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10.ワンチャン

 探索者の仲間を探していた俺は、予想外の人選をしたガルダンプさんに驚きながら、これから何を話そうかと悩みつつ眼の前の獣人を見ていた。




 セルフィアが眼の前の獣人を胡散臭うさんくさそうに観察している。

 そしてアニーは俺の体にぴったりと寄り添って不安そうな顔をしていた。


「ガルダンプさんに話を聞いていると思うけど俺たちはシーフを探している。いつもこの三人で潜っているんだが、宝箱の処理ができなくて困っているんだ。迷宮の罠もよくわからないのでシーフに加入してもらえると助かる」


「まかせてくだせぇ、あっしは罠開けのプロでさぁ。どんな罠でも安全に外してみせやす」


「基本的には四日潜って一日休みで探索している。迷宮での稼ぎは一定額をパーティーでストックして残りを人数で山分け、有用な武器や魔道具は一旦パーティーの財産にして使う人に貸し出す。ここまではいいか?」


「報酬を山分けにしてもらえるなんて夢見たいでやんす。それでお願いしやす」


「ワンコインさんの事を知るために一週間ほど試用期間を設けたいと思う。その間の報酬も山分けだ、よろしく」


 その後簡単な打ち合わせをして解散した。




 ギルドを出て宿屋に向かい歩きながら二人に感想を聞いた。


「まだなんとも言えないわね、気に食わなかったら追い出せばいいわけだし」


「私はレイン様の決定を尊重します」


 二人の意見を聞いて俺の意見も言う。


「獣人だったのは驚いたけど問題は腕だよな、試用期間中に決めればいいから二人共仲良くしてくれ」


 一抹いちまつの不安を感じつつも、二人からの拒否反応がなかったことに正直ホッとした。




 迷宮の三階層でメンバー候補のワンコインさんの技量を見ていた。

 罠開けの技術はさすがで、俺たちがわからない『幻覚の壁』の発見や、いつもだったら開けずに放置する宝箱の開封など、完璧にシーフの役割を果たしていった。


「ワンコインさんすごいよ、こんな隠し扉を見つけられるなんて、これで探索の幅が広がるな」


「あっしはまだまだ修行中の身なのでおだてねえでくだせぇ」


 謙虚な姿勢も好感が持てるな、いい人材を紹介してくれてガルダンプさんに感謝し無くてはならない。

 しかしなんでこんな凄腕の探索者を他の奴らは放っておくのだろうな。


「ワンコインさん、気を悪くしたら申しわけないんだが、それだけの腕があるのになんでパーティーに入ってないの?」


 失礼な質問だが聞かなくてはいけない気がして思わず聞いてしまった。


「あっしは獣人なんで一段下に扱われるんでやんす、報酬も他の奴より少なくて……。それがどうしても悔しくて今までソロで活動してきたんでやんす」


「それじゃあたしたちと同じね、あたしたちも事情は違うけどソロみたいなもんだったから」


 宝箱を開けられるようになってセルフィアの機嫌が一気に高くなってニコニコしている。


「俺もこの二人とパーティー組む前はソロで潜っていたんだよ。一階層でくすぶっていた『単独迷宮探索者スカベンジャー』だったんだ」


「ええ!? レインさんの腕でも一階層を突破出来なかったんでやんすか?」


「たしかに今のレインの剣技はすごいわね、その刀すごい切れ味だわ」


「レイン様と刀の相性は最高ですね」


 三人が俺のことを褒めちぎっているには訳があった。

 ワンコインさんの技術の腕を見るために迷宮に潜ったが、俺の刀の試し切りも平行して行ったのだ。

 刀の切れ味は凄まじく、下手な魔物なら一撃で葬り去る事が出来た。

 三人は刀の切れ味にとてもびっくりして大騒ぎだった。


