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131.出来たてホヤホヤ

 思わぬところで迷宮を発見してしまったかもしれない。




 更に洞窟を進んでいくと徐々に壁や地面が平らになり始める。

 ここまで来ると専門家でない俺にも、ここが迷宮内だということがわかってきた。


「まいったな、完全に迷宮の中じゃないか……。ワンさん、引き返してセルフィアたちを連れてこようか?」


「そうでやんすね……、敵は弱いのでとりあえず一階層だけ探索しやしょう。まだ出来たての迷宮のような気がしやすから、案外浅いかもしれやせん」


「どうして分かるんだ? 俺にはミドルグ迷宮と変わらないように見えるが」


「罠が少ないんでさぁ、人が入っていない迷宮は罠だらけなのは旦那も知っていやすね? しかしこの迷宮には罠が全く無いんでやんす。これは新しい迷宮の特徴でさぁ」


「そうなのか、全然知らなかったよ」


「シーフの知識でさぁ、一般にはあまり知られていやせんよ。それにできたての迷宮なんて、お目にかかる機会早々ありやせん」


「確かにできたての迷宮なんて聞いたこと無いな」


「またトロル出てこないかな、今度は一騎打ちしたいよ」


「モーギュスト、縁起でもないこと言うなよ、そういうのフラグっていうんだぞ」


「なんだい? ふらぐって、たまにレインさんって変な単語言うよね」


 モーギュストが興味深そうに聞いてくるが、説明すると本当にトロルが現れるような気がして教えてやらなかった。




 それから一時間ばかり迷宮内を探索する。

 迷宮は特に特徴がない作りで簡単に攻略できてしまった。


「ワンさん……、これボス部屋だよな」


「そうでやんすね、間違いありやせん」


 あら方探索し終え、どうしたもんかと考えていた時、目の前に大きな空間が現れた。

 慎重に内部を調べていくと中央部分に石造りの扉がある部屋があり、扉は大きく開いていた。

 開いた扉を丹念に調べると、内部から大きな力で破壊された痕跡が見受けられた。

 そして扉の上にはプレートがあり、お決まりの警告文が古代文字で書いてあった。


『人生を終わらせるにはまだ早い』


 陳腐な文言もんごんに思わず笑ってしまう。


「どうしよう、中へ入ってみるか? それとも一旦戻ろうか?」


「とりあえず入ってみようよ、入っただけなら出てこれるでしょ?」


「そうだな、でも俺の指示を無視して中へ突っ込むことは駄目だぞ、ドラムもわかったな」


「わかったよ」


「うん」


 暴走しかねないモーギュストとドラムに言い聞かせる。

 みんなの準備が整ったのでゆっくりと部屋の中へ入っていった。




「なにも起きないな……」


 部屋へ足を踏み入れた俺達は、しばらく扉の前で周囲の様子をうかがった。

 しかし何も変化は訪れず静寂が辺りを支配していた。


「よし、もう少し奥へ進んでみよう、ボスが出現したときは全力で殲滅する」


「わかりやした」


「やった! 強敵来ないかな!」


 またモーギュストがフラグをたてている、少し黙らせたほうがいいだろうか。




 ゆっくりと中央まで進むが何も起こらない、ボス部屋ならそろそろボスが出現してもいい頃なのだが。


「何も出やせんね、どうしやすか?」


「そうだな、とりあえず目の前にある小部屋を調べようか」


「わかりやした、罠があるかどうか調べやす」


 急に嬉しそうな顔をして、罠解錠用の薄手の手袋を装着しだした。


「いつもと様子が違うんだから気を付けてくれ」


「わかっていやす」


 自信満々に答えて小部屋を調べ始める。

 大した時間を掛けず小部屋の周りを調べ終えると、正面に回って扉を調べ始めた。

 今度は入念に調べ始める。

 しかし終始首を傾げていて、いつものワンさんらしくなかった。


「どうしたんだ? なにかおかしなことでもあるのか?」


 いつもは声をかけるのを控えているのだが、あまりにも様子が変なのでつい声を掛けてしまう。


「旦那、だいぶおかしいでさぁ、罠が一つも仕掛けられていやせん。逆に怖くて開けられやせんよ」


 ボス部屋で罠無しなど聞いたことがない、俺も気味が悪くなってしまい少し離れた。


「どうしたの? 罠がないなら開けてみようよ、僕が開けてあげるよ」


 話を聞いていたモーギュストが、ズンズン扉に向かって近寄っていった。


「ちょっと待て、今考えているんだから」


 慌ててモーギュストを引き止める。


(モーギュストは度胸があるのか考えなしなのかわからないな)


