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164.外道成敗

『シャルマン要塞』を出立した『白銀の女神』は、帝国兵が跋扈ばっこする犯罪多発地帯に乗り込んだ。




 俺は何も無計画に要塞を飛び出したわけではなかった。

 逃げた帝国兵をそのまま野放しにするわけにはいかなかったのだ。

 食料も水も、何もかもを失った少なくない数の帝国兵が、辺り一帯に散らばったのだ。

 そこから考えられることは容易に想像できた。

 奴らは間違いなく民間人を襲う、一晩の寝床のため、一すすりの水のため、そしておのれの欲望を満たすため。

 敗残兵とはある意味、魔物よりも厄介な存在なのだ。



 奴らが向かう先は大小様々な町や村。

 今は帝国に実効支配されているが、ほんの数ヶ月前までは王国領だったところだ。

 魔物よりたちが悪い奴らを俺は野放しにするつもりはなかった。

 全ての人々は救えないが、残虐な行為をした敗残兵には天誅てんちゅうを食らわしてやらなければ気がすまなかった。



 俺は落ち武者狩りを派手にやろうと思っていた。

 それはなぜかと言うと、俺たち『白銀の女神』が、容赦なく帝国兵を追い立てればそれだけ奴らの逃げ足は早まり、略奪にあう町や村が少なくなるからだ。

 先の戦争のシャルマンの大地の虐殺者が追ってきているとわかれば、兵士は死にものぐるいで逃げるだろう。

 そんな中で悠長に町や村を襲うような馬鹿は少ないはずだ。




「ワンさんこの先に村があるはずだ、寄ってみてくれ」


「わかりやした」


 舗装もろくにされていないデコボコの道を黒塗りの馬車は疾走する。

 しかし、車体はもちろん御者席でさえ全く揺れてはいなかった。

 それは馬車に仕込んだ魔道具、車体の揺れを吸収し極限まで抑えてしまう魔法の器具が仕込まれていたからだ。

 通常では考えられないほどのスピードで、荒れ地を突き進む。


 ワンさんが操る馬車は、負傷したり病気で動けなくなって道端に伏せている帝国兵を、容赦なく轢き殺していった。

 まさか降伏状態にある自分たちを、殺して回る馬車がいるとは思わないだろう。

 手を振って気持ち悪い笑顔をしている帝国兵士を、車輪とわだちの間ですり潰していった。

 それを見て慌てて逃げた帝国兵をモーギュストの短槍が無慈悲に貫く。

 モーギュストの短槍の射程距離は普通の数倍は有る。

 不可視の穂先に貫かれて体に大穴を開けられた帝国兵は、なぜ自分が死ぬのかわからないというような顔をしていた。



 仲間たちが殺されるのをただ見ている兵士たちだけではない。

 ときには大人数で反撃してくる不届き者の一団もあった。

 そんな身の程知らずの無頼漢ぶらいかんは、更に悲惨な末路が待っていた。


 走る車両から放たれる幾筋もの光の線。

 リサが放った弓矢の一撃で、ならず者共の首はどんどん爆散していく。

 さらに小型のファイアーボールが、馬車の窓から飛んでくる。

 その数は数え切れない、数十にも及ぶ火球は、ならず者たちを容赦なく襲い爆発していく。

 馬に乗って逃げようとしても、どこまでも追尾して来る青白い火球が兵士を追いかけ回す。

 その火球のいやらしいところは、簡単に殺さないところだった。

 火球は体に当たるとじわじわと内部に侵入していく、そして数千度の熱でゆっくりと体を焼いていくのだ。

 その熱さに断末魔の悲鳴をあげ、辺り構わず転げ回る。

 内臓を全て焼き尽くした後、火球は盛大に爆発した。




 前方の空に煙が高く立ち上っているのを確認する。

 村のそこかしこから黒い煙が上がっているようだ。

 

(くそう、間に合わなかったか……)


 要塞に滞在すること三日、その遅延が目の前の村の悲劇に直結していた。

 もう少し早く出発すればよかった。

 しかし後悔してもしかたがない、あの村に帝国兵士はどのくらいいるのだろう?

