日盛り
さて、ここで問題!
黒いお父さんと白いお母さんから生まれた私は何色でしょうか!?
え?鼠色!?あんなのと一緒にするんじゃないにゃ!!
じゃあ何色なのかって?
ふふ~ん、なんとなんと、シルバーグレーなのにゃ!!
かっこいいでしょ~?
見ようによっては銀色にも見えるのにゃ!!
私の一番の自慢なのにゃ~
「おーい!」
あっ、お父さんが呼んでるみたいなのにゃ。
ちょっと行ってくるのにゃ~
「はーい!」
☆
「お父さんただいまにゃ~」
「ただいまにゃ^、じゃないだろう。何回も勝手に出歩くなと言ってるのに…。いいか?お前はまだまだほんの子供なんだから外の世界には危険がいっぱい――」
「はいはい。でも今まで何にも起こらなかったよ~?」
「…それは今までが運がよかっただけで、何かあってからじゃ遅いんだからな?」
「分かってるにゃ~」
「……分かってないな。よし分かった、それじゃあ、今日から一週間外出禁止だ!」
「ええっ!?なんで!?理不尽りふじんにゃ~!!」
「いうことを聞かないお前が悪いんだ。ほら、一週間ちゃんと我慢出来たらどこへでも連れてってやるから。」
「いやにゃ~!!待てないにゃ~!!」
抵抗もむなしく、お父さんに自分の部屋に押し込められてしまった。
ばたんっ!がちゃっ!
……丁寧に鍵までかけて行ってくれたのにゃ。
こうなったら仕方がないのにゃ。
私はベッドに腰掛けると、窓の外を眺める。
窓の外では温かい日差しが道路を照らし、小鳥たちが歌を歌っている。
うう~、こんなにも世界は好奇心を刺激するものであふれているというのに、お父さんは理解がないのにゃ~。
心のなかでお父さんに舌を突き出す。
しばらく足をぶらぶらさせてたけど、やっぱり耐えれなくなったので窓に駆け寄る。
「にゃ~」
やっぱり外に行きたい!!
しっぽがおしりの後ろでせわしなく動いているのがわかる。
「あっ!蝶々さんにゃ~」
ガラス越しに目の前を横切った蝶々についつい手がうずいて……
「にゃ!!」
ねごぱんち!
と、鍵がかかってなかったのか、窓が開いて―
「わ、わ、わ…」
支えを失った上半身は窓枠を乗り越え…
「にゃ~!?」
ひゅ~~~すとんっ
きれいに着地した。
「にゃ~、あぶなかったにゃ~!でもさすが私にゃ!完璧な着地にゃ~♪」
当たりを見回すと、自然と喜びが込み上げてくる。
「自由にゃ~~~!!
跳ねるようにして私は駆け出した。
☆
それから小1時間ほどたった頃
「ちゃんといい子にしてるかな…」
様子を見に来たお父さんがドアを開けると…
「いないっ!?」
ベッドはもぬけの殻。
窓は開けっぱなし。
それを見たお父さんは瞬時に悟ったようで、
「まったく……。母さん、ちょっとあの子を探してくるよ。」
家事をしていた妻に声をかけると
「あらあら~」
「はぁ……」
再び深いため息をつくお父さんであった。
☆
お母さんのお古のワンピの裾をはためかせながら走る。
裸足に地面の感触が心地いい。
「鳥さんこんにちはにゃ~」
最高に気持ちいい。
「犬ちゃんもこんにちはにゃ~。…にゃ!?そんなにほえないでほしいにゃ~」
左右をいろんな建物が通り過ぎていく。
家に、公園、学校、工場、病院、いい匂いのするお店もいっぱいあった。
そしてそのすべてが好奇心を刺激する。
「んん~、いい匂いにゃ~。これはケーキかにゃ?…こっちはカレーにゃ~。…おさかなさんのにおいもするにゃ~」
スキップしながら通り過ぎていく少女を、鎖につながれた犬がうっすらと瞼を上げて眺めるのだった。
「ああ~、たのしいのにゃ~♪」
☆
「さて…」
お父さんは困っていた。
飛び出してきたものの、手掛かりがない。
娘の友達のところも知っている限り訪ねたが、誰のところにも来ていないらしい。
「はあ…」
この日何度目かわからないため息をつく。と、
「どうされた?そんなため息をついて」
「長老!」
