108.楽しい報告
登城した仲間たちはカミーラ様に謁見した。
「カミーラ様、今日登城した理由は戦争のことを話すためです。今どうなっているのかお聞かせ願えますか?」
「そうじゃな、すでに国境では小規模な戦闘が始まっていると聞いておる。国王様も今回で帝国を滅亡まで追い込むつもりのようで、だいぶ力が入っているようじゃ」
「そうですか……、やはり王国貴族には戦争への参加などが義務付けられるのでしょうね」
俺は核心部分を単刀直入に聞いてみた。
「今の所レイン殿には取り立てて命令などは出ておらぬな、情勢が悪化した場合は戦争へ駆り出されるかもしれないが、まだ安心していて良いぞ」
カミーラ様はオレの心を見透かしたように薄笑いを浮かべながら話してきた。
俺は徴兵されるものとばかり思っていたので、肩透かしを喰らい呆けた顔をしてしまった。
「なんじゃ? てっきり嬉しそうにすると思ったのじゃが、まさか戦争へ行きたいのか?」
「い、いえ、滅相もありません正直ほっとしました。パーティー内で話していたのですが結論が出ず、カミーラ様にみんなでお会いしようということになりまして今日の登城となったのです」
慌てて弁解をする、その様子が面白かったようでカミーラ様は声を上げて笑い始めた。
俺はカミーラ様の美しい笑い顔を眺めながら、肩の力を抜いた。
俺達の話を聞いていたメンバーたちは嬉しそうな顔をして目配せし合っている。
本当は騒ぎ出したいほど嬉しいのだろう、しかしカミーラ様の手前騒ぐこともできずにおとなしくしているようだ。
「せっかく皆で城に来たのじゃ、昼食を食べながら此度の探索の事を聞かせてもらえるか? そなたの話が妾の唯一の楽しみなのじゃ」
「はい喜んでお話致します。仲間たちもカミーラ様と食卓を囲えるのを光栄に思うでしょう」
一斉に仲間たちが頭を下げる、みんな戦争へ行かなくて済んでとても嬉しそうだった。
豪華な昼食は俺が探索の話を面白おかしく話す独壇場となった。
極寒の大地の厳しい環境、骸骨騎士たちとの激しい戦闘の場面、雪原に突如現れた謎の巨城、どれもこれも珍しい冒険談にカミーラ様は嬉しそうに相槌を打っていた。
俺としてはゾンビ熊との戦闘のことを話したかったのだが、食事の席なのでそのことには触れないようにした。
カミーラ様は上機嫌で俺の話に耳を傾け、それをメンバーたちが静かに見守っていた。
いつものように騒げない食事に、メンバーたちは腹を満たすことに全力を注ぐことにしたようだ。
王都の味と変わらない美味しい料理を次々に平らげていく。
皆一心不乱に皿の中の料理をお腹の中に詰め込んでいった。
全員が幸福なひと時は一瞬で過ぎ去り、カミーラ女男爵様に別れの挨拶をして城を後にした。
城の跳ね橋をみんなで渡っていく、衛兵たちが挨拶をしてくるのでこちらも愛想よく返しゆっくりと歩いていった。
「旦那、心配事が一つ減りやしたね!」
「良かったわ、とりあえずは探索に集中できるわ」
「人を殺めることをしないで済んでよかったです」
「リサちゃんの事を置いていかなくて済んでよかったね」
「そうだな、リサ不安な思いをさせてごめんな、お兄ちゃんを許してくれるか?」
俺は座り込むと目線を合わせリサに謝った。
「許すからリサを一人にしないで……、お兄ちゃんと離れたくないわ……」
「本当にごめんなもうあんな事は言わないよ、これからはどこへ行こうとリサを置いていかないかないよ」
「うん……」
リサは静かにうなずくと小さな手を俺の手に重ねて握ってきた。
手をつないで宿屋へ帰る。
帰りながらいろいろな話をするとリサはだんだん元気を取り戻して、笑顔で応えるようになっていった。
