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138.モーギュスト強化計画その三

 モーギュストに鎧を買い与えて金がなくなってしまった。

 換金所で魔石を交換して、大量の金貨を手に入れた。




 モーギュストに連れられて商業地区の裏通りに俺たちは来ていた。

 裏通りと言っても下手な街の大通りより栄えている。

 流石に王都の商業地区というところか。


 いつ見つけたのか知らないが、モーギュストの行きつけの錬金術師の店がこの通りにあるらしい。

 こじんまりとしているが上品な作りの店の前でモーギュストは足を止めた。


「レインさんここだよ、僕のお気に入りの店だよ。ここのマスターは腕がいいんだ」


 扉を開けて中に入っていくモーギュストについていく。

 店内はきちんと整理された明るい照明がついていた。


「錬金術師の店ってもっと暗い陰気なところだと思っていたけど、案外きれいなのね」


「すぐ決めつけるのはセルフィアの悪いところですよ」


「わかってるわよ、悪かったわ」


(久しぶりに二人の言い合いが始まったな、本当に仲がいいな)


 苦笑いをして二人を見ていると、奥から一人の青年が姿を現した。



「おや? モーギュストさんじゃないですか、久しぶりですね」


「久しぶりだね、前に言っていた鎧を手に入れたんだよ。約束通り持ってきたから魔装化してよ」


「ええ!? あの鎧、手に入れたんですか? どこにあるんですか?」


 青年は興奮してにじり寄ってくる。


「僕の所属している探索パーティーのリーダー、レインさんだよ。彼が預かってくれているんだ」


「あ、すいません、いらっしゃいませ。デミトリーです。話に夢中になってしまって申し訳ないです」


 青年は頭をかきながら謝ってくる。


「レインです、よろしく」


「レインさん、鎧出してよ」


「ああ、今出すよ」


 俺は巾着袋を開けると中の鎧を取り出した。

『身体強化』を最大にしてパーツごとに取り出す。


「モーギュスト、手伝ってくれ、胴体の部分は一人では持てないよ」


 手足の部分やかぶとはなんとか取り出せたが、一番大きな体の部分は重すぎて一人では無理だ。

 モーギュストと二人で巾着袋に手を入れてなんとか外に出した。

 更に壁盾を二人で出したが、これが一番重かった。


「おや? 珍しいものを持っていますね。無限収納袋なんて久しぶりに見ましたよ」


 さすがは魔道具制作のプロだ、巾着袋から鎧を取り出しても驚くことはなかった。


「デミトリーさんは無限収納の魔道具作れますか?」


 仲間たちの分も袋が作れるかもとちょっとだけ期待して聞いてみる。


「いやいや、僕では無理ですよ。作り方がわかりません、現代で作れる錬金術師は多分居ないですよ」


 やはり無限収納袋はレアアイテムらしい、迷宮から年に数点出土する事があるくらいだそうだ。


「探索者をやっているのでしたら、無限収納の魔道具の有用性はご存知でしょう? 皆さん喉から手が出るほど欲しがりますよ」


 ひと通り無限収納の話で盛り上がっていると、モーギュストが鎧を組み立て床に立たせた。


「ここで良いよね? 前に言った通りに錬金してよ」


「本当にやるんですか? かなりの金額をいただくことになりますよ?」


「大丈夫だ、モーギュストが強くなるなら金はいくらかかっても良い」


「うちのリーダーは太っ腹なんだよ、すごいでしょ」


 モーギュストとデミトリーさんが細かい打ち合わせをしていく。

 最終的な金額が決まり、俺に報告してきた。


「結構するんだな、モーギュストこれでボスに対抗出来そうか?」


 材料費が莫大にかかり大量の金貨が飛んでいく。


「現時点でこの鎧以上の防御力は多分無いと思うよ。これで駄目なら諦めるしか無いよ」


「わかった、デミトリーさんよろしくおねがいします」


 カウンターに大量の金貨を積み上げ、鎧を強化してもらうことになった。


「ところでどんな強化をするんだ?」


「フッ、フッ、フッ、それは出来てからのお楽しみだよ」


 楽しそうに笑うモーギュストは、鎧の性能を教えてくれなかった。

 まあ、兵器に関してはモーギュストを信用しているので、今はわからなくてもいいだろう。


「少しお時間をいただきますよ、材料を仕入れたりしなければいけませんからね」


