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147.威力が違いすぎる

 敵兵が待ち受ける城内に、『白銀の女神』は突入するのだった。




 叙爵じょしゃくの時に訪れたことのあるオルレニア城。

 いつもだったら、王城の扉の両脇には着飾った近衛兵が立っていて、にらみを利かしているはずだった。

 しかし今は誰もいない。

 俺は本来の王城の様子を思い浮かべた。




 見上げるほど大きな両開きの扉を開けると、贅沢の限りを尽くしたエントランスホールが目に飛び込んでくる。

 クリスタルで作られた大シャンデリア、床は総大理石で磨き上げられている。

 鏡のようなピカピカの床に高価な絨毯じゅうたんが敷かれ、訪れる客たちを驚かせていた。

 エントランスの両脇には二階へ登る流線型の階段、中央を進むと一度に数百人が踊れる大ホールが広がっていた。




 現実に引き戻された俺は、王城のひどい有様に、いきどおりを覚えていた。

『オルレニア王国』の象徴たる豪華絢爛ごうかけんらんな王城は、焼け落ち、至るところが崩壊して、無残な姿に変わり果てていた。

 壁は火災で崩れ落ち、すすにまみれて見る影もない。

 美しい貴婦人たちを映していた大鏡も粉々に砕かれて辺りに散乱していた。


 二階の目立つ壁に掲げられていた王国の旗は、切り裂かれ焼かれて床に打ち捨てられている。

 王国貴族の俺は、この無礼な行いを許すことは出来なかった。


「ここには敵はもういないな、恐らく敵は謁見の間へ移動しているはずだ。国王陛下はそこで籠城しているに違いない、みんな俺に続け!」


 一丸となって王城の奥へと進んでいく、一度叙爵のために来ているので迷うことはなかった。



 広い廊下をひた走る、まるで『ミドルグ迷宮』の十九階層を探索している錯覚に陥った。

 しかしいたる所に見える暴力の痕跡は魔物の仕業ではない。

 まごうことなき人間の仕業で、王国の宿敵、帝国兵士による悪行だった。




「なにやつだ!? 止まれ!」


 角を曲がると帝国兵士たちが現れだした。

 走る速度を緩めること無く兵士たちを刈り取っていく。


「邪魔でやんすよ!」


 高速で敵に近づいたワンさんが、すり抜けざまに短剣を走らす。

 重装備の兵士たちは喉元や脇の下をすっぱりと切られて鮮血をほとばしらせた。

 たまに首が胴体から切り離されて床に転がる。

 魔法の双短剣によるクリティカルヒットで、過剰な攻撃が兵士たちを瞬殺していった。



「どけよ! 雑魚が!」


 壁盾を前面に突き出しモーギュストが突進する。

 防御しても逃げてもお構いなしだ、容赦ない盾の圧力が帝国兵士を襲う。

『シールドチャージ』の圧力で、ぼんぼんと水風船のように兵士たちが爆散して血の雨が降り注いだ。



「ウィンドカッター!」


 不可視の刃が連続してセルフィアの杖の先から放たれる。

 鋭利な風の刃が兵士たちの首を連続して刈り取り、血の噴水が辺りに降り注いだ。


 リサも負けてはいない、ミスリルの弓から矢を速射していく。

 走りながら高速で打ち出される必殺の矢は、正確に敵兵の眉間みけんに突き刺さり確実に絶命させていった。


 俺はみんなの後をついていくだけだ。

 人間には過剰なほどの戦力で俺の出番はなかった。


「その角を曲がれば謁見の間だ! 国王陛下はそこにいるぞ! 止まらず進め!」


 敵を蹴散らしながら突き進む。

 角を曲がったその先にバリケードが築かれていて、帝国兵士が大量に守っていた。





「総員、撃て!」


 敵の指揮官から号令で一斉に魔法兵から攻撃呪文が放たれた。

 ファイアーボールやウィンドカッターが、大量に俺たちに降り注ぐ。


 たかだか六人のパーティに対して過剰なまでの数の暴力で、爆音がとどろき巻き上がる粉塵で辺りが真っ暗になった。


「第二射、構え!」


 視界がまだ回復しないうちに、帝国兵は次の呪文を唱え始める。

 呪文が完成するのが時間がかかるようで、魔法兵から次の攻撃が来ることはなかった。



「イフリートよ、我に応えよ……」


 もうもうと煙が立ち込める通路に、鈴の音のような澄んだ声が響き渡る。


