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2

帝国では、男子は16を迎えれば成年と見なされる。今回、睡蓮が姫摂政になったことで損をしたのは第2皇子、第3皇子。19、18と既に成年を迎えていた彼らには、帝国の皇位継承権は与えられていた。皇帝に最も近かったはずが9年も待たされるとは思ってもいなかっただろう。それ故に、とまでは言い切れないが、先程からこちらに向ける視線が痛い、と睡蓮は思う。


「両殿下には初めてお目にかかります。狼睡蓮と申します」

宮城に入ってから、挨拶に来たいと繰り返し取り次ぎがあった2皇子に睡蓮は今日初めて会うことにした。応対する口調こそ丁寧であるが、睡蓮は玉座から立ちもしなければ、頭も下げなかった。矜持の高い公子たちであれば、恐らく腹を立てる。案の定、第2皇子の眉がほんの少しだけ寄ったのが分かった。第3皇子はただ穏やかに笑っている。

「…お初にお目にかかる、私は」

少し間を置いて第2皇子が絞り出した挨拶を、睡蓮は途中で遮った。

「…ああ、結構です。わたくし、あなた方皇子のお名前は伺わないつもりですの」

「は?」

「お名前を伺えば情が移るかもしれませんもの。ですから、ぜひ自己紹介は9年後に」

情が移るなどと、まるで家畜を飼うのようだ!

第2皇子は顔を赤くして少し震えている。産まれたときから傅かれる身分だった皇子にとって、睡蓮はひたすらに無礼な者にしか見えなかった。

「…私を、家畜のように評するか」

「これは異なこと。けれど、言い得て妙ですわね。皇帝など国家の家畜。殿下」

わたくしは評定者としてここにおりますの、と睡蓮は微笑む。

「大切なわたくしの9年を捧げる羽目になったのは、あなた方お二人が皇帝たる器ではなかったからでは?」

相応に扱われたければ、責任を果たしてくださいませね。そう鮮やかに言い切る睡蓮に第2皇子はぐっと押し黙った。彼とて、ここで睡蓮と言い争えば己にとって不利になるかもしれないことは分かっている。9年後、皇帝の位を得さえすれば!第2皇子が感情を抑えきれずにいるのとは対照的に、第3皇子は睡蓮との面会中ずっと穏やかな笑みのまま、一言も話さずに退室した。


「睡蓮さま、お疲れ様です」

2皇子が去った後、執務室に戻った睡蓮を侍女の梨花が出迎えた。彼女は睡蓮が連れてきた侍女の内では最古参で、乳母子でもあった。睡蓮が座ると梨花は部屋の隅で茶の準備を始める。

「先程、第2皇子が物凄い剣幕で怒鳴られてましたよ…いったい何をおっしゃったのやら」

「別に大したことではない。嫌みだ、嫌み」

睡蓮は手をヒラヒラと振って誤魔化す。梨花は呆れた顔をした。

「睡蓮さまったら、皇子にまで喧嘩を売ったんですか?いい加減になさいませ。わたくしの命を大事に思うのならもうどなた様も挑発されませんように」

わたくしが毒味をいたしますのよ?そう言って梨花は茶器に注いだ茶をくるりと揺らす。銀色の茶器が黒くくすんでいくのをほら、と見せられて、睡蓮は苦笑いした。

「宮城は物騒だな…何回目だ?」

「わたくしの知る限りでは5回目です。…あの下女もダメね、処分いたします」

「裏の裏まで探ってからにしろ」

「はいはい」

梨花は茶器を持って執務室を下がる。茶を飲み損ねたな、と睡蓮は一人で嗤った。

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