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181.開門

 要塞の中へ侵入成功。

 中庭には帝国兵の成れの果て、ゾンビ軍団がうごめいていた。




 物見櫓ものみやぐらの上から眼下のゾンビ帝国兵たちを観察する。

 俺たちが侵入してきたのを察知して櫓の足元には大量のゾンビたちが群がっていた。

 木で出来た櫓の太い柱がゾンビたちに揺さぶられてギシギシと不気味な音を響かせている。

 ゾンビたちの圧力で倒壊するのも時間の問題だった。


「ワンさん、門を見てみろ。どうやって開門するかわかるか?」


 櫓が倒壊するまでの時間はまだあると冷静に判断して、ワンさんと開門の打ち合わせをする。

 ワンさんは真剣な表情で門の方を見ながら正確な分析をする。


「まずあの巨大なかんぬきをどうにかしなければ始まりやせんね。一人二人で動かせるような代物ではありやせん」


 要塞の要の鉄の門は、極太の閂でがっしりと閉じられている。

 上下二本の鉄製の閂は、大勢の兵士が横にスライドさせて取り外す仕様だった。

 常人離れをしたワンさんと俺の腕力を持ってしても、簡単に外せるとは思えず、苦戦必至なのはここから見ても十二分にわかることだった。


「よし、あれは俺に任せろ、間違いなく取り除くことを約束するよ。他にはなにかわかるか?」


「そうでやんすね……、扉の手前に鉄の格子戸が降りていやす。あれも邪魔でやんす、機械仕掛けで上げられそうでやんすから、あっちの方はあっしに任せてくだせぇ。この二つで門は開くと思いやす」