足元で、手の上に顎を載せて寝ていた大型犬がこっちを見上げていた。
その体からは、長老の名にふさわしいほど長くの時を生きたからか、落ち着いた威厳を醸し出している。
「長老~きいてくださいよ~。うちの娘が何べん勝手に外に出るなって言っても聞かなくて…。今も探してるところなんですよ…。何か手掛かりとかないですか?」
「娘さんを探して…。大変ですな。そういえばさっききれいな銀髪をした女の子が駆けて行ったが…おぬしの黒髪とは関係ないかな。」
「いえ!!たぶんそれうちの娘です!!確か…白いワンピースを着てませんでしたか?」
「おお、そういえばそうじゃったな」
「ほんとですか!?ありがとうございますっ!!で、娘はどっちに?」
「こっちからこっちへ駆けて行ったわ」
「ありがとうございました!」
お礼を言うや否や、お父さんはすぐに駆け出してしまった。
「まったく、忙しい親子じゃて。…あっちは確か……まあ、いいか」
長老は再び目を閉じると、再びまどろみの中へと帰っていった。
☆
「ふっふふ〜ん♪」
住宅街をスキップで抜けて行く。
それぞれの家の、きれいに手入れされた庭は眺めるだけで面白い。と、
「ネズミさんにゃ!!…ふっふっふ〜」
さっきと一転、足音を殺して近づいて…
「!?(やばい!殺される!?)」
「!?(あっ、みつかっちゃった!)」
一瞬の硬直ののち、
「うおおおおお〜〜!!!」
「あっ!?ネズミさん逃げないで〜〜!!」
まさに死にものぐるいで逃げるネズミさん。
「まってよ〜、お友達になりたいだけにゃ〜!!」
「誰が待つか!!アホかお前!?」
「だってこんなに可愛い猫ちゃんだよ?食べたりしないよ〜?」
「……絶対食うだろ!?」
「なんでそうなるにゃ〜!?」
「目がギラギラしてんじゃねえか!!」
「だってやっと見つけたお友達さんだもん!…じゃあ…たべちゃうぞ?♡」
「(あ、やべ、フツーにかわいいわ。こんな子に食べられるならほんも)…ってちがーう!!バカかお前?自分の年考えろや年を!!色気が全然足りんわ!!」
「……(割とショックだった)……照れてる?」
「ちがうわ!!」
と、ここで何かに気づいたネズミさん、全力疾走で…道路脇のごみ山の中へとジャンプ!
「にゃ!?…しょうがないのにゃ〜!」
それに続くようにして山の中へ。
☆
「んん〜、やっぱり手がかりが少ないか…。」
引き返して長老の鼻を借りようか。そんなことを考えながら歩いていると。
「あっ!?…全く最近の人間はマナーが悪いなぁ…」
道路脇のごみ山、その上から転がり落ちてきたのであろうごみが、ゴミ捨て場を示す線から大きくはみ出していた。
「しょうがないなぁ…」
根っからの真面目で、優しいお父さんはほっとけないようで、
「よいしょっと…」
なんとかゴミを線の中に戻そうとして…
ばふつ
また転がってきたゴミを顔面でキャッチ。
「痛っ!?…全くちゃんと積まないから2度手間3度手間になーー
視線を挙げたその先に、ぴょこんと小さな頭が飛び出した。
その口元にはぐったりした様子のネズミさん。
「食べられる…終わった…俺の人生ここで終わり…」
「ふふ〜、お友達ゲットにゃ〜…にゃ!?お、お父さんっ!?」
「お前っ!?こんなところに…もう逃がさな、おい、ちょっと待て!!」
「逃げるのにゃ〜!!」
「…助かった、のか?」
ーこの命、大切にしよう。
遠ざかる声を聞き、地面に横たわりながらそう思うネズミさんであった。
☆
「ん~、こんなとこまで来ちゃったにゃ…」
いろんなものに夢中になっているうちに、町のはずれのあたりまでやってきてしまっていた。
「ちょっと心細いのにゃ……」
このへんはおとうさんとおかあさんにつれられて1,2回来たことがあるだけだ。
「でも、わくわくするのにゃ!!」
好奇心に任せて進んでいくと、左右にずっとあった壁、その一部に穴が開いているのを見つけた。
きらーん!!
