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避けられないもの
先生はいつも、相手の言葉にすぐ否定せずに、「そっかぁ」と聞こえるか聞こえないかぐらいの声で呟く。
あの自販機の時も、そうだった。
「そっかぁ」
そう言うと、目の周りのしわを増やして、
「素敵じゃないですか」
とにっこりした。
それは勉強中先生同士で話をしているのをふと見かけた時にも。少しはっちゃけた風の生徒に絡まれている時にも。授業中にも。
「そっかぁ」
先生はそう言うと、相手を安心させるように柔らかく笑った。
それは、学校を移る時もだったのだろうか。
『異動 須藤政宗 県立河南高校』
その字を見て、思わず固まった。そんなことってあるのか。先生の移動なんていくらでもあるのに、毎年毎年経験しているはずなのに、心に冷たいすきま風がふきこんだ。
先生に、もっと地学を教えて欲しかったし、いろんな話をしたかった。「そっかぁ」が聞きたかった。