「じゃあ今からギルド長のところへ行ってくるよ、みんなはゆっくりしていてくれ」
宿屋の前でメンバーたちに行き先を告げ俺だけギルドへ向かった。
ギルドの前にいるチンピラ探索者達が、俺が近寄ってくるのを見つけると一斉に頭を下げてくる。
「お前たち戦争が始まるぞ、フラフラしていると招集されてしまうから今からでも探索に身を入れろ」
思わず余計なことを言ってしまった。
なにか反論があるかと思ったらチンピラ達は神妙な顔をしてうなずき、思い思いの方向へ消えていった。
扉の中へ入りカウンターへ向かう、受付嬢に取り次ぎをしてもらいギルド長室へ案内してもらった。
「レインです、入ります」
ひと声かけて中に入る。
「おお、レイン無事戻ったようじゃの。今回は大成果だったそうじゃな、早く座って話を聞かせてくれ」
ギルド長は俺に近づくと嬉しそうに背中をたたきソファーへ座るように促す、俺はいつものやり取りに懐かしくなって思わず笑いだしてしまった。
「相変わらずですね、元気そうで何よりですよ」
「ワシはおまえのことを心配していたのじゃよ、これでも少し痩せたんじゃよ」
ビア樽のような腹を擦りながらギルド長が冗談を言ってくる。
二人で大笑いをしてからソファーに座り向かい合った。
「お土産は何が良いか迷ったんですが、やはりこれが良いですよね?」
巾着袋から火酒の樽を何樽か出し、床の上に静かに置いた。
「おお! いつもすまんな、前にもらった分はもう無くなってしまったんじゃ。とても嬉しいぞ」
樽に駆け寄り栓を開けると用意したグラスに火酒を注いでいく。
俺とギルド長はグラスを合わせて今回の探索の成功を祝った。
「しかしお主は一段と強くなったの、もうワシでは勝てそうにないわい」
「先日骸骨騎士を四体一度に倒しましたよ、それも一方的な攻撃で殲滅しました」
「それは凄いの、完全にトップパーティーになったようじゃな」
ギルド長は上機嫌でグラスを煽るとお代わりを注いでいく。
その飲みっぷりはいつ見ても豪快で見ていて惚れ惚れした。
「今回は十九階層らしき城を『戦乙女』と共同で発見しました。彼女たちも頑張ってだいぶ強くなりましたよ」
ギルド長に『戦乙女』たちを鍛え上げたことを報告する。
俺の説明にうなずきながら聞いていたギルド長は、終始穏やかでニコニコしていた。
「お主のその性格はイシリス様も気にいるはずじゃ、相手を見捨てない心あっぱれじゃよ」
秘密を漏らした俺をギルド長は怒るどころか褒めてくれた。
ギルド長も『戦乙女』たちのことは心配だったらしく、俺の行動を高く評価してくれた。
「ところでお主、ミドルグ城へはもう行ったかの? 女男爵様とはお会いしたか?」
「ええ、さっき行ってきましたよ。カミーラ様ははとても機嫌が良くて昼食を一緒に食べてきました」
「そうか、それでは戦争のことは話題に上ったんじゃろ? カミーラ様はなんと言っていたんじゃ?」
「カミーラ様は当分俺の徴兵はないと言ってましたよ。情勢の悪化があればどうなるかわかりませんが、今は探索に力を入れるつもりです」
「そうかそれは良かった……、お主達は今やミドルグには欠かせないトップパーティーじゃからな、戦争なんぞに駆り出されては困るんじゃよ」
ギルド長は俺が戦場へ駆り出されることをひどく恐れているようだった。
大切に思われていることに嬉しくなり、追加で火酒をギルド長にプレゼントしてしまった。
「合同探索の他のパーティーが戻ってくるまで日帰りで探索するつもりです。また近いうちに顔を出しますよ」
「そうか、遠慮せずにいつでも来るんじゃぞ、お主なら大歓迎だからな」
ギルド長に別れを告げ斜向かいの宿へ帰る。
仲間たちと楽しい夕食を食べてドラムを抱えて眠りに落ちた。