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100.樹海の奥へ

 ミカサ達の成長は思いのほか早く、実戦で戦えるのも時間の問題になってきた。




 樹海から聞こえる微かな地鳴りのような音で俺は目を覚ました。

 辺りはまだ薄暗く、テントの外の焚き火の明かりがゆらゆらと揺れているのが、天幕に写り込んでいるのがはっきりと分かった。


 体が妙に重いと思って毛布をどけてみると、横で眠っていたはずのドラムが俺の腹の上で丸くなっているのが見えた。


(ははは、大きくなってもまだまだ赤ん坊だな、安心して眠っていて凄く可愛いな)


 少しの間ドラムの寝顔を眺めていると横の毛布がゴソゴソと動いてセルフィアが俺を薄目で見てきた。


「なぁにもう朝なの……? レイン寒いから毛布ちゃんとかけてよ……」


 寝ぼけながら俺を恨めしそうに見てくるセルフィアに小声で「ごめん」と言い、めくりあげた毛布をもとに戻す。

 優しくドラムを腹の上からどかすとゆっくりと毛布の外へい出した。


 セルフィアの隣にはリサが張り付くように寝ていて小さな寝息を立てている。

 セルフィアもすぐに夢の中の住人になって静かに胸を上下させはじめた。

 俺を挟んで反対側にはアニーが寝ていたはずだが姿が見えない。

 多分朝の祈りのために起きだしたと思われるので、別段騒ぐことではなかった。


 静かに鎧を着込んで身支度を整える。

 護身用の短剣を腰に差すとゆっくりとテントの入口から外へ出ていった。


 外へ出ると狭い『樹洞』の中に固まるように設置した合計四張りのテントを見た。

 一番端のテントはワンさんとモーギュストが使い、俺も時々寝かせてもらっている男性用のテントだ。

 次が俺が今出てきたセルフィアとアニー、そしてリサのテントだった。

 俺はオバケが怖いセルフィアの頼みで先日から一緒に寝起きをしているのだ。

 そしてその隣の二張は『戦乙女』達の為に建てた少し大きめのテントだった。

『戦乙女』たちがまだ寝ているテントを見ながら、合同探索初日の晩のことを思い出していた。




 合同探索を開始した初めての夜、『樹洞』でミカサ達はマントにくるまって寝ようとしていた。

 俺がテントを使って寝てくれと言うと、信じられないという顔をして俺を見てきた。

 話を聞くと迷宮でテントを張ってなるなんて贅沢は、聞いたことがないと驚きながら見つめられた。


 俺が大きめのテントを使ってくれと言うと、ミカサは目に涙を浮かべて抱きついてきた。

 驚いてまじまじと顔を見つめてしまい、それに気づいたミカサが顔を赤くして慌てて離れた。


「ごめんなさい、あまりにも優しくしてくれるからつい嬉しくて……」


 目を泳がせながらそっぽを向いたミカサは、消え入るような声で恥ずかしそうに言ってきた。

 それを横で見ていたフローラやジゼル達『戦乙女』のメンバーは、初めて見るミカサの態度にただただ驚いて小声で話し始めた。


「ミカサ姉様のあんな態度を私見たことがないわ」


 双子の姉のフローラが目を見開いて隣のマリアさんに話しかけていた。


「そうですね、男嫌いになる前のミカサはおおむねあのような娘でしたよ。懐かしいわ」


 ミカサと古い付き合いのマリアさんは彼女の態度を嬉しそうに眺めていた。


「いつものクールなミカサ姉じゃないみたい! ミカサ姉って可愛っかったんだね!」


 双子の妹のジゼルが珍しそうにミカサの顔を覗き込んでいる。

 からかわれたミカサは更に顔を真赤にして、テントの中に逃げ込んでしまった。


「レインさんお言葉に甘えてテントを使わせてもらいますね。それからミカサのことよろしくおねがいしますね」


 マリアさんが意味深な発言をして微笑むとミカサを追ってテントへ消えていった。



