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14.決戦前

『山岳』の内部に侵入した俺達は、灼熱しゃくねつの暑さと戦いながら頂上を目指していた。




「ワンさん盾構えて、防御陣形!」


「わかりやした!」


「足止め一発撃つわ」


「レイン様にバリア張ります!」


 四人の連携がガッチリとはまり、魔物の群れが殲滅せんめつされていく。

『草原』の一件以来パーティーの連携は目に見えて密になっていた。




「おつかれ、アニー後どれくらいバリア唱える事が出来そうだ?」


「そうですね体感的に後三回位ですね」


「ワンさん盾を持つ握力もう無いでしょ」


「そうでやんすね確かにもうきついでさぁ」


 二人に消耗具合を聞いて潮時と判断した。


「セルフィア、まだ余裕だと思うけどこの辺でキャンプにしよう」


「了解、随分上に来たから十分ね」


 セルフィアは杖を買い替えたこととレベルアップしたことによって、パーティー内でトップの実力者になっていた。

 その余裕からか普段より性格が柔らかくなって、かわいいに拍車がかかっていた。



 キャンプのために手早く『コロニー』を見つける、新しめの『洞穴どうけつ』が見つかったので内部に入った。

 内部はすぐ行き止まりになっていて魔物が入って来られそうな入り口は俺たちが入ってきた一箇所だけだった。

 天井にファイアーバットが潜んでいないか慎重に見極める。

 問題ないので入り口に『退魔の香』を焚きテーブルやイスを並べた。


「ワンさん、テントどうしよう、いらないかも知れないけど一応張ろうか?」


「レインの旦那、あっしも役に立つ所をお見せしやすよ、テント張りやしょう」


 なにか考えていることがあるらしく、『草原』と同じに二張ふたはりテントを張った。


「旦那も知っているかもしれやせんが、あっしらシーフの仲間内で使う罠はずしの魔道具、『氷結鍵破壊アイスクラッシュ』をテント内部に設置しやす」


 ワンさんはテントの中に入っていって俺を手招きする。

 俺が体をテント内部に入れると、テントの天井付近に小さな筒状の魔道具を器用に取り付けた。

 ワンさんがもったいぶってこちらを見てニヤリと笑う。

 俺が不思議がっているとおもむろに魔道具を作動させた。

 すると徐々にテントの内部が涼しくなっていった、驚くことに一分とかからずに地上と同じくらいの温度になってしまった。


「なにこれすごい! 涼しいわ!」


 いつの間にか俺の後ろに来てテント内部を見ていたセルフィアが、俺の背中に飛びついてはしゃぎ始めた。

 アニーも興味津々に内部を覗いている。


「これは驚いたな、こんな魔道具知らなかったよ、本当の用途はなんなんだい?」


 俺の知らない探索の技術が出てきて嬉しくなった。


「これは『氷結鍵破壊アイスクラッシュ』と言って鍵を凍結させて壊すシーフの道具でやんす、本当は凄まじい低温の風が一気に放出される魔道具なんでやんすが、こういった使い方もできるんでさぁ」


