ち上げると、カップにお茶を注ぎ始めた。

 人数分注ぎ終えるとみんなの前に持っていく。

 さっきまで怖がっていたことなど忘れたように明るくなってご機嫌になった。


「ありがとうリサちゃん」


「リサ嬢、ありがとうでさぁ」


 ワンさんたちも嬉しそうにお茶を受け取っている。

 俺はお茶菓子やフルーツの盛り合わせを出してテーブルに置いた。


「フルーツ剥きますね」


 アニーがナイフを片手に林檎のような果物を剥き始める。

 器用に人数分剥き終わると皿に乗せて配ってくれた。


 背中で寝ていたドラムが起き出してきた。


「ガ~」


「おっ、ドラム起きたのか、肉食べるか?」


「たべる」


 ドラゴンブレスを吐いて消耗したドラムは、俺から塊肉を受け取るとテーブルの下に潜り込み一心不乱に食べ始めた。


(これは相当食べそうだな、追加で肉を出しておくか)


 ドラムのために塊肉を大量に出してテーブルの下に置いていく。

 ドラムは嬉しそうに頭を上下に動かしてお礼を言ってきた。


「なんかあたしたちもお腹すいたわね」


「そう言えばもうお昼を回っていやすよ。旦那、昼飯を食べやせんか?」


「そうだな、それじゃここで食べようか。今出すから待っていてくれ」


 巾着袋からいろいろな料理をテーブルに出していく。

 働いた後は肉料理に限るな。

 俺は王都の有名レストランのステーキや、行列の出来る焼き鳥屋台の串焼き肉を皿に出す。

 冷たい水や温かいお茶など、お酒以外の色々な飲み物を出して昼食を食べ始めた。


「ワンさん、『ラーミン』もあるからな、食べたかったら言ってくれよ」


 今日一番活躍したワンさんにご褒美を兼ねてお伺いを立てる。


「食べやす! 今食べたいでさぁ!」


『ラーミン』好きのワンさんは、案の定飛びつくように俺の提案に乗ってきて、大好物の『ラーミン』を催促してきた。

 その必死さに笑いながら『ラーミン』を出してあげると美味しそうに食べ始める。


「レイン、あたしも『ラーミン』食べたい、お願いいっぱい出して」


 食いしん坊のセルフィアが上目遣いでおねだりをしてくる。

 右腕にグイグイと体を押し付けてきてとても気持ちがいい。


「レイン様、私にも下さい。熱いのがほしいです」


 左腕も柔らかいものに包まれてしまった。

 鼻を伸ばした俺は言われるがままに『ラーミン』を取り出し、テーブルに置いていった。


 リサが嬉しそうに膝の上で飛び跳ねている。

 そんなに暴れると危ないぞ。





 楽しい昼食を要塞の中庭で食べる。

『ブランケン要塞』の完全攻略はもうすぐ完了しようとしていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