目が光った。
視線を上げてみると、どうやらこの壁の向こうにある工場はすでに封鎖されてしまっているようだ。
――廃工場探検!!なんてすばらしい響きなのにゃ!!行くしかないにゃ!!
彼女は身をかがめると、穴の中へ入っていった。
☆
「はあっ、はあっ」
長老に情報を得て、追いつこうと思って走ってきたお父さん。
しかし、娘の姿は一向に見当たらない。
「まったく、どこまで出歩いているんだか…」
その目が、壁に空いた穴にとまる。
「まさかな……」
壁の向こうには廃墟。
普通だったら不気味だし入っていかないだろうが——
「………。」
身をかがめると、穴の中へ入っていった。
☆
「うう〜、やっぱりちょっと怖いかもなのにゃ…」
伸び放題の木に遮られ日差しが届かず、ぬかるんだままの地面に裾がつかないよう気をつけて進む。
冷たい、大きな鉄板のドアの隙間から体を滑り込ませる。
「寒いにゃ…」
小窓からしか日光が入ってこない工場内は寒いし、何より人の温かみが全く感じられない。
捨てられた、なんに使うのかもわからない機械が乱雑に配置されていて、その上には暑く埃が積もっている。
踏み出すと、足下で何かの書類が乾いた音を立てた。
天井はかなり高く、四方の壁に張り付くように、高いところに足場もあり階段で上がれるようになっている。
天井からいっぱいぶら下がったチェーンの奥の安全第一の文字はかすれてしまっていた。
それに、
「なんか見られてる気がするのにゃ…」
それもたくさん。
こうなると、すべての陰に得体のしれない怪物が隠れているような気がしてくる
「うう〜、やっぱ無理にゃ〜!帰るのにゃ〜!」
ー別に怖いから帰るんじゃないにゃ、そんなに面白くなかったから帰るだけにゃ…
と、振り返った時
「おや、お嬢ちゃんもうおかえりかい?」
「にゃにゃっ!?」
「そんなに驚かれるとおじさん悲しいなぁ」
物陰の暗闇から出てきたのは一頭の犬だった。
おそらく雑種。
毛は薄汚れているし体もそんなに大きくないけど、妙に威圧感がある。
それに目がギラギラと異様な光を放っている。
ーーこいつ、絶対やばいやつにゃ…早く逃げないと…
「あの、私はこれで帰るのにゃ…」
「まだいいじゃないか」
逃げようとしたけど道を塞がれてしまう。
すえた臭いが鼻をついた。
「あの…お父さんとお母さんがおうちで待ってるので…」
「ん?そのお父さんは君にこういうところに来ちゃいけないとは言わなかったのかな?」
「いやっ、それはっ…」
「それとも、おじさんに会いにきてくれたのかな〜?」
「ちがっ!」
「おいみんな!久しぶりの上玉だぞ!」
その声を合図に、あちこちの物陰から種類大きさ様々な犬が出てきた。
あっという間に囲まれてしまう。
「ほらほら、そんなに怖がらないで」
猫なで声が気持ち悪い。
「おじさんたちといっぱいいいことしようね〜」
例の雑種が舌なめずりをしながら近づいてきて…
「こっちに来るんじゃないにゃ!!!」
ねこばんち!!
「っ!?」
雑種のは浮き上がると、遠くの床に叩きつけられる。
ーにゃにゃにゃ!?私、ちょっと強いかも!?
一瞬の隙、雑種が飛んで行ってできた縁の切れ目から包囲網を飛び出す。
「あいつを捕まえろ!俺が調教しておもちゃにしてやる…」
雑種の怒号に、犬たちが我に返って追いかけてくる。
ー脚力には自信がある。けどここは狭い工場にゃ…それに相手はたくさん。囲まれたら終わりにゃ…ドアは?…だめにゃ、犬がいっぱいにゃ…
体格の差もあって、犬はもうそこまで迫っている。
ー何か方法はないのかにゃ…
必死の思い出工場を見渡してー
ーあれにゃ!