 いたずらを成功させた悪ガキみたいに得意げに自慢をする。

 自分の知らない有用な技術に触れられる、これぞパーティー探索の醍醐味だと思った。

 みんなでワンさんを褒めちぎる。

 更にもう一つのテントにワンさんがわざわざ自腹で買ってきた『氷結鍵破壊アイスクラッシュ』を設置した。

 女性陣の喜びようは見てて笑ってしまうほどで、落ち着いてから改めてワンさんにお礼を言った。


「ところでワンさん、あの魔道具暴走して寝ている間に氷漬けなんてことはないよね?」


「それは安心していいでやんすよ、『氷結鍵破壊アイスクラッシュ』は射程が本当に短いんでさあ。そして万が一誤射しても一瞬なので風邪引く程度で収まりやすよ」


 それは安心だ、今夜はぐっすりと眠ることができそうだ。




 夕食を食べ、各自装備の点検や整備など思い思いのことをやり始めた。

 セルフィアは今回購入した杖を熱心に磨いていた。


「調子良さそうだね、魔力だけじゃなく攻撃力も上がったんじゃないか?」


 近づいていって声を掛けてみた。


「そうなのよ、この杖とあたしの相性はばっちりみたいね」


 嬉しそうに俺を見上げ杖を見せてきた。


「持ってみてもいいか?」


 少し興味がいて杖を貸してもらう。

 魔力がない俺は杖を手にしても変化を感じ取れなかったが、艶のある黒檀を使用した高級感が手に心地よかった。


「素晴らしい杖じゃないか、すごい掘り出し物だよね」


「私もそう思うわ、この杖に出会えてよかったわ」




 この杖を購入できたのは偶然の賜物たまものだった。

 先日のことだ、図書館の帰りに街の広場で南方から来たキャラバン隊がバザールを開いていた。

 何気なしに立ち寄って冷やかしがてら見て回ったところ、あまり目立たないすみの店で、杖を売っているのを見かけた。

 セルフィアは前々から杖を新調したいと思っていたらしく、熱心に品定めを開始した。


 一本一本を丁寧に見るセルフィアに、店主が手元の長い袋に入った一本の杖を見せてきた。

 その杖は後ろで何気なく見ていた俺でさえ、至極しごくの一品であることが見て取れておもわず唸ってしまった。

 当然セルフィアの食付きは凄まじく、手に取って離そうとしなかった。


 交渉すること一時間、店主が根負けしてセルフィアがなんとか買える値段まで下げることに成功した。

 杖を買ったことで一文無しになったセルフィアだったが、杖を手に入れた喜びはそれを上回っていて、感極まり嬉し泣きをしていた。



 終始ご機嫌のセルフィアに杖を返し、横に座った。


「『低層階』を踏破してもまだ先は長い、その杖は俺の刀と同じでセルフィアのために生まれてきたのかも知れないな」


「うん! きっとそうよ!」


 顔を輝かせてセルフィアが満面の笑みを浮かべる。

 人生で何度味わえるかわからない最高の武器との出会いは何ものにも代え難いと心から思った。




 次の日の朝、俺は見張りのために顔だけテントから出していた。

 あまりに『洞穴』内部が熱いのでワンさんに断って体をテント内に入れさせてもらっていたのだ。

 朝食を作る気力もなく、巾着袋の中に入れておいた屋台で買った串焼肉やお好み焼き風パンなどをみんなで食べた。


 女性陣にだけ一人桶一杯の水を支給し、体を拭いてもらい、俺とワンさんは我慢をした。


「悪いわね私達だけ水を使わせてもらって」


「ありがとうございます、レイン様は優しいお方です」


 女性の受けはバッチリだ、水は貴重なんだワンさん勘弁してくれ。




『洞穴』の外をうかがう、強敵がいないのを確認してキャンプを引き払った。

 昨日と同じ様に山頂を目指してひたすら天然の回廊を登る。

 たまに襲ってくる魔物はどれも弱く俺たちの敵ではなかった。




 ここで少し『山岳』内部に生息している魔物を紹介しておこう。

 一番弱くて頻繁ひんぱんに出てくるのはファイアーバットだ、ファイアーと名が付いているがただの大きいコウモリで、天井付近に張り付いていて俺たちを見つけると滑空して襲って来た。

