買い物
いつもご愛読いただきありがとうございます。9話目になります。どうぞごゆっくりお楽しみください。
二人でデパートの屋上に着地した。
「まず、何から見る?」
中学生が普段来るようなところじゃないし、勝手がわからない。
「そうだね、中入って歩きながらでもいい?」
「うん、そうしよっか」
当然だけど真奈さんも初めて来るところだ。お店の構造とか並びなんてわからないよね。
中に入ると冷却系の魔法で涼しくなっているみたい、外暑かったから助かるなぁ。
「ちょっと喉乾かない?」
一回、体の熱を冷やしてからの方が良いかな、って思った。
ちょうどこのフロアは飲食店街みたいで喫茶店もちらちら見える。
でも、真奈さんはそうでもなかったみたいで
「私は大丈夫だよ、なんか飲みたい?」
って逆に聞かれちゃった。真奈さんがいいならいいや
「んーん、真奈さんがいいならいいんだ。いこう」
中が涼しいから歩いてるうちに体も冷めるだろ。
このデパートもそうだけど、大きい建物はたいてい中央が吹き抜けになっていて
フロアは吹き抜けのところで床がそのまま切れて、まっすぐ歩くと落ちてしまう造りになってる。
フロア間の移動はそこを自分で飛んで登り降りするんだ。
真奈さんの世界では吹き抜けはあっても、柵や手すりがついてて落ちないように
なってるらしくて、最初は怖がっていた。
「そっかぁ、エスカレーターなんて要らないもんね、ふーん」
って言ってた。
エスカレーターって何って聞いたら動く階段だって教えてくれたんだけど
動く階段なんて僕なんかからしたら魔法よりすごいと思う。一回見てみたいな。
見て回る間にいくつか雑貨屋があって、真奈さんが生活雑貨を見ている間に僕も
細々したものをいくつか買う。
高校生と中学生、どう見ても年齢通りに見えちゃう僕たちをお店の人はちょっと
好奇の目で見てきてる気もしたけど、気にしてもしょうがない。
ただ、僕が支払いで例のカードを出すたびにお店の人が怪訝な顔をした。
いかにも、『どっかで拾うなり盗んだカードじゃないの?』みたいな。
でも、カードの認証が通ると態度ががらっと変わるのが面白くて、
あとからお店出て二人でくすくす笑った。
少しでも大人に見えるかな?とサングラスを試しがけしてみたら真奈さんに笑われた。
真奈さんもふざけて、似合う?みたいに上目遣いで見てきた姿にちょっとドキッとしちゃった。
女性服のフロアはすごい広くてお店もいっぱいあった。
ゆっくりウィンドウを見ながら歩くんだけど、なかなか目に止まるものがないみたい。
お店に入ってまで見ようとしない。
いつも思うんだけど、女の人ってこういうとき歩く量が半端ない気がする。
よく家族や夫婦で一緒に回ってる人をみるけど、大抵男の人のほうが先にへばってるよね。
って言ったら、それは真奈さんの世界でも一緒みたい。くすくす笑ったのはなんでだろ?
ようやくちょっと気になる店があったみたいで、いい?って聞いてきた。
もともとそれを見に来たんだから、一緒に入ることにした。
女の人の服に関して僕は全然くわしくないけど、今まで見てきたお店と比べると
若い人向けのお店なのはすぐわかった。
真奈さんはシャツ類、スカート類を吟味して気に入ったものを4〜5着ずつ腕にかけていった。
上下の組み合わせを試したいんだって、店員さんに試着室の場所を聞いてから
「ちょっと待っててね」
と言って入っていった。僕はすることがないので、ぼーっとしてた。
あやうく寝ちゃいそうになったところで突然呼ばれた。
「ニャン君、ニャン君、ちょっと」
試着室をちょっとだけ開けて、着替え終わった姿を見せてくれる。
水色のシンプルな半袖ブラウスとピンクのフリル付きスカートの組み合わせだ。
「ど、どうかな?」
と、ちょっともじもじしながら聞いてくる。服よりその仕草のほうが可愛い。どきどきする。
「ん、ん〜ブラウスの方は涼しい感じでいいんじゃない?
でも、上が薄い色だからスカートはもうちょっと濃いめの感じのほうがあうかも?
もしくは同じ色のワンピースにしてみるとか」
わかりもしないでもっともらしいことを言ってみる。
「そっかぁ、なるほど、ワンピースかぁ、、、ちょっと探してくる」
と言ってそのまんまの格好で靴はいて行っちゃった。
この状態で僕がここを離れるわけにはいかないから、動かなかったけど、
こういうのってありなの?店員さんも何も言わないからいいのか。
見ると、気に入ったもののサイズがなかったのかな?
店員さんが奥から2着ほど持ってきて真奈さんに手渡してた。
真奈さんはそれでよかったみたいで、戻ってくる。
「お待たせ〜、でももうちょっと待ってね」
と忙しく靴をぬいでまた試着室へ。どっちにしろ待つしかない僕。
そして気づく。なんで男の人のほうが疲れるか。
やることが一杯あって動き続けてるより、同じ時間な〜んにもすることなく眠れもしないで
ただ待ってるだけの方が人間疲れるもんなんだって。
これ、水着でも同じような流れになるとすると、かなり気合をいれないといけないな。うん。
と思ってたんだけど、それでもやっぱり甘かった。
服は結局ワンピース2着とブラウス、スカートも2着づつ、それと目に止まったアクセサリ数点
お買い上げしてそこを出たんだけど、水着の試着室の前で待つ難易度は洋服の数倍高かった。
何しろそこは女性水着のコーナーの奥に位置していて、普段男子禁制の女性専用エリア
みたいな空気で溢れかえっている。
何とかその雰囲気を受け流し(それはそれでそこそこ消耗した)、無事水着やマリングッズ
の買い物を済ませたところで遠隔共鳴板に先生から連絡が入った。
(真奈さんが「スマホみたい」とか言っていたけど、スマホって何だろ?)
どうやら先生も近くに来ているらしく、ちょうどいいから今日の夕飯はここの飲食店街で一緒に
食べよう、ということになった。
僕は夕飯が要らなくなったことを家に連絡してから真奈さんに聞く。
「でも、先生着くまでまだ1時間あるよ。どうしよっか?」
「じゃぁ、もう1軒つきあってもらってもいい?」
どうやらまだ買いたい物があったらしい。
家族連れのお父さんの気持ちがわかる程度にはヘロってきてるけどあと1軒くらい大丈夫だろう。
「もちろん、必要なものは何でも買えって言われてるし」
「あ、ところでさっきから気になってたんだけど、荷物ってどうしてるの?
ニャン君持ってないし、買った端から消えてってるように見えたんだけど」
あ、そうか、僕は背負ってるカバンを一回おろして
「うん、持ってるよ、全部このカバンに入ってる」
と言いながらカバンを開ける。
中にはさっきまで二人で買ったありとあらゆるものがミニチュアサイズになって
ちんまり収まっている。
「魔法のカバンなんだよ、入れれば入れるほど、中の空間が広がるんだ。
小さくなって見えてるけど、こうやって取り出すと、ほら、ね。
中の空間自体は別のところにあるから重さも感じないし」
「へぇー便利なんだねぇ」
うん、確かに便利だ。僕自身も昼食後先生からこれを借りるまでは大量の荷物に
押しつぶされる未来しか見えてなかった。
そして最後の1軒、真奈さんのお目当ての店の前に着いて僕はまた自分の認識の甘さを思い知るのだった。
最後までお読みいただき、大変ありがとうございます。またのお越しをお待ちしております。