114.コロニー?
十九階層での初戦闘に勝利した、引き続き未踏の迷宮を探索するのだった。
吸血鬼を倒し勢いに乗った俺達は、城の中を慎重に探索していた。
探索して行く中でわかったことは、ここが城の地下部分だということだ。
入り組んだ石積みの通路が縦横無尽に張り巡らされていて、探索は困難を極めた。
久々に探索する迷宮らしい構造に苦戦を強いられ、思うように探索範囲を広げることができなかった。
「前方から吸血鬼の一団が接近中、総員戦闘態勢に入れ!」
俺の号令のもと仲間たちが素早い動きで予め決めておいた役割を果たしていく。
リサが先制攻撃で矢を速射し、先頭を駆け寄ってくる吸血鬼の一体を射殺した。
煙になって消える吸血鬼の体を強引に乗り越え、さらなる吸血鬼が駆け寄ってくる。
その速度は尋常ではなく、あっという間に近接戦闘の間合いまで近付いてきた。
「おらっ!」
モーギュストが気合の掛け声とともに槍の一閃を放つ。
牙をむき出しにして噛みつこうと飛びかかってきた吸血鬼の頭を勢いよく刈り取った。
煙を体から吹き出しながら頭をなくした吸血鬼が、アダマンタイト合金の壁盾に大きな音を立ててぶち当たる。
「おっす!」
壁盾を勢いよく押し出し『シールドチャージ』を発動して、動かなくなった吸血鬼を前方に押し出した。
凄まじい圧力で押し出された体は、圧力に耐えきれず無数の肉片になって飛び散った。
血肉はミンチになって霧散したが、頭蓋骨を始めとする骨格が弾丸のようなスピードで吸血鬼たちの群れに襲いかかる。
骨の爆散に巻き込まれた子鬼達は、致命傷を負って床に這いつくばった。
あるものは肩口から腕を持っていかれ、またあるものは上半身だけになってもがいている。
しかし次の瞬間には傷口が激しく泡立ち、みるみるうちに再生していった。
「吸血鬼の再生能力は侮れないぞ! 確実に息の根を止めるんだ!」
驚異の回復能力で復活し、立ち上がる吸血鬼たちを見ながら、仲間たちに指示を出していく。
「ファイアーボール!」
得意の呪文をセルフィアが唱えた。
黒檀の杖先から、青白い炎の固まりが無数に出現し、前方へ勢いよく飛んでいく。
我先にと押し寄せてくる吸血鬼の群れにこぶし大の火炎弾が着弾した。
青白い炎は激しく爆発し辺りを火の海にする。
一向に消えない炎は吸血鬼たちを火だるまにしてどんどん焼却していった。
「どう? レイン、インフェルノの炎に改良したファイアーボールの威力は、よく燃えるでしょ?」
自慢気に報告してくるセルフィアに感心しながらうなずく。
(セフィーは研究熱心だな、大魔法をアレンジするなんてなかなかできないぞ)
大量に焼却処分したがまだまだ数が多く全滅させるまでには至らない、前線を突破されそうになったモーギュストはとっておきの呪文を唱えた。
「ヘイト!」
目を血走らせて俺達に襲いかかろうとしていた吸血鬼が、モーギュスト一人に向かって殺到した。
みるみるうちにモーギュストの体が吸血鬼の群れに飲み込まれる。
「滅しなさい! キュア!」
錫杖を前方へ突き出しアニーが叫ぶ、モーギュストに群がっていた十数体の吸血鬼は一瞬で塵になって消し飛んだ。
通路に群がっていた小鬼どもはあらかた片付いたかに思われた、しかし次の瞬間新手の群れが姿を現し俺達に向かって殺到してきた。
「くっそっ! きりがないな、ドラム、ブレスを吐くことを許可する。奴らを一掃しろ!」
「ガウッ!」
ドラムは嬉しそうに一声鳴くと体に空気を取り込み始める。
フグのように丸くなっていくドラム、口から炎がチラチラと漏れ出していた。
「やれドラム!」
俺の号令で通路を埋め尽くす子鬼たちへ紅蓮の炎が浴びせかけられた。