「わかりました」


「ああ楽しみだな! ワクワクしてきたよ!」



 鎧をデミトリーさんに預けて店を出る。

 モーギュストは店に残りデミトリーさんともう少し話していくそうだ。





「さて、これからどうしようか」


「あっしはシーフ仲間に会ってきやす。情報収集をしてきやすよ」


「あたし達食べ歩きしてくるわ」


「そうか、みんな楽しんできてくれ」


 全員がいなくなって俺とドラムだけになった。

 俺はどこへ行こうかな……、とりあえずギルドへでも顔を出してみようか。


 王都のギルドはまだ行ったことがなかった。

 前回王都へ来たときは叙爵などで忙しくて、ろくに王都を見て回れなかったのだ。

 どんなところか少し興味があるので、街をぶらつきながら向かうことにした。




 商業地区と王城がある中央地区、その境目に『オルレニアギルド組合本部』はあった。

 ミドルグのギルドにそっくりな作りだが、意外にもミドルグの方が建物が少し大きかった。

 三階建てなのは一緒だが横幅が若干狭い、王都の立地の影響なのかそれとも単に栄えていないのか。

 よくわからないがたしかにここがギルド本部なのだ。



 正面玄関にあたる扉の前には、お約束のごとくチンピラ冒険者がたむろしていた。

 強面の男たちは昼間から酒を飲んでいて、既に出来上がっている。


(ミドルグのギルド前にもあんな奴らが居たな)


 少し懐かしい気持ちになりながら扉に近づいていく。

 すると待ってましたとばかりに一人の大男が行く手を塞いできた。


「よお、ギルドになんのようだ? ここは子供の来るところじゃねぇぜ」


 筋骨隆々で見た目だけは強そうだ、こいつも冒険者なのだろうか。


(俺の力量を測れない程度の冒険者ならたかが知れているな)


 上等な服を着て鎧をつけていない童顔の少年、俺のことをカモだと思ったらしい。


「そこをどいてくれないか、俺は中に用があるんだ」


「おい! どいてほしかったら通行料をよこしな、それとも少し痛い目にあいてぇか?」


 下手に出た俺を完全になめきって薄ら笑いを浮かべながら恐喝してきた。


「もう一度言うぞ、そこをどけ」


「てめぇ! 舐めてんじゃねぇぞ!」


 男が掴みかかってくる。

 そのあまりにも遅い攻撃に俺はため息を付いた。




 バキッ!


「ウッギャァアア!」


 掴みかかってきた腕を軽く握ると、ほんの少しだけ曲がってはいけない方向へひねる。

 魔物と違って柔らかい関節は、面白いように簡単に破壊された。


「離せぇ……、離してくれ……」


 さっきまでの威勢はどこへやら、大男は地べたにいずり泣き言を言い始めた。


「野郎! 手を離しやがれ!」


 俺たちの様子を遠巻きに、面白げに見ていた大男の仲間たちが、武器を抜き放って近づいてくる。

 その数五人、ちょうど腕を破壊された大男を含め、六人フルパーティーと言うところだろう。


「王都の冒険者はバカぞろいのようだな、得物を抜いたなら容赦しないぞ?」


「舐めるな、死ねぇ!」


 一斉に飛びかかってくる冒険者たち。

 俺は大男の腕を捕まえたまま冒険者たちの攻撃をかわしていった。



 剣で切りつけてくる冒険者たち、躱すたびに大男の腕の関節が色々の方向へねじられていく。


「ギャァアア!」


 大男の腕は既に肘の部分から骨が露出して完全に破壊されている。

 今はもう皮だけつながっている状態で、腕は使い物にならないだろう。

 異様に伸び切った腕を見て冒険者達が距離を取り始めた。

 大男は気を失って静かになってしまった。


「どうした、もうおしまいか?」


 気絶している大男を通りの反対側まで派手に投げ飛ばす。

 生きているのか死んでいるのかわからない大男は、糸が切れた操り人形のように手足を絡めて無様に転がった。


「て、てめえ、覚えていろよ!」


 自分たちの不利をようやく悟った冒険者たちは、蜘蛛の子散らすように逃げ去っていく。

 気絶した大男は仲間に見捨てられたようで、置き去りにされていた。





(さて、害虫も駆除できたことだし、中へ入ってみるか)


 俺は何事もなかったかのような澄ました顔で、ギルド内に入っていくのだった。 

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