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125.過剰戦力による救出部隊

 旅の滑り出しは上々で、楽しい旅路を満喫していた。

 王都への道中、とある村へ立ち寄り、今宵の宿を求めた。




 村長の家はそれなりに豪華だった。

 磨き上げられた床に色はくすんではいるが、絨毯じゅうたんが敷かれていてとても裕福そうだ。

 俺とワンさんは応接間に案内され、小綺麗なソファーに座らされた。

 村長は床の上に直接座り、かしこまっている。

 貴族と村長の立場では、この立ち位置が普通なのかもしれないが、地球育ちの俺はどうにも居心地が悪い。

 俺は村長を立たせると向かいのソファーへ座るように言った。

 村長は緊張した様子だったが、俺の言うことを守ってソファーへ座る。


 少しすると年若い娘が、お茶の入ったコップを持って部屋の中へ入ってきた。


「どうぞ……」


 娘は震える手をなんとか目立たないようにしながら、俺達の前のテーブルにお茶を置いていく。

 三人分置き終わると、深々とお辞儀をして部屋を出ていった。




「そんなに固くならなくていいぞ、俺はこの辺の情報が欲しいだけだからな。付近に出る山賊や危険な場所などの情報を貰えればありがたいんだ」


「そうでございますか、先程はお見苦しい所をお見せしてしまい申し訳ありませんでした」


 俺の話に村長は気が抜けたようでぐったりしている。

 落ち着いたところで周辺の情報を村長から詳しく聞いて一息ついた。



「ところで先程の村人たちは何を騒いでいたんだ?」


 あまり村のゴタゴタに巻き込まれたくなかったので聞きたくなかったが、好奇心が勝ってしまいつい聞いてしまった。


「はい……、実は村にほど近い山の中に魔物の住む洞窟が見つかりまして、村の者から討伐許可の請願が出ておるのでございます」


 村長の説明によれば、つい先日から山の様子がおかしく動物たちが姿を見せなくなったそうだ。

 異変にいち早く気づいた村の狩人かりゅうどが、単身山に調査に入ってゴブリンが巣食う洞窟を見つけたらしい。


 そして今日、山のふもとの森できのこを収穫していた村娘三人が、跡形もなく消えてしまったらしい。

 娘たちの消えた周辺には、一匹のゴブリンが死体で転がっていて、死因はナイフによる刺殺だった。

 刺さっていたナイフは村娘の所有していたもので、状況から戦闘になって一匹は仕留めたが、連れ去られたことが濃厚だということだ。

 生死は不明、しかし見過ごすわけにも行かないので、村人たちで探しに行きたいらしい。


 しかし村長としては村人をこれ以上失うわけにはいかないので、近くの街へ応援を要請して万全を期してから討伐したいらしい。

 そこで先程の村人たちとの押し問答になっていたようだ。




 俺はワンさんをじっと見つめる。

 ワンさんはすました顔をして俺を見ていたが、「しょうがないでやんすね」というような困ったような笑顔を見せてきた。

 俺はふっと息を一息吐くと、村長に向かって静かに言った。


「村長、これもなにかの縁だ。その娘たちの救出と魔物の討伐、我々が手助けするぞ」


「おお! なんと! ありがとうございます!」


 村長はソファーから転がり降りると、床に顔を擦り付けてお礼を言ってくる。


「村長、レイン様はあの有名な『ミドルグ迷宮』でトップパーティー『白銀の女神』のリーダーを努めておられるのだ。今回の助太刀すけだちはかなり貴重なことなのだぞ、ありがたく思えよ」


