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146.事態を打開せよ

 大炎上中の王城へ駆けつけた『白銀の女神』は、群がる帝国兵士たちへ反撃の狼煙のろしを上げるのだった。




 帝国の誇る重装歩兵団の一人が首を刈り取られて絶命した。


「て、敵襲!」


 帝国騎士の誰かが大声を上げる。

 余裕だった雰囲気は一気に騒然となり混乱の極みに達する。


「なんだ!? 何が起きている!」


 見えない何かに攻撃されて指揮官は混乱していた。

 きょろきょろとあたりを見渡すが、敵の気配はまったくない。


「重く鈍い犬は死を待つだけだ」


 指揮官の耳元でささやきが聞こえた。


「うわっ!」


 飛び上がって驚いた指揮官は辺り構わず長剣を振り回した。

 ガツンガツンと長剣が味方の鎧にぶつかる。

 指揮官の乱心に動揺した兵士たちが隊列を崩し分散した。


「隊長! どうしたんですか!?」


「隊長やめてください!」


 未だに長剣を振り回している指揮官を、どうにかなだめようと兵士たちが問いかける。

 めちゃくちゃに暴れまわっている指揮官は、全く話を聞いてはいなくて手がつけられる状態じゃなかった。



 隊長を中心にして一陣の風が吹き荒れた。

 あれ程暴れていた指揮官が急に立ち止まる。

 ガランっと音を立てて長剣を手放した。


 次の瞬間、全身から血が吹き出して鎧を染め上げていった。

 流れ出る血の量はとても生きていられる量では無く、指揮官は絶命していると思われた。

 ゆっくりと指揮官が地面に崩れ落ちる、地面にぶつかるとバラバラに鎧が外れ手足が辺りに散乱した。



 指揮官の身になにが起きたかと言うと、『気配消失』で姿を消したワンさんが鎧の隙間に短剣を突き刺し、ありとあらゆる体の箇所を綺麗に断ち切ったのだ。

 体をバラバラにされた指揮官は、大量の血を吹き出しながら床の上に散乱したのである。

 それを一瞬のうちにやり遂げたので、指揮官は一気にばらばらになったのだ


「ひぃぃぃ」


「うわぁぁぁぁ」


 一斉に兵士たちが逃げ惑い始めた。

 しかし逃げおおせた兵士は一人もいない。

 次々に首が刈られてころころと床を転がる。

 ワンさんの魔法の双短剣の切れ味は、帝国自慢の全身鎧を安々と貫き、一太刀ごとに命を刈り取っていった。




 ワンさんが城門で帝国の重装歩兵を排除している頃、俺は城門付近をまわりながら、王国兵士を攻撃している帝国兵士を排除していた。


「『刺突』!」


 帝国兵に急接近して俺は刀を突き出した。

 紙のように鎧の装甲を貫き兵士は絶命する。

 命を刈り取る感覚が刀から腕へ伝わってくる。

 しかし何の感情も湧いては来なかった。


 刀を横一線に振り切り、不可視の刃を前方に飛ばす。

 帝国で十指の剣の達人に選ばれている隊長格の騎士が、俺と切り結ぼうと長剣を構えていた。

 その帝国騎士の胴体が、ヘソの上と下に綺麗に切り分けられた。


 ドシャ!


 臓物が地面に音を立てて流れ落ちる。

 何が起きたかわからない騎士は構えた長剣をゆっくりと下ろし、自分の腹を見下ろした。

 視界が斜めに崩れていく、騎士が最後に見た風景は自分の下半身がゆっくりと倒れていく光景だった。



 その場を指揮していた騎士が倒されたことで、帝国兵士の士気が急激に低下する。

 数の上で劣勢に立たされていた王国兵士も、徐々にだが形勢を盛り返して優位に立ち始めた。


「王国兵! 固まって事に当たれ! 多数で各個撃破するんだ!」


 俺の指示に少なくない兵士たちが反応して集団が形成されていく。

 数は比例して戦力が上がっていく。

 一人よりは二人、二人よりは三人、複数で攻撃にあたって帝国兵士を倒していった。

 しかしまだまだ帝国兵士のほうが数は圧倒的に多い、俺は劣勢と思われる場所を優先的に動き回り、一撃のもとに帝国兵士の命を刈り取っていった。


「アメツチ様! ありがとうございます!」


 不意に声をかけられる。

 王城に俺の名前を知る兵士などいただろうか?


