169.レベル確認
セルフィアの急激な魔力の強化を見て、急遽レベル確認をすることになった。
仲間たち全員で馬車に乗り込む。
車内を『ライト』の呪文で明るくした。
車窓をカーテンで閉じ、外に明かりが漏れないようにする。
アニーに紙とペンを渡し、一人ずつレベル確認をしてもらった。
この世界にはレベルという概念がある。
レベルとは強さの物差しで、レベルが高ければ単純に強いということだ。
生まれた瞬間は誰でもレベル一だ。
そして普通に生活している分にはレベルは二で止まってしまう。
これが大多数の平民のレベルで、どんなに力が強かったり喧嘩が強くてもレベル三止まりだ。
冒険者になって魔物を倒すとレベルは飛躍的に高まっていく。
レベル五程度になれば平民にはまず負けない、調子に乗って暴れまわる冒険者崩れがでてくるのもこのレベル帯だった。
そこで登場するのが国の兵士で、平均レベルの高い兵士たちに、荒くれ者の冒険者達は捕まってしまうのだった。
さらに騎士になるとレベルは二桁に届くものも現れる、だいたいレベル十前後が騎士たちの平均レベルだった。
冒険者や兵士たちはレベルを常に気にしていた。
では、どうやってレベル確認をしているのかと言うと、それは教会で見てもらうのだ。
教会に所属している助祭以上の僧侶ならレベル確認をすることが出来た。
アニーは村の教会で助祭を勤めており、教会は脱会したがレベルを見ることは出来た。
背中をアニーに向けて静かにする。
アニーは小さな声でイシリス様へ祈りを捧げていった。
背中がポカポカと暖かくなってきてとても気持ちが良くなる。
アニーはイシリス様の神託を紙に書いていった。
全員のレベルを見終わり、俺に紙を渡してきた。
渡された紙をざっと見るが、一部に驚くべき内容が書いてあった。
「アニー、この紙に書いてあることは本当なんだな?」
「はい、イシリス様は嘘をおっしゃることはございません。全て本当のことですよ」
紙に書かれている内容を当然アニーはわかっている。
少し興奮しながら俺に語ってきたアニーは、感動に打ち震えているようだった。
「そうだよな、疑ったわけではないからな、変な誤解するなよ」
「わかっております、ご心配なさらないで下さい」
「よし、スキルに関しては前回と変わりはなかった。これは今後の課題だな、なんとか強力なスキルを取得しなければ帝国の勇者には勝てないと思う。ではレベルを発表する」
みんな俺に注目をする。
俺は順番にレベルを読み上げていった。
「まずワンさん、レベル二十七、前回より十レベル上がったな、かなり凄い上昇だ」
みんな驚いて声も出ない、レベルが二十以上の者など聞いたこともないのだ。
当の本人は神妙な顔をしてそれほど驚いては居なかった。
「ワンさん、どうしたんだ? 嬉しくないのか?」
「いえ、嬉しいことは嬉しいでやんすが、この頃の『白銀の女神』の戦力を考えると妙に納得するんでやんす。きっと他の仲間達も高いレベルでさぁ」
「ワンさん鋭いな、そこまでわかっているならどんどん発表していくぞ。続いてモーギュスト、レベル二十八、前回より十一レベルアップ」
モーギュストが小さく拳を握りしめた。
「アニー、レベル二十六、前回より十アップだ。リサ、レベル二十二、十二アップで倍以上の上昇だ」
アニーは既にレベルを知っているので冷静だ、驚いているリサの頭を撫ぜてニコニコしていた。
「そして俺、レベル二十五だ。前回より十一アップ」
一気に読み上げて最後の一人、セルフィアをまっすぐ見た。
「そしてセルフィア、一番成長が凄まじい結果が出た。レベル三十三、前回はレベル十八だったので、十五アップとなった。正直驚きの結果だな」
レベルを調べたことで魔法の威力が上がった原因がわかった。
これだけ上がれば威力が上がらないほうがおかしいのだ。
セルフィアは自分のレベルの高さに驚いているようだ。
いつものように小躍りはせず、喜びを噛み締めている感じだった。
「レイン様、レベルより大事な事をまだ言っていませんよ。みんなにも教えてあげて下さい」
アニーが俺をまっすぐ見て微笑んでいる。
何を言っているのかはわかっているが、発表するのを躊躇っていた。
「レイン、何なの? 早く教えて」
好奇心旺盛なセルフィアが発表を促してきた。
俺がアニーを見ると彼女は静かにうなずいた。
意を決した俺は、紙に書いてあるレベル意外の文字を読み上げていった。
「アニーの書いた紙の俺の欄に称号が付いていた。今から読み上げる」
仲間たちが固唾を飲んで発表を待っている。
「称号は勇者だ」
一同が驚き目を見開く、アニーは嬉しそうに笑ってイシリス様に祈りを捧げた。
「凄いわ! レインが勇者になったわ!」
