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「おはよ」


その声に目を開いた僕の視界に真っ先に映ったのは、『彼女』の顔だった。

くりくりっとした目はいつものように好奇心に満ち溢れて、頭の上ではかわいらしい三角の耳がぴくぴくしている。


「おはよう…」


僕は彼女の後ろでぱたぱたと揺れるしっぽをなんとなく目で追いながら、寝ぼけたままの目をこする。


「もう、早く起きないと君の分のごはんたべちゃうよ?」


そう言うと彼女は駆け出す。


「あっ、まってよ!」


僕もあわてて寝床から抜け出すと、朝食の乗ったお皿の元へと駆け寄る。

でも、慌てて来たはいいけど、正直僕は朝は食欲があまりない。


「もーらいっと!」

「あっ!」


と、のろのろと朝食を口に運んでいた僕の横から彼女の手が伸びてきて、僕の皿からそれを奪う。


「ん~、おいしいね~」

「もう…」


  ☆


「ねね、きょうはなにしてあそぶ?」


朝食を食べ終えた僕たちは家を出て、道を歩いていた。


「寝る」


僕は、塀の上を歩いている彼女へと答える。


「え~、つまんない。ほんと君はインドア派なんだから。もっと外で遊ばないと。」

「そんなに真っ白なのに、アウトドア派なんだから…」

「君だって真っ黒なのに、インドア派じゃない。」


そう言うと彼女は笑った。


「はいはい。…分かったよ。今日だけだからね…」


その笑顔にドキッとした僕は顔を隠すようにそっぽを向くと、できるだけぶっきらぼうを装って答える。


「やった~!じゃあ、鬼ごっこしよ!鬼ごっこ!」

「鬼ごっこ?まあ、いいけど……うわあっ!!」


急に塀の上から飛び降りた彼女は、僕の隣にふわりと着地する。

透き通るように白いセミロングの髪とともに舞い上がった純白のワンピースの裾の向こうから、彼女の楽しそうな顔が現れる。


「あはは、いい反応だね~。…よーいどんっ!!」

「あっ!!まってよ~。」


   ☆


「もう、おそいよ~」


山の中腹にある、さびれた神社の賽銭箱の上に座った彼女は頬を膨らませる。


「君が早いんだって…」

「じゃあ、君が先に鬼ね。ちゃんと十数えるんだよ~!」


そう言うと彼女は駆け出す。


「え!?さっきのは!?」

「鬼ごっこはこれからだよ~!」

「ええ~!?……もう……いーち、にーい、さーん、………」


仕方なく数えながら僕は神社の周りを見渡す。

温かい木漏れ日があたりを満たしている。

当然のことながらそこには人間の姿はない。

僕は自然とワクワクしてくるのを感じた。


「きゅーう」


足に力を込める。


「じゅう!!」


僕は力強く地面をけると、飛び出した。


   ☆


「おーい、どこにいるの~!?」


最初は絶対に捕まえてやると意気込んでいた僕だったが、いくら探せど彼女の姿が見えないので、次第に心配になっってきた。


「もう、これじゃあ鬼ごっこじゃなくてかくれんぼじゃないか…」


――もしかして怪我でもして動けないんじゃ…


どんどん不安になってくる――


ドサッ!!


「うわあ!!」

「あはは~、面白い顔~!!やっぱり君はおもしろいね~」

「もう、心配したんだからね!!」

「しってるよ~。だってずっと木の上から見てたもんっ!君があんまりも不安そうな顔してるから、降りてきちゃった。」

「もう…」

「じゃあ、次は君が逃げる番ねっ!いーち、にーい、さー……」

「だからちょっと待ってよ~」


   ☆


そのあとすぐに捕まった僕は、彼女と二人で境内に座っていた。


「たのしかったね~」

「う、うん…。でも僕じゃそんなに相手にならなかったんじゃ…」

「いーのいーの。面白い顔見れたし、私は楽しかったよ?」


そう言うと彼女はにっこり笑う。


「そう…ならよかった…」


と、そらした僕の視線の先に、人間のつがいがこっちに歩いてくるのが見えた。

彼女も気が付いたのか、僕に合図してくるので、2人で軒下へと避難する。

誰もいないことを確認した彼らはいちゃつき始める。


――まったく、僕たちがいることにも気づかないで…


そんなことを考えながらも僕の視線はそっちに引き付けられて…


ふう~


「ひゃん!?」


急に、耳に息を吹きかけられ、変な声が出てしまう。


「もう、ほんと無防備なんだから。…そんなに興味があるのかな~?」


彼女の笑い声に追い打ちをかけられるようにして、僕は下を向く。と、


「そんなに無防備で、私に何されても、文句は言えないんだからね?」


耳元でささやかれた彼女の声にハッとして顔を上げる。


「何されてもってどういう…」

「じゃあ、かえろっか。」

「え?あ、ちょっと、待ってってば」


1人ですたすたと歩き出してしまった彼女の背中を慌てて追いかける。

と、彼女が突然振り向いてーー


「君なら、許してくれるでしょ?」


そう言って、微笑んだ。


   ☆


「「ただいま~」」


僕たちは家の門をくぐる。

と、


「おかえり」


おばさんが温かい笑顔とともに僕たちを迎え入れてくれる。

おばさんに少し頭をなでられた後、おばさんが開けてくれたドアをくぐって僕たちは家の中へと入っていった。



「あら、おかえり。」


足下に擦り寄る、二つのもこもこの陰に気づいた私は庭いじりをしていた手を止めた。


「ほんと、可愛い子達だこと」


手袋を外し、軽く頭を撫でてやる。

小さな耳がぴくぴくと動くのが実に愛らしい。


「あとでおやつあげるから、ちょっと待っててね」


白と黒、2匹の猫は小さく開けたドアの隙間から部屋の中へと帰っていった。














はじめましての人ははじめましてのさーにゃと申します。読んでくださった方ありがとうございます。楽しんでいただけたなら幸いです。

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