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118.捕縛

 階段を見つけたと思ったらさらなる迷宮が広がっていた。

 俺達は慎重に探索を続けるのだった。




『城』の一階部分を探索していく。

 やはり内部は広大な迷宮になっていて攻略は困難を極めた。

『城』の地下は通路が多く部屋はそれほど多くなかった。

 しかし一階部分は部屋だらけで、更に迷宮らしくメチャクチャな作りになっていた。


 何がメチャクチャだというと、まずは通路だ。

 左右に壁だけの豪華な通路が延々と伸びていて、その先は行き止まりになっていたり、無数に枝分かれしていてすぐに迷ってしまうような作りなど、探索者泣かせの作りがたくさんあった。


 そして部屋部分は更に入り組んでいて、扉を開けて次の部屋へ行くと厨房施設へ繋がっていて、その先には大広間に繋がっているなど規則性がまったくなかった。


 ワンさんは周囲の罠はずしをしながら地図作成をするという、かなり忙しい作業をしなければならず、隣で見ていて申し訳なくなってしまった。


「ワンさん、地図作成俺が変わろうか? ワンさんだけ忙しくて申し訳ないよ」


「旦那、お気持ちだけもらっておきやす。地図作成は誰でもすぐ出来るものではありやせん、あっしに任せておいてくだせぇ」


 ワンさんは嬉しそうに言って大きな羊皮紙に顔を戻した。

 その羊皮紙を横から覗くとびっしりと『城』の構造が書かれていて更に文字が至る所に書いてある。

 そこまで書かなくては駄目らしく、俺には出来ないのは一目瞭然だった。


「確かにこれは俺達では書けないな、ワンさん申し訳ないが頑張ってくれ。疲れたらすぐ言ってくれよ?」


「わかりやした、ありがとうございやす」


 ワンさんは羊皮紙から顔を上げると嬉しそうにお辞儀をしてきた。




『コロニー』に関しては、また別の施設になってしまうかもしれないと心配だったが、『詰め所』は一階部分にもちゃんとあって、きっちり機能していた。

『詰め所』を点々としながら広大な『城』を探索していった。




「止まれ、次の部屋に魔物の気配がある。数は二つ、ゆっくりと室内を動いているぞ」


「あっしの耳も魔物をとらえやした。奴らは二足歩行でやんす」


 俺の『気配探知法』に魔物の気配が引っかかる、ワンさんも耳を澄まし音を聞き分けていた。


「ワンさんと俺が扉を開く、モーギュストは前面に出て不意の攻撃に備えろ。セルフィア達は魔物をよく観察してむやみに攻撃を仕掛けるな」


 仲間たちの返事を待たず扉に張り付く、みんな緊張しながらも自分の役割をきっちりこなしていた。

 扉をゆっくりと開き中の様子を確認する。

 すると部屋の中にはメイド姿の青白い顔をした女二人が、無表情でフラフラと歩いていた。

 更に観察すると手には何も持っておらず、武器になるようなものを隠し持っている様子もない。

 俺はモーギュストに前進を命令してその後ろから慎重に部屋へ入っていった。



 俺達が部屋へ入るとメイド姿の人型ひとがたはピッタリと動かなくなった。

 しかし顔をこちらに向けるでもなく明後日あさっての方を見ている。


「気味が悪いわね……、いつでも焼き払える準備はできたわよ」


 セルフィアが小声で俺に耳打ちする。

 俺は軽くうなずくとモーギュストに小声で命令をした。


「恐らくあの人型は吸血鬼だ、子鬼とだいぶ形は違うが能力はそれほど変わらないと思う。槍で一体仕留めろ。後一体は俺とワンさんで捕獲する」


「オッケー」


 嬉しそうにモーギュストが返事してくる。


「ワンさん、聞いていたか? 出来る限り生け捕りにしてみよう」


「わかりやした」



 打ち合わせが終わり後は俺の号令を待つばかりになった。

 もちろんアニーの『神聖防壁』はすでに展開しているので彼女たちは安全だった。


「今だ! 攻撃!」


