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144.戦火に巻き込まれるか?

 エレオラのおすすめのゲテモノ料理屋で舌鼓したつづみを打った。




 宿屋に戻ったのはだいぶ遅い時間で、さすがに王都の町中も閑散としていた。

 しかし、さすがは高級宿『王室御用達 金色こんじき真鮒亭まぶなてい』、俺達が宿の扉を開けると従業員が出迎えてくれた。


「おかえりなさいませ、レイン様、皆様。お疲れでございましょう、お飲み物をお持ちいたしますのでリビングの方でおくつろぎください」


 深々と頭を下げて完璧な接客をする。

 俺は感心してしまい、少なくないチップを従業員に渡した。

 従業員は感激して何度もお礼をしながら部屋まで案内してくれた。



 最上階のリビングでみんなくつろいでいる。

 香り高いお茶がみんなの前に置かれていて、ホッとしたひとときを過ごしていた。

 リサは俺の膝の上でうつらうつらしている。

 優しく頭をなでてあげると、目をつぶって寝てしまった。

 そっと抱き上げると寝室へ運ぶ。

 柔らかな毛布をかけてあげると、小さなかわいい寝息を立て始めた。



 リビングに戻ると早速ワンさんの報告を聞くことにする。

 食事へ行く前のワンさんの厳しい顔を思い出して気を引き締めた。


「ワンさん、今日取得できた情報を教えてくれ」


「わかりやした」


 ワンさんが話し始めようとすると、エレオラが部屋から出ていこうとする。


「エレオラ、お前もここにいろ、別に隠すことはないからな」


「はっ、かしこまりました!」


 エレオラは直立不動で俺が座っているソファーの後ろに立つ。

 完全にボディーガードの立ち位置だった。

 別に警戒しなくてもいいのだが、本人がしたいなら勝手にやらせておこう。



「あっしのシーフ仲間から仕入れた情報でやんす。まずボスの情報は残念ながら取得で来やせんでした。でも他に厳しい情報を仕入れやした」


「続けてくれ」


「今『オルレランド王国』と『ゼブナント帝国』が戦争をしているのは知っていると思いやすが、『オルレランド王国』の有利だと思われた戦局がどうやらくつがえされたようでやんす」


 リビングに衝撃が走る。

『オルレランド王国』が有利なのは事前の情報から明らかなことだったので、なぜ『ゼブナント帝国』が有利になってしまったのか皆目見当もつかなかった。


「ちょっとまってくれ、確か王国の圧勝で終わるはずじゃなかったのか?」


「あっしの事前情報でもそう分析してやした。でもなぜか国境からだいぶ内陸まで戦線が押されてしまっているそうでさぁ」


 王国は連戦連敗で国境線はおろか、内陸部の主要な砦まで落とされているらしい。

 それも尋常じゃない速度で陥落されていて、人間業ではないということだ。




「召喚勇者か……」


 俺のつぶやきに一同が注目する。


「レイン、なにか知っているの? 召喚勇者て何?」


「これは未確認情報なのだが、帝国の切り札として異世界から勇者を召喚したみたいなんだ。もちろん戦争に勝つため、前線に投入されているはずだよ」


 暗い空気がリビングを支配する。


「私は一介の騎士なので勇者のことは知りませんでしたが、戦況がかんばしくないのは伝え聞いています。近々予備役の招集及び、傭兵の大量雇用を実施すると噂されております」


 エレオラが情報の裏付けを語る、ワンさんが仕入れてきた情報はガセではないようだ。


「エレオラ、戦線はどこまで後退しているんだ?」


「詳しいことは私は知りません、しかし楽観視していられる状況ではないと思います」


 王都観光に来たつもりが、戦争に巻き込まれてしまうかもしれなくなった。

 初日からこんなことでは先が思いやられるな。



「勇者の情報がほしいところだな、もしかしたら俺たちで対処しなければいけなくなるかもしれない」


「どうして? そんな危ないこと私達には関係ないでしょ!」


 セルフィアが泣きそうな顔で訴えてくる。


「俺だって戦争なんか行きたくないよ、しかし俺の勘だが召喚勇者は俺が来た世界の住人のような気がするんだ。もし同じ世界、同じ日本人なら会って話をしなければならない。そして暴力で人々を苦しませているなら、俺が止めなければいけないんだ」


