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1.プロローグ

 俺の名前は天地蓮あめつちれん、年齢は三十三歳、東京近郊のアパートに一人暮らしの現在就職活動中の無職だ。

 先々月会社をリストラされてしまった。

 失業保険は来月切れてしまう、早く就職しなければアパートを追い出されてしまいかねない。

 焦る気持ちをあざ笑うかのように目下もっか面接十連敗中、ドツボにはまりかけて気分が落ち込んでいる今日この頃だ。


 趣味はネットサーフィンとアクアリウム、典型的なインドアオタク系だ。

 二十代の頃は周りに合わせて友達とナンパしたり飲み会に参加したり、彼女だっていた。

 しかしいつの間にか周りが結婚とか転勤とかで居なくなって、気づいた時にはひとりぼっち、熱帯魚だけが俺の友達だ。


 今もお祈りメールが来て、ショックで街を当てもなくさまよい、コンビニ弁当片手にアパートへ帰るところだ。

 ふと何気なしに夜空を見上げる。

 月が夜空に高く上り、気落ちしている俺を励ましてくれているようだった。


「夜空なんて何年ぶりに見上げたんだろう」


 顔を夜空に向けて真ん丸な月を眺める。

 あまりに綺麗だったので、ろくに下を見ずに月を見ながら歩いて帰った。




 いきなり足元の感触が無くなり、真っ暗な空間に落ちてしまう。

 ゆっくりと落ちて行くような感じがして、不思議と冷静に今の状況を分析できた。


(ああ、()()()()()()()ふたが開いていたマンホールに落ちたんだなアホ丸出しだな)


 怖くはない、このままどこまでも落ちていければ楽になれるのに、そんな事を思いながら意識を手放した。




 気がついたら光の中に居た。

 上下の感覚がなく、浮いているようだ。

 妙に心地良い感覚が体を包み込んでいて、このままずっとここに居たいと思った。


(残念ですがそれは叶えてあげられません)


 いきなり女の人の声が直接頭の中に響き戸惑ってしまう。

 辺りを見渡すが、光が眩しくて何も見えなかった。


(周りを見ても無駄です、私は実体がありませんから)


 声の主は俺の考えている事が分かるらしい。


「ここはどこですか? 一体何が起きているのでしょうか」


 心で考えるだけで意思疎通が出来るとわかっていても、ついつい言葉に出してしまう。


(あなたの質問に答えてあげたいのはやまやまですが、あまり時間がありません。私が今から言うことをよく聞いてあなたの置かれている状況を理解してください)


 声の主は俺に今の状況を教えてくれるらしい、わかりましたと心で思い静かに耳を傾けた。


(物分りがよくていいですね、私はあなた達の概念で言うところの神です)


 薄々そうじゃないかと予想していたが、はっきり言われるとびっくりするな。


(あなたは先程死んでしまいました。元の世界に生き返る手段はありません。本来なら魂は浄化されて次の輪廻の渦に取り込まれるのですが、あなたの場合は死に方が特殊すぎて、魂がスムーズに浄化されませんでした)


 まああんな死に方なかなか無いよな、それでどうなるんですか?


(このままだと時空の狭間で魂を削り取られて、消えて無くなってしまいます)


 それはやだな、どうにかなりませんか?


(方法はあります。もう一度魂に受肉をさせて異世界で人生をやり直せば、輪廻の渦に取り込まれる事ができます)


 おお! 生き返る事が出来るのか、是非お願いします。

 でも今、異世界って言ったような?


(その通りです、元の世界のあなたはもう死んでお葬式まで終わってしまったのです。それに一度受肉した世界にはもう一度受肉する事は出来ません。)


 え!? 葬式まで終わったのですか? さっき死んだって言ったじゃないですか。


(あなた達の世界の時間と、時空の狭間の時間は同じではありません、こうしている間にもあなたの魂はすごい速さで削り取られなくなっているのです)


 それは怖いな、神様早く異世界に行かせて下さい。


(落ち着いてください、もう少し時間はありますから私の話をよく聞くのです。私があなたを異世界に転移させる事はすぐにでもできます。しかし異世界に渡ったあなたはすぐに死んでしまうでしょう。それほど異世界とは過酷な世界なのです)


 それもやだな、どうにかして下さい。


(ですからあなたのような迷える魂には、いくつかの『スキル』を授けて送り出すようにしているのです)


 ありがとうございます。


(あなたに与える『スキル』は『健康』と『異世界言語』です、『健康』はケガや病気に強い体になり、『異世界言語』は異世界の言葉を話せるようになり読み書きができるようになります)


 なんか微妙ですね、もっとすごいスキルとか無いのですか?


(『スキル』とは本来、命そのものなのです。あなたの命の価値はこの『スキル』で精一杯だということなのです)


 死んでも負け組とか悲しいな、でも健康こそ資本って言うからまんざらでもないのかな。

 神様、それで十分です異世界に転移させて下さい。


(わかりました、最後に私からのプレゼントをあなたに授けます。異世界で生きて輪廻のことわりに戻ってくるのです)




 光が一段と強くなり、徐々に意識が無くなっていく、しかし不思議と怖くはなかった。


 神様ありがとうございます、最後にお名前を教えてくれませんか?


(私の名前はイシリス、運命と試練そして慈愛を司る女神です。あなたに幸多からんことを)




 

 異世界、ワクワクするじゃないか。

 天地蓮あめつちれんの人生に未練はない、俺は異世界でやり直してみせる!



 

 



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