 村にした非道をつぐなわせてやろう。

 帝国兵よ、地獄の苦しみを味わってもらおうか。



「総員戦闘準備! 前方の村へこのまま突っ込み敵兵を根絶やしにする! 女性陣は生存者の確保に勤めろ! 男性陣で帝国兵に村を襲ったことを後悔させてやるぞ!」


「「「「「「了解!」」」」」」




 俺は車窓から身を乗り出し、馬車の屋根によじ登る。

 高速で馬車が疾走し、顔に風がぶつかって来た。

 構わず前方を睨む。

 遠目に見える村の様子は悲惨そのもので、そこかしこで盛大に炎を上げていた。

 村へと続く道端には村人の屍が見え始めていた。

 きっと逃げようとして逃げ切れず殺された人たちだろう。


 道は小高い丘を通っていて村を見下ろす形になった。

 村の広場が見え、村人の死体が山のように積まれているのがよく分かる。

 その横には少ない数だが、まだ生存者がいるようだった。

 しかし処刑される一歩手前らしく、帝国兵の剣は丁度振り下ろされる瞬間だった。


(まずい! 殺されてしまう!)


 万事休すかと思った矢先、馬車から光の矢が放たれた。

 その矢は剣を振りかぶっている帝国兵の頭を射抜き、速やかに射殺した。

 窓の方を見ると車窓から身を乗り出し喜んでいるリサが見えた。


(さすがはリサだ、百発百中だな!)


 嬉しくなって声をかける。


「リサ、よくやったぞ! その調子だ! どんどん狙撃してくれ!」


「わかったわ、リサに任せてね!」


 右の車窓からはリサの矢が、左の車窓からはセルフィアの火球が、左右の窓からとめどなく攻撃が行われている。

 どんどん倒されていく敵兵を見て、俺達の出番はないかもしれないと思った。


 村を囲む丸太の塀は盛大に燃え上がり炎の壁のようになっている。

 既に一部分は全て燃え尽きて灰になっていた。

 炎が巻き起こっている村の入口に馬車は強行突入をする。

 俺の頬を炎がぜるが、『水神の障壁』を装備しているので、火傷することはなかった。

 煙と人の焼ける匂いが充満する村の大通りを広場めがけて突き進む。

 道端で休憩している帝国兵は全て『白銀の女神』の餌食となった。


「旦那、派手に行きやすよ! 捕まっていてくだせぇ!」


 ワンさんが馬車を操りながら振り向かず大声で言ってくる。


「わかった! 突入しろ!」


 馬車の上に腰を深く降ろし、刀を構える。

 馬車は路上のゴミや石ころを跳ね飛ばしながら広場に突っ込んだ。




 広場に突入した瞬間、ワンさんが手綱を思いっきり引く。

 急停止した馬車が横滑りしながら広場に横付けされた。

 停車する勢いを利用してバネのように空高く飛び上がる。

 上空からは広場の様子がよく分かった。

 そこかしこに拷問の末、殺されたと思われる村人の屍が見えた。

 さらに裸の女性の死体も見受けられる。

 生存者は残念ながらリサが弓矢で助けた人を含め数名だけだった。


(外道め! 同じ空気を吸うのも汚らわしい!)

 

 狙うは広場の奥で略奪品の酒をかっくらっている帝国司令官らしき男。


「死ね! クソ野郎!」


 刀を大きく上段に振りかぶった俺は、勢いそのままに司令官をぶった切った。

 脳天から股間にかけて一直線に刀を振り抜く。

 酒瓶ごと真っ二つに切り裂いた司令官は、血しぶきをあげながら真っ二つに分かれた。


「『白銀の女神』見参けんざん! 不逞ふていやからに天誅を下す!」


 司令官を真っ二つにされ、あっけにとられている兵士たちを睨みつける。

 すぐに兵士たちは恐慌状態におちいって逃げ出し始めた。


「逃しやせんよ! 苦しんで死ね!」


 逃げ惑う兵士たちの間をワンさんが縦横無尽に走り回る。

 ワンさんが通った後には、手足を刈り取られて達磨になった帝国兵士たちが地面に転がっていた。

 手足を切り取られてしまえばもう逃げられない。

 動脈から勢いよく鮮血をほとばしらせ、苦しみながら絶命していった。


「ゴミ野郎! しね!」


 モーギュストの責めはもっと苛烈かれつだ。

 短槍を目にも止まらない速さで突き出し兵士たちに穴を開けていく。

 胸や顔を突き刺された兵士はまだ運が良かった。

 腹や太ももをごっそり持っていかれた帝国兵は、死ねずにもがき苦しんでいる。

 回復魔法をかけなければ数分の激痛の後に絶命するだろう。



「一人も逃がすな! もっと苦しませてから殺せ!」


 怒りに任せて仲間たちに指示を出す。

 俺の指示を忠実に実行するワンさんたちは、更に残忍な方法で帝国兵たちを殺害し始めた。





 この村を襲った蛮行が、今そこかしこで起こっていると思うと居ても経っても居られなくなる。

 帝国兵への憎しみがオレの心を支配していた。

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