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姫と王子

姫と王子と娘を想う継母と。~悲劇要素ゼロの童話風現実的物語~

作者: 珠城御雪

タイトルにはいませんが騎士さんもいます。不憫。

『むかーしむかし、あるところに美しい女王様がおりました。夫である国王様が亡くなってからは、彼女が王となり、国を治めていました。


彼女には、一人の娘がおりました。その娘もまた大変美しく、艶やかで流れるような黒髪に抜けるような白い肌、すっとすじの通った顔立ち。彼女が通れば、大抵の人が彼女を振り返る程でした。

しかし、娘は女王様の実子ではありませんでした。亡き国王様の前妻の子です。前妻は、娘を産むと同時に力尽き、娘を国王様に託してお亡くなりになられました。


国王様は娘に愛情をたくさん注いで育てましたが、娘にはやはり母親が必要だと考えた国王様は、新しく王妃様を娶ることを決めました。

王妃様を娶ってからも国王様は忙しい公務の合間に娘に会いに行ったり、王妃様も国王様を手伝いながら自分の娘のように接しました。


しかし不幸は無情にも娘に襲いかかりました。愛する父親である国王様が病に倒れ、亡くなってしまったのです。娘は悲しみに明け暮れましたが、女王となった母親に励まされ、このままではいけないと、姫としての自覚を持ち始めました。


そしてしばらくは平和に暮らしていましたが、突然女王様が姫を疎うようになりました。

それは、女王様が持つ魔法の鏡のせいでした。その鏡は、女王様が聞いたことに対して真実を答えることができる不思議な鏡です。女王様は毎日、

「世界で一番美しいのはだれ?」と聞き、鏡は

「それは女王様です」と答えていました。


しかし姫が十六歳となった誕生日、女王様は鏡に問いました。

「世界で一番美しいのはだれ?」鏡は答えました。

「それは姫様です」


女王様は怒りました。世界で一番美しいのはこの私だと。それから女王様は姫に様々な嫌がらせを行いました。全ては姫に嫉妬してのことです。ですが、姫は健気にもそれに耐え、いつか母親と仲直りできる日を夢見ておりました。


しかし、ついにそれが叶うことはありませんでした。


とうとう業を煮やした女王様は、姫を森に追い出したのです。護衛に付けた騎士に姫を殺すように命じて。そして姫はそうとも知らず、悲しみながら森の中へ入っていったのです……』




「……ってありえないわっっ!!」


悲しみに暮れる健気な姫ことスノウティアは、森に建てられた小屋の中でそう叫んだ。




*****




「いやホントありえないわぁ……」

「ですねぇ……」



スノウティアの呟きに返したのは、彼女を殺す命を受けた護衛騎士こと、女騎士のメイベル。彼女達は小屋の中でティータイムをしていた。


「そりゃあ、意図的にこんな噂を流したけどさぁ……まさかここまで尾びれが付いて広がるとは……。人の噂話って怖いわねぇ」


そう言って先程の文が書かれた記事を机の隅に押しやり、カップの中身を飲み干したスノウティアに、メイベルは、


「仕方ありませんよ姫様……。ただでさえリリーツィア様は『魔女』だかなんだか言われているんですから……」

「それって元々は『魔女の如く美しい』でしょ?それがいつの間にか王座を奪った悪意の意味になってるんだから腹立たしいわ」

「確かにそうですね。リリーツィア様がそのようなことをなさる筈がありませんし」

「あーあ、早く終わんないかなぁ……ゴミ掃除」


ふう、と息をついていると、いきなり背後からのしっと抱きつかれ、耳元で囁かれた。


「可愛い姫様がそんなこと言うもんじゃねえよ」


「〜〜っ!顎を私の頭に乗せるなっ!」


イラァッとしてそう叫ぶと、彼はおどけたようにスノウティアから離れた。


「べつにいいだろ?減るもんじゃないし」

「……。ふふ、そういう問題ではございませんわ。淑女(レディ)の身体に許可なく触れるなんて、紳士としてあるまじき行動だと恥じてくださいませ、アル様?」


にっこり笑って言ってやると、彼ははあ、と溜息を吐いた。


「これのどこが悲しみに暮れる健気な姫様?」

「人間噂と実物は違うものよ。だいたい世間で言われているような天真爛漫、純粋無垢なお姫様なんているわけないじゃないの。いたとしても政治に利用されて傀儡となっているか、牢に入っているかじゃない?」


彼もその通りだ、と頷いて椅子に腰掛けた。


「だいたい私のことを貴方が言えるわけないでしょう?貴方のどこが優しく勇気ある王子様よ」




***



『───悲しみながら森に入っていったのです……。


しかし、この話を聞いた優しく勇気ある王子様が、姫を救うために危険を顧みず森に向かいました。姫が素敵な王子様に助けられ、幸せに暮らす日も近いことでしょう───』



***




「もう一度言うわ、貴方のどこが優しく勇気ある王子様?この混乱に応じてこの国を乗っ取ろうと偵察に来た性格と口の悪い悪魔の間違いではなくって?」


じとっと睨むも、何処吹く風で流した悪魔───こと隣国の第二王子様、アルヴィスにスノウティアは、


「全く……。貴方に出会ったのが計画を邪魔される前で助かったわ……。せっかくのふるい落としの機会を無駄にされちゃ堪らないわ」



そう、スノウティア達は今回、王宮の一斉掃除をする為にこの虚話を市井に流した。ここまでふざけた内容になるとは思わなかったが。そして臣下に愚かな女王と思わせて反応を見、真実を知る信頼のおける者達と共にリリーツィアはゴミ掃除に勤しんでいる。つまりスノウティアはあと少しで城に帰ることができるし、そもそも嫉妬で追い出されたわけでもなかった。