 声の方向を見ると、今日騎士詰め所で青い顔をしていた上級騎士がいた。

 鎧は血まみれで全身鎧はところどころヘコんでいる。

 兜はとうの昔に吹き飛ばされてしまって、そのため顔が確認できたのだ。


「ん? お前は詰め所に今日いたやつだな? 一体どういうことだ、なぜ王城が襲われているんだ?」


 近寄ってきた上級騎士に現状の説明を求めた。


「申し訳ございません、我々の警戒が突破されたようです。敵は城内の中庭に突如現れました。黒いゆらめきとともに大勢の帝国兵士が雪崩なだれを打って押し寄せてきたのです」


「黒いゆらめきか、心当たりはあるのか?」


「いえ、全く見たこともありません、何が何だか分からないのです」


 今にも泣き出しそうな上級騎士はその場に崩れ落ちる。

 よく見ると脇腹が大きく斬られていて大量の血が流れていた。


「おい、これを飲め」


 巾着袋からポーションを取り出し上級騎士に与える。


「ありがとうございます」


 礼を言って一気にポーションをあおると身体が輝き出した。

 俺が与えたのは回復ポーション、貴重な上級ポーションだった。

 みるみるうちに傷がふさがり、顔色も良くなってくる。


「おお! まさか上級ポーションですか!? こんな貴重なものを頂いてしまって申し訳ございません」


 金額にして金貨一枚、おいそれとは使えない超高額ポーション、一介の騎士には到底お目にかかれるものではなかった。


「気にするな、その程度ならいくらでも持っている。部下にも飲ませてやれ」


 大量のポーションを巾着袋から取り出す。

 驚き固まっている騎士の腕に抱えきれないほどのポーションを持たせた。


 俺が話している間に城門前の戦闘は決着がつき始めた。

 敵は数えるほどしか立っておらず、今は王国兵士がまだ息のある帝国兵士にとどめを刺していた。


「お前達! アメツチ準男爵様がお助けしてくれたのだ! 感謝しろ!」


 上級騎士が大声で呼びかける。

 呼びかけに反応して兵士たちが勝鬨かちどきをあげた。



「レインさん! 待って!」


 アメツチ家の旗をたなびかせてモーギュストが走ってくる。

 その後ろからは『神聖防壁』を展開した女性陣が駆け足で近づいてきた。


「エレオラか! 無事だったのだな!」


 上級騎士がエレオラの顔を見て喜んでいる。

 なんだかんだあったが可愛い部下なので嬉しそうだ。


「上官殿、ご無事ですか! 皆はどうしました!?」


 エレオラはあたりを見回していく、少なくない王国騎士や兵士が帝国兵の凶刃きょうじんによって命を奪われていた。



「エレオラ、ここに留まって兵士を再編成しろ、敵の第二波が来るかもしれないからな。俺たちは王城内部に向かう、国王陛下のことは任せろ」


「かしこまりました、レイン様もお気をつけてください」



「みんな集まれ! 城内に突入するぞ! 敵兵には容赦するな、国王陛下をお救いするぞ!」


「「「「了解!」」」」


 城門に向かって走り抜ける。

 途中でワンさんが合流して、総勢六人と一匹の『白銀の女神』最強の布陣が完成した。




 城の中庭は両国の兵士たちのしかばねで埋め尽くされていた。

 中庭の至る所に黒い空間が浮いていて、空間の中には闇が渦巻いていた。


「セルフィア、あれがなにかわかるか?」


「そうね……、あたしの推測だとワープホールの一種だと思うわ。人や物を一瞬にして運ぶ穴のことよ」


「あっしも聞いたことがありやす、闇魔法の一種で禁忌きんき魔法だったはずでさぁ」


「禁忌魔法ってなんだ?」


「禁忌魔法はあまりに危険だったり、倫理的に使っちゃまずい魔法のことよ。ワープホールは便利だけど、今回みたいに使われると危険だから民間レベルでは使ってはいけないのよ」


 セルフィアが詳しく教えてくれる。


(さすが魔法使い、専門外の魔法にも精通しているな)


「でもおかしいわね、ワープホールが禁止されているのは民間だけなの、だから国家間の戦争などには使われた例があるわ。だから王城などの重要な施設は、ワープホールが使えないような妨害魔法が掛けられているはずよ」


「その妨害魔法が今回は機能しなかったということか」


「そうね、術者が殺害されたか……、あるいは妨害魔法の魔道具が破壊されたか、どちらにしてもかなり優秀な魔法使いが相手側にいるということね」



 未だに渦巻いているワープホールを俺たちはどうすることも出来ない。

 ここは放置して城内に移動したほうがいいだろう。


「よし、ここはほっといて城内に移動するぞ、敵の本隊に近づくことになるから気を引き締めていけ」





 城内は今どのような状況になっているのか、不安だが国王陛下をお救いするのが俺たちの使命だ。

 大きく開け放たれている王城の正面の扉を慎重に通り抜けるのだった。

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