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124.道中、とある村で

『迷宮都市図書館』での情報収集も終わり、王都へ旅立つ朝が来た。




 まだ暗いうちに眠りから覚め、朝の身支度を開始する。

 今日から王都へ向けての旅が始まるので、いつもより多くの時間を使っての旅支度になった。

 王都への旅路は村や町に泊まりながら、のんびりと行くつもりだ。

 日程は十日前後、別に急ぐ旅ではないのでもう少し長くなるかもしれない。

 前回ミドルグを離れたときは真冬で雪がちらついていた。

 リサの故郷への旅、悲しい結末になったが思い出もたくさんできた。

 今回の旅は気楽にいこうと思う、季節も春真っ盛りで旅をするにはちょうど良い陽気だった。




 黒塗りの二頭立て馬車が宿の真ん前に横付けされていた。

 所々に金の金具をあしらった豪華な作りで、ひと目で貴族の馬車だとわかるような作りになっていた。

 磨き上げられた車体は姿が映るほどで、ドア一枚でも相当な金額が注ぎ込まれていた。


「みんな乗ったな?」


 俺は馬車の室内に乗り込んでいるセルフィア達に声を掛けた。


「準備万端整ったわ、いつでもいいわよ」


 にこにこ顔でセルフィアが答えてきた。


「みんな乗ってますよ」


「リサも乗ったよ」


 アニーとリサが嬉しそうに言ってきた。


「よし、それじゃ出発しようか」


 俺は馬車のステップに足をかけて室内に乗り込んだ。




 御者台にはワンさんが乗り込み手綱を取っている。

 馬車の後ろのステップにはモーギュストが立っていて、見張りをしてくれていた。

 赤ちゃんドラゴンのドラムは、車内の床に寝そべって居眠りしている。

 サムソンさんが見送りのため宿から出てきた。


「サムソンさん行ってきます。どのくらいで帰ってくるかわからないけど、あとのことはよろしくおねがいします」


「ああ、楽しんでこい。部屋のことは心配するなしっかり管理しておくよ」


「おみやげ買ってくるわね」


 セルフィア達も嬉しそうに手を振っている。

 御者台に通じている小窓を開けてワンさんに声を掛け出発してもらう。

 ワンさんが掛け声を上げると滑るように馬車が動き出し、あっという間に宿が見えなくなった。



 馬車が軽快に大通りを走り抜けていく、道行く人々は足を止めて豪華な馬車が通り過ぎるのを見守っていた。

 しばらくすると街の入出門が見えてくる。

 一般の人たちはここで一旦止まり役人たちの検問を受けなければならないのだが、貴族である俺の馬車はその限りではなかった。


 貴族の証である家紋が描かれた旗をたなびかせながら近づく。

 馬車を見た衛兵たちが慌てて貴族専用の通路に並んでいく。

 門の横に整列した衛兵たちは最敬礼で俺達の通過を見守っていた。

 速度を落とさず門をくぐりミドルグを抜け出した馬車は、まだ青々としている麦畑を軽快に王都へ向けて走っていった。



ー・ー・ー・ー・ー



 ミドルグを出発してから早くも三日が経っていた。

 午後も遅い時間に今日泊まる村へ馬車を滑り込ませた。

 村の入口で門番から誰何すいかを受け、こちらの素性を明かす。

 こちらが貴族だとわかると、門番は青い顔をして地べたに額をこすりつけ、微動だにしなくなってしまった。


「今日はこの村で宿を取ることにした。速やかに開門せよ」


 ワンさんが大声で門番へ指示を出す。

 言われた門番は飛び起きると、慌てて門を開け始めた。

 両開きの門を目一杯開け、馬車が通過するのを青い顔で見ている。

 手に持った槍は小刻みに揺れていて、門番は震えているようだった。


「本当にこの国の貴族はどれだけ恐れられているんだ……、いまだに慣れないな……」


 車窓しゃそうから門番を見ながらしみじみ思った。


「当たり前よ、お貴族様の機嫌を損ねたらよくて打首、最悪は村ごと滅ぼされてしまうのよ」


 セルフィアがさらっと怖いことを言う。


(本当なのか? 冗談だよな?)  


