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142.食わず嫌いはダメ!

 騎士エレオラは仲間になった。

 王都にいる間だけだが、俺の家来になったのだ。




 夕飯を食べるためみんなで夜の王都へ繰り出す。

 女性陣三人は今まで食べ歩いていたにもかかわらず、まだまだ食べる気満々で底なしの胃袋に驚いてしまった。


「レイン様、この騎士エレオラに今宵のゆうげの店を任せていただけないでしょうか、決して失望させないと誓います!」


 鼻息荒く進言してくる。


「そうか、じゃあ頼むよ。味はもちろんだが、珍しい店に連れて行ってくれ」


「珍しい店ですね! ちょうどぴったりの店を知っております! 任せてください!」 


 正直どこが美味しいかなんてよくわからない、自称王都に詳しいエレオラに任せれば良いんじゃないだろうか。




 エレオラの案内で王都の東の地区へ一行は移動した。

 西地区にある宿屋からは結構な距離があるので、二台の辻馬車に乗り込み移動することにした。

 全員で七人と一匹、ちょうど二手に別れての移動だ。

 王都の夜は明るい。

 街灯の代わりに魔法の玉がそこかしこに浮かんでいて、石畳の道を照らしている。

 嘘か真かこの光の玉は一人の魔術師が操っているということで、それが本当だとしたら相当な魔力を持つ者か、はたまた国宝級の魔道具が王都にあるということだろう。

 真相はわからないが明るいのは事実で、夜になっても王都の通りからは人がいなくなることはなかった。




 王城の城壁が光球に照らされ幻想的な影ができる。

 お堀の縁を辻馬車はゆっくりとした速度で移動する。

 ちょうどお城を挟んで王都を横断する形になった。



 エレオラの指示で辻馬車は通りの端に車両を止めた。

 みんな順番に馬車から降りて一箇所に集まる。


「レイン様、ここから少し小道へ入ります。ついてきてください」


 エレオラが案内する店は、大通りにはないらしい。

 本当に知る人ぞ知る珍しい食べ物があるのかもしれない。




 王都の建物はほぼ全てが石造りで頑丈だ。

 地面も石畳で見渡す限り石だらけ、地震が来たら大変なことになりそうだ。


(そう言えば異世界に地震ってあるのかな? 後でワンさんにでも聞いてみるか)



 大通りを明るく照らしていた光球も小道の中までは届かないらしい。

 光球に照らされた俺達の影が、小道の石畳に大きく長く写っていて、少し不気味な感じがした。


「光よ灯れ、『ライト』」


 セルフィアが気を利かせて通りを照らしてくれる。

 たちまち暗がりは無くなり、小道は昼のように明るくなった。


「セフィーありがとな」


「いいわよ、大したことないわ」


 俺の腕に抱きつきながらセルフィアが歩く、光球は俺とセルフィアを照らすようにふわふわと浮いていた。




「レイン様、ここです。この店がおすすめですよ」


 何の変哲へんてつもない家の前でエレオラが立ち止まる。

 申し訳程度に看板が出ていて、『魔物、あります』と書いてあった。


 看板を見た一行全員がみな固まってしまう。

 看板の文句があまりにも不穏だったので、エレオラに確認を取ることにした。


「エレオラ、この看板の意味を教えてくれ、まさかとは思うが魔物料理なのか?」


「レイン様大正解です。ここが王都で唯一、魔物を食べさせてくれるお店です」


「みんな帰ろうか」


 俺はセルフィア達に声を掛けて小道を戻ろうとした。


「待ってください! 騙されたと思って食べてみてください! きっとお気に召しますから!」


 エレオラが俺の腕にしがみついて帰るのを引き止める。


(無い! 絶対ないと断言する! そんなおかしな物、俺は食べないぞ!)


「ちょっと興味あるかも」


「面白そうですね」


「リサ食べたい!」


(な、なんだと? 食いしん坊三人娘が興味を持ってしまったようだ、もう後戻りはできないのか……)