 見つけてしまえば打ち頃のボールと同じで、刀でタイミングよく斬りつければ真っ二つになって死んでいった。


 次に多いのが溶岩の池からいきなり飛び出してくるマグマフィッシュだ、どんな体の構造をしているのか知らないが、ドロドロに溶けた溶岩の中に生息している。

 これも来るのがわかれば簡単で、体当たりをかわして地面でのたうち回っている所をとどめを刺せば楽勝だった。

 盾で撃ち落としてもよく、ザコ魔物と言えた。


 少し手強いのは時々襲ってくるサラマンダーの幼体だ。

 名前はベビーサラマンダー、ベビーと言っても十階層のボスの子供なので、中型犬位の大きさ位ありなかなか手ごわい相手だ。

 天井付近の壁からいっちょ前に火炎弾を発射してきてこの上なく邪魔だった。

 火炎弾はピンポン玉位の大きさで、『水神の障壁』を装備している俺達でもバットで殴られたくらいの衝撃があった。

 盾で火炎弾を弾き、セルフィアのファイアーボールをぶつけて下に落ちた所を刀で斬り殺す。

 ボスを相手にしているみたいで本番の練習になった。




 眼の前に十階層への階段があり、暗い口を開けているのが見える。

 探索八日目でようやく山頂に到着した。

 周りには魔物の姿はなく、階段を使えば十階層に行ける状態だった。


「みんなここまでよく頑張った、これが十階層につながる階段だ」


 俺がねぎらいの言葉をかけても三人は表情を崩さず真剣に耳を傾けている。


「十階層に到達すれば一時的に地上に戻る事ができる。過去そうやって『低層階』を踏破とうはしてきた探索者が大多数だ。しかし俺たちはもう一段上を目指してみようと思う、それははじめての挑戦で地上にも戻らず、誰も死なないで迷宮主を倒す事だ。この偉業は過去三パーティーしか達成していない。俺たちもその一組になろうではないか」


 三人の様子を見ると三人とも闘志を燃やして自信のある表情をしている。


「いいわね、その提案賛成するわ」


「望むところです一気に行きましょう」


「あっしは旦那についてきて良かったでさぁ」



 何故俺が一見無謀な賭けを提案したかと言うと、探索中にみんなレベルが上がって体力が倍増したからだ。

 それにワンさんの魔道具、『氷結鍵破壊アイスクラッシュ』のおかげで睡眠不足にならずにすみ、俺が作る栄養満点の肉料理でいつもより健康になってしまった。


 今の俺達は心技体、全てにおいて欠けているものがなかった。

 四人でうなずきあって無言で階段を降りて行く。

 山を登ってきたのに階段を降りる不思議な感覚になって、にやけてしまった。




 階段を降りきって十階層に到達した。

 景色は九階層とガラッと変わり、五階層のときと同じだだっ広い空間にぽつんと大きめの部屋があるだけだった。

 とりあえず石碑に手を付けて十階層にいつでも来られるようにした。


「涼し~! ここは天国かしら?」


「女神様、御慈悲をありがとうございます」


「風呂に入りたいでやんすよ~」


 流石に達成感がいてきてみんな笑顔になる。


「ボス階層はボス以外の魔物が発生しない、みんな安心して休憩してくれ」


 三人に声をかけながら竹筒のスポーツドリンクを渡していく。



 短い休憩を挟んで三人に声をかける。


「今日はここでキャンプを張る、そして英気を養って明日の朝、迷宮主に挑もうと思う。今のパーティーなら必ず倒せるだろう。先程も言ったがこのフロアには魔物が発生しない、久しぶりに見張りなしで一晩中眠れるぞ」


 歓声が上がりみんな満面の笑みを浮かべた。


「それじゃキャンプの用意をしよう」


 みんな慣れた手付きでテントを張ったり、かまどを作ったり自主的に動いた。

 この数日間でキャンプに慣れ、仕事の分担が出来ていた。

 短時間で野営の準備を済ませると俺が食事を作り始め、女性陣も手伝って食事が完成した。

 バリエーションの無い、いつもと同じステーキ肉だがみんな飽きもせず美味しそうに完食した。

 食後の自由時間は個人で過ごし、各自眠くなった順に眠りについた。




 決戦の朝、気合を入れてボス部屋の前に立つ。

 誰もが勝利を確信し、確信するだけの実力があった。

 ボス部屋の扉は五階層のボス部屋と同じで飾り気がなかった、古代文字で警告文が書いてある。


『今ならまだ間に合う、引き返す勇気が死を遠ざける』


 言葉に出さずに読んでいるとアニーが不安そうに横に立った。


「私には読めませんが、不吉な感じがしますね」


「ただの脅し文句だ、気にすること無いよ」


 不安を取り除くように優しく語りかける。


 他の二人も俺の横に並んだ。


「準備はできたな?」


 三人が無言でうなずく。





 石でできている重い扉を少しずつ開いて中に入る、部屋の中央にゆっくりと霧が発生しはじめた。

 俺たちは気を引き締め『低層階』最後の戦いに挑むのだった。

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