化話 前
外に出て空を見る。
雲ひとつない空で、暑くもなく、寒くもない、風が心地いい最高の日だった。こんな日は自転車でどこまでも走り、適当にぶらぶらと散歩したいと思うが、今日は入学式な事を思い出した。考える事をやめて歩く。
歩いていると、
「優ちゃん!」
と声をかけられ振り返る。振り返ると知り合いのおばちゃんが立っていた。
この人は俺が小さい頃からの知り合いで、とても優しいおばさんだ。
「おばさん、おはよう」
と返すと
「おはよう優ちゃん、今日もイケメンね〜」
と笑いながらいつもの挨拶をされる。
「そういえば、今日からエディファスト学園に行くんでしょ?あそこは同年代の子が多いから優ちゃんにも、友達いっぱいできるといいわねぇ」
と言われ俺は苦笑した。
なぜ苦笑なのかというと、俺は生きてきて14年間友達というものが、存在したことがないからだ。
おばさんに普通の男の子は友達と外で遊んだりすると聴いた時には思わず無言になってしまい、気まずくなった事がある。勘違いしないでほしいのは、俺はこのおばさんが好きだ。世間知らずの俺に色々な事を教えてくれるし、何より俺の事を嫌な目で見ないで、ただの子供として見てくれる、素晴らしい女性だと思う。
そんな事を考えながら、
「まぁ適当に頑張るよ」
と笑い
「それじゃ行ってきます!」
と言う。そうすると、おばさんが
「行ってらっしゃい、頑張ってね〜」
と手を振ってくれたので、振り返す。
そんなこんなでまた歩き始める。そういえば妹をなぜ無視するのかその原因について話してなかったから話すとしよう。ついでに俺自身の事も話すとしよう。そうなるとこっちが本題になるが。
まず俺の家族の事を説明しよう。俺の家族は4人で、
父 響
母 花蓮
妹 優璃
俺 優翔
この中で俺だけ普通ではなかった。どこが普通ではないのかというと容姿がおかしかった。こうなるべくして人工的に生み出されたのか、偶然なのかは分からないが、とにかく普通ではなかった。
容姿端麗や容姿の整ったなんて言葉では表せない。それこそ神が作ったと言われても、納得してしまうようなそんな容姿をしている。らしい、まぁ自分じゃわからないからそう言われたって話だ。
俺の事を見た人は、大体の反応が決まってる。
まず見惚れる。その後我に返ると、男の場合は羨ましそうに見ていたり、素直にすごい美少年がいると見られたり、あんなののどこがいいんだと俺を見ない人とか、純粋に憎しみをぶつけてくる人とかそんな人が多かった。
女の場合は、惚れたり、性的な目で見たり、純粋に自分の物にしたいと思ったり、俺を何かのアクセサリーだと思っているのか、価値のある物として手に入れておきたいとかそんな目で見られる事が多かった。
もちろんこんな人が全てではないが、少数の人は見づらく、多数の悪意の前では見えなくなってしまう。
そんな俺は多分色々な人の人生を壊したと思う。生きているだけで人の人生を壊す、なんていう だと思った。
そんなある日、俺の世界が崩れ、終わるそんな始まりの出来事が起きた。
俺がこの家族の一員ではなかったという、そんな始まりと共に。
あの日は、雨の日で濡れながら帰ってきて、とりあえず髪の毛を先に拭いてお風呂に入ろうと自分の服を取りに行こうと自分の部屋に行っている途中だった。
なぜかわからないが、いつもは閉まっている父さんの部屋が開いていた。
なんでだろうと思い、部屋の中を見ると優璃が涙目で俺を見ていた。
俺は優璃と同じ目線までしゃがみ優璃にどうしたのか聴くと、開いているのが珍しくて、入って見ていたら、机の上の紙をいっぱい落としてしまって、どうしたらいいのかわからなくて泣いていたという事だったらしい。
優璃に、「とりあえず拾って元に戻しておいて、お父さんが帰ってきたら謝ろう?俺も一緒に謝るからね」というと、さっきまでの暗い表情は消え、花が咲いたように笑い、元気よく「うん!」と言ってくれた。
