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私の愛した先生  作者: 雛田あざみ
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イチゴミルクと地学教師

 がこん。音を立てて自販機から出できた紙パックを先生は取り出した。ちらりとこちらにピンクのパッケージが見えた。「いちご」・・・?

 「お・・・、美味しいから仕方ないよね」

 私の懐疑的な視線に気づいた先生は、イチゴミルクの紙パックを背で隠して動揺したそぶりを見せた。思わず吹き出してしまった私に先生も表情を和らげた。

 「いつもそれなんですか」

 「いや、今日はなんとなく甘いものほしいなあって。いつもはカフェイン摂ろうってことで、コーヒー」

 「・・・・・・お疲れ様です」

 「これからテストが終わったらずっとコーヒーになっちゃうかな」

 いっそ採点を機械がしてくれたらいいのになあ。先生は苦笑いして、イチゴミルクを飲んだ。

 「そういえば、小田さんはさっき何勉強してたの?」

 「古典です」

 「あー、初日だもんね、古典。苦手だったっけ?」

 「はい」

 そっかー。少し遠い目で空を見上げた先生は思い出したように

 「小田さんって理系だもんね。地学はいつも頑張ってるよね」

 と励ますように言ってくれる。

 「地学は割と頭に入ってくるんで。こう、なんていうか、ああそうか、これはそうなのか、みたいな」

 ああ、わかるわかる。先生もうんうんと頷いた。

 「なんで?っていうのを教えてくれるよね。だから地学僕も好きなんだよね」

 あっ、となった。先生は、私が漠然と感じていたものをイチゴミルクを飲みながら鋭く突いて、自分も、と言った。

 「そうなんです。私、小さいころからいろんなことになんで?って周りの人に聞いてて。小さい頃はよかったんですけど、だんだん小学校とか行くようになると、周りも少しうんざりし始めて、それを感じちゃって、そういうことが聞けなくなってたんです」

 時間がお互いにないことは頭ではわかっているのに、止まらなかった。

 「でも、地学はそのなんで?っていうことに対して一つづつ教えてくれるような気がしてて。そういう理科とか数学とかを勉強してるときは、すごく心が楽になるんです。だから、大学で学ぶのも、やっぱり、理系だなあ、って」

 恥ずかしいセリフまでまくし立てて話しているに気づき、最後はしどろもどろになった。それをのどが渇いていたとごまかすためにミルクティーを飲み干す。先生は、飲みかけであろうイチゴミルクを両手で持って私の話を聞いていた。一瞬、目が合う。

 ・・・・・・いつも通りの顔だった。いつも、地学を教えているときの、少し飄々とした感じをおもわせる、須藤先生の表情。

 なのに、どうしてだろう。優しいなと感じた。いや、テスト前の忙しい時にこんな私の話し相手をしてくれているというのだから、優しいというのは当然なのだが、私が感じた優しさはその優しさではない。

 まるで、お父さんのような優しさだった。公園で子どもと一緒に遊ぶときに見せてくれるあの優しさ。子どもと同じ視線でものごとを見つめてくれるあたたかさだった。

 私は、先生がそれまでとは少し違った風に感じられた。 

 

 


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