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173.嬉しいおもてなし

 帝国の山岳要塞付近で王国兵と遭遇した。

 俺たちは王国兵の本陣へ連れて行ってもらった。




 豪華なテントの中にあるソファーに座り、王国の将軍と会談をしている。

 将軍の名前はエイブラムス・チェンバレン将軍、王国貴族で伯爵だ。

 俺より身分が上のはずの将軍は、やけに俺に対して低姿勢で友好的だった。


「今回こちらへ来た目的を教えてもらえませんか?」


 将軍は一息ついた俺に事情を聞いてきた。


「その前に将軍に聞きたいのですが、なぜ私のことを救国の勇者などと言うのですか? 言われる覚えがないのですが……」


 先程から気になっていることを先に聞いてみる。

 気になって話しづらくて仕方がなかったのだ。


「いやいやいやいや、何を言っているのですか、勇者様が『シャルマン要塞』でご活躍なさったことは王国中に知れ渡っていますよ。このような辺境の基地まで早馬で情報が届いています。勇者様がお越しになられた場合は、失礼に当たらないようにもてなせとの国王陛下からの命令書まであります」


 驚愕の事実に仲間たちは絶句している。

 俺も驚いたがよくよく考えればそれだけのことをしたのは事実なので、顔に出さずにすました顔で聞いていた。


「そうですか、シャルマンの戦いを終えてから、すぐ帝国領へ侵攻してきたので、そのような事情になっているとは思いませんでした」


「私も話を初めて聞いたときは、失礼ながら信じられなかったのですが、確認を取らせた所、事実だとわかりまして驚いている次第です」


 それからしばらくどれだけ俺たちの活躍が王国にとって有益だったかを将軍が語り、それを俺たちが黙って聞いていた。



 将軍の言うことには、『シャルマン要塞』がもし落とされでもしたらそれで王国は滅亡の危機に陥っていたということだった。

 更に凶悪な魔物が出現したことを将軍も知っていて、その魔物を俺たち『白銀の女神』だけで討伐したことを褒め称えていた。

 特に強力な魔法を放ったセルフィアのことは、王国で俺の次に話題に上がっており、大魔導の称号までセルフィアには付いていた。


 俺たちが帝国へ移動している間に、王国ではとんでもないことになっているらしい。

『シャルマン要塞』でヒックス将軍が俺を引き留めようとしていたのも納得がいった。




 将軍の話が一段落ついたので今度は俺が近況を話す。

 帝国への侵攻の過程で帝国の砦を一つ破壊したことを報告すると、将軍はソファーから転げ落ちるほど驚いて目を見開かせた。


「なんと! 『ローレン砦』を陥落させたのですか!? なんてことだ、それは大変なことですぞ! 誰か! 誰かいるか!?」


 将軍は慌てて部下を呼びつけた、いきなり騒ぎ出した将軍に俺たちも驚いて身構えてしまう。

 すぐに上級騎士がテントの中へ駆け込んできて将軍の元へ駆けつけた。


「将軍! どうなさったのですか!?」


 将軍の慌てように上級騎士もビックリして青くなっている。


「いいか、今から言うことをよく聞いて確認しろ! 帝国の要の『ローレン砦』を勇者様が陥落させたとおっしゃられた。すぐに斥候を出して確認するように伝えろ!」


「はっ! かしこまりました!」


 上級騎士は入ってきたときと同じように風のごとく去っていった。


「もうしわけありません、勇者様の言った言葉を疑うわけではありませんが確認をさせていただきます」


「いいですけど、陥落じゃなくて破壊ですからね、そこを間違わないで下さい。見に行ってももう何も残っていませんから、瓦礫がれきがあるだけです」


 俺は念の為に砦の状況を将軍にきっちり話した。もちろん砦はもう使うことは出来ない、後で何か言われるのは嫌だったのだ。

 俺の説明を聞いても将軍は理解できなかった。

 普通の人間には砦を魔法で吹き飛ばすことなど想像できないらしい。

 説明を諦めて今回の攻撃目標の話に話題を移した。




「今回こちらに来たのは帝国の山城が近くにあることを知ったためです。私達の目的は帝国の弱体化なので、次の目標をその山城にしました」


「本当ですか!? 『ブランケン要塞』を攻撃していただけるだなんて、なんと喜ばしいことだろう! 撤退せずにこの地に残っていてよかった! ありがとうございます、これで王国へ面目が保てます!」