セルフィアが俺に飛びついてくる。
「凄いでやんす! 旦那が勇者! とうとう勇者になられやした!」
「レインさん凄いよ! 僕鳥肌が立ってるよ!」
「お兄ちゃん凄いわ!」
みんな凄い凄いと大合唱だ。
俺はみんなにもみくちゃにされて祝福された。
今までも将軍や上級騎士に勇者と呼ばれていたが、称号に勇者と付くこととは意味が違っていた。
称号が付いたことで俺は名実ともに勇者となり、おそらく称号の恩恵をこれから受けることになるだろう。
予想される恩恵は、まず戦力のアップ、さらにレベルの上がり方にも変化があると思う。
周りに及ぼす影響もさらに高くなっていくだろう。
俺と行動をともにする仲間たちにもいろいろな恩恵が与えられると予想された。
「ちょ、ちょっと待て、話はまだ終わらないぞ。紙にはまだ他にも書いてあるんだ」
みんなを落ち着かせて更にイシリス様の神託を読んでいく。
「称号が書いてあったのは俺だけではない、全員の欄にも称号はある」
俺の発表に静まり返る。
騒いだり沈黙したり今日は忙しい日だな。
「セルフィア、アニー、リサ、ワンさん、モーギュストは、今日から勇者の従者だ」
みんな沈黙をしていて表情が余り変わらなかった。
アニーだけはうっとりとした表情をしていた。
「え? 称号がついたんだぞ。凄いことなんだよ?」
この世界で称号がつくのは、おとぎ話にでてくるような英雄たちだ。
どんな称号でもとても名誉なことで、喜ばしいことだった。
「だって勇者の従者ってことはレインの従者ってことでしょ? それなら今まで通りじゃないの」
「そうでやんすね、旦那が勇者なのはとても嬉しいでやんすが、あっしらは今までもこれからも旦那の従者でやんす」
「ワンさんの意見に賛成だよ」
みんな今更という感じで普通にしている。
「アニーはどうだ? やっぱり嬉しいよな?」
「はい、とても嬉しいです。レイン様の所有物みたいでゾクゾクします」
(聞く人を間違えたようだ、彼女はそっとしておいたほうがいいな)
「そ、そうか、それは良かったな……」
ちょっと引いてしまい、適当に返事をした。
砦消滅の真相は概ねわかった。
『シャルマン要塞』での戦闘の後に、レベルが急激に上がったことが今回の魔法の暴発につながったようだ。
ではなぜレベルが大幅に上がったのか、予想はだいたいつくが確信は持てなかった。
ここからは予想の範囲を超えないが、セルフィアのレベルの高さがヒントになっているような気がする。
『シャルマン要塞』で行ったことは二つ。
帝国兵を大量に殺害したこと、大猿を倒したこと。
この二つのうちのどちらか、あるいは両方が今回のレベルアップに繋がった可能性が高かった。
『白銀の女神』の中で一番敵を倒しているのは誰か、それは間違いなくセルフィアだ。
この世界に経験値というゲームの世界のような概念があるのかわからない。
しかし、あるとすれば経験値をたくさん獲得したセルフィアが、いちばんレベルがあがっていることは必然だった。
俺はこの考えを仲間たちに説明していった。
大人しく聞いていた仲間たちは、俺の考えに賛成をしてくれた。
「という事は、黒い悪魔を倒すためには、今まで通り敵を倒していけばいんでやんすね」
「まあそういう事になるな」
「じゃあどんどん倒していこうよ、僕頑張るね」
ひとまず謎は解けたと思う。
だいぶ推測の域を出ないが筋は通っているような気がする。
今夜はもう遅いので、明日に備えて寝ることにしよう。
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アニーが書いたメモ
[レイン…… 十九歳、 レベル…… 二十五、 スキル…… 縮地、気配消失、剛力解放、金剛硬化、魔力効率化、身体強化、健康、異世界言語、 加護…… 女神イシリスの加護、称号…… 勇者]
[セルフィア…… 十九歳、 レベル…… 三十三、 スキル…… 気配消失、魔力制御、魔法速詠唱、魔力効率化、身体強化、 称号…… 勇者の従者]
[アニー…… 十九歳、 レベル…… 二十六、 スキル…… 気配消失、魔法速詠唱、魔力効率化、身体強化、信仰、 称号…… 勇者の従者]
[ワンコイン…… 二十四歳、 レベル…… 二十七、 スキル…… 縮地、気配消失、剛力解放、金剛硬化、魔力効率化、身体強化、 称号…… 勇者の従者]
[モーギュスト…… 二十一歳、 レベル…… 二十八、 スキル…… 縮地、気配消失、剛力解放、金剛硬化、魔力効率化、身体強化、 称号…… 勇者の従者]
[リサ…… 十一歳、 レベル…… 二十二、 スキル…… 気配消失、魔法速詠唱、魔力効率化、身体強化、 称号…… 勇者の従者]