「おらっ!」


 ブンと唸りを上げてモーギュストの槍がメイドの一人の首をねた。

 魔物もかなり強いはずだが、モーギュストの槍先を避けることが出来ずその場に崩れ落ちる。

 仲間がやられたのに反応してメイド吸血鬼が本性を現して鬼の形相に変わった。

 無表情だった顔は目が釣り上がり乱杭歯が口から飛び出る。

 指先の爪が瞬間的に長くなり短剣のような鋭さになった。


 腰を低くしてモーギュストめがけて突進するメイド、その攻撃をモーギュストは壁盾で簡単に受け止めその場に固定した。


「ワンさん! この手枷てかせで拘束しろ! 俺は足を捕まえる!」


 巾着袋から手枷と足枷を出し素早くメイドを拘束する。

 暴れていてなかなか足をつかめなくてメイドに蹴りつけられた。


「旦那! 拘束しやした!」


「よし! こっちを手伝ってくれ!」


 流石に器用なワンさんはメイドの爪攻撃を物ともせずすぐに手を縛り上げる。

 二人がかりで足を拘束しモーギュストが馬乗りになって身動きできないようにする。


「よし、なんとか捕獲できたな、これより前々から考えていたことを実行する」


「レイン……、なんかいやらしいわね、何をするの?」


 一部始終を遠くから見ていたセルフィアがそっと近付いてきて恐る恐る俺に聞いてきた。


「ん? セルフィアが考えているようなことはしないぞ、全くいやらしくないことをするんだよ」


「べ、別に変なこと考えてないんだからねっ! 勘違いしないでよ!」


 顔を真赤にしながら怒ってくるセルフィアはとても可愛らしかった。



「旦那、セルフィアのあねさんじゃありやせんが、あっしも何をするか見当がつきやせん。裸にひん剥いて観察するんじゃないんでやんすか?」


「そんな事するわけ無いだろう! 俺は変態じゃないぞ」


「でもちょっと面白そうだよね、やってみようよ」


「何言ってるんだ、モーギュスト少し黙っていろ」


 のりのりのモーギュストを黙らせて、今から行う実験を説明していく。



「みんな俺が魔物と話せるのを知っているだろ? アトラスさんだってれっきとした魔物だからな。だからこの吸血鬼とも話せないかと思うんだよ」


「なるほど! さすが旦那面白いことを思いつきやすね、もし話せたら迷宮の事を聞き出せるかもしれやせん」


「まあそんなところだ、ワンさん椅子を持ってきてくれ。こいつを椅子に縛り付ける」


「わかりやした!」


 嬉しそうに部屋の隅にある椅子に向かって走っていくワンさん、俺の実験がとても気に入ったようだった。




「よし、これで動きが取れないだろう、モーギュストもう手を話してもいいぞ」


「オッケー」


 今まで万力のような力で吸血鬼を捕まえていたモーギュストが吸血鬼から離れた。

 途端に暴れだす吸血鬼は恐ろしい形相で喚き散らしている。


「少し大人しくさせやすか? 何発か殴れば黙るかもしれやせん」


「やめたほうがいいな、感情があるなら今から行う尋問に支障が出そうだ」


 俺はワンさんの申し出を丁寧に断った。



「レイン、どうでもいいけどなんで手枷とか袋に入れてあるの? 普通持ってないわよ?」


 いやらしい人を見る目でセルフィアが聞いてくる。


「王都で色々ものを買い漁ったことは前話しただろ? その中にあっただけだよ決して趣味で持ち歩いているわけではないぞ」


「そうなの……、レインが変な趣味の持ち主じゃなくてよかったわ」


 少し残念そうにセルフィアが返事してくる。


(まさかセルフィアは俺に縛られたいのか?)


 馬鹿な考えが一瞬頭によぎったが、慌てて考えないことにした。





 恐らく誰もこの世界でしたことのない魔物に尋問するという行為。

 成功するかしないかは神のみぞ知る事だった。 

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