「ワンさんどう思う? モーギュストに開けてもらおうか?」


「だめでやんす、素人に任せるわけにはいけやせん。あっしが開けやす」


 覚悟を決めたようでモーギュストを横にどかして扉の前に立つ。

 しものワンさんも、今回のような気味の悪い扉を開けるのは緊張しているらしく、なかなか開けようとしない。


「やっぱり僕が開けるよ、ワンさんどいてよ」


 しびれを切らしたモーギュストが動き出そうとする。


「いきやす」


 取っ手に手をかけゆっくりと開けていく。

 数センチ開けたところで中を覗き込み、安全を確認すると更に大きく開けていった。

 扉を全開にして俺も仲の様子が見えるようになった。




「うわ~、きれいだな~。あれなんだろう?」


 モーギュストが俺の横から顔を出して中の様子を見ている。

 彼は小部屋の中に設置してある、物体を見て感嘆の声を上げた。


「ダンジョンコアでやんす……、間違いありやせん」


 ワンさんが絞り出すように声を上げた。

 小部屋の中には青白く光り輝くクリスタルが台座の上に浮いていた。

 多面体のクリスタルはゆっくりと回転していて、鈍い振動音を発している。


「ダンジョンコアだって? なんでこんな浅い階にあるんだ?」


 俺は信じられなくて思わず聞いてしまった。


「わかりやせん、でもあれは間違いなくダンジョンコアでやんす。昔冒険者をやっていた頃、王都のオークションで見たことがありやすよ」


 俺達はしばらくの間、時間を忘れてダンジョンコアを見入っていた。




 ダンジョンコア、文字通りダンジョンの核となる魔結晶のことである。

 通常ダンジョンの最深部、強力なダンジョンマスターに守られている至宝しほうだ。

 その価値は計り知れなく、市場には流通していない。

 王都の様な大きな大都市で開催されるオークションで、大貴族や大富豪が買い求める宝石だ。

 その大至宝ができたての迷宮、更に一階層にある事自体信じられないことだった。




「ワンさんどういうことだか説明できるか? 俺は頭が混乱してよくわからなくなってしまったよ」


「あっしも混乱していやす、少し考えを整理しやす」


 二人して途方も無い価値のクリスタルを見入っていた。

 するとモーギュストがいきなり話し始めた。


「二人とも簡単なことだよ、ここは迷宮で目の前にダンジョンコアがある。と言うことは僕たちはダンジョンを攻略したんだよ!」


 嬉しそうに言い放った。


「し、しかしボスがいないじゃないか、最終階層には強力なダンジョンマスターが居るはずだろ?」


「まだ気づかないの? 僕たちはもう倒したじゃないか、ドラムの炎に消し飛ばされたトロルだよ、あいつがダンジョンマスターだったのさ」


 モーギュストが言った言葉で真相がわかってきた。

 ここはできたてのダンジョンで、トロルが迷宮主だったのだ。


「しかしダンジョンマスターであるトロルが、なぜあんな所にいたのだろう」


「それなら説明できるかもしれやせん。人づてに聞いた話でやんすが、まれに強力な魔物が人里に現れて、災害を引き起こすことが昔からあるらしいでやんす。討伐した後に周辺を調べると、迷宮の跡が発見されることがおおいそうでやんす」


「なるほど、発生した魔物はダンジョンマスターで、なんだかの方法で迷宮を抜け出した。そして討伐したから迷宮の跡があるということか」


「そうでやんす、ダンジョンマスターを失った迷宮は数日で崩壊しやす、それまでにダンジョンコアを持ち出さなければ、永遠に失われてしまうんでさぁ」


「そんなに貴重なものなのか、思わぬ収穫になったね」


 モーギュストも嬉しそうにしている。


「そうだ、ダンジョンの安全も確保できたんだし、セルフィア達も呼んでこよう。こんな貴重な宝石、きっと大喜びするぞ」





 ダンジョンコアを入念に調べ上げて罠がないことを確認する。

 できたてほやほやのダンジョンコアを、ワンさんとモーギュストに見張っていてもらい、俺は足早に洞窟の外へ走っていった。

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