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174.みんな疲れている

 将軍の厚意で豪華な朝食を頂いた。




 朝食の載っていたテーブルはすっかり料理が片付けられて、大きな地図が載せられていた。

 その地図はこの地方一帯を網羅した軍用の精巧な地図で、一般人では見ることも許されない最重要軍事機密だった。

 地図の上には木で出来たこまが置いてあり、王国軍、帝国軍両陣営の軍の配置が手に取るようにわかった。


 地図の中央に『ブランケン要塞』が描かれており、城の形をした駒が置かれている。

 その少し離れた山と山の間にチェンバレン将軍率いる第二王国軍の駒が置かれていた。

 地図を見る限り道はそれほど通っておらず、『ブランケン要塞』にいたる道は一本しか描かれていない。


 ざっと見ただけでも要塞を攻略するのは正攻法では至難の業だろう。

 そこに帝国勇者が加われば、一般兵では要塞を落とすことなど出来るわけがないことがよくわかった。



「では、説明をさせていただきます」


 将軍付きの上級騎士が細い棒を片手に地図の説明を始めた。

 難しい話なので幼いリサは退屈だろうと、ドラムと一緒にソファーに座らせていた。

 ドラムは俺が与えた大きな牛肉の塊肉を黙々と食べている。

 リサはドラムの食べる様子をニコニコと観察をしていた。



「『ブランケン要塞』は難攻不落の要塞です。我々第二王国軍の精鋭部隊が数千人の犠牲を出しても落とすことは出来ませんでした。その原因は一点だけです。要塞に向かう道が細い谷底の一本道しか無く、切り立った崖が両側にそびえ立っています」


 上級騎士は手に持った棒で地図を指し示しながら、詳しく説明をしていった。


「要塞を攻めるにはこの細い谷底の一本道を進むしか無く、帝国兵に弓矢で狙われ放題にされてしまいます。多数の犠牲者を出して要塞の門に到達しても、門は鋼鉄製で簡単には開かないようになっています」



 王国兵をかたどった駒を地図上の一本道を要塞に向かって動かしながら上級騎士は説明していく。

 きっと王国の兵士は実際に谷底を進んだのだろう、門にたどり着いたときの絶望を思うと辛くなってきた。


「では、谷底を進まず崖の上を進めばどうでしょうか。崖の上は足場が悪く大軍で移動するには不向きな環境です。それを無視して強行軍をすれば、要塞から弓矢や魔法で狙い撃ちをされて全滅してしまいます」


 これも既に王国軍が試しているようだな、一体何人の犠牲者が出たか想像すらできないな。


「もういい、説明をやめろ」


 将軍が不機嫌に言い放って上級騎士の説明をさえぎった。

 言われた上級騎士は一礼をしてテーブルから離れて直立不動の姿勢をとった。


「勇者様、聞いての通り『ブランケン要塞』は難攻不落で攻める方法がないのです。そこへ帝国の勇者が突如現れてとどめを刺されてしまいました。勇者様ならどうやって攻撃するのかをお教え下さい」


 将軍は深々と頭を下げて俺に助けを求めた。


「チェンバレン将軍、その前に勇者と呼ぶのをやめて下さい、どうも呼ばれると気持ちが落ち着かないのです」


「いえ……、そう言われましてもこちらとしても困ります」


「お願いします、アメツチで結構ですからよろしく」


「わかりましたアメツチ様とお呼びします」


 伯爵様に様付けで呼ばれるのも困りものだが、勇者様よりはいいだろう。

 俺は妥協して話を進めた。



「まず要塞は落とした後に王国で使用したいと思います。そうすれば帝国への防御が強固になると思うんです」


「たしかにそうです、もし要塞を占拠できればこれほど喜ばしいことはありませんよ」


「であれば、先の『ローレン砦』を破壊したようにはせずに今回は正攻法で要塞を落としたいと思いますよ」


「え!? アメツチ様は『ブランケン要塞』を破壊することが出来るのですか?」


 数千人で攻めてもびくともしない要塞を破壊できるとは思っていないらしい。


「ええ出来ますよ、帝国の勇者が邪魔をしなければ確実に破壊することは出来ます。しかし、それではせっかくの要塞がもったいないと思いませんか? 利用できるのなら王国の施設として使ったほうが有用でしょう」


