表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
106/280

104.城

『山小屋』で一夜を過ごした『白銀の女神』と『戦乙女バルキリー』の合同パーティーは、探索の足を更に奥地へと進めていった。




『コロニー』を発見した翌日、俺は丸一日探索を中断して仲間達の疲れを癒やすことにした。

 俺の決定に仲間達は大いに喜び、思い思いの休日を過ごした。

 残念ながら外は吹雪いていて簡単には出ることはできなかったので、午前中は仮眠を取り、午後からは装備の点検をしたりしながらゆっくりと時間を過ごした。




 翌日、疲れが癒えて万全の体調になった総勢十二名と一匹の俺達は、意気揚々と『山小屋』を後にした。


『深淵の樹海』をひたすら奥へ歩みを進める。

 時折単独の骸骨騎士が突進してくるが、モーギュストの先制攻撃でことごとく討ち取られ脅威にもならなかった。

 雪に埋もれた大平原をモーギュストが小さい体でラッセルして道を作っていく。

 彼の有り余る体力は何時間経っても一向に衰えること無く、俺達が歩きやすい雪道を提供してくれた。

 午後の遅い時間に今まで吹雪いていた天候が一気に快晴へと回復した。

 一面銀世界の平面にポツンと『山小屋』が遠くに見えてくる。



「旦那見てくだせぇ、遠くになにか見えやす」


 ワンさんが指で地平線を指しながら俺に報告してくる。


「ああ見えてるよ、あれは『山小屋』だね今日の寝床だよ」


 前方に見える二階建ての小屋を見ながらワンさんに答える。


「いやそうじゃありやせん、もっと遠くでさぁ『山小屋』の延長線上の小高い丘に建物らしきものがありやす」


 俺は注意して遠くを見つめる、午後の照り返しでよく見えず立ち止まって凝視した。


「ぼくもみえたよ、なんか大きな建物のようだね」


 獣人は視力が俺達より相当いいらしい、モーギュストも発見して興奮気味に報告してきた。


「とりあえず見えないから山小屋まで行こう。モーギュスト、引き続き道を作ってくれ」


「オッケー」


 停止していたラッセルを再開して『山小屋』までたどり着いた。

 その頃には辺りが暗くなってきてワンさんの発見した謎の構造物は見えなくなっていた。



『山小屋』に入り『退魔の香』を焚くと緊急会議を開くことにした。

クリーンで素早くきれいにしたテーブルと椅子に、全員で腰掛けて先程発見した建物らしきものについてワンさんに報告をしてもらう。


「ワンさん、見たことを正確に報告してくれ」


「わかりやした、あっしは獣人でやんすから視力には自信がありやす。最初は地平線の彼方にゴミのようなものが見えたのでやんすが、次第に近づくにつれて建物だとわかりやした」


「僕も見えたよ、あれは大きな城のようだね」


 モーギュストが嬉しそうに話す。


「そうでさぁ、あれは王都オルレニアでみた王城にそっくりでさぁ」


 ワンさんの話を聞いていた仲間達が一斉にざわめき出した。

 今までさしたる建造物もなかった雪原に突如現れた巨大な城、それは一つのイメージを俺の頭の中に浮かび上がらせてた。


(十九階層……、とうとう見つけたかもしれない……)