 それから一週間ほどの試用期間を終えてワンコインさんは正式にパーティーメンバーになった。



 ー・ー・ー・ー・ー



「ワンさん、そっち行ったよ!」


「わかりやした!」


 俺から逃げていくゴブリンをワンさんがダガーで切り裂く。

 急所を切られ地面に倒れた所をアニーがメイスで叩き殺した。


「大きいの行くわよ! ファイアーボール!」


 密集したゴブリンの群れにいつもより一回り大きなファイアーボールが着弾し炸裂した。


「どうだ? 全部やっつけたな、後は巣穴にファイアーボールを打ち込んで終わりだな」


 ワンさんが正式加入してから一ヶ月が経過していた。

 俺たちは今『ミドルグ迷宮』の八階層、通称『草原』を攻略している。

 パーティーメンバーが四人になったことで、さらに複数のモンスターの対処が楽になり、攻略が進んでいるのだ。


 宝箱の解除が完全に出来るようになって懐も温まり、精神的にも余裕が出てきた。


「レインの旦那だんな、宝箱を見つけやしたぜ」


 ワンさんは何故か俺を『レインの旦那』と呼ぶようになっていた。

 本人に聞いてみると凄腕の刀使いなのと、パーティーに誘ってくれた恩があるので一目置いているから、とのことだった。


(凄腕の刀使いというのはワンさんの中での俺に対する評価だが、ちょっと評価が高すぎる気がするな)


「旦那、見ていてくだせぇ、この糸を切っちまうと罠が作動するんでさぁ、だからこの糸をこっちに通して固定して開けるんでさぁ」


 ワンさんが俺に説明をしながら手早く宝箱の罠を解除していく。


「ちなみに今回の罠は即死ガスでさぁ、作動したら全滅でやんす」


 怖いことをサラッと言うな、罠解除中はあまり近寄らないほうがいいかもしれない。


「しかし下に降りる階段が全然見つからないな、この階広すぎて一日では探索できないぞ」


 魔物を倒すのは順調だが、迷宮探索はここに来て停滞していた。


「旦那、これは迷宮でキャンプを張るしかありやせんよ、無理に探索の範囲を広げても階段がなかったら遭難してしまいやす」


「キャンプいいわね、外で食べるご飯は美味しいって聞いたことがあるわ」


「お料理は任せて下さい、教会時代にいつもやっていたので得意です」


「アニーの料理は塩味だけでしょ、それに薄いし、よくそれだけ育ったもんだわ」


 セルフィアがアニーの胸を見ながらからかい始める。


(たしかに大きいな、すべての栄養が胸に集まったみたいだ)


「質素倹約が美徳なんです、お料理に味を求めてはいけません」


 二人が言い合いをし始めた、本当に仲がいいな。


「キャンプ考えてみるか、今日はこれくらいにして地上に戻ろう」


 探索をここまでにして地上に戻るために石碑の所まで帰る。

 来た道を戻るのは比較的楽だが、思ったよりも奥へ来ていたので地上に戻った頃にはすっかり暗くなっていた。




 宿屋で夕食をとる。

 食堂の長椅子に座る俺の左右にアニーとセルフィアが陣取り、向かいの席にワンさんが一人で座っていた。

 ワンさんが宿に引っ越してきて一緒に食事を食べるようになってから、この座り方が定着していたのだ。


 狭いから一人向かい側に行ってと言っても二人共動かず、俺が行くとワンさんを押しのけて俺の隣りに座ってしまう、この頃は諦めて彼女たちに挟まれて食事をしているのだ。


「明日は休みにしてキャンプ用品を買い揃えようか、ワンさんはキャンプやったことあるの?」


「こう見えてあっしはキャンプ好きなんでやんす。昔はよく一人で森に分け入って一年ぐらいキャンプした事もありやす」


(それ、もう住んでるよね、キャンプじゃない気がするよ)