 俺が驚いて固まっているとフローラが近付いてきて深々とお辞儀をした。


「レインさん、私達に色々良くしてくれてありがとうございます。明日からの探索がんばりますからよろしくおねがいします」


 そう言うとベロベロに酔っ払って寝込んでいるコーネリアスを、妹のジゼルと共に引きずるように抱えてもう一つのテントへ運んでいった。

 その様子を俺の横で一緒に見ていた魔法使いのエリザベスは、俺と目が合うと恥ずかしそうに一礼して、マリアさんを追ってテントへと消えていった。




 まだうす暗い『樹洞』の中で、『戦乙女』との合同探索の日々を思い出しながら彼女たちの寝ているテントをしばし眺めていた。

 すると遠くの方から透き通った歌声のような朝の祈りが聞こえてきた。

 いつものアニーの声に混じって聞き慣れないきれいな声が聞こえてくる。

 俺はその二人の祈りの声に誘われるように、『樹洞』に設けられた祭壇の方へ足を運んでいった。



『樹洞』の奥、テントとは反対側の一段奥まった空間に、俺が設置したイシリス様をまつる祭壇がひっそりと置かれていた。

 手頃な木箱に豪華な白い布を被せ、女神教のシンボルの丸に十字の置物を設置した簡易的なものだ。

 その置物の前には金でできた聖杯が置いてあって、清らかな水がなみなみと注がれていた。

 そして様々な野菜や果物がかごに入って置かれていて、祭壇は華やかに飾られていた。


 二人の司祭たちが祭壇の前にひざまずき静かに祈りを捧げている、一人はアニーでもうひとりはマリアさんだった。

 二人とも祈りに集中をしていて俺の気配に気づくことはなかった。

 俺は美しい二人の姿を時が経つのを忘れ、ほおけたように見つめていた。



 どのくらい二人を見ていただろう、ふと視線を感じ『樹洞』の外を眺めると嵐の樹海に青白い人魂がゆらゆらと揺れているのが見えた。

 祭壇ではまだ二人の美女が祈りを捧げている、俺は後ろ髪を引かれる思いでその場を離れると『樹洞』の入り口に近づき外を眺めた。


 青白い人魂は樹海の中をかなりの速度で飛び回っている。

 その数はだんだんと増えて更に増えそうな勢いだった。


「旦那、起きやしたか今日も樹海の夜は騒がしいでさぁ、深夜二時を過ぎた辺りからだんだん人魂が増えてきやした」


「ワンさんか、あの人魂の群れは骸骨騎士だよな?」


「そうでさぁ、ずっと観察していたんでやんすが、奴ら我が物顔で樹海を走り回っていやす」


「朝になれば数は減るだろうが、注意するに越したことはないな。」


「わかりやした引き続き監視を続けやす」


 そう言うとワンさんはまだ薄暗い闇の中にゆっくりと消えていった。



 俺が予想した通り夜明けとともに人魂の数は徐々に減っていき、朝日が顔を出すとすっかり消えて居なくなった。

 戦慄せんりつの夜は過ぎ去ったが、薄曇りの樹海は妙な静けさに包まれていて薄気味が悪かった。




『樹洞』の下で隊列を整え、今日探索する方角へゆっくりと移動を開始した。

 樹海の奥へは行かず左右をまんべんなく探索していくのが俺とミカサが話し合った探索方針だった。

 手頃な魔物たちを『戦乙女』達が危なげなく刈り取っていく、複数でなければゾンビ熊などの大型の魔物も討伐できるようになるのは時間の問題だろう。


 数時間に渡る探索の成果は、大量の魔石と十九階層への階段がないという結果だけだった。

 やはり樹海の奥へ進行しなければ探索の成果は得られないと言う結論に至り、明日からは樹海の奥への探索に切り替えることにして『樹洞』へ帰っていった。




『戦乙女』との連携が徐々に取れてきて探索のスピードが上がってきた。

 俺は一気に樹海の奥へ探索の足を伸ばす計画をみんなに提案しようと心に決めた。

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