それにゴミ掃除のきっかけは、スノウティアが暗殺されかかったことだった。もちろんスノウティアが返り討ちにし、未遂で終わったが、これに激怒したリリーツィアがゴミ掃除をすると言い出した。リリーツィアは魔法の鏡に、

「世界で一番美しいのは……スノウティアよね?」

「は、い……。そ、その通りでございます」


と脅迫する程の娘Loveであり、少しでも命の危険のある王宮を安心な場所に作り変えたかった。だが、常に下克上を虎視眈々と狙うハエどもが尽きることはなく、唯一の王位継承者であるスノウティアを狙う者も増える一方。こういう事情もあり、この計画が実行されることとなった。



……まさか森に用意された小屋を開けると、偵察に来ていた第二王子がまったりしているとは夢にも思わなかったが。今回は物語で定番の“リアル王子様”いらないから!とお帰り願っても聞いてくれなかったため、しぶしぶ計画を暴露した。さすがにこんな裏があったとは知らなかったようで、間抜けな顔をしていた。いい気味だ、とスノウティアは密かに思った。




「いやあ、まさかそんな事情があるなんて思わないだろう?この国は緑も豊かだし、欲しいなあとは感じてたんだ。そこにこの騒ぎときたら動くのもあたりまえだと思うんだがなあ。でも傷心の姫様を利用出来るかと思ったのは大きな間違いだったな!こんなに恐ろしい姫様だったなんて!」


ははっと笑うアルヴィスをジト目で見てから、


「言っとくけれど、お母様も十分恐ろしいわよ。あの綺麗な見た目と演技力に騙されて涙を飲んだ方々は数知れないわ。それでも今回騙される輩は学習しないとんだお馬鹿さんね!」


あはっ!とスノウティアも笑う。それに対しメイベルは、


「……私から言わせていただきますと、姫様も、リリーツィア様も、アルヴィス様も、恐ろしいです。姫様、御自分の容姿を最大活用なさって相手を騙しますよね?リリーツィア様からお墨付きを頂いておりましたよね?それを利用して何度危ないことに首を突っ込まれましたか!」

「………」


「アルヴィス様、何故王子たる貴方がこんな所でまったり出来ているんでしょうね?公務はいかがなさいました?もしや誰かに押し付けたりはしておりませんよね?そもそも乗っ取りに来るのに一人だけというのがおかしいのです!」

「………」


二人は思った。王族に説教できるあなたも十分コワイ。




***



そして数日後。


「スティア!会いたかったわっ!」


ローブを纏った黒髪の美女と、スノウティアは抱き合っていた。


「お母様……!私も会いたかったわ!ゴミ掃除は終わったの?」

「ええ、あらかた片付いたの。残りは気にする価値もないクズよ。しばらく不自由させてごめんなさいね。さあ、帰りましょう!メイベル、あなたもご苦労様だったわね」

「いえ、もったいないお言葉です」


さあ!と三人でドアに向かおうとしたところへ、


「え、俺の存在ガン無視?酷いなあ、姫様」


「……貴方、誰?」


リリーツィアが問うと、アルヴィスはすっと跪き。


「お初にお目にかかります、隣国より参りました第二王子のアルヴィスと申します。此度の件、姫様より次第をお聞き致しましたが、女王陛下の手腕にはこちらも驚かされました。是非、我が国とも良い関係を築いて頂けましたら幸いにございます」


メイベル、絶句。スノウティア、かろうじて。

「……いや、誰。ちゃんと王子出来るんだったら最初からしといてよ」


その言葉にえっ……となったリリーツィアは、

「スティア……まさかとは思うけれど、ここでずっと一緒にアルヴィス様と過ごしていた訳じゃ……ないわよね……?」

「え……?それが何か問題でも?王宮と違って既成事実が〜とか気にする必要ないし、そもそもアル様は王族なんだからそんなことをでっち上げる意味もないよね……?」


「……」

「……」

「……」


ガッ!

「いい!?男は狼!ケダモノなの!アルヴィス様が紳士で助かったけれど、二度とそんな真似をしては駄目よ!」

「う、え、はい……?」


アルヴィスは困惑するスノウティアをちらりと見て苦笑いした後、今度は真っ直ぐにリリーツィアを見据えて、


「大丈夫ですよ、女王陛下。私は最低な男に成り下がるつもりはありませんから。……しっかりと然るべき手順を踏んで、心を掴んでからに致しますので」


「あらまあ!」

「これ、私は応援すべきなんでしょうか……」

「アルヴィス様?この国の王位継承権を持つのはスノウティアだけですの。意味がお分かりかしら?」

「御心配なく。私は第二王子です。我が国には優秀な兄上がおりますので、その点は何ら問題ないかと」

「そう、そうなの……。ですが生半可な気持ちでは認めませんので、覚悟しておいてくださいね?」

「ええ、望むところです」



「ええと、あの、皆様……?」


スノウティアは一人この状況に付いていけず、困惑するだけだった。


そんな彼女にアルヴィスはすっと近づき───




「大丈夫だ、これから俺がじっくりと分からせてやるから。覚悟してろ?逃げられると思うなよ」


───にやり、と不敵に微笑んだ。


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