「炎の束はすべてを貫く業火のくさび……」


 帝国兵たちが煙の向こう側で、ざわめき動揺しているのが俺の『気配探知法』で手にとるようにわかった。




「隊長! 撤退を進言します! 強大な力を持つ魔導師が敵にいます!」


 副長クラスの魔法兵が指揮官に進言する。

 顔色は真っ青で、聞こえてくる呪文が完成した時の威力を理解しているようだった。


「ええい! どこに逃げるというのだ! 後ろには勇者様がいるのだぞ、ここを死守するのが我々に課せられた使命だ! 総員バリアを張れ! 持ちこたえるのだ!」



 少しずつ土埃が収まり微かに帝国兵が見えてきた。

 指揮官が防御魔法を指示している。

 魔法兵は幾重にもバリアを張り、襲い来るであろう強力な攻撃魔法に備えていた。


 視界が完全に開けると、帝国兵士たちが騒ぎ始めた。

 俺たちは七色に輝くドーム型のバリア、それも尋常じゃない強度の防壁で守られていたのだ。

 そしてセルフィアの大魔法は完成一歩手前まで来ていた。

 青白く輝く地獄の炎、決して消えない炎のたばが、高速で回転しながら帝国兵へ狙いをつけていた。


 帝国兵達の脳裏には、絶望しか言葉が思い浮かばないだろう。

 視界が晴れたら確実な死が目の前に現れたのだ。

 敵の指揮官などは腰を抜かして地面に座り込んでしまっていた。



「そなたの力を我に分け与え、我と敵対する敵を貫き通せ……、インフェルノ!」



 呪文が完成する。

 セルフィアの頭上から大質量の青白い炎が一直線に突き進んだ。



 閃光、爆音、爆風、灼熱、消滅。



 わずか数十メートル先の通路が一瞬にして蒸発してしまった。

 爆風が通路にあるすべてのものを吹き飛ばし、通路にある窓ガラスは粉々に吹き飛ぶ。

 更に熱が場を支配してあらゆるものが燃え上がっていった。


 帝国兵の指揮官を始め魔法兵らは、バリアで持ちこたえようとしたが、一瞬で吹き飛ばされる。

 吹き飛ばされながら地獄の炎に焼かれて塵すら残らず消し飛んだ。

 帝国兵を消し炭に変えた地獄の炎は、速やかに消えてなくなる。

 セルフィアの求めに応じて地獄へと帰っていったのだ。


 「セルフィア、炎を制御できるようになったのか?!」


 「インフェルノの炎だけよ、あの炎は特別なの」


 難しい呪文制御をしたようで、額には玉のような汗が浮いている。

 セルフィアの呪文によって王城が更に炎上をしなくてホッと胸をなでおろした。


 通路の奥の謁見の間に繋がる扉が盛大に吹き飛んでいる。

 果たして国王陛下は無事だろうか。




 俺たちは一気に謁見の間へなだれ込んだ。

 敵兵は国王を守る近衛騎士団と対峙していて微動だにしない。

 帝国兵の横をすり抜け近衛騎士の前に滑り込んだ。


「陛下! ご無事ですか!?」


 玉座の前に陣取る帝国兵を睨みながら、陛下の安否を確認する。


「おお! その声はアメツチ卿ですか!?」


 話しかけてきたのはゴルドン・マックステープ、叙爵の時の使者で俺に色々と便宜べんぎを図ってくれた騎士だった。

 彼は『オルレランド王国』第一近衛騎士団、副団長の肩書を持つ現役の武人だった。


「ゴルドン卿ですね!? 助太刀に馳せ参じました! 陛下はご無事ですか!?」


「陛下はご無事だ、アメツチ準男爵、王国の危機によくぞ駆けつけてくれた礼を言うぞ」


 ネルソン・ボドワン宰相も無事のようだ、声が震えてひどく興奮しているようだ。

 宰相の陰に国王陛下と王妃殿下、そして幼い皇子様たちが確認できた。


(よし、なんとか間に合った、国王陛下さえご無事ならば王国を再建できる) 




「もう少しのところだったのに邪魔しないでよ」


 帝国兵の中から黒いローブを来た男がゆっくりと現れた。

 ローブで顔はわからないが、かなりの強者だと俺の勘が言っている。


 高価そうな木の杖、上等な魔法のローブ、間違いなく帝国へ侵入した首謀者はこの魔術師に違いなかった。





 危機は去ったかと思ったが、どうもそうではないらしい。

 目の前のローブの男を倒さない限り王国に未来はなさそうだ。  

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