 本当なら『ローレン砦』も王国の施設として使ってもらうはずだったのだ。

 そのほうが帝国を滅ぼすのが容易になるのは明白だった。


「作戦は簡単ですよ、我々がまず要塞に乗り込んでいって扉を開きます。更に砦の弓兵を無力化して将軍たちを砦内に迎い入れますよ。そこからは王国兵にも手伝ってもらって要塞内の帝国兵を排除しましょう」


 俺の簡単な作戦に将軍と上級騎士は驚き呆れていた。

 そんな簡単な作戦で要塞が落とせるなら苦労はしないと顔に書いてあった。


「色々言いたいのはわかりますよ、ただ本来なら我々だけで要塞を落とそうと思っていたのです。信じることが出来ないのなら見ていてくれて結構ですよ」


「い、いえ、信じていないとは言っていませんが……」


 言葉に詰まった将軍は大量の汗をかきながらうろたえていた。

 もし俺が一般兵士だったら、俺の言っていることを信じることなんて出来ないだろう。

 だからいまだに信じきれてない将軍たちに何の感情もいだかなかった。


「それではこうしましょう、明日か明後日辺りに『ローレン砦』から斥候が戻って来るでしょう。その報告を聞いてから作戦を開始しましょう。私達が『ローレン砦』を破壊したことが確認できれば、将軍も軍を動かす覚悟が出来るはずです」


 俺の提案が決め手となって会議が終了する。

 後は斥候が戻ってくるのを待つばかりで、それまで何もすることが無くなってしまった。




 テントへ戻るとワンさんがかなり怒って鼻息を荒くしていた。


「全くあの将軍は見る目がありやせん、旦那の言うことを信じていやせんでした。旦那、今すぐにでもこの陣を引き払って要塞へ突撃しやしょう。ここでとどまるだけ無駄でやんすよ」


「僕もワンさんの意見に賛成だね、人数が少ないほうがやりやすいよ。それに倒す兵士も減っちゃうよ? レベルアップが遅れてしまうと思うよ」


 モーギュストは怒ってはいないが現実的な説得をしてくる。

 確かにレベルアップをしたいだけならば、俺達だけで帝国兵を倒したほうが効率が良さそうだった。


「そう言うなよ、将軍はまだ俺たちの実力を見ていないのに、頭から否定はしなかったんだよ。それだけでも凄いことだと思うぞ、俺だったら騙されたと思って怒り出してしまうと思うんだ」


「そうね、朝食も美味しかったし、将軍は悪い人ではないわ」


(セルフィアの頭の中は食べ物のことで一杯なのか? 少し大人しくしていてくれないかな)


「急いでいる旅ではありませんから、二日ほどでしたら待ちませんか? 少し余裕を持ったほうがいいと思いますよ」


「アニーの言う通りだ、別に急いではいないわけだしここにとどまって休憩するのも悪くないと思うぞ」


「旦那がそう言うのでやんしたらあっしは何も言いやせん、出過ぎた真似をしやして申し訳ありやせん」


「まあレインさんがリーダーだからぼくも従うよ、変なこと言ってごめんね」


 二人とも済まなそうに頭を下げてくる。


「頭を上げてくれよ、何もあやまることはないだろ? 貴重な意見なんだからどんどん言ってくれていいんだよ」


 俺は恐縮してしまいワンさんたちに頭を下げた。

 ちょっとした意見の対立をしてしまい少し落ち込んでしまう。


「みんな疲れているのよ、今私達に必要なのは休息ね」


 セルフィアが呟いたことが正解のようだな、俺はワンさんとモーギュストの手を取ってしっかりと握った。


「ごめんな、ワンさんが俺のことを思ってくれていることはよくわかっているよ。モーギュストの言ったことだって正論だとわかっている。俺達がぎくしゃくしてもいいことはないからな」


「旦那に気を使わせて申し訳ありやせん」


「僕もなんとも思ってないから大丈夫だよ」


 三人でがっちりと握手をして笑いあった。





 こういう些細なことからパーティーの危機は訪れるのかもしれない。

 俺は人間関係の難しさを改めて思い知り、更にみんなを大切にしようと心に誓った。

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