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170.一夜明けて

 レベル確認が終わり、仲間たちの戦力を把握できた。

 そして驚くべきことに俺に勇者の称号が付いていた。




 一夜明け林に朝日が差し込んできた。

 最後の見張りに立っていた俺は、みんなの朝食を作りながら仲間たちが起きてくるのを静かに待っていた。


「アニー、そろそろセルフィアたちを起こしてきてくれ」


「わかりました」


 朝の祈りを終えて近寄ってきたアニーに、ねぼすけ二人組を起こすように頼んだ。

 そして俺はワンさんとモーギュストの眠るテントへ近づいていった。


「ワンさん、モーギュスト、もう朝だぞ。起きて顔を洗ってきてくれ」


 テントの天幕を持ち上げ中の様子を見る。


「旦那、おはようございやす」


「おはようレインさん、今起きるよ」


 二人とも既に起きていたらしく、俺の声で立ち上がる。

 テントからい出して、水の張ってある樽へ顔を洗いに行く。


 隣のテントを覗くと、アニーに布団を剥がされ引きずり出されているセルフィアとリサが、まだ眠いと抗議していた。


(魔法使いというのは、人より睡眠を大量に取らなければならない職種なのかな?)


 セルフィアとアニーを観察しながら、ふと下らない考えが頭に浮かんできた。

 そうこうしているうちに、顔を洗ってシャキッとしたワンさんたちが戻ってきた。


「食事にするから椅子に座って待っていてくれ」


「旦那、あっしがスープをよそいやすよ、人数分テーブルに持っていきやす」


 気を利かしたワンさんが食事の配膳を手伝ってくれる。

 俺は巾着袋から適当な料理を取り出してテーブルに並べていった。


 辺りは帝国の領地のど真ん中だ、それも警備が厳重な砦の直ぐ側。

 本来ならばこれほど悠長に朝食など食べては居られないはずだ。

 しかし今日に限っては敵兵の気配は皆無で、周りの畑を耕しているはずの農民の気配すら、俺の『気配探知法』に引っかからなかった。




 朝食を手早に済ませ林の入り口へみんなで向かう。

 少し離れた小高い丘の上には、昨日の夜のセルフィアの攻撃で瓦礫がれきと化した砦が無残な状態を晒していた。


「帝国兵は……、居ないな。周りに気をつけながら砦へ近づいてみよう」


 遠巻きに見渡しても兵士の姿は見えない。

 晴天のすがすがしい天気とは裏腹に、辺りは気味が悪いほど静寂に包まれていた。



 砦に向かう道を徒歩で近づいていく。

 馬車は林の中に隠して来ていたので安心だった。

 でこぼこの土むき出しの道を歩いていく。

 近づくにつれて瓦礫が道や麦畑に散乱し始め、破壊の全貌ぜんぼうがわかってきた。


「見てくだせぇ、あんな大きな石の塊がこんな所まで飛んで来ていやす」


 ワンさんが嬉しそうに巨大な城壁の一部に駆け寄っていく。

 優にワンさんの背丈の三倍はあるであろう瓦礫の上に、勢いよく飛び乗っていった。


「なにか見えるか? 民間人は居ないのか?」


 瓦礫の下からワンさんに聞く。


「う~ん、見えやせんね、人っ子一人いやせん」


 獣人のチート級の視力でも動いている人を見つけることは出来なかった。

 この分では砦に行っても誰も生きてはいないだろう。

 もちろん未だに俺の『気配探知法』も人の気配を感じ取ることは出来ないでいた。




 丘の斜面をゆっくりと登っていく、この頃になると辺りは瓦礫で埋まっていて道などは無く、瓦礫を避けながら道なき道を進んでいった。


「あの辺が爆心地みたいだね」


 モーギュストが槍先で指し示した場所は、他の場所と違って地面が大きくえぐられていた。

 セルフィアが放った呪文一発で堅牢な砦は跡形もなく破壊され、砦の中心には大きなクレーターが出来ていた。


「我ながらすごい威力ね、あれでも抑えた方なのだけれど……」


 自分の呪文の威力に驚いているセルフィアは、黒檀の杖を見つめながら唖然としていた。


「それだけセルフィアが成長したということよ、良かったわね」


 アニーはにっこりと微笑んでセルフィアの肩をさすっている。

 リサも嬉しそうにセルフィアのことを見上げていた。




