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180.万能ブレス

 ゾンビ軍団を倒しながら小道を進んだら、要塞の中まで魔物であふれていた。




 目の前にそびえる『ブランケン要塞』は魔物の巣窟になっていた。

 要塞前のゾンビ共はあらかた片付けたので、後は要塞に取り付いているゾンビの肉片たちを排除することにした。

 城壁にベッタリと腐った肉片がこびりつき、うねうねとうごめいている。

 谷底の狭い空間は腐臭が充満していて目がしみるようだ。


 城壁の上から断続的に矢や攻撃魔法が降ってくるが、アニーが唱えた『神聖防壁』を打ち破ることは出来ず、全て跳ね返されて無効化されていた。


「僕に任せて、槍で突いてみるよ」


 モーギュストがずんずんと門の前に進んでいき、深く腰を落とした。

 それは、不可視の槍先を無数に飛ばし敵を殲滅する彼の必殺技の構えだった。


「いくぞ! 『連撃槍龍突れんげきそうりゅうとつ』!」


 アダマンタイトの短槍を高速で突き出し眼前のゾンビ門に攻撃をする。

 ガンガンと金属がぶつかる音がして、ゾンビたちを貫通して鉄の門に穂先が当たる。

 ゾンビの肉片が辺りに散らばり本来の要塞の門が姿を現してきた。

 モーギュストの攻撃は、要塞の門に張り付いていたゾンビ肉を吹き飛ばした。

 満足そうにうなずいて彼はこちらに戻ってきた。


「どうだい? ゾンビたちは倒したよ」


 嬉しそうにモーギュストが報告してくるが、言っているそばからゾンビたちに異変が起こる。


「だめでやんす! もとに戻っていきやす!」


 ワンさんの叫び声と同時に、ゾンビの腐肉は元通りに門を覆っていく。

 モーギュストの奮闘虚しく一瞬で元に戻ってしまった。


「なんだよ! ふざけたゾンビたちだな!」


 モーギュストはかなり憤慨ふんがいして地団駄を踏んでいた。




「どうしようか、直接攻撃では駄目そうだな、極大魔法を砦に打ち込むわけにもいかないし、困ったな」


 敵の攻撃は大したことはないが、こちらの攻撃も通用しない。

 呪文で砦を壊してしまえば再利用する計画がだめになってしまう。

 八方塞がりで悩んでいると、俺の背中に張り付いてるドラムが助け舟を出してくれた。


「僕が燃やしてあげるよ」


 ドラムが口を出してくる時は、自分の攻撃に自信があるときだ。

 よくよく考えればドラムのブレスで焼き払うことは、ゾンビを火葬出来てとてもいい案だと思えてきた。

 しかし、手加減はしてもらわないといけない。

『シャルマン要塞』の時のようなドラゴンブレスを吐いてしまえば、いかに堅牢な『ブランケン要塞』であろうとも、跡形もなく消し飛んでしまいかねないのだ。


「よし、ドラム、ブレスでゾンビたちを一掃してくれ、ただし手加減して砦を壊さないでくれよ」


「わかった」


 ドラムは力強くうなずくと、空気を目一杯吸い込み始めた。

 辺りにはドラムが空気を吸い込む風切り音が響き渡る。

 ブレスのうと呼ばれる器官に空気が取り込まれ、ブレスの元となる魔素と混ざり合っていった。

 ゆっくりと浮上していくドラム。

 あっという間に城壁より高い空間へ上がっていった。

 要塞の上に陣取るゾンビ兵たちは、一斉にドラムに向かって矢や魔法を放つ。

 しかし生半可な攻撃では、ドラムの硬い鱗を貫通させることは出来ず、虚しく弾かれていった。



 ドラムの体が怒った河豚ふぐのように丸くなる。

 口の端からはブレスが漏れて赤い炎を覗かせていた。



「ギャォン!」



 控えめな咆哮が谷底に響く。

 それと同時に幅広のドラゴンブレスが、要塞の城壁を炎で包んだ。

 ドラムは炎を吐きながら左右に首を振る。

 ブレスがまんべんなく城壁に広がり、ゾンビたちをすごい勢いで燃やしていった。