 面白おかしく人を殺める人間は少なからず存在している。

 その勇者が殺人鬼だとは断定できないが、同郷の人間が仮に殺人鬼だとしたら俺が倒さなくてはいけない気がした。


「俺達もだいぶ強くなった、しかし召喚勇者が俺と同じ国から来たのなら、更に強い力を持っていてもおかしくないんだ。それだけ異世界転移というのは怖いことなんだよ」


(俺と同じように神様に導かれていたら、チート持ちの可能性が高い。そうなれば能力次第で俺なんか片手で倒せるやつが、この世界に来ているかも知れないな)



「あの……、レイン様は勇者様なのですか? 話がよくわかりません」


 事情を知らないエレオラが思わず俺に質問をしてくる。


「エレオラ! 旦那様のことを詮索するな! お前はまだ正式な家臣ではないのだぞ!」


 ワンさんが鋭い怒声を響かせる、その有無を言わせない迫力にエレオラは縮み上がった。


「も、申し訳ございません、出過ぎた真似をいたしました」


 その場にひざまずいて固まってしまう。


「ワンさん、そのくらいにしてやれ、エレオラも悪気はなかったんだろう」


「わかりやした」


 睨みを効かせていたワンさんが俺をみて微笑む、その変わりようにエレオラは青い顔をしていた。


(ワンさんは俺の命令には絶対だからな、少々やりすぎのところもあるけどね)



「エレオラ、今日ここで見聞きした事は誰にも言ってはいけないよ。言えば大変なことになってしまうからね」


「はっ、わかりました! 騎士エレオラ、命に代えましても情報を漏らしません!」


(エレオラがどこかの組織に捕まって、俺の情報を強引に聞かれたら、「くっ、殺せっ!」とか言うのだろうか……)


 ちょっとおもしろい妄想をして一人でにやけてしまった。




「明日王城へ行って確認してくる。ワンさんは引き続き情報を取得してくれ」


「わかりやした」


「エレオラ、明日は王城へ行くぞ案内しろ」


「はっ、わかりました」


 直立不動で敬礼する、彼女の甲冑がキラリと光った。




 今日はもう遅いのでお開きとなった。

 俺は一人でリビングに残り、考えにふけっていた。

 すっかり夜遅くなってしまって、仲間たちは全員寝てしまったはずだ。

 ふと後ろを振り返るとエレオラが微動だにせず直立している。

 騎士エレオラは俺が寝るまで警護するつもりのようだった。

 いつまでも立たせているのも可哀相なので、寝室へ移動することにする。


 エレオラは俺の下僕なので一緒の寝室で寝泊まりしてもおかしくないだろう。

 別に同じベッドで寝るわけではない。

 高級宿の寝室にはいくつものベッドが備え付けてあるのだ。


 カシャカシャと音を立てながらエレオラが鎧を脱いでいく。

 鎧の下の厚手のチョッキの上には鎖帷子くさりかたびらを着込んでいた。


「エレオラ、その鎧結構重いんじゃないのか?」


「いえ、自分は『身体強化』スキル持ちなのです。ですから多少の重量なら平気です」


「そうだったのか、いらぬお世話だったようだな」


「お心遣いありがとうございます、とても嬉しいです」


 重そうな鎖帷子を脱ぐと鎧掛けに丁寧にかけていく。

 先に脱いでいた鎧や兜や小手、すね当て付きのロングブーツを鎧掛けに取り付けていった。

 頑丈な生地のズボンを脱いでいく、すらりとした長い足がその場に現れた。

 身につけているのはピッタリとした薄手の下着だけになった。 

 痩せていると思っていたエレオラの体は、意外と肉付きがよくナイスバディーだ。

 生唾をごくりと飲みエレオラの体を凝視する。

 エレオラは恥ずかしそうにしながらも、決して隠そうとはしなかった。


「レイン様、夜のお世話の覚悟もできております。湯を浴びてまいりますので少々お待ち下さい」


 一礼をしてエレオラが浴室に消えていく。

 俺は鼻の下を伸ばしてしばし待った。









 ドンドンドン、ドンドンドン。


 隣のリビングの廊下につながる扉を叩く音がする。

 エレオラはまだ浴室から戻ってこない。


 ドンドンドン、ドンドンドン。


 尋常じゃない叩きからして緊急事態が起きたようだ。


「どうした! 何があったんだ!?」


 寝室からリビングへ移動し、廊下への扉に走り寄る。


「夜分すみません! 緊急事態でございます! 王都が燃えております!」


 従業員の言葉に急いでリビングのバルコニーへ駆け寄る。

 窓を開け放って外に出ると王城の方角が赤く燃え上がっていた。





「みんな! 起きるんだ! 緊急事態だ! 王城が燃えている!」


 廊下へ出ると大声で仲間たちを叩き起こす。

 情報は少ないが、王城で何かが起きていることは明白だった。

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