「私達が住んでいた村では、お貴族様の悪口を言ったら三日間何も食べさせてもらえませんでしたよ」


 アニーも続けて怖いことを言ってくる。


(三日も食べ物をもらえなければ下手すれば体を壊してしまうぞ……)


 貴族の怖さが少し垣間見えて怖くなってきた。


「でも今ではレインがお貴族様だからあたし達は安心ね」


 にこにこした顔でセルフィアが抱きついてくる。

 それを見ていたアニーとリサも次々と抱きついてきた。

 色々柔らかいものが俺の体に当たり、気持ちいいが少し恥ずかしい。

 俺の気持ちなどお構いなしに、三人にもみくちゃにされてしまった。




 馬車が村へ入ると、村の子供達が集まってくる。

 みんな見慣れない豪華な馬車を見て笑顔で騒いでいる。


(子供はどこでも無邪気だな、少しほっとしたよ)


 にぎやかな村の様子に気持ちが落ち着く、遅れて外に出てきた村人たちは、馬車に向かって大きくお辞儀をしていた。




 この村は人口百人ぐらいの小さな村だが、街の中央付近には宿屋が営業していた。

 建物はミドルグのスラムにある『熊の牙亭(きばてい)』よりもみすぼらしく小さい。

 小さな村には宿泊施設などがないのが普通なので、村の有力者の家に泊めてもらうか野宿しか選択肢はなく、みすぼらしくても宿があるだけましな方だった。


 村の唯一の大通りをゆっくりとした速度で馬車を走らせる。

 舗装もしていない道は所々ぬかるんでいてデコボコしていた。

 普通の馬車なら車内は上下左右に揺られて大変なことになるのだが、俺が改造を施した自慢の馬車は、全く揺れずとても快適だった。

 なぜかというと車輪と車体の間に、揺れを打ち消す魔道具を仕込んでいるからだ。

 貴族の馬車には性能の差はあれど施されている装備で、俺の馬車にはかなり高性能な魔道具が仕込まれていた。



 宿の前に馬車が止まる、車窓から宿の扉に向かうワンさんが見えた。

 しばらくするとワンさんが宿から出てくる。


「旦那、部屋の確保出来やした」


「そうか、それじゃみんな部屋で休んでいてくれ、俺は村長の家に行って情報を仕入れて来る。ワンさん悪いけど馬車を出してくれ」


「わかりやした」


 みんなを宿に残し馬車で村長の家へ向かう、村の奥まった所に一際大きな屋敷が見えてきた。



 村長の屋敷が見えてくると何やら人が集まっているのが見えた。


「旦那、少し用心してくだせぇ、村人たちは殺気立っていやす」


 車体前方の小窓からワンさんが言ってくる。

 俺は了解して腰の刀を確かめ気を引き締めた。

 馬車が屋敷の敷地内に入っていくと、村人たちがこちらを見て動揺した顔をした。


 村人たちから少し離れた位置に馬車を止めワンさんが地面に降りる。

 戸惑い怯えた表情をした村人たちの中から、腰の曲がった老人が杖を突きながら現れた。


「私はこの村の長をやっております。さぞやご身分の高いお方とお見受けしますが、どのようなご用件でしょうか」


 曲がった腰を更に曲げ、丁寧なお辞儀をしながら様子をうかがっている。



「こちらはレイン・アメツチ準男爵様だ、王都への旅路の途中である。今宵の宿をこの村で取ることにした。この村の周辺情報をレイン様は欲しておられる、すみやかな情報の提供を求める」


 ワンさんがよそ行きの言葉で説明をする、それを聞いた村人たちは少しほっとした表情でお互い見合っていた。


「そうでございましたか、それでは私がご説明いたします。むさ苦しいところですが家の中へお入りください。村の衆、今日のところは解散するのじゃ。明日また話し合おう」


 村長が何やら村人たちに声を掛けた。

 村人たちは村長の言葉に不満げな表情をしていたが、貴族である俺の用事を断ることは出来ないので、大人しく従うことにしたようだ。

 村長は俺達を家の中へ導いていく、村人たちはその場にひれ伏して家の中へ入っていくのをじっと待っていた。





 村はなにか揉め事が起こっているようだ、間が悪い時に来てしまったようで、少し嫌な予感がした。 

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