「じゃあ物資の選択は任せていいか? 荷物は俺が持つからよろしく頼むよ」


「レインの旦那に荷物運びをやってもらっては男の仁義じんぎに反しやす。全てこのワンコイン・ザ・シーフにおまかせくだせぇ」


 いちいち疲れる言い方するな。


「ワンさんには言ってなかったけど俺は無限収納の袋持っているんだ。だからそれに荷物を全部入れるから大丈夫だ」


「無限収納の袋を持ってるなんてさすがレインの旦那でやんす」


 またワンさんの中で俺の株が上がったみたいだ。



 明日休みということでセルフィアがエールを飲み過ぎ、早々にアニーに抱えられて部屋に引っ込んだ。

 食堂は俺とワンさんだけになり、俺はワンさんと二人で静かに話をした。


「ワンさんにこの際だから言っておくけど、俺この世界の人間じゃないんだ。日本という異世界で暮らしていたんだけど死んじゃってこっちに来たんだよ」


「そうでやんすか」


「あれ? あまり驚かないな、もしかして俺が冗談を言っていると思ってるの?」


「いえそんな事ありやせん、ただ旦那がどこから来てどんな方なのかということは、あっしにはあんまり関係ないことでやんす、旦那に無条件で奉公するのがあっしの仁義でやんす」


(忠誠心高いな! 大したことしてないのに)


「まあ聞いてくれ、俺は死んでこっちに来たんだけど、その時神様に色々良くしてもらったんだ。だからびっくりすることがこれからも起こると思うけど、騒いだり人に言ったりしないでくれ」


「わかりやした、このワンコイン・ザ・シーフ墓場まで持っていきやす」


 いちいち真面目すぎるワンさんに軽く引いてしまった俺は部屋に戻ってすぐ寝てしまった。




 次の日、いつもより遅く宿屋を出て道具屋に向った。

 女性陣はセルフィアが二日酔いでダウンして、その看病のためにアニーもついて来なかった。


 道具屋でキャンプ用品を人数分買い揃える。

 買ったそばから巾着袋に入れていつまでも身軽なままだった。


 収納袋に関しては、よくよく聞いてみるとかなり珍しい魔道具だが、莫大な金額を出せば買えることがわかった。

 ただ無限に物が入れられるわけではなく、買えるのは大量に物が入る袋だということだ。

 黙っていれば無限収納だとは気付かれないので、ごまかしが効くはずだ。

 絶対に隠さなくてはならないチート魔道具とかではなくて正直ホッとした。



「テントでやんすが本来迷宮探索には不要でやんす。しかし今回は『草原』の探索なので人数分買いやす」


「ちょっとまってくれ、テントは女性陣一張、俺とワンさんで一張でいいんじゃないか? 別に長く使わないしもったいないから」


「わかりやした、少し大きめのテントを二張買いやす」




 道具屋を出て青空市場に食材を買いに行く。

 主食のパンは流石に作れないので市場のパン屋で調達した。

 黒パンの他に日本にあったような白いパンも売っていた。

 値段が黒パンの三倍もしたが懐かしさで少し多めに買ってしまった。


 八百屋に行ったら日本の野菜に似たものが沢山あって、つい嬉しくなっていろいろ買ってしまった。

 肉は豚のロースの部分を塊ごと買い、ソーセージやベーコンなども買い込む。

 鶏の卵もあったのでバケツに一杯分買った。


 市場には調味料専門店まであり、かなり高価だったが胡椒こしょうや唐辛子、ニンニクなど各種香辛料を数種類買うことができた。

 最後に果物屋でミカンやりんご、スイカなどに似た果物を買いお昼前に宿屋に帰ってきた。




 宿屋の前に来るとセルフィアとアニーが立っていてこっちに向って手を振っていた。


「ごめんなさい、起きられなかったわ」


 セルフィアがしょんぼりと謝ってくる。


「気にしてないよ、それより昼飯まだだろ? みんなで食べに行こう」


 セルフィアの手を取って道を歩き出す。


「やはり私の言ったとおりでしたね、レイン様はそんなことでは怒ったりはしませんよ」


 アニーが左腕に絡みつきながらセルフィアをからかい始めた。


「そうだけど……、あたしは謝りたかったんだから仕方ないでしょ!」


 セルフィアも負けじと右腕を抱え込み、俺を挟んで言い合いを始めた。





 いつものことなので放って置いても問題ないだろう。

 昼飯は何を食べようか真剣に考えつつ、馴染みの食堂へ向かうのだった。



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