 合同探索を開始してからはや数ヶ月、幾多の苦難を乗り越えての新発見に思わず拳を握りしめた。


「明日はその城へ近付いて偵察しよう、どんな危険があるかわからないからみんな注意して行動するように」


 全員が緊張した顔でうなずき返事をしてくる。

 明日の探索のことで頭が一杯になり、あまり夕食での会話は盛り上がらなかった。

 俺たちは見張りを残して早めにベッドへ潜り込んで寝てしまった。




 次の日の朝、早めに起床して身支度を整えると、外の様子をうかがうために扉を少し開け外に出た。

 夜の魔物たちが近くに居ないのは『気配探知法』でわかっていたので一人で行動をする。

 扉を出て屋根の上に『身体強化』を強くして飛び乗る。

 屋根に積もった雪を撒き散らしながらてっぺんまで駆け上った。


「なんだ先客が居たのか」


「おはようございやす、旦那も気になっているんでやんすか?」


 俺の『気配探知法』でも引っかからなかったワンさんがすました顔をして挨拶をしてくる。

 さすがは『白銀の女神』のシーフだ、頼もしいワンさんに思わずニヤケてしまった。


「どう? まだ暗くて見えないか……、 今日は快晴みたいだから日が昇ればよく見えるよね?」


「そうでやんすね、まだ見えやせん。もう少しであの丘の上に城が見えやすよ」


 指差しながらワンさんが説明してくれる。

 ワンさんの指差した場所は、なだらかに地形が高くなっていて、雪原より標高が高くなっていた。



 雪原の地平線がゆっくりと明るくなっていく、しばらくするとまばゆい太陽が顔を現した。

 ここは迷宮の奥深くなのに地上のような自然があり、一瞬自分が迷宮にいることを忘れてしまう。

 それほどリアルな自然再現をしている迷宮にただただ驚くだけだった。



 辺りが明るくなるにつれて小高い丘の上に大きな城の外観が姿を現してきた。

『山小屋』からはまだ距離があるはずなのに妙に大きく見える。

 それはあの城が巨大な証拠でその迫力に言葉が出なかった。


 朝日を受けて城の全容があらわになる。

 巨大な城は周囲をぐるっと城壁に囲まれ難攻不落の要害ようがいと化していた。


「だいぶ大きいね、近くへ行ったら更に大きく感じるだろうな」


「そうでやんすね、やはりあそこは十九階層でやんすかね」


「まだ決まったわけではないけどその線が濃厚だな」


「長かったでさぁ、やっと先に進めやす」


 ワンさんは感慨深げにつぶやくと拳を握りしめた。

 俺も知らず知らずの間に手に力が入っていて、握りしめた拳を意識して開いた。


「さあ、下に降りて探索の準備をするぞ、今日は忙しくなりそうだ」


「わかりやした! みんなを起こしてきやす!」


 嬉しそうに尻尾を降りながらワンさんが一気に屋根の上から飛び降りる。

 雪原にうまること無く着地をして滑るように小屋の中へ消えていった。




 慌ただしく朝食を食べ終え急いで小屋前に集合する。

 なんとしても早い時間に城に到着して、より多くの時間城周りを探索したかった。

 モーギュストが猛然と城に向かってラッセルを開始する。

 気合の乗った彼は左右に雪を吹き飛ばしながらすごい速さで突き進んでいった。


「モーギュストそんなに急ぐとバテてしまうぞ、程々にして体力を温存しろ」


「問題ないよ! これでも抑えているよ!」


 モーギュストは疲れ知らずでどんどん先へ進んでいってしまう。

 一時間も経たないうちに城付近に到着して様子をうかがうことができた。




 眼前に広がる巨大な城壁、見上げてもてっぺんはモヤの中に隠れて見えなくなっている。

 城の周囲には空堀が張り巡らせてあってかなりの深さがあった。

 その堀にこれまた巨大な跳ね橋がかかっており、現在は渡れないように跳ね上げてあった。

 正面には巨大な城門があって固く閉ざされている。

 他に出入りできそうな入り口は無く、中に入ることはできそうになかった。


「城壁の上からこちらは丸見えだな、アニー『神聖防壁』を展開してくれ」


「わかりました」


 不意の攻撃に対処するため障壁を張ってもらうことにした。


「ワンさん、どうにかあちら側へ行けないか? 跳ね橋は下ろすことができそうにないからロープを渡してみようか」


「旦那、あっち側へ渡った所で中に入ることはできやせんよ。それよりこの手の城には抜け道があるのが普通でさぁ、そちらを探したほうが安全でやんす」


 建物の構造に詳しいワンさんは自信満々に言ってきた。


「あたしもその意見には賛成ね、城に抜け道があるのはあたり前のことよ」


 俺達の会話を聞いていたミカサがワンさんの話に賛成してきた。

 二人のシーフ職が同じ意見なら従わないわけには行かないだろう、俺は堀を渡る計画を取りやめて抜け道を探すことにした。



「抜け道を探すと言ってもどこを探せばいいんだ? この城巨大すぎて一日じゃ回りきれないぞ」


 どこまでも続く城壁を見ながら途方に暮れてしまう。


「あたしは空堀の底が怪しいと思うわ、下に降りて調べましょうよ」


「あっしもその意見に賛成でやんす、抜け道はだいたい地下にありやすよ」


 またしても二人が同じ意見だ、俺はプロたちの意見を尊重して空堀の底へ降りることにした。





 時刻はまだお昼にもなっていない、余裕を持って探索できそうだ。

 ワンさんが垂らしたロープをつたって降りながら、城への入り口が見つかるのを祈るばかりだった。 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