「さてどうしようか、ここに居てもどうしようもないな、次の目的地を決めて出発しようか」


 丘のふもとへ移動して手頃な瓦礫の上に腰掛ける。

 俺特製のスポーツドリンクをみんなに渡して一息つくことにした。

 休憩を利用して次に向かう敵の重要拠点を決めるために、みんなで話し合うことにする。


「今は丁度王国から真東の帝国側の国境付近だ。北へ向かうか南に行くか、もちろんこのまま東へ侵攻する選択肢もある、みんなはどこへ向かうのが良いと思う?」


「そうでやんすね……、南には山脈が広がっていて重要な拠点はありやせんね。行くのであれば北か東でさぁ」


「確か北東に向かえば帝国の首都があるのよね、もうめんどくさいから首都を目指して進んでいけば良いんじゃない?」


 ワンさんやセルフィアが意見を言ってくる。

 考え込んでいたモーギュストが話し始めた。


「いきなり首都へ行くのは反対だよ、たしか黒い悪魔は僕たちを帝国で待つと言っていたよね。であれば首都へ行けば奴と戦う確率が高くなると思うよ。今の僕達ではやつには勝てない、もっと帝国兵を倒してレベルアップをしたほうが良いと思う」


 いつも強敵と戦いたいと言い続けていたモーギュストが、帝国の勇者との決戦を避けようとしている。

 それだけ帝国の勇者が強いということで、仲間たちもモーギュストの意見に賛成のようだった。


「よし、それでは北に向かうか。北の重要拠点を全て潰してから帝国の首都へ行くことにしよう」


 仲間たちが俺のまとめた方針に同意をしてくる。

 瓦礫から立ち上がると馬車が隠してある林に向かうため、来た道を戻り始めた。




 ちょうど砦と林の中間の距離に差し掛かった時、眼の前の麦畑から年取った農夫らしき男が姿を現した。


「あんたがた砦の方から来たのかい? これは一体どういうことかわかるかい?」


 浅黒く日焼けをして、無精髭ぶしょうひげが生えた顔が驚いている。

 手にはかまを持ち、背中にはつたで編んだ大きなカゴを背負っていた。

 体はガリガリに痩せていてボロのシャツに革のズボン、足には何もはいておらず裸足で、とても困窮した生活をしていそうだ。


「爺さんこの辺の農民か? 俺たちは旅の冒険者だ。少し話を聞かせてくれないか?」


 とっさに冒険者を装って農民らしき男と話す。


「いいよ、こっちに小屋があるから休んでいきなよ」


 警戒心がない男は麦畑へ俺たちを案内する。

 少し行くと小屋というよりは風よけの壁みたいな木の囲いが見えてきた。

 囲いの中には何もなく、丸太を切った切り株が数個置いてある。

 そこへ男はどっかりと座り込むと、俺達にも座るように言ってきた。


 人数分の切り株がないので、女性陣と俺だけが座る。

 もちろんリサは俺の膝の上でにっこりとしていた。

 ワンさんたちには悪いが立っていてもらおう。

 モーギュストは辺りを警戒するために小屋の周りを見回していた。


「すまないな、なにもだすものがないんだ。この頃はお茶だって飲めないんだよ」


 農夫は汚い手ぬぐいで顔を拭いながら笑いかけてくる。

 口の中の歯は既に大半が抜け落ちており、血行の悪そうな歯茎はぐきが見え隠れしていた。

 俺は巾着袋から熱いお茶が入ったポットを出し、湯呑みにお茶を注いだ。


「おわっ! あんたどこから出したんだい? こんな熱いお茶なんて持ってなかっただろ!?」


 農夫にお茶を渡すと、大いに驚き丸太の切り株から転げ落ちそうになる。

 仲間たちにもお茶を入れた湯呑を渡し、一息ついた。


 適当に誤魔化してお茶を飲ませると、更にビックリして目を見開いた。


「あれまあ、こんな美味しいお茶飲んだことないよ、あんたら一体何者なんだ?」


「いや、さっき言った通りただの冒険者だよ、それより少し話を聞いていいか?」


「そうだったな、何でも聞いていいよ、美味しいお茶のお礼に答えるよ」


 警戒心のない農夫はお茶を美味しそうに飲んで上機嫌だ、俺の質問に快く答えてくれるらしい。





 さて、帝国の事情を聞き出そうか、何を知っているかわからないが、少しは有用な情報はあるだろうか。

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