その後二人で部屋に散らばった紙を拾いまとめると、優璃は、「ありがとう!」というと先に部屋を出ていった。
その後まだ落ちている紙がないかを見てない事を確認して部屋を出ようとした時に、ふと、ゴミ箱に入っている紙に俺の名前が書いてあるように見えた。
気になった俺は、それをゴミ箱から取り、みるとそこには、簡潔に、母親と俺は親子だが、父親と俺は親子ではない。
とそう書いてあった。頭が真っ白になったが、どうにか意識を繋ぎとめて、必死に何かの間違いでないと思い、ゴミ箱の中を漁るともう一枚破られた紙が見えそれを手に取る。そこには優璃の事が書いてあった。
それには優璃は父母と親子という事が書いてあって自分の事ではないが、良かったと思えた。ゴミ箱にはそれ以外には何も入ってなかった。
その後自室に戻り、考えようとするが、頭は常に真っ白な状態で、何もする事が出来なかった。
この現実を忘れられたらどんなに良かっただろうか、けれどそんな事は許さないと体に呪いのように巻き付いているような、そんな状態で、家にいる間は消えたいほど辛かった。
「お前だけ家族じゃないんだよ」
と自分自身に常に言われ、この言葉が劔となり体に刺さる。
そんな生活をしていると思う事は多かった。
迷惑だよね。とか、邪魔だよね。とか、重荷だよね。とか、でも最後には俺が奪ってしまったこの【場所】
普通なら親子になるはずだった俺ではない誰かの【場所】を奪ってしまった事に謝り続けた。【愛】も、【人】も、【場所】も、全てを奪った事に泣きながら見えない誰かに許しを得ようとしていた。
その後、こうなった原因の母親を問い詰めようかと思ったが、なぜか出来なかった。そんな自分に失望した。怖くてそんな事も出来ないのかと思う反面動かない体、だからやる事を変えた。
あいつをつければ、俺がこの母親と、どこのゴミ男の子供なのかと思い、変装して母親を尾行した。
けれど行く場所は普通の場所ばかりで何も情報が得れず、時間だけが過ぎていった。多分1ヶ月くらいだっただろうか、その間ずっと死ぬ気でつけ回したが、情報は何も得れない毎日。
そんなある日俺は、突然尾行を諦めてしまった。
どうでもよくなるぐらい、思っていたより心は擦り減っていたんだなと笑った。
俺をつくった奴にあって殺したいとか思ってた時もあったけど、とりあえず今は俺が消えたいと思っていた。
だから消える前に父さんに話に行こうと思った。
夜ご飯を食べる前に父さんの部屋の前に立ちノックをする。そうするとすぐに、どうぞと言われ中に入る。中に入ると、父さんに
「どうしたんだ?優?」
と訊かれ泣きそうになる。この人は俺が実の子供じゃない事を知っているのになんで俺にこんなに優しくしてくれるのかと思った。それを顔に出さずに
「父さん大事な話があるんだけど夜にいいかな?」
と聴くと、少し考えた後
「いいよ」と言い微笑んだ。
その後ご飯を食べ、時間になるまで自室でずっと蹲っていた。
その後時間になると父さんの部屋に行きまたノックをする。そうするとすぐにどうぞと声がしてドアを開ける。
そうすると父さんが椅子に座って待っていた。俺は父さんの机の前にある席に座り、話を始めた。
最初にいきなり
「俺が、父さんの子供じゃなくて、別のよくわからない、それこそ名前も知らない男の子供でごめんなさい」
と泣きながら言った。
父さんは
「そうか...見てしまったのか」
といい、自分を責めているような感じに見えた。
俺はこの時どんな最悪な事になってもいいと思っていた。捨てられても、どこかの施設に預けられてもと、けれど現実は違った。
すぐに父さんは
「まぁ、確かにそうだね。俺の子供ではない。けれど俺は父親としてお前を愛している。優がどこの誰の子供でも関係ない、優、お前は俺の大切な子だ。」