 しばらく続いたドラゴンブレスをドラムが吐き終わる。

 いつもの体型に戻ったドラムは、羽をパタパタと動かしながら俺のもとへ降りてきた。


「おつかれ、ドラム。よくやったぞ」


 ひと仕事終えてスッキリした様子のドラムの頭を優しく撫でる。

 まだブレスの熱でほんのりと温かい頭は、すべすべしていてとても気持ちが良かった。

 撫でられたドラムは気持ちよさそうに目を細める。

 満足したドラムは俺の背中に移動してぴったりと張り付いた。


「ドラム偉い」


 リサがドラムの背中をさすっている。

 ドラムは一声「ガ~」と鳴くと目をつむって眠ってしまった。

 城壁に取り付いていたゾンビの腐肉は、綺麗サッパリ燃え尽きた。

 おまけに城壁の上で攻撃をしていたゾンビ兵も一緒に灰になったようだ。

 目の前には巨大な鉄製の城門が姿を現す。

 この門をどうにかこじ開けて中へ入らなければならない。


「ワンさん、もしかしてこの門開けること出来ないかな?」


「旦那~、流石に無理でやんすよ~、いじめないでくだせぇ」


 俺の冗談を真に受けたワンさんは、眉を八の字に下げて困っている。


「ごめんごめん、ちょっと言ってみただけだよ。でも困ったな、どうやって開けよう」


 一難去ってまた一難、ゾンビを一掃したら、次は開門するすべがなかった。


「旦那、外から開けることは出来やせんが、中からなら開けられやすよ。あっしを要塞の中へ放り投げてくだせぇ」


 ワンさんが大胆な提案をしてきた。

 まだ要塞の中の様子はわからない、どんな強敵が潜んでいるかも知れないのだ。


「ワンさんだけを危険に晒すわけにも行かないな、よし! 俺も一緒に中へ行こう。モーギュスト、悪いがワンさんと俺を中へ投げ入れてくれ」


「面白そうだね、わかったよ!」


 嬉しそうに笑いながら近づいてくる。

 パーティー一の怪力の彼は、俺とワンさんをまとめて掴み上げると、その場でぐるぐると回り始めた。

 ハンマー投げの容量で二人まとめて上空へ投げ飛ばす。

 背中のドラムも一緒に空高く投げられ、放物線を描いて要塞の中へ飛んでいった。




 要塞の上空で中の様子をうかがう、門の内側には中庭が広がっており、おびただしい数のゾンビ兵がうごめいていた。

 背中のドラムは投げられたにもかかわらず、気持ちよさそうに眠っている。

 がっちりと鎧を掴んだドラムは、ちょっとやそっとでは起きそうにもなかった。


「ワンさん聞こえるか! 中庭に降りるのはやばい! あそこのやぐらの上に降りよう!」


 大声で中庭にある物見櫓を指し示す、『縮地』を使い強引に移動距離を稼いで櫓に突撃した。




 ここで『縮地』の特徴を一つ話しておく、背中に張り付いているドラムは『縮地』は使えない、しかし俺の『縮地』で一緒に移動はできた。

 それは魔力が関係しているようで、アトラスさんが初めて俺を抱えて『縮地』をしたときのように、魔力が繋がっていれば一緒に飛ぶことは出来た。

 『縮地』の練習をしていないドラムが、なぜ俺と一緒に飛べるのかは謎だ。

 卵から育てた子供のようなドラムは、俺の体の一部のようなものなので、案外一緒に『縮地』で移動できるのかもしれなかった。




 余計なことを語ってしまったが、ワンさんと俺とドラムは、無事に櫓の上に移動ができた。

 櫓の上にはゾンビが数体いたが、突入と同時に刀で全て切り刻んだ。

 聖水をかけてある刀の切れ味は最高で、切断したそばから煙を吐いて消え去る。

 後には小さな魔石が残るばかりで、魔物としてはゾンビは雑魚ざこだった。





 要塞内部への侵入は成功した。

 後は中庭に蠢くゾンビたちを排除して門を開けるだけとなった。

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