一瞬フェイントをいれ、戸惑う犬の頭上を越えてその後ろに着地。
慌てて進路を変えようとした先頭の犬に後続が突っ込む騒ぎを後ろに向かったのは、壁際の階段。
気づいて塞ごうとした犬たちをすり抜けて駆け上がる。
追従する犬たち。2階を通り過ぎて3階へ。
息が上がるが、ここで諦めるわけにはいかない。
「捕まえtー」
「にゃああっ!!」
「ふぐっ!?」
先頭の犬が尻尾をつかもうとした瞬間、振り向きざまの右ストレートがその鼻面を撃ち抜いた。
一列になって登ってきていた犬たちを巻き込んで転がり落ちていく。
「やったにゃ〜!!」
「おまえら!いつまでガキにてこずってんだぁ!?早く捕まえろ!」
工場に再び雑種の叫び声が響く。
3階まで登り切るが、まだ止まらない。
そのまま足場を駆け抜けてーー
「うにゃああ!!」
手すりを超えて飛び出した。
「!?」
掴み損ねた犬たちが、そのま魔の勢いでとびだし、地面に叩きつけられる情けない声がいくつも響く。
犬たちが見上げる中で、少女は空を飛んだ。
そして、天井からぶら下がっていたチェーンをつかむとそのままの勢いで、振り子の原理でー
「…まずいな」
1匹の犬がつぶやく。
少女の向かう先には小窓。
誰もが少女の勝利を確信した瞬間、1人の男だけは冷静で。
「やったにゃ〜あっ!?」
視界の隅から急に飛び込んでできた影にぶつかられ、軌道のそれたれた体は壁にぶつかり、そのまま落下。
かろうじて着地したものの、身体中が痛い。
その隣にさっきの影が着地する。
「よくもこの俺をバカにしてくれたな…ここまで愚弄されたのは久しぶりだ。…あの犬以来か。まあいい、気に入った。心まで俺の女に染め上げてやるよ。覚悟しときなぁ」
雑種の口が醜く歪む。
「おら、立てよっ!」
「ぎゃんっ!」
痛むところをを的確に足がえぐる。
ー私、これからどうなっちゃうんだろう。こんなことならお父さんのいいこと聞いとくんだった。ごめんね、お母さん、お父さん…
「大丈夫か!?」
急に聞こえてきた新しい声に皆の注意が一斉に集まる。
ーお父さん?でもなんで?
「待ってろ、今たすけるからなっ!」
ーよかった…
そこで少女の意識はとぎれた。
その体を足で転がして。
「ふんっ、猫1匹に何ができるというー」
「久しぶりだな」
「っ!?」
その後ろから現れた姿にさっきまで余裕で満ちていた雑種の顔に動揺が走る。
「おまえが、なぜ、ここに…」
「その子を探していたらここにおまえがいただけだ。」
少女を一瞥し、長老は答える
「あれで懲りたと思ったが…よもや、まだこのようなことをしていようとは…」
「ぐっ…」
過去を思い出したのか、雑種の奥歯が軋んだ音を立てる。
「行くぞ」
長老がゆっくりと足を踏み出した
☆
「んん…」
「おっ、目が覚めたか」
視界いっぱいに移ったのは2つの大きい耳のついた顔。
背景から察するに自分の家だろう。
「んん〜?あっ!!ネズミさんだ〜!!っいててて…」
「おい!無理すんなって」
「うにゃ〜…」
「おはよう」
「あっ…お父さん……おはよう…」
「無事でよかった!」
「お父さん!?抱きつかれたら体がいた…」
「もう勝手に出て行くんじゃないぞ?」
「うん…わかったにゃ…」
「ほら、長老にもちゃんとお礼言って」
「ありがとうございました」
「無事で何より」
部屋の隅で待機していた長老は片目をうっすらと開けて答えた。
「おうおう、よかったなぁ〜」
「ネズミさん!?泣いてるの!?」
「親子の再会ってもんはいつでも泣けるもんやなぁ!!」
「そういえばなんで長老とネズミさんがいるのにゃ?それになんで私の居場所がわかったのにゃ?」
「このネズミさんが長老を呼んできてくれたんだ。それからあとは長老の鼻で。」
「ネズミさん…」
「だってほら…」
ネズミさん、恥ずかしそうに
「俺たち友達だろ?」
「…うんっ!!」
読んでくださりありがとうございます。もう少し続く予定なので、お付き合いいただけたら嬉しいです。