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130.ブレス

 洞窟の奥には驚異的な回復力を誇るトロルが潜んでいた。




「レインさん! トロルの体を見て! 首から泡が出てるよ!」


 討伐したと安心していたらトロルはまだ生きていた。

 首から新しい頭が徐々にせり出してくる。


「なんて生命力なんだ、首を落としても死なないならどうやって倒せばいいんだ?」


 半ば呆れて脱力してしまう。

 その場で棒立ちになっている俺を横目に、ワンさんとモーギュストはトロルに追撃を加えて、首から上の復活を阻止そししていた。


「旦那! こうなったら体も細切れにするしかありやせん、バラバラにしてやりやしょう!」


「わかった! 全員で取り囲んで膾切なますぎりにするぞ!」




 首のないトロルを三方から囲って代わる代わる斬りつける。

 トロルは視界を奪われ動けないので、こちらの一方的な攻撃になった。

 左腕を肩口から切り落とす、ワンさんは右太ももに攻撃を集中させていて、後少しで切断できそうだった。


「オラオラオラ!」


 アダマンタイト合金の短槍の穂先が回復途中の首を集中的にえぐっていく。

 今では胸のあたりまで大きな穴が空き、大量の血液が辺りに流れ出していた。




 数分後、トロルは地面に大きく広がる肉片にされていた。


「どういうことだ!? これだけ切り刻んでも消えて無くならないぞ! まだ倒していないということなのか!?」


 俺は焦っていた、目の前のトロルだった肉片は、未だに泡立ちながら再生しようとしている。

 放っておけばまたトロルが復活するのは明白で、この場を放置して立ち去るわけにはいかなかった。


「これじゃらちが明かないね、いっそのこと逃げちゃおうか?」


 短槍を肉片につまらなそうに突き刺しているモーギュストが、無責任なことを言ってきた。


「それは出来ない、このまま放置したら復活して村を襲うかもしれない。それに俺達で倒せない魔物なのに、他の人達に倒せるわけ無いだろ」


「わかってるって、ただ言ってみたかっただけさ」




「僕が消し飛ばしてあげるよ」


 今まで上空から傍観ぼうかんしていたドラムが、ゆっくりと降りてきた。


「え? ドラムはトロルを倒すことが出来るのか?」


「簡単だよ、燃やせばいいんだよ」


 ドラムは俺達の戦闘に興奮して鼻息を荒くしている。

 戦闘に酔って凶暴化したのはワンさんたちだけではなかったようだ。

 ドラムの身体が徐々に膨らんでいく、空気を取り入れたドラムはまるで怒ったフグのように丸くなった。


「ドラム! ちょっと待て! 俺達まで丸焦げになってしまう!」


 俺は焦りながらドラムに言う。

 聞こえているのか聞こえていないのか、背中の翼をピクピクと動かして、俺達に退くようにと合図してきた。

 ドラムの口元からくれないの炎がチロチロと顔を覗かせている。

 空気が温められて陽炎かげろうが発生し、ドラムの身体がゆらめきだした。


「やばい! ワンさん、モーギュスト、ドラムは正気じゃない。できるだけこの場から離れるんだ!」


 俺達は『縮地』を駆使してドラムから離れていく。

 急激に洞窟内の温度が上昇していき、肺に入ってくる空気が熱を帯び始めた。


「みんな『水神の障壁』をつけているな!? つけなければ丸焦げだぞ!」


「大丈夫でさぁ、ちゃんとつけてありやす!」


「鎧に組み込んでいるから平気だよ!」


 岩陰に避難するとワンさん達に高温を緩和する魔道具の装着を確認した。




「ギャォォォォン」


 洞窟内にドラムの絶叫がこだまする。

 あまりのうるささに耳をふさいだ瞬間、ドラムがいる前方で爆発的な炎が吹き荒れた。

 一陣の風とともにものすごい熱が俺達を襲った。


「熱い! 熱い! 熱い! 熱い!」


 炎を避けるため地面に伏せているが、ドラムの放ったブレスは容赦なく俺達の背中を焦がしていく。

 このまま焼き死ぬのではないかと諦めかけた時、ゆっくりとだが周囲の温度が下がり始めた。



「みんな大丈夫か……?」


「大丈夫でやんす……、危うく丸焼きになるところでやんした……」


「僕も大丈夫だよ……、僕は蒸し焼きになりかけたよ……」


 ふたりとも顔がひきつっているが、薄ら笑いをしているので大丈夫そうだ。


(ドラムめ……、あれほど日頃からブレスに関して注意しろと言っていたのに約束を破りやがって、これはお灸をすえなくてはいけないな)


