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139.次々と面倒事が起こる

 王都のギルド前でひと悶着もんちゃくあった。

 チンピラたちを蹴散らし、何事もなかったかのようにギルド内部へ入って行った。




 ギルト内部に入ると大きなエントランスが広がっており、一番奥に受付のカウンターがあった。

 これはミドルグのギルドと同じ作りで目新しくはない。

 変わっているところと言えば、入ってすぐ横の壁に大きく掲示板が掲げてあり、無数の紙切れが貼り付けてあった。

 その紙切れを大勢の冒険者達が熱心に見入っている。

 少し興味が湧いて近寄って見る。

 紙切れに書かれているのは冒険の依頼書やパーティー募集の広告で、所狭しと貼られていた。


 順番に上から見ていく。


『僧侶職募集…… キュアを三回以上使える方を探しています。給与は要相談』


『西の森のレッサートレントの討伐…… レッサートレントが大量発生しています。討伐隊を編成しますので、参加してください。報酬は一日銀貨二枚』


『傭兵団員募集…… 『黒狼こくろう傭兵団』は団員を募集します。『ゼブナント帝国』との戦争に参戦予定。給与は要相談』


『ニーベ村からのお願い…… ゴブリンたちを倒してくれる方募集。報酬は銀貨十三枚。食費は別途支給』



(ありふれた依頼しか無いな……、戦争関連は少し興味あるけどね)


 サッと目を通したが、面白そうな依頼はない。

 依頼内容も難易度が低く、報酬も低いものが多かった。


(銀貨一枚が大体一万円くらいだったな、安い日銭で命をかけなければならないのか……)



 こうやって見ていくと、『ミドルグ迷宮』がいかに高難度な迷宮で、なおかつ実入りが良いのが改めてわかった。


 しばらく掲示板を見ている冒険者達の様子を観察する。

 すると、一人の冒険者が掲示板から依頼書を剥がしカウンターへ歩いていった。

 受付のギルド職員に依頼書を渡している、そして詳しい内容を聞いていた。


(なるほど、依頼は早い者勝ちのようだな)



 あまり面白そうなこともなさそうなので、ギルドを後にしようと出口の方に移動しようとした。

 扉に手をかけ外に出ようとする、すると外の様子が騒がしいことに気がついた。

 構わず外に出る。


 そこには衛兵たちが大勢駆けつけていてギルドを取り囲んでいた。


「あ! あいつです、あいつが俺たちに襲いかかってきた野郎です!」


 衛兵たちに混じって先ほどイチャモンを付けてきた男たちが見えた。

 男たちはぎゃあぎゃあ騒いで俺を指差していた。


(なかなか腐りっぷりが良いな、自分でかなわないと思ったら衛兵に泣きついたのか)


 俺がどうしたものかとたたずんでいると、衛兵の中から豪華な全身鎧フルプレートアーマーに身を包んだ騎士が一歩前に出た。


「動くな! そこのお前、暴行の容疑がかかっている。すみやかに投降しろ!」


 衛兵たちは長剣を抜き放って俺を取り囲んだ、そして先程の騎士が俺に近づいてきた。

 よく見るとその騎士は女性のようだ、異世界では珍しい女う騎士に内心喜んでしまった。

 銀色の全身鎧を着込んでいて兜をかぶっている。

 スラリとした長身でスタイルが良さそうだ。

 青色の目に兜から少しだけ覗く金髪、とても凛々しい美女で見とれてしまう。

 絵に書いたような異世界女騎士に顔がニヤけそうになる。


(おお!? クッコロ来たか? でもオークがいないか?)



 クッコロというのは凛々しい女騎士をはずかしめて「くっ、殺せっ!」と言わせることだ。

 地球の一部のオタクたちが嬉しがっていた事象だった。



「ん? 俺のことか? 間違いじゃないか?」


 心ははしゃいでいるが顔には出さない、冷静を装い静かに聞き返した。


「忘れたとは言わせねぇぞ! お前に仲間はやられたんだ!」


「そうだぞ! あいつの腕はもうもとに戻らねぇんだ!」


 チンピラたちが興奮して騒ぎ始める。


「待て、今は私が話しているのだ、お前たちは黙っていろ」


 女騎士はチンピラたちを睨んでから再び俺に向き直る。


「目撃者も多数いるのだ、申し開きは屯所とんしょで聞く、抵抗せず大人しくついてこい」


(なるほど……、問答無用で逮捕なのか、ちょっとムカついてきたな)