 将軍は泣きながら俺の手を握りしめた。

 砦の名前は『ブランケン要塞』と言うらしい。

 話を聞くと将軍の任務は俺が狙っている砦、『ブランケン要塞』を攻略することだそうだ。

 そのために王国から大量の兵士を任されこの地にやってきた。

 始めのうちは順調だったが、ある時帝国の勇者が現れて軍を壊滅に近いところまで追い込んだらしい。

 大軍を失っておめおめ帰還することは出来ずに、山の中で陣を構えていたそうだ。



「チェンバレン将軍、『ブランケン要塞』の事を詳しくお聞かせ下さい、私達は情報が乏しいのです。要塞の名前も今知ったぐらいなのです」


「お任せ下さい! あの憎々しい要塞のことなら私が誰よりもよく知っております。事細かにお教えしますので、どうかお力をお貸し下さい」


 将軍は泣き顔で鼻水を垂らしながら、俺の手を両手で握りしめてくる。

 今にも鼻水が俺の腕に垂れそうで気が気ではなかった。


 将軍の落ち着きを待って今日は休ませてもらうことにした。

 明日改めて将軍から『ブランケン要塞』の事を聞くことにして、客用のテントへ案内してもらう。


 テントは二張、男性用と女性用だ。

 セルフィアたちだけで過ごさせるのは男所帯の陣では危ないので、俺も一緒に寝ることにした。

 ワンさんたちは、二人だけで広いテントを使えるのでとても喜んでいた。



ー・ー・ー・ー・ー



 翌日、朝食にチェンバレン将軍から誘われ、仲間たち全員で将軍のテントを訪れた。

 テントの中央には大きなテーブルが備え付けられていて、豪華な料理が並べられていた。

 およそ戦時中とは思えないほどの豪華な食卓に、将軍の俺たちへの歓迎の気持ちが色濃く反映されていた。


「さあ、どんどんお食べ下さい。お代わりもたくさん用意していますので、好きなだけ食べてもらって結構ですよ」


 にこにこと笑みを浮かべ将軍が言ってくる。

 セルフィアたちはその豪華な食卓にとても嬉しそうで、いつになくごきげんな様子だった。


 アニーの食前の祈りを将軍を交えて行う。

 全員で祈った後、食事会が始まった。

 セルフィアやアニーが肉料理を真っ先に皿に取り分け、みんなに配っていく。

 肉好きっ子達は将軍の前でも遠慮をすることがなく我が道を突き進む。

 俺の前にも山盛りの肉料理が置かれ、膝の上に座っているリサが嬉しそうに肉を頬張っていた。


 将軍が用意してくれた料理は、帝国風の味付けで少し王国の味付けとは違っていた。

 いつもと違う味付けにセルフィアたちはとても喜び、どんどん食が進んでいく。

 皿が空になるとすぐお代わりが来て、テーブルの上が寂しくなることはなかった。



「チェンバレン将軍、こんなに美味しい料理をありがとうございます。期待に応えられるように要塞の攻略がんばりますよ」


「はっ、はっ、はっ、そう言ってもらえると張り切った甲斐がありますな。料理人たちも喜ぶでしょう」


 ワインを片手に笑いながら将軍は満足げだった。





 朝食を頂いて食休みした後は、将軍たちによる『ブランケン要塞』の説明のための会議が始まる。

 まだ姿さえ見たことがない要塞の知識を頭に叩き込むため、俺たちは真剣に会議に臨むのだった。

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