135.朝から大食い
王都へ到着した『白銀の女神』は、日頃の迷宮探索を忘れ王都観光をすることにした。
みんなで王都の通りを練り歩く。
さすがは王都、いろいろなお店が軒を連ねていて見るものに事欠かない。
泊まっている宿屋は王都の中心から西の区域、高級商業地区に店を構えていた。
武器屋に防具屋、道具屋に錬金術師の店。
どれもこれも大きな店構えで、ちらっと中を覗いた限りだが、性能の良いものが取り揃えてあった。
早速武器屋へ行ってみたいと思ったが、まずは腹ごしらえをしなければならない。
宿屋で食べるのも良かったのだが、せっかく王都へ来たので街で食べることにしたのだ。
「みんな何を食べたいんだ? 食べたいものを言ってくれ」
「あたしは断然お肉ね! 大きな塊肉を焼いたものがいいわ」
「私もお肉がいいです」
「リサもお肉食べたい!」
女性陣は肉が所望なようだ、全くぶれないな。
「あっしは『ラーミン』を食べたいと言いたいところでやんすが、姉さん達に譲りやす。まだ王都へ来たばかりでやんすから、後で食べるチャンスはありやすからね」
「僕はなんでもいいよ、早く食べて武器屋へ行きたいんだ」
「よし、前回王都に来たときにセルフィアに教えてもらった、王都一のレストランへ行ってみよう」
「いいわね! あそこの味は折り紙付きよ、楽しみだわ」
行くところが決まったので、よそ見をせずに移動を開始した。
みんなお腹が空いていて早く何か食べたいのだ。
王都有数の人気レストランに期待しつつ、みんな笑顔で移動した。
レストランに到着し、立派な建物の前に立つ。
外見は上品な高級感、白を基調にした落ち着いた作りになっていて好感が持てる。
扉の前には店員が控えていてお辞儀をしてきた。
「いらっしゃいませ」
「ちょっといいかな、使役しているドラゴンが居るのだが、中へ入れても問題ないか?」
「はい、大丈夫でございます。王都も冒険者の方が多くおりますのでお気になさらず結構でございます」
「そうか、ありがとう」
「ではご案内いたします」
店員に促されて店内に入っていく。
落ち着くので個室に案内してもらうとみんなで席についた。
「何食べようかしら、目移りしてしまうわ」
メニューを見ながらセルフィアが悩んでいる。
「前に来た時食べなかったものを食べればいいんじゃないか?」
「え? もう全部食べたわよ。今回は二周目ね」
「そうですよ、私もセルフィアもこの程度のメニューは、一度で食べられますからね」
アニーが嬉しそうに付け加えてくる。
俺はメニューに目を落として料理を数えていく。
ずらっと並んだメニューは、とても一度に食べられる量だとは思えなかった。
(本当にこれを一度に食べたのか? セルフィア達の胃袋はどうなっているんだ……)
「決めたわ、また全部食べるわよ、アニーもそれでいいんじゃない?」
「そうですね、前回の競争の決着をつけましょう」
「いいわね、今日こそ勝つわ」
「私も負けませんよ」
二人が何やら盛り上がっている。
俺はセルフィアたちをほっといてリサとメニューを一緒に見た。
「リサ何が食べたい? 肉料理はこの辺だよ」
メニューに乗っている肉料理の欄を指差しながら注文を決めていく。
リサは微笑みながらメニューをゆっくりと見ていく。
「お兄ちゃんは何食べるの? リサも同じもの食べるわ」
なかなか決まらないリサは俺を見上げて微笑む。
「そうか、それじゃこの二つを選んで半分ずつ食べようか」
「うん! それがいいわ!」
(う~む、リサは本当に可愛いな、メニュー全部頼むと息巻いている誰かさんたちとはえらい違いだ、セルフィア達は滞在中にまた太ってしまうぞ)
「レイン、食べるもの決まった? 店員さんを呼ぶわよ」
「決まったよ、呼んでいいぞ」
セルフィアは呼び鈴を鳴らし店の人を呼んだ。
「お決まりでしょうか? 注文をお伺いしたします」
「まずメニューにある物を全部二人前持って来て、それからこの肉料理もお願い」
肉奉行であるセルフィアが、俺達の分も頼んでくれる。
店員はセルフィアの注文に驚いたが、彼女の顔を思い出したらしくすんなりと注文を受け付けてくれた。
「あの店員さん、あたしの顔を覚えていたみたいね、有名探索者は辛いわ」
(いや、きっと大食いの客として認識されているだけだぞ)
セルフィアは得意そうにしている、可哀相だからツッコミを入れるのはやめておいてやろう。
それからしばらくすると、次々に店の料理が運ばれてきた。
みんな美味しそうな匂いがしていて、できたてである証拠に湯気が立ち上っている。
セルフィアとアニーの前には、山のような料理の数々が並べられていく。
当然テーブルの上は料理で溢れかえり、どれが俺達の注文したものかさえわからなくなってしまった。
食前の祈りをみんなでしてから料理を食べ始めた。
「セルフィア、料理でテーブルが一杯で何がなんだかわからなくなってしまったから適当に食べるからな」
「しははははいはへ、ふほしほほしへほひへほ」
※訳 「しかたがないわね、少し残しておいてよ」
大量の肉の塊を口いっぱいに頬張りながらセルフィアがなにか言っている。
言っていることはよくわからないが、何となく了承してくれたようだ。
「リサ、食べようか。これなんか美味しそうだぞ」
テーブルの上の大量の料理に圧倒されて、見ているだけのリサに声を掛ける。
「うん、それ食べたい!」
取皿に分厚い塊肉を取り分けリサの前に置く。
「ありがとう、お兄ちゃん」
可愛らしくお礼を言って口いっぱいに頬張った。
「おいしい!」
嬉しそうに食べるリサを見ながら俺も食事を開始した。
「ふ~、食べたわ……」
「食べましたね……」
セルフィアとアニーが満足そうにお腹を擦っている。
食事が終わりテーブルの上に空の皿が積み上がっていた。
大部分はセルフィアとアニーが食べた皿だが、なぜ大量に食べられるのかは謎だった。
「久しぶりに満足しましたね、後はデザートを食べるだけです」
大食いの怪物、アニーが更にデザートを注文しようとしている。
「そうね、何食べようかしら」
もうひとりの大食いモンスターも嬉しそうにメニューを開き、二人で相談をし始めた。
「さて、食休みしながら聞いてくれ。今日から長期の休暇に入るわけだが、その前にやることを確認しておこう。まず武器防具の強化、そして情報収集この二点だけは押さえておきたいと思う。武器防具に関しては最上級のものをパーティーの金で購入していいぞ」
「情報収集はあっしに任せてくだせぇ、シーフ仲間に当たってみやす」
「ああ、よろしく頼むよ。俺の方でも図書館とかに行って調べてみるよ」
「わかりやした」
「レインさん、武器や防具ってどれくらいの予算で買っていいの? 僕の鎧の値段は天井知らずだからすごい金額になるよ」
「モーギュスト、バンパイア・ロードは強敵なんだ、出し惜しみして勝てる相手ではない。今まで稼いだ金額全部吐き出す覚悟で買おうと思う。金額は気にしなくていいぞ」
「本当!? やったね! 前からやってみたい事があったんだよ、すごい鎧作るよ」
軽くこれからの方針をみんなに言った後、大満足の朝食を終えて店を出た。
セルフィアとアニーがデザート全品制覇したのは言うまでもない事だった。