「わかった、後は下にいるゾンビ共を排除するだけだな、数は……、ざっと二百というところか。ワンさん、半分頼むよ二人で排除しよう」


「わかりやした、奴らはただの屍でやんす。旦那とあっしならすぐに殲滅できやすよ」


 魔法の双短剣に聖水をかけながらワンさんがニヤリとする。

 俺も刀に聖水をかけるために巾着袋から聖水入りの小瓶を出した。


「そうだ、この聖水、ここからかけたらどうなるかな。もしかしたらゾンビども溶けてなくなるんじゃないか?」


「おお! それはいいアイデアでやんす、ぜひ試してみやしょう!」


 俺の疑問にワンさんが食いついてきた。

 嬉しそうに革袋から聖水入りの小瓶をを出し、小瓶の蓋を開けるとこちらを見てきた。

 俺も蓋を外しワンさんを見た。


「いきやすよ! そら!」


 櫓の下で蠢いているゾンビたちに勢いよく聖水をぶっかける。

 広範囲にかかるように腕を大きく振って聖水を拡散させた。



「オオオオオオ……」


 ゾンビたちの唸り声があたりにこだまする。

 シュウシュウと音を立てながらゾンビたちの体から煙が上がった。


「やりやした! 奴ら溶けていきやす!」


 アニー特製の聖水の効果は凄まじいものがあり、辺り一面溶けたゾンビたちの残骸で大変なことになっている。


「よし! らくできそうだな、まだまだあるからどんどんかけよう!」


 俺は巾着袋から聖水入りの小瓶を取り出すと櫓の床に置いていった。

 置いた先からワンさんが持っていく、どんどんばらまかれた聖水は、ゾンビたちを一体残らず溶かしてしまった。


「凄いでやんす! 櫓の下が魔石だらけでさぁ」


 ゾンビが消え去った後には、午後の日差しに反射した魔石が、大量に散らばっていた。


「中庭の敵の排除は完了したな、今度は門を開けよう」


「旦那、あの魔石はどうしやすか? いくらくず石でももったいないでさぁ。開門して味方の兵士がなだれ込んできたら取られてしまいやすよ」


「たしかにそうだが今は開門が先だ、今回は諦めよう」


「う~ん、仕方がありやせんね……、わかりやした、諦めやす!」


 お宝好きのワンさんも今回は諦めてくれたようだ。

 二人で櫓から飛び降りると門に向かって走り出した。




「あそこでさぁ」


 巨大な門の横にある扉を指し示す。

 俺とワンさんは扉に張り付くと呼吸を合わせて中に飛び込んだ。



 扉を勢いよく開けて中へ飛び込む。

 そこにはゾンビ帝国兵が数体いて、侵入と同時に襲いかかってきた。

 阿吽の呼吸で左右に展開すると、近場の敵から斬り伏せていく。

 一瞬で部屋の中を制圧すると素早く二階へ階段を駆け上がった。


 二階にはゾンビは居なかった。

 構えていた刀を降ろして部屋の中を見渡す。

 部屋の奥には手動の巻き上げ機があり、門の格子戸と繋がっているようだった。


「旦那、巻き上げ機を操作しやすから周辺の警戒をお願いしやす」


「任せてくれ」


 部屋の入口へ視線を走らせ刀を構える。

 ワンさんには指一本触れさせないぞ。


 巻き上げ機は巨大な鎖が巻きつけてある。

 ハンドルを回せば鎖が巻き上がり格子戸が上がる仕組みだった。


 本来なら一人で巻き上げるような機械ではないが、ワンさんの腕力は相当に強い。

『身体強化』を駆使してどんどん鎖を巻き上げていった。




 鎖を巻き上げる音が要塞の中庭に響く。

 部屋にある覗き窓から門の格子を見ると、ゆっくりとだが確実に上へと上がっていった。


「旦那、そこのストッパーを押してくだせぇ」


「ああ、わかった」


 ワンさんの指示で棒型の留め金を巻き上げ機に刺す、がっちりと固定されて動かなくなった。


「これでオッケーでさぁ、後はかんぬきだけでやんす」


「よし、閂を外しに行こう」


 慎重に一階に降り、中庭の様子をうかがう。

 奥の建屋から数体のゾンビが出て来ていたが、危機感を覚える数ではなかった。


「今度はあっしが見張りをしやす、でもどうやってあの重い閂を外すんでやんすか?」


「それはこれでやるに決まってるだろ?」


 ワンさんに抜き身の刀を見せながら笑いかける。


「なるほど、その手がありやしたね。ズバッとやってくだせぇ」


 ニヤリとしたワンさんは、門の前に陣取ってゾンビたちが近寄らないように見張りだした。




 体に魔力を流していく、俺の中で魔力が渦巻いているのがわかった。

『身体強化』を最大まで上げて腕力を最大にした。

 更に剛力の小手にも魔力を流し、相乗効果で数倍の力を体に宿す。

 筋繊維の一本一本が最大にまで膨れ上がり鎧を押し上げていった。


 ゆっくりとした足取りで門に近づく。

 近づきながら刀に魔力を流していく。

 目の前には巨大な鉄の門がそびえ立ち頭上には巨大な閂がはまっている。

 精神統一をした俺は刀を上段へ持っていった。


 息を細く吸い込んでいく。

 肺に空気が溜まっていき、目一杯手前でぴたりと止めた。




「『剛力解放』! 『兜割り』!」


 渾身こんしんの力で刀を振り下ろす。

 空気を切り裂く音が鳴り、空気の壁を突破した炸裂音があたりに響いた。

 俺の攻撃で一番の威力を誇る『兜割り』で二本の閂を切りつけた。

 

 一刀両断された閂が音を立てて左右に落ちていく。

 大音響を響かせて石畳の上に落ちた閂は、もうもうと土煙を上げて辺りに散らばった。


「やりやした! すごい切れ味でさぁ!」


 ワンさんが飛び上がって喜ぶ。

 俺は石畳まで食い込んだ刀身を引き抜くと腰を引いて刀をさやに戻した。


「ワンさん、右の扉を引いてくれ、俺は左を引くからな」


「わかりやした」


 嬉々として近づいてくるワンさんに指示を出し扉に手をかけた。


「いくでやんすよ、そら!」


 二人同時に扉を引く。

 みしみしと音を立てながら扉が両側に開いていく。

 隙間が少しずつ大きくなっていき、扉が開くスピードが早くなってきた。



 要塞の外から歓声が上がる。

 王国兵たちは扉が開くのを今か今かと待っていたようだ。

 半分ほど扉が開くと、雪崩を打って王国兵が突進してきた。

 中庭に突撃した兵士たちは、敵が居ない空の城内にあっけにとられた。



「レイン!」


「レイン様!」


「レインさん!」


「お兄ちゃん!」


 仲間たちが嬉しそうに駆け寄ってくる。

 俺は手を上げてその声に応えた。





『ブランケン要塞』はとうとう開門をした。

 後は城内の敵を排除するだけだ。 

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