「ははぁ~! ありがとうございます!」


 更に頭を床に擦り付けて村長がお礼を言ってきた。


「よし、今から宿屋へ戻って救出の準備だ、ワンさん馬車を飛ばしてくれ」


「わかりやした!」


 いつもの口調に戻ったワンさんが、勢いよく立ち上がり部屋を走り出ていく、俺も村長に一言断ると足早に村長宅を後にした。



ー・ー・ー・ー・ー



 宿屋につくとセルフィア達に事情を伝える。

 始めは俺とワンさんだけで行こうとも思ったが、セルフィア達に大反対されてフルパーティーで救出に向かうことになった。


「レイン、娘たちはきっとひどい目にあっているわ、女手が絶対必要になるわ」


「そうですよ、相手はゴブリンです。娘さん達は無事ではないでしょう」


 セルフィアたちに言われて思い出したが、野生のゴブリンは異種族女性を陵辱りょうじょくして子を作ることがある。

 さらわれたのが今朝のことなので、もしかしたら乱暴されている可能性もあった。



「リサはゴブリン狩り得意だよ、まかせて」


 にっこりと微笑みながらリサが俺を見る。


「ああ、そうだな。リサ頼りにしてるよ」


「うん!」


 嬉しそうに俺に飛びついてきたリサの頭を優しくなでてあげた。




 完全武装をして宿屋の前に集合する。

 夕日に照らされモーギュストの鎧が虹色に輝いている。

 その横にはきらびやかなローブに包まれた美女二人と、可愛らしい美少女がたたずんでいた。

 遠巻きに様子をうかがっている村の子供達は、口をぽかんと大きく開けて見たことがないきれいな鎧や、あったことなど無い美女たちをじっと見つめていた。



「貴族様、この者が先程話した洞窟を見つけた狩人です。道案内につけますのでどうぞ使ってください」


 いつの間にか村長が近寄ってきていて、その隣にはむさ苦しい毛皮をまとった大男が控えていた。


「ゴメスです、よろしくおねがいします」


「レイン・アメツチ準男爵だ、よろしく頼む」


「はは~」


 名乗り出た狩人は髭面でがっちりとした体格、背中に弓と矢筒を背負っていて革のチョッキを着ていた。

 革のズボンを履き、腰には山刀やまがたなと革袋を吊るしている。

 使い古されたブーツを履いていて、とても身軽な装備だった。



「よし、事態は一刻を争う。ゴメス、娘たちが消えた森へ案内しろ」


「わかりました、こちらです。足元が暗くなるので気おつけてください」


 篝火かがりびから松明たいまつへ火を移し、ゴメスさんが先頭を歩き出す。


「光よ灯れ、『ライト』」


 短い呪文をセルフィアが唱えると、小さな光球が現れ空に上っていった。

 光球は辺りを昼間のように照らし始める。



「わ~」


「きれいだな~」


「魔術師様よ」


「まるで昼間のような明るさだね」


 遠くから子どもたちの声が聞こえてくる。

『ライト』のような簡単な呪文でも珍しいようで、口々に感嘆の声を上げていた。

 セルフィアは、自分が子どもたちに注目されているのがこそばゆいらしく、顔が少しにやけている。


「ワンさん、森に入ったら気配を消して、周辺を探ってくれ。魔物の排除も同時に行うのを忘れるな」


「わかりやした」


「アニー、みんなに『バリア』を掛けてくれ。今回は『神聖防壁』は温存しよう、それほど強い魔物はこの辺にはいないからな」


「わかりました」


 アニーが一人ひとりに『バリア』の呪文を掛けていく、みんなの身体が薄っすらと光り出し、強力な防壁が掛けられたのがわかった。

『バリア』をかけてもらったことなど無いゴメスさんは、一人だけびっくりして飛び上がった。


「ゴメスさん大丈夫ですよ、守りの魔法をかけただけです」


 アニーがにっこりと笑ってゴメスさんに説明をする。

 当のゴメスさんは、冷や汗を垂らしながら作り笑いをして、黙ってうなずくだけだった。



 前方に鬱蒼うっそうと茂る森が見えてきた。

 振り返ると遠くに村の篝火が見えていて、そう遠くない場所だということがわかった。

 背中に張り付いていたドラムが、ゆっくりと浮上して上空へ消えていった。

 ドラムは上空から森を監視することにしたようだ。



「レイン様、これから森に入ります。危険な魔物や動物たちが徘徊はいかいしているので気をつけてください」


 ゴメスさんが俺達を気遣って話しかけてきた。


「わかった、気をつける」


「旦那、そろそろ行きやす」


「たのむ」


 ワンさんが『気配消失』を発動してその場から消えていく、その様子を見ていたゴメスさんは腰を抜かして地面に尻餅をついてしまった。


「ひ、人が消えたぞ! どうなっているんだ!」


 顔をひきつらせてワンさんが消えた辺りを凝視しているゴメスさん。


「ゴメス、うろたえるな。あれは俺達がいつも使っている気配を消す魔術だ」


「そ、そうですか……、びっくりしてしまいました」


 立ち上がったゴメスさんは、恥ずかしそうにしながら松明を拾い上げる。

 ゴメスさんが落ち着いたのを見計らって更に森の奥へ入って行った。





 木々の間をゆっくりと進んでいく。

 ゴメスさんを除く救助隊は、夜の森にもかかわらず余裕の表情で軽い足取りだった。

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