「セフィーたちが食べたいのなら入ってみるか……」


 食に妥協しない彼女たちを止めることは出来そうにない、俺は諦めて店の扉を開けるのだった。




「いらっしゃいませ」


 恐る恐る店の中へ入ると、意外なことにごく普通の店だった。

 しかし、カウンターの上には大きな水槽が置いてあって、見たことのない魚らしきものがゆっくりと泳いでいた。


「何名様ですか? カウンターと個室がありますが、どちらにいたしますか?」


「七名だ、個室で頼む」


 エレオラがなれた感じで店員と会話をする。

 ドラムのことは特に聞かれなかったので、きっと問題ないのだろうな。

 エレオラを先頭に狭い通路をどんどん奥へ進んでいく。

 うなぎの寝床のような作りの店を、一番奥まで進むと個室が見えてきた。


「レイン様、一番奥へおかけください、注文はこのエレオラにお任せください」


 細長いテーブルの一番奥に俺は座る。

 セルフィア、アニー、ワンさんモーギュストの順番でどんどん席に座っていく。

 もちろんリサは俺の膝の上だ。

 ドラムはテーブルの下へ潜り込むと丸まって目をつむってしまった。

 ドラゴンは意外にも睡眠時間が人間種より長くていつも寝ているのだ。


「皆さんお酒は飲みますか? 飲む方は手を上げてください」


 エレオラが大きな声を出す。

 リサを除き全員が手を挙げると「わかりました」と言って店員を呼んだ。


「とりあえず生五杯、それから果実水を二杯持ってきてくれ」


「かしこまりました」


 店員が注文を聞いて部屋から出ていく。


(ん? いま生って言ったよね、ここ生ビールがでてくるのか?)


 異世界で生ビールなんて聞いたこと無い、エールならあるのだがどういうことだろう。


「レイン様、ここは私が注文を仕切ってもよろしいですか?」


「ああいいぞ、何があるかわからないからな」


 セルフィア達も別段反対はしなかった。




 五分ほど待っていただろうか、扉がノックされて店員が飲み物を運んでくる。


「おまちどうさまです、スライム酒の生です」


 店員はガラスのコップに入った濁った液体をテーブルの上に置いていく。

 スライム酒と呼ばれた液体はよくよく観察すると、少し動いているような気がした。


「エレオラ、これは何なんだ? かすかに動いているようだが?」


「はい、世にも珍しい生きたスライムのお酒です。美味しいですよ」


「いやいや、スライムは飲めないだろう、それにスライムは酒じゃないと思うぞ」


 コップの中には小さなスライムが何匹も入っている。

 エレオラに抗議している間にもスライムたちは、コップから外に出ようとせり上がって来ていた。


「大丈夫です、飲んでも害はありませんよ、スライムのコアの部分をプチっと食べるのが通なんです」


(何が大丈夫なんだ……、魔物を食べるなんてやっぱりやめればよかった)


「あたし、飲んでみるわ」


「え? セフィー血迷ったのか?」


 先程からスライム酒をじっと見つめていたセルフィアが、おもむろにコップを手で持ち上げそっと口をつけた。


 ゴクリ。


 喉を大きく鳴らして一口スライム酒を飲む。

 コアを口の中で潰したプチリという音がかすかに聞こえてきた。


「ん~、美味しいわ! 口の中で動き回るのが新鮮で楽しいわ! 味もなかなかいいわね。コアを潰すと爽やかな香りが口の中に広がって、また違う味になるの」


「私も飲んでみます、イシリス様いただきます」


 アニーも興味を持ったようで、ウネウネと動くスライム酒を両手で持ち上げ恐る恐る飲んだ。


 ゴクリ、ゴクリ。


 プチプチと音がアニーの口から聞こえてくる。


「あ~、美味しいです。甘くて香り高いですね」


(アニー、君もか……、異世界人は先入観がないのか)


 ワンさんたちを見ると既にゴクゴク喉を鳴らして飲んでいる。

 抵抗感は無いようで美味そうに飲み干してしまった。


「ワンさん大丈夫なの? もしかして飲んだことある?」


「実を言うとありやす、冒険者をやっていた頃はよく飲んでいやした」


「僕もあるんだな、たいてい最初は躊躇ちゅうちょするよね」


 おかわりをエレオラに頼んでいるワンさん達は、既にスライム酒を知っていたようだ。


「俺も飲んでみるかな……」


 うねうねと動いているコップに口をつけ少しだけ飲んでみる。


 ゴクリ。


(あれ? 意外とうまいのか? のどごしがいいな)


 ゴクリゴクリ、プチプチ。


 気がつけば半分ほど飲んでしまい、びっくりしてしまった。


「旦那も気に入ってくれてよかったでさぁ」


 ワンさんがニコニコしながら見てくる。





 食わず嫌いは駄目だな、これからは何でもチャレンジしよう。

 少し酔った頭で反省してもう一口、スライム酒を飲んだ。

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