「別に構わないが、拘束されるのは拒否するぞ」


 貴族たる俺がこの場で縛り上げられるのは絶対ダメだ。

 貴族の権威をおとしめられては後で俺が怒られてしまう。


「まあいいだろう、ただ腰の剣はこちらで預からせてもらうぞ、いいな?」


「了解だ、受け取れ」


 俺は腰に挿している愛刀を近くに居た衛兵に預けた、その見事な刀を受け取った衛兵は少し驚いた顔をしている。


(武器の良さを少しは分かるのか? なかなか見どころがある衛兵だな)


「丁寧に扱えよ、その刀はお前の命より価値があるぞ」


 鋭く睨みつけ俺が言い放つとビクッとした衛兵は慎重に刀を抱えた。


「ではまいろうか、お前たちも来るのだ」


 女騎士はチンピラたちも一緒に屯所に連れて行くようだ。

 ざまあみろという顔で薄ら笑いを浮かべ俺を見ていた。



ー・ー・ー・ー・ー



 屯所は王城の跳ね橋のたもとにほど近い、騎士詰め所の中にあった。

 絶えず衛兵が出入りしていて騒々しい。


 石造りの壁に囲まれた騎士詰め所の門をくぐって中庭に入る。

 中庭では騎士の指導の元、衛兵たちが訓練にいそしんでいた。

 女騎士の後をついて行くと、木の扉の狭い部屋に通される。

 粗末な長椅子と机だけがある殺風景な部屋で、石壁に囲まれている為かひんやりと涼しかった。

 石を積み上げた壁には天井付近に小さな窓があり、鉄格子がはまっている。

 今は昼だがそれでも室内は薄暗くて、蝋燭ろうそくの炎が机の上で踊っていた。


「そこに座れ、私が直々に調べる」


 女騎士は俺に指示を出すと、勢いよく椅子に腰掛けた。

 衛兵たちに背中をこづかれ、女騎士と机を挟んで対面の椅子に乱暴に座らされる。

 少しイラッとしたが、何事も経験だと思い素直に従った。

 俺を連行してきた衛兵たちは一人だけ壁際に残り、その他は部屋を出ていった。

 扉が閉められ静寂が訪れた。


「まず名前を聞こう、名乗れ」


 尋問は何の合図もなく始まる。

 女騎士が俺の名前を聞いてきた。


「レイン、レイン・アメツチだ」


 俺はここで準男爵の称号を教えることをしなかった。

 教えてしまえば容疑者ごっこはここで終わってしまう。

 それではここまでついてきた意味もなく、つまらないのでもう少し容疑者を楽しもうと思った。


(ちょっと悪趣味かな? まあ異世界を楽しむことにしたのだから良いかな)


 どのタイミングで貴族であることを明かそうか、その時の女騎士の反応が今から楽しみでならなかった。


「随分と余裕だな、その薄ら笑いがいつまで続くか見ものだな」


 ポーカーフェイスを気取っていたつもりが少し笑ってしまっていたらしい、気を引き締め直して正面を見た。


(それにしてもこの女騎士は美人だな、年はいくつぐらいなのだろう、もしかしたら名家のお嬢様かもしれない)


 暗い部屋で蝋燭の明かりに照らされている女騎士は妙に色っぽく見えた。



「私の名前はエレオラ・ルペチェンコだ、私の判断次第でお前のクビが飛ぶのだ慎重に答えることだ」


「そうか、覚えておこう」


 軽く脅してきたエレオラにそっけなく答える、彼女は俺の態度に少しムスッとしたが尋問を続けた。


「どこから来たのだ?」


「ミドルグ市だ」


「年は?」


「十九だ」


「若いな、それで何をしに王都へ来たのだ」


「観光だ」


「なるほど、観光に来て冒険者といざこざを起こし、一人に重症を負わせたということか」


「まあそんなところだ」


「否定はしないのだな、いさぎよいのは良いことだが貴様このままだと打ち首だぞ?」


「冒険者どうしの争いはおとがめなしではないのか?」


「それはミドルグでの事だろう、王都では通用せんよ」


「そうか、それは失敗したな、以後気をつけるとしよう」



 バン!



 いきなり机が叩かれ燭台が飛び上がりローソクの炎が揺れた。


「お前は自分の立場がわかってないのか!? お前にはもう明日はないぞ!」


 相当に俺の言い方が気に障ったようだ、冷静に見えていたエレオラは激昂げきこうして立ち上がる。

 そのまま俺をにらみ見下ろす、興奮が落ち着くまでエレオラの荒い息遣いだけが狭い部屋に聞こえていた。


「……いいだろう、申し開きしたいことがあれば聞いてやる。なぜ暴力を振るったか言ってみろ」


 自分だけが興奮してしまったことを少し恥ずかしく思ったのか、長椅子に座り直したエレオラは静かに言い放つ。





 そろそろ飽きてきたぞ、ここからどうやってエレオラにクッコロを言わせようか、なかなか難しい課題に俺は悩んでいた。  

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