 俺は頭にきて勢いよく立ち上がると、まだ熱気が漂う洞窟をドラムがいる前方へ早足で歩いていった。



「ドラム! 危うく死にかけたぞ、なんでこんなことしたんだ!」


 トロルの肉片があった所に浮遊しているドラムに強く言う。


「手加減したよ? 大丈夫だったでしょ?」


 ブレスを吐き出したことで正気を取り戻したドラムは、すっきりした顔をしている。

 なぜ怒られているかわからない様子でドラムは戸惑っているようだった。


「トロル、倒したよ。地面に魔石あるよ」


 ドラムが魔石を拾ってこちらにちょこちょこと近づいてきた。

 確かに赤く透き通った大きな魔石がドラムに抱えられているのが見えた。

 俺に怒られてドラムはしっぽを丸め反省しているようだ。 


「旦那、そのへんで勘弁してやってくだせぇ、ドラムがブレスを吐かなければ倒せなかったんでやんすから」


「それはそうだが……、とにかく俺の許可がなければ狭い場所で絶対にブレスを吐かないって約束しろ」


「わかった、約束する」


 結果的にトロルも倒すことが出来たしこれ以上怒ることはやめよう。


「いきなりブレスは駄目だけどトロルを倒したのはお手柄だったぞ」


 ドラムの頭をなでて褒美に牛肉の塊を与える。

 ドラムは嬉しそうに牛肉を食べ始め、怒られたことなど忘れてしまったようだった。


(やはりドラゴンを従えるということはかなり難しいことだな、ましてやドラムは生まれたばかりで常識が足りない、力が強大すぎてコントロールすることが難しい)


 世の中にドラゴンテイマーがいないのが今回の件でよくわかった。

 もっとドラムをしつけなければいけないな。




 結果はどうあれトロルの討伐は完了した。

 トロルの唯一の弱点は火攻めだったようだ。

 セルフィアたちを連れてこなかったのは、俺の判断ミスだったかもしれない。



「よし、トロルは討伐した。本来ならこれで終わりだが、なぜトロルがここに居るか調査しようと思う。更に奥へ進み原因を追求しよう」


「「「了解」」」


みんなの返事を聞き慎重に洞窟の奥へと進むことにした。




 暗い洞窟内を更に奥へ進んでいく。

 ときおりゴブリンが数匹姿を表すが、俺達の敵ではなく一刀のもとに切り捨てていく。


「ん? 旦那、洞窟の壁が少し変わってきやしたよ」


 先頭を歩いていたワンさんが、洞窟内の変化にいち早く気付き報告を入れてきた。


「俺には今までと変わりないように見えるが……、どこが違うの?」


「岩肌のテカリが今までより強くなってやすよ、まるで迷宮の壁みたいでやんす」


 熟練のシーフにはそう見えるのだろう、俺にはさっぱりわからなかった。


「そうか、引き続き慎重に進もう」


「わかりやした」




 メインの洞窟はそれなりに移動しやすいが、左右に分かれる枝道は曲がりくねっていて足元も悪い。

 苦しいが丹念な探索を心がけている俺は、一本一本の道を丁寧に探索して潰していった。


「前方の天井に魔物の反応あり、ゴブリンとは異なる反応だ気をつけろ」


「「「了解」」」


 俺の『気配探知法』に魔物の気配が引っかかた。

 ゴブリンと違う気配は、ひとかたまりになっている。

 暗い天井付近を見上げながら慎重に前進する。


 ちょうど気配が真上にあるところまで差し掛かった時、魔物の気配に動きがあった。


「みんな避けろ!」


 仲間たちに声を掛け横っ飛びにその場を離れる。

 ビジャっと音を立てて降ってきた魔物は、モーギュストの上にもろにかぶさった。


「うわっ! 何だこれ、取れないよ!」


 透明な何かにすっぽりと包まれ、もがきながらその場で暴れる。

 暴れているモーギュストから液体が滴り落ち、地面の岩石をじゅうじゅうと溶かしている。


「スライムでやんす、慌てるとますます絡みつきやす。酸を吐き出して獲物を溶かして捕食しやすよ」


「早く取ってよ! 気持ちが悪いよ!」


 ヌルヌルに覆われたモーギュストは慌てているようだ、魔物自体は大して強くないので命の危険はないだろう。

 しかし酸の攻撃は生身の体なら脅威になる。

 全身鎧のモーギュストも鎧の隙間から中にはいられると、大変なことになりそうだった。

 モーギュストがもがいていると、いきなりツルリとスライムが鎧から離れた。


「あ、取れたよ、こいつめ、しねっ!」


 怒った彼は穂先をスライムに突き刺す。

 急所であるコアを破壊されたスライムは、光の粒子になって消え去った。


「モーギュストの鎧に仕込んである『魔導雨具』が作動したみたいだな。流体のスライムは、鎧の中に入れなかったみたいだ」


 俺は冷静に分析をして説明する。


「これはいよいよ迷宮らしくなってきやした。面白くなってきやしたね」





 どうやらただの洞窟ではないようだ、迷宮化した洞窟内を更に奥へ慎重に進んでいった。

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