辺りが生き物が生存できない灼熱地獄になる。
子鬼達は炎の風に吹き飛ばされて消し炭になって霧散していった。
『神聖防壁』が淡く虹色に輝く、障壁の中にいる俺達にはドラムのブレスが届くことはなく、穏やかな空間が広がっていた。
炎の海の中でドラムが咆哮を上げて嬉しそうに飛び回っている。
久々にブレスを吐けて興奮しているようだった。
「なんだかんだ言ってもドラムにはかなわないわね」
困り顔で笑っているセルフィアはとても嬉しそうだ。
「あれでまだ赤ちゃんなんだから末恐ろしいな」
セルフィアの肩を抱きながら、通路のはるか先まで広がる炎の海をしばらく眺めていた。
「あっしの出番がありやせんでした」
残念そうに眉を寄せながらワンさんが近付いてくる。
姿を消して俺の突撃命令を待っていたワンさんは少し寂しそうだった。
「ワンさん、罠はずしや通路の発見で忙しいんだから戦闘はみんなに任せよう。頼りにしているよ」
「旦那! あっしは頑張りやすよ!」
俺の言葉に元気を取り戻し尻尾を勢いよく振り始める。
炎が収まりあたりの温度が下がると、嬉しそうに魔石をかき集め始めた。
吸血鬼の群れを一掃して大量の魔石を手に入れた『白銀の女神』一行は、辺りを警戒しながらワンさんの後をゆっくりとついていった。
「この扉は他とは少し違いやすね」
ワンさんが豪華な扉を見つけ周りを調べている。
扉の四隅を手袋をはめた手で軽く叩いていた。
「罠はかかってないでさぁ、今から開けやすから離れていてくだせぇ」
俺達を避難させた後、ゆっくりと扉を開いていった。
少しだけ開けた隙間から顔を入れて中を覗き込むワンさん、更に一人で中へ入っていった。
しばらくするとワンさんが扉から顔を出してきた。
「とうとう『コロニー』らしき部屋を見つけやしたよ。中は安全でやすから見てくだせぇ」
ワンさんに先導されて部屋の中へ入る。
「詰め所か何かかな?」
中へ入ると広めな部屋があり、長椅子が並んでいた。
壁際には武器を立て掛けておくための柵が設けられている。
扉の反対側にも扉はあり、ワンさんに開けてもらうと他の通路につながっていた。
城の地下は通路が網の目のように張り巡らされていて、部屋も多数あったが今回発見したような施設は全く無かった。
あるのは空の部屋ばかりで宝箱が設置してあったり、魔物のたまり場になったりはしていたが、家具などは一切なかったのだ。
「ここが『コロニー』ならば更に奥へ探索できそうだな、一旦樹海に戻ってウサギを捕まえてこよう。『樹洞』のときのようにウサギを囮にすれば白黒はっきりするからな」
そうと決まればここに長居していてもしかたがない、一旦石碑のある霊廟へ撤退することにした。
発見した詰め所らしき部屋をワンさんが地図に書き込んでいる。
複雑すぎる構造の城の地下は、地図を書かなければ一発で迷ってしまうほど入り組んでいた。
霊廟へ戻ると十六階層へ移動する。
アトラスさんの家がある樹海の畔の崖の上に久しぶりに戻ってきた。
夕日が樹海の空を赤く染めて夜が訪れようとしていた。
「急いでウサギを見つけるぞ、みんな足元に注意して崖を駆け下りろ」
『身体強化』を高めて一気に崖を駆け降りる。
道なき垂直に近い壁を半ば落ちるようにして下っていった。
物の一分もしないうちに麓に到着した俺達は、休むこと無く樹海の中へ侵入していく、後ろから仲間たちもしっかりとついてきていた。
懐かしい樹海の中を走りながらウサギを探す、しかしなかなか見つからずどんどん奥へ入っていった。
夕闇が迫る樹海はすでに暗くなってきて足元が見えなくなってきた。
ウサギを捕まえることを諦めきれない俺は、更に奥深くへと進んでいった。