そんな事を言われ更に涙が溢れ止まらなかった。
こんな汚らわしい血が入った子供を“俺の子だ”と言ってくれた父さんと出会えたのが嬉しくてまた泣いた。
次の日、まだ皆が寝ている時間に起きて着替えを済まし外にでた。この事を知ってからやると決めていた事をするために。
俺は父さんに返さないといけない物がありすぎて、全ては返せないけど、お金だけでも返せたらと思っていた。
これから優璃も成長する事だし、それに従い掛かるお金も大きくなると思うし、何より女の子だから色々としたい事も増えるだろうと思い、優璃には幸せになって欲しいと考えて行動した。全ては父さんと優璃に幸せになってもらうそんな事を考えながら。
とは言っても。ただの子供にできる事は少なかったが、幸い俺には、この神に作られと言われた事さえある容姿があった。
街を歩けば女の子が必ず見ると言ってもいいほどの体が、だから俺はそれを売った。
自分の体を。
それはもう売れた。街で片っ端から声をかけて、先にお金をもらいホテルに行く。
最初は怖かった。だから優しそうなお姉さんに買いませんか?と言い寄って、買ってもらったけど、地獄でしかなかった。
初めての経験が終わった後は吐いた。身体中の水分を吐き出すかのように吐いて、吐きまくった。俺の初めての経験はトラウマにしかならなかった。
そんな俺も2回目からは慣れた。1時間から3時間、値段によっては、もっと伸ばした。
まぁ言いたいことはわかる、汚いとか、気持ち悪いとか思うだろうけど、俺にはどうでも良かった。
家族が幸せになってくれれば、そんな事を思い体を売るという生活を2年くらい続けていた。
俺の体はずっと売れていた。2年もやれば有名になり逆に声をかけてもらえる事も増えて、そのおかげでだいぶ稼げていたと思う。
それと同時に俺は汚れていただろうけど気にしなかった。
そうして稼いだお金を家に入れ、罪を償った気でいたのかもしれない。
そんなある日、いつもはホテルで朝まで買ってくれる人と一緒にいるのだが、その日はいなかった。
その時久しぶりに家に帰ろうかと考え、家に帰った。母親の事はなるべく見ないようにして父さんと優璃に帰ってきた事を伝え、ご飯を自分で作り、食べて、お風呂に入り念入りに体を洗い、お風呂を出て、着替え寝ようとした時に、
優璃に襲われた。
あぁ、もう最悪の気分だった。この容姿を呪ったし、守りたいと思っていた対象に、半分は血が繋がっているのに、襲われるとは、すごく悲しかった事は覚えている。
そんな事を考えながら優璃を見ると
「大丈夫私も初めてだから!」
といい近寄ってきた。俺はもう意味がわからなかった。
優璃に
「俺達兄妹だろ?そんな事したらいけないんだよ」
というと
「半分しか繋がってないし、好きなら関係ないよ!私お兄ちゃんのこと好きだよ」
と言った。俺はその時あぁ、その事まで知ってしまったのかと思い、あの母親が教えたんだなとすぐに思った。
その後は
「そんな風には見れない。俺はもう好きな人がいる」
と嘘をついて躱そうと思ったが、好きな人がいるという言葉に優璃がすごく反応し、泣きそうになっていたから。その日は一緒に寝た、自分でも甘いと思うがまぁ仕方ない。
その後寝た妹に、仲のいい兄妹である事を擦り込むように、呪いをかけるように頭を撫でながら、俺は眠りに落ちた。
次の日、今すぐ母親をどうにかしてやろうかと思い行動しようとしたら、妹に止められた。
「やめてよ、せっかくチャンスをお母さんがくれたのに!」
と言われ、頭が真っ白になっていた。その後も妹は
「私お兄ちゃんの事諦めないよ!お兄ちゃん私のこと好きでしょ?私も好きだし、お兄ちゃんは好きな人がいるらしいけど絶対振り向かせるから」
と笑顔で言っていたのは見えた。その時は、「ごめんまた話聴くからちょっと出かけてくる」といい強引に逃げた。
その日から何日も家には帰らなかった。