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160.異界の魔獣2

 帝国の勇者は巨大な顔無し猿を置き土産に去っていった。

 残された『白銀の女神』は、手強い大猿と戦う羽目におちいっていた。




 セルフィアの『インフェルノ』が大猿の口の中へ命中した。

 大爆発をともないながら青白い地獄の炎が大猿を包み込む。

 あっという間に火達磨になった大猿は、超高温の炎に耐えかねて地面の上を転がりまわった。


「ウキャキャキャキャキャアーッ」


 大猿の断末魔の悲鳴がシャルマン台地に響き渡る。

 大音量の悲鳴はやまびこになって峰々に木霊こだました。


「奴はこの程度では倒せないぞ、気を抜かず次の攻撃を準備しろ!」


 仲間たちに気合を入れる。

『白銀の女神』は、息の合った連携で大猿を取り囲んでいった。




 まず大猿の正面には守りの要、モーギュストが壁盾を構えどっしりと腰を落ち着ける。

 低い姿勢で大地を踏みしめて大猿の攻撃を一身に受けようとしていた。


 その斜め後ろには俺とワンさん、左右に展開して大猿のすきをうかがう。

 いつもは左右からの同時アタックが必勝の攻撃だったが、今回はいつもと勝手が違っていた。

 ワンさんの双短剣では、大猿の鋭く濃い体毛に阻まれて、攻撃が通りそうになかった。

 しかたがないのでワンさんには大猿の気を引くことに集中してもらい、俺がメインで攻撃をすることにした。



 俺たちの後ろには女性陣三人が陣取っている。

 攻撃の要である魔法使いのセルフィアが、中央で魔力を練っている。

 彼女が唱える強力な攻撃魔法は、数多あまたの魔物たちを消し炭に変えてきた。

 その横にはリサとアニー、二人が厳しい顔で大猿を睨んでいた。


 リサの役割は大猿への弓矢による牽制、俺たち直接戦闘組が危なくなった時、後ろから矢を放ち大猿の気をそらすのだ。

 更にリサには驚くべき才能が備わっていた。

 彼女の別の顔は精霊使い。

 万物を構成する有りと有らゆる精霊たちは彼女の味方だった。

 地の精霊ノームを使役してアース・ドラゴンの足を岩で固めたのは印象深かった。


 そして忘れてはいけない人物がいる。

 パーティーの要、絶対的な守護者アニー。

 彼女の唱える神聖魔法『神聖防壁』、何人たりともおかせない神の領域。

 その虹色に輝く聖なるバリアが、仲間たちの窮地をことごとく救ってきた。

 大司教の怒りの裁き、ドラゴンブレス、その他強力な敵の攻撃を跳ね返し、『白銀の女神』の安全を保証してくれていた。


 常勝の陣形は整った、後は俺の攻撃の号令を待つばかりとなった。




 大猿は地面を転がり炎を消そうともがく。

 しかし地獄の炎は執拗にまとわりつき、決して消えることはなかった。


 しばらく大猿の動きを慎重に見ていると、地獄の炎が唐突に消え去った。

 炎は現世にとどまるれる時間を超えて地獄へと戻っていったのだ。



「ウキャキャッ!」


 炎が消え去り大猿が勢いよく立ち上がる。

 驚くべきことに大猿には一切ダメージは入っておらず、渦から現れたときと同じで元気いっぱいだった。

 大猿は怒りに任せて地面を拳でたたき始めた。

 叩くたびに地面が揺れ、局所的な地震が起きる。


 俺は足を踏ん張り地震に耐えながら、大猿のタフさに驚きを隠せないでいた。



「モーギュスト、奴の攻撃を受け止めろ、自慢の壁盾で動きを止めるんだ!」


「オッケー!」


 モーギュストがジリジリと大猿へ近づいていく、小さな体の彼を大猿はまだ発見できずにいた。


「こいつ目が無いから僕を発見できないのかな? どんくさいやつだな」


 彼を無視して目の前で暴れている大猿に、しびれを切らしたモーギュストが短槍を突き入れた。


 ガキンと音がして分厚い体毛に短槍を弾かれる。

 攻撃された大猿は動きを止めてモーギュストに向き直った。


「やっとこっちに気づいたか、なにか攻撃してみろ!」


 更に短槍を突き出し、大猿の腹の部分を狙う。

 大猿は太い腕で短槍から腹をガードしてその場にうずくまった。


「何だこいつ、臆病な奴だな!」


 嬉しそうに短槍をチクチクと突き刺す、大猿は両腕をお腹に当てて更に丸くなった。


「モーギュスト! あまり相手を挑発するな!」


 モーギュストの軽率な行動を俺はたしなめる。


「オッケー、もうしないよ」


 俺に返事をしてくるモーギュストが一瞬気を抜いた。




 ドッゴッンッ!




 爆音と衝撃波が突如俺の顔に叩きつけられた。

 地面が盛大に揺れ思わず尻餅をつく。

 何事かと大猿を見ると土煙が舞っている。


「モーギュスト! 大丈夫か!?」


 視界が戻ってくるとモーギュストはその場にひざを付けていた。

 大猿の三本目の腕、本来頭が有る部分から生えている腕が真上からモーギュストを殴りつけていた。


「いててて、何だこいつの攻撃は、こんな攻撃受けたこと無いぞ……」


 壁盾を真上に掲げかろうじて拳の直撃を避けたようだ。

 しかし今までモーギュストを潰したのはアトラスさんぐらいしかいない。

 しかも全身鎧は強化したはずだ、大猿の攻撃力は強大だと言わざるを得なかった。



「レインさん! こいつの攻撃やばいよ! 気をつけて!」


(お前が気をつけろよ!)


 俺は心の中で叫んでしまう、モーギュストはどこまで脳天気なんだ。


「なかなかやるじゃないか! 僕も本気を出すぞ! 『パイルバンカー』!」


 怒ったモーギュストは本気を出したようだ。

 彼は守備に徹するため壁盾を変形させた。

 壁盾からアダマンタイトのくいが勢いよく地面に突き刺さる。

 更に杭を伝わり魔力が周辺の地面へ流れていく。

 すると、みるみるうちにモーギュストの周りの地面が灰色に変わっていった。

 灰色の正体は超硬質の土台、地球で言えば超硬質コンクリートだった。




『パイルバンカー』、盾職の技能の一つで盾から杭を地面に打ち込む技。

 盾を固定することによって強固な防御陣地を形成して、強力な攻撃を受け止める。

 その場に小型の砦が出現する守備特化の防御スキルだ。




「更に行くぞ! 『金剛硬化』! 『ヘイト』!」


 モーギュストが呪文を唱えた瞬間、大猿の様子が明らかに変化した。

 今まで落ち着かずにキョロキョロしていた大猿が、モーギュストだけを凝視して固まったのだ。

 盾職定番の呪文『ヘイト』は、対象の興味を一身に受け、攻撃を集中させる自己犠牲の呪文だった。


 呪文を掛けられた大猿は、俺たちを無視してモーギュストにこだわり続ける。

 体を極限まで固くする『金剛硬化』のスキルで小型砦になったモーギュストは、大猿の攻撃を受け続け耐えきる覚悟だった。


「レインさん、安心して攻撃に専念してね! こいつの攻撃はすべて僕が受け止めるから!」


「よし! 総員攻撃開始! 大猿を倒しに行くぞ!」


「わかりやした!」


「任せなさい!」


 仲間たちの返事を背に『縮地』を使い大猿に急接近する。

 その間にもモーギュストは大猿の執拗しつような打撃攻撃を受け続けていた。

 一発一発がとても重い音がする。


 ドッカン、ドッカン、ドッカン、ドッカン。


 三本の腕は代わる代わるモーギュストを殴り続ける。

 俺やワンさんなら一撃で即死してしまうような重い打撃を、とめどなくモーギュストは受け続けていた。


(やはりモーギュストはすごいな、新型の鎧も調子良さそうだ)


 横目で大猿を見ながら攻撃箇所を吟味していく、剛毛に覆われた大猿の体表は、生半可な攻撃では傷一つ付けられないだろう。

 狙うは急所、まず口の中、そして関節だ。





 大猿のまわりを『縮地』で動き回りながら